「兄上、イングリットが来たが」
また来たのか。飽きないな。
「分かった。通してやってくれ」
布団から身を起こす。
寝返りだけで済むなら楽だが、起き上がるのはどうしても体が重い。
心が拒んでいるのか、筋肉が怠けているのか。
イングリットと話す前に、まず自分の身体と戦わなければならなかった。
要件を終えるとフェリクスはさっさと席を外す。後は二人で話せと言いたいらしい。
「ねえ、婚約破棄ってどういうことかしら」
イングリットが俺の手を握って詰め寄ってきた。
「文字通りの意味だよ」
だって俺なんかと結婚したら不幸になるだろ。あれから全く動けてないんだぞ。
「どうして? 私の事が嫌いになったの?」
「嫌いとは言ってない」
「だったら婚約を解消する必要はないわね」
「なんでそこまで……ああ、そうか。貴族の婚約って当人同士っていうより家の問題だよな。それなら相手をフェリクスに変えれば」
「そういうことではないの」
違う? いい案だと思ったんだけど。
「フェリクスが困るでしょう」
それはそうだ。どう考えても好きでもない女と結婚して器用にやれるタイプじゃない。イングリットのこと好きか嫌いかで言えば好きだろうけど恋愛とかそういう意味じゃないだろうし。
「他に好きな人ができたなら正直に言って。私怒らないから」
「俺なんかと結婚したら不幸になる」
「怒るわよ」
「正直に言ったのに」
「グレンは自分に自信がなさすぎるのよ」
と言われても。
「あなたは殿下を守り抜いた」
それ別に。ただの原作だし。
「あなた自身が認められなくても、私の誇りなの」
それも別に。錯覚じゃないか?
***
「兄貴は女心がわかってない」
シルヴァンほど女性の扱いに慣れてないのは認めるけど(でも慣れすぎるのもどうかと思う)そんなに呆れられることか?
「そういう時は嘘でも肯定してやるのが女の子のためですって。あいつ、あんたにベタ惚れなんですから」
「違うと思う」
「えー……?」
イングリットが憧れてるのは俺じゃなくて『グレン』だ。そしてそれは跡形もなく崩壊した。
「ガラテア家の為にコネが欲しいんじゃないのか」
「イングリットがそんなに器用に見えます?」
「器用でなくても割り切ろうとはしちゃうだろ」
そこで割り切れないのが魅力なんだけど。真面目ないい子だ。俺には勿体なさすぎるほど。
「ま、無理して結婚しろとは言いませんけどね。保留くらいにはしといて損はないと思いますよ」
なんてことを言いながらシルヴァンは手をひらひら振って去っていく。
でもイングリットって生涯独身を貫いたんじゃなかったっけ?
結婚に縛られない生き方をしてほしいよ。その方が彼女らしいだろ。
騎士姿のイングリットが見たいな、俺は。