味覚そのものをなくしたことはないが、食欲は4年前からずっと乏しい。甘いものならなんとか食べられるから、一時期は果物ばかりを口に入れていた。我が兄ながら情けない的な事を言われていたような気がする。果実の切り方を見た目でも楽しむという料理方法もあるのだがフェリクスが俺にそんな事をするはずもなく、機能的な一口サイズが俺の思い出だった。
「お前、料理人向いてるかもな」
「何を馬鹿な事を」
でも、器用だから何でもできそうだよ。本人がやりたいかは別か。
***
「この焼き菓子、ほのかにシナモンの香りがして懐かしいな」
「ディミトリ、お前やけに褒め方が具体的だな」
「ん?」
だってディミトリだぞ。味覚がないはずなんだ。というのは俺が一方的に知っている秘密。インターネットで誰かがそう言ってるのを見ました。
今もメルセデスが作った焼き菓子を美味しそうに食べているが、これも表情を作っているのだろう。コミュニケーションの手段としての食事は嫌いではなさそうだけどね。
だから俺が代わりに言ってやるんだ。
「何これめっちゃ美味しい」
ってね。
「ありがとう、嬉しいわ~」
「やっぱりメーチェの作るお菓子は最高だね!」
アネットもそう思うか。だよな。このふわふわ感は前世でもなかなか食べたことない。
「最近のグレンは美味そうに食べるな」
とディミトリに言われたので、俺は今幸せです! という状態を見せつけてやることにする。ディミトリは優しすぎるので仲間が幸せな顔をしていると本人もほっこりしてしまうのだ。最も、ディミトリが慕ってるのは俺じゃなくて『グレン』なんだけど。
「最近の?」
メルセデスが敏感に反応した。細かい所を良く見てる人だ。そして、それゆえに相手が望むものを与えられる。やわらかな光のような人。死にたくないってだけの俺とは違う、他人想いの信仰心の持ち主。
「昔はもっと、仕方ないから食べていた側面が大きかったように思う」
「あら……」
「元気になってくれて嬉しい」
ディミトリの優しさが沁みる。俺なんかにありがとうな。
俺が甘いものを好きだという情報が流れてきたのか、時々先生もお菓子とかくれることがある。嬉しい。何を考えてるか表情では読みにくいが、ディミトリやフェリクスには剣とか贈ってたから相手の好きそうなものを考えてるらしい。前に肉を貰った時にフェリクスやイングリットの方が喜ぶと思うって言ったら「次からはそうする」って言ってた。肉は普通に食べれました。ありがとう。