すこしふしぎ短編集   作:はるゆめ

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女神にメガネかけさせたら創造神がブチ切れて俺は追放された

 まずこれだけは言っておく。

 俺はメガネっ娘フェチだ。

 

 それに気がついたのは高校二年の時。

 クラスの中で割と仲が良い女子がいた。その子は成績優秀で、中学の時はずっと学年トップ。容姿もまぁ可愛らしい部類に入るんだが、性格がな……。

 とっつきにくいというか友好的な態度をほぼ示さないんで、話しかけにくい女子ナンバーワンの地位を獲得してた。

 

 だが俺はそんなの気にしない。『あ、こいつ面白い』と思ったら、どんどん距離を詰めていく。

 勘違いしないでほしいのは恋愛的な意味じゃないってことだ。

 

 中学時代の俺はなんていうか思春期独特の『へっ! 女子なんかと喋るもんかよ』という病に罹っていたもんで、女子とは距離を置いてたんだ。厨二病の亜種みたいなものだと、今は思ってる。

 

 で、その子と話したり、課題のノート見せてもらったり、本やレコードの貸し借りをしたりするうちに、彼女の家に遊びにいくまでの関係になった。

 

 レコードなんていつの時代の話だって?

 昭和だよ。

 俺が高校生だったのは昭和後期だから。

 

 で、その子はESSというクラブに所属してた。文化祭じゃ英語劇を披露する、そんなクラブ。帰宅部だった俺はその子にくっついてESSへ顔を出すようになったんだが、そこで天使に出会った。

 

 天使。

 神の使い。

 まさにそれ。

 

 一目惚れってやつ。

 もう頭の中がホワイトアウトして心臓がキュッとなり、挙動不審となった俺。

 

 天使は一個上、つまり三年生だった。

 肩にギリギリ届かない長さの、ややブラウンがかったサラサラの髪。綺麗な卵型フェイスは抜けるような白さ。

 そして知的な目元を強調するメガネ!

 俺がメガネっ娘に目覚めた瞬間だ。

 

 メガネ先輩の名前は伊田美沙子さん。

 これ仮名な。

 

 伊田さんは中学時代は吹奏楽部でクラリネット担当だったんだけど、肺の病気で吹奏楽部を続けられなくなった。

 

 その話を聞いて俺は『悲劇の美少女だー!』と思い、ますます惚れてしまった。

 好き好きゲージなる測定器があったら、MAXの位置まで針は振り切れたと思う。今時ならLEDか。

 

 それからは伊田さんに会うため毎日ESSへ通う俺。

 一緒の空間にいられるだけで幸せだった。

 他の子には冷やかされたが、それは気にしない。こっちはこっちで俺と伊田さんがどうなるか、興味深々だった。

 

 メガネ越しに目が合うと俺は昇天するんじゃないかと思うレベルで気持ちが盛り上がる毎日。

 幸せだったよ。

 

 経緯は忘れたが、彼女とちょっとした手紙のやり取りをするようになったんだが、伊田さんは手紙では関西弁を使うんだ! 可愛いだろう?

 

 理由は地元の方言が好きじゃないから。

 そうして手紙のやり取りは彼女が大学へ入っても続いたわけだ。

 告白とかしなかったのかって?

 ははは。

 天使は俺のような人間が触れていい存在じゃないぞ。神聖な存在。崇め奉るべきもの、だからこそ天使。

 

 手紙のやり取りはいつしかなくなり、その後大人になった俺の心にずっと天使である伊田さんは存在していたんだ。

 ちょっと長く脱線してすまない。

 ま、俺がどれだけメガネっ娘が好きか、それを前提とした話だからさ。

 俺は世間で言う不惑の年になる前に病気で死んだ。人間、死ぬ時はあっけないものだ。

 

 で、今は死後の世界っぽい場所にいる。

 白い世界。見渡す限り白い。

 目の前に自称女神がいるんだが……。

 

「自称じゃありませんよ」

「おっと。心を読むのか」

「読むとかじゃなく、あなたの全てを把握しているのです。神だから」

「創造神?」

「ではありません。次元を司っています」

 

 ──見覚えがある顔なんだよな。

 

「四次元とか?」

「あなたにわかりやすく伝えることは不可能です」

「はぁ。ま、物理学はさっぱりわからないしな。量子とか、あれなんやねん」

 

 ──あ、似てる!

 

「おほん。あなたは次の生へと移るのですが、何か望みはありますか?」

「え? そんなのがあるの?」

「すべての魂の望みを叶えるのが私なのです」

「へぇ。あ、次は地球じゃない星に生まれたいとか?」

「可能です」

 

 ──似てるどころか、瓜二つじゃないか?

 

「サーバルキャットに生まれ変わるのも?」

「出来ます」

「何でも?」

「はい」

 

 ──目の前にいる女神はメガネを外した伊田さんそのまんまなんだ。メガネのレンズを拭いている彼女を思い出したわけよ。

 それなら願いは一つ。

 

「俺の望み。それはあなたにメガネをかけてもらうこと」

「何言ってるのかわかりません」

「またまたぁ。とぼけちゃって」

「何かに生まれ変わる、そういった望みはないのですか?」

「ないですねぇ。あなたがメガネをかけてくれさえすれば、ここで消滅、いや地獄に落とされてもいい!」

「地獄というところはありませんよ」

「そうなんですね」

「本当に望みはそれだけのようですね」

「俺のことわかるんでしょ?」

「ええ。呆れました。今までもわけのわからない望みを述べた魂はいましたけど」

「よろしくお願いします!」

「わかりました」

 

 美しい女神さま。俺にとって天使だった伊田さんが、女神として現れたとしか思えないよ。

 その美しさをさらに引き上げるメガネが、彼女の顔に出現した。

 

「ふおぉぉぉぉぉーっ!!!!」

「気をしっかり持ちなさい」

「むほむほむほむほーっ!!!!」

「ダメだこいつ」

 

 精神的に俺は絶頂を迎え失神しそうになったのだが……。

 

 突然。白い部屋に影がさしたかと思うと、暗闇に包まれた。

 そして頭の中に響く声。

 

『お前は許されざることをした』

 

「誰?」

「創造神ですね」

「え?」

 

『お前を生物の輪廻から追放する』

 

「ってどこへ追放?」

 

『無機物となるのだ』

 

「ええっ?」

 

 ちょっと待てよ、冗談じゃないぞ。何を切れてんだ、創造神!

 

『神の姿を弄ること、これは最大の禁忌となる』

 

 ええーそんなん知らんし。女神さまも応じてくれたじゃねぇかー!

 

 

 こうして俺は次の生をチタンとして過ごすことになった。

 チタン。原子番号は22。融点は1,660度だったかな。

 

 まぁいいや。

 こうやって鉱物として悠久の時を過ごすのも慣れたわ。

 メガネっ娘になった女神さまのヴィジョンだけを慰みに過ごしていこう。

 

 ん?

 おや?

 ああー熱い熱い熱い熱い熱い熱い!

 

 気がついたら俺はメガネフレームに加工され、メガネ屋の店頭に並んでいたのだった。

 ほほぅ。

 

 おお?

 どことなく伊田さんの面影がある女子高生が俺を手に取ったぞ。

 

「これ似合うかなぁ」

 

 おおお!

 俺を選んで! お願い! 頼む! 

 俺は君にかけてもらう為に生まれてきたんだ!

 俺は全分子を震わせて彼女に念を送ったんだ。

 

 すると妹らしき女子がやってきて

 

「お姉ちゃん、それすごく似合うよ」

 

 と感心したように言ってくれた!

 ナイス!

 よくぞ言ってくれた!

 

「じゃ、これにしよう」

 

 こうして俺は買われたわけ。チタンに生まれて良かったわぁ。

 

 生物の輪廻から追放されたけど、俺は幸せだ。

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