人外(人間より強い身体)+異能力って何気に反則だと思う
某巫女曰く、
「万事屋?あぁ、あのエセ吸血鬼の事ね。あいつのこと記事にするなんてよっぽどネタに困ってるんでしょうね…」
「そうね…最初は暗いやつと思ってたわ。いっつも下向いて、いかにも『根暗』って感じ。そういえばいつからあんなに明るくなったのかしら。まぁ、暗いよりはマシだから戻らないことを祈るわ。」
某黄髪魔法使い曰く、
「万事屋?もちろんいつもお世話になってるぜ。サイコロの出目によっちゃタダだからな!出目が悪いとメシ奢らされるのはギャンブラーっぽいか?」
「噂じゃ太陽に焼かれないって聞くけど、そんな吸血鬼居るのか?…ちょっと調べてみてくれよ!頼んだぜ!」
某門番曰く、
「最初に見つけた時は門の前で倒れてたんですよ。
朝日が既に昇った後で彼、燃え上がってたんですよね…。
それでも「助けなくていい」って…何考えてるんでしょう?」
「お嬢様や妹様みたいな吸血鬼とは何か違うんでしょうか?
彼に聞いても何故生きてるのか分からないって言ってましたし…とにかく不思議な人です。
そういえば今は人里で何でも屋みたいなことをしているらしいですね。そんなに気になるなら直接取材してみては?」
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「ふぅむ……。」
紫煙が細く立ちのぼる。
射命丸文は取材メモを閉じ、手元の原稿用紙を眺めながら小さく呟いた。
最近、人里でひそかに話題になっている“何でも屋の吸血鬼”。
紅魔館の門番が保護したという話を皮切りに、霊夢や魔理沙など、主要人物たちの間でも噂になっていた。
(燃えながらも死なない吸血鬼……日中でも活動できる……しかも人助けをしてる?)
どれを取っても異常だ。
吸血鬼といえば、夜にのみ生き、血を啜り、陽を忌む存在。
だが、この“何でも屋”は違う。
霊夢は「根暗だった」、魔理沙は「ギャンブル好き」、美鈴は「不思議な人」――
人によって印象がバラバラ。まるで複数人が同じ偽名を使っているかのようだ。
だが、共通していることがひとつある。
彼は“笑っている”という。
(陽の光で死なない吸血鬼……かなり異常な存在ね。
でもまぁ、幻想郷じゃ正常なやつの方が珍しいか。)
文は立ち上がり、椅子の背に羽を広げた。
「取材対象としては上等ね。
――さて、“何でも屋”さん。お話、聞かせてもらいましょうか。」
夜風が竹林を揺らす。
闇の中にぽつりと灯る、小さな提灯の明かり。
その下に、小さな木札が掛かっていた。
──《吸血鬼の何でも屋 昼夜いつでも依頼受付中》──
文はその前で羽をたたみ、扉を軽く叩く。
「すいませーん。誰かいませんかー?」
中から低い声が返ってきた。
「はいはい、なにか依頼かな?…おや、取材かい?
まぁいい。中にお入り。」
扉の奥には、黒い外套を羽織った男。
赤い瞳に、どこか人間臭い笑みを浮かべていた。
その背後――焚き火の炎が静かに揺れている。
炎の色は、普通の赤ではない。
橙と青…ところどころ白い、熱さの象徴のような炎。
文は息を呑む。
(あれが……『燃える程度の能力』……?)
男は火を見つめながら、穏やかに言った。
「驚いているかい?霊夢か魔理沙辺りから聞いてると思ってたけど、僕の能力は「燃える程度の能力」。能力のおかげで【燃える】という現象に耐性を得て、実質太陽を克服したようなものだけれど、今でも木の杭は怖いし、流水は越えられない。聖水も銀も自ら触れに行こうとは思えない。拍子抜けだろう?」
文は口元を緩めた。
「でも、幻想郷に似合ってると思いますよ。それに、少しくらい弱点が残ってないと楽しくないでしょう?」
「それもそうだ。」
男は少しだけ笑った。
その笑顔は、確かに“根暗”ではなかった。
「異質な吸血鬼について話す事なんてこれくらいしか……
あ!そうだ。あれがあった。」
「あれ?」
「あぁ。吸血鬼の弱点に【太陽の光を浴びると焼け死ぬ】ってのがあるだろう?あれはね、初期の伝承には無い弱点なんだ。」
文がメモ帳を取り出し前のめりになる。
「へぇ?それでそれで?」
「初期の伝承での吸血鬼は、【死への不安】や【科学的知識の欠如】から生まれた民間信仰なんだよ。当時の弱点は【木の杭を心臓に打ち込む】【火葬する】くらいで、太陽光に触れても少し苦しいだけだった。だからここに来てびっくりしたよ。夜明けから4時間くらいは活動できると思ってたから、突然腕が焦げ始めちゃって…。真っ赤な館…紅魔館って言うらしいね。そこの門番に介抱してもらっちゃった。だから紅魔館の人や妖怪からはお代は頂かないことにしてるんだ。そのおかげでフランちゃんや咲夜さんからの依頼が週4くらいでくるんだけどね…。」
「話題が逸れたね。何の話してたんだっけ……えーっと、そうそう、初期の伝承における吸血鬼の弱点だっけ。あとはそうだな…【十字架】【聖水】【聖餅】とかの、【聖なる力を持つモノ】だったり、力技だけど【首を切断する】とか【釘を打ち込む】とかがあるかな。」
「なるほど……非常に興味深いですねぇ。」
文はペンを走らせながら、ちらりと焚き火の向こうにいる吸血鬼を見た。
その横顔は穏やかだが、どこか人間らしい疲労と優しさが混ざっていた。
「貴方、本当に吸血鬼なんですか?」
からかうように問いかける文。
男は少しだけ笑い、薪をひとつ放り込む。
炎が一瞬、青く燃え上がる。
「……さてね。
この身体は確かに吸血鬼のものだ。だけど、心は……まだ“人間”のままだと思いたい。」
「思いたい、とは?」
「吸血鬼になってすぐさま隣人たちに追われたけど、本当に怖かったのはその後に来た衝動………最初の本能は“喰らうこと”だった。
目に映る命すべてが餌に見えた。
でも、それを押さえ込んだのは……“人間だった頃の記憶”なんだ。
だから、僕は喰わずに済んでる。
ここに来てからは、空腹の代償として――“燃える”ようになったけど。」
文はペンを止めた。
「……それが、“燃える程度の能力”?」
「そう。正確に言えば、“何かを燃料にして燃える”。
食欲も、睡眠も、時間も、全部焼いて燃やして、僕という存在を保ってる。
だから“恒常的”に燃えてるんだよ。」
「……なるほど、名前負けしてませんね。」
文はくすりと笑う。
「だけど、燃えれば燃えるほど経験値が溜まり、一定を超えると進化する――そういう特性もある。
……進化すればするほど、“人間だった僕”が減っていく気がするんだ。
まるで燃料を使い果たすように、少しずつ。」
静寂が落ちた。
焚き火の音だけが、規則的に夜を刻んでいる。
文は一度だけ羽を揺らし、口を開いた。
「貴方が幻想郷に来たのは、偶然ですか? それとも……燃え尽きるため?」
吸血鬼は笑った。
炎の光がその頬を照らし、瞳の奥に小さな火が灯っていた。
「さぁ、どうだろう。主の御意向は人には計り知れないものだからね……
けど――この場所なら、燃え尽きたあとにでも“誰かが記事にしてくれそう”だね。」
文は軽く息を漏らし、立ち上がった。
「ええ。もちろん書きますとも。
“幻想郷でいちばん人間臭い吸血鬼”として。」
「ふふ…。「いちばん」って響き、ちょっと好き。」
「意外と子供っぽい一面もある…と。」
二人の笑い声が、夜の竹林に溶けていった。
これはめずらしく礼儀正しい射命丸