異世界に憑いてるモノまでついてきた 異郷で開くマヨイガの宿   作:星野純三

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第10話 魔族の処遇

 ぼくは南野さんに、北の魔王の心から読みとったそんな記憶を語って聞かせた。

 蘇った北の魔王を倒した後の、朝方のことである。

 

 その場には西田くんとそのチームメイトもいた。

 そのチームメイトのひとりは大陸で支配的な宗教である聖教の敬虔な信徒であったが、彼は瞑目したままぼくの話を最後まで聞いた後、こうぽつりと漏らした。

 

「神が、そのような迫害をお喜びになるはずがありません。ですが同胞の罪から目をそらすこともまた、神が望むことではないでしょう」

 

 そう言って、彼は祈りの言葉を口にした。

 専門的な言葉について詳しいニュアンスはぼくにはわからなかったが、死者の魂の平穏を祈っているようであった。

 

「それでさ」

 

 とすべてを聞き終えた後、南野さんがぼくをまっすぐ見つめてくる。

 少し、目の端が赤い。

 

 どうやら、北の魔王の境遇に少なからず同情してしまった様子であった。

 別に、彼女に感情移入して貰う必要はなかったんだけどなあ。

 

 ただ知って貰いたかっただけである。

 何故ならば、そう。

 

 この話を語ってきかせる間にも、北の魔王と呼ばれていた人物はいま、昨夜と同様に小柄な少女の状態でぼくの横にちょこんと座り、じっとぼくを睨んでいるからである。

 というか彼女が口を開くとうるさいので、話が終わるまで黙るよう命じていたのだ。

 

「はい、もう口を開いていいよ」

 

 ぼくが彼女にそう告げると、マシンガンのような罵詈雑言が彼女の口から迸った。

 よくもまあヒトのプライバシーに土足で踏み入ってくれたな、というのがその主な内容である。

 

 ごめんね。

 でもこれは、必要なことだったから。

 

「気が済んだ?」

 

 一通り、彼女の言葉を受け止めたあと。

 ぼくは肩で息する小柄な少女にそう訊ねた。

 

 ちなみに南野さんが彼女と戦ったとき、北の魔王は絶世の美女で、年齢は二十歳から三十歳の間くらいに見えたらしい。

 何故、ロリ化したのか北の魔王に訊ねたところ、「ちからを取り込んだばかりであったからだ」とのことである。

 

 ちからが馴染むのに時間がかかるのかな。

 だったら、その前に彼女をぼくの支配下に置くことができたのは幸いであったといえる。

 

 彼女が吸収したちからがアレである以上、ぼくが負けることはなかったと思うけどね。

 でも裏庭はもっとひどいことになっていただろうし、家畜が無事で済む保証もなかったし、ひょっとしたら酒場に出てきた蠢く死体が宿の客に危害を加えていたかもしれない。

 

 それでも、最終的にはぼくのちからと、そして西田くんたちのチームプレイでなんとかなったと思うけど。

 でもその場合、南野さんにも活躍して貰う必要があっただろうし……。

 

 そうなると、南野さんがまた精神的ダメージを受けていた可能性が高い。

 まあ、いまその彼女は、なぜかぼくと、ぼくを罵倒する少女を交互に見て、むう、と頬を膨らませているんだけど。

 

「東横くんはちいさな子がいいのかな……口汚く罵られて喜ぶ変態さんなのかな……?」

 

 とかよくわからないことを呟いている。

 彼女の勘違いについては、あとでゆっくり話し合いたいところだ。

 

「笑っていないで、なんとかいったらどうだ、きさま! それともあたしが恐ろしいのか!?」

 

 北の魔王を名乗るロリが、ぼくに向かってそう叫ぶ。

 あ、もう罵倒はいいのね。

 

「きみはぼくのスキルの……ええと、テイム・モンスターだっけ? それになったんだから、ちっとも怖くはないよ」

 

「うう、殺せぇっ!」

 

「うわすごい見事なくっころだあ」

 

「嫌だよ。きみを殺しても、きみが奪っていったちからは戻って来ないみたいだし」

 

「うう、一生の不覚だわ。まさか、あのおいしそうなちからが罠だったなんて……」

 

 罠を仕掛けたつもりはないんだけどね。

 まさか宝石の状態からこっち側の世界に干渉して来るなんて想像もしていなかったし。

 

 彼女の話によれば、とても多くの血を啜った吸血鬼は、己の魂の階梯を上昇させ、不老不死に近くなるのだという。

 宝石の形態は、そんな彼女でも癒やせぬ損傷を修復するための非常モードのようなものであるとのことで……その非常モードを解除すれば、半死半生の状態で元に戻ることが可能であったとのこと。

 

 その半死半生で、すぐそばに魅力的でおいしそうな超パワーがあった。

 だからそれを奪い、我が物とした、とのことである。

 

 なるほどねー。

 ひょっとしなくても、吸血鬼についての研究があまり進んでいないんだな、コレ。

 

 ただひたすらに、魔族は敵と定めて、これを駆除し続けるだけであったのだろう。

 ひょっとしたら一部では文献が残っていたのかもしれないけど、それは南野さんのような下々の者が知るところではなかった、と。

 

 このへんは西田くんのチームメイトも同じだ。

 彼らも、ぼくが語った吸血鬼の物語やその生態に、非常に興味を持って……かつ、ショックを受けていた様子である。

 

 まあ、このあたりはゆっくりと受け入れて欲しい。

 どっちみち、今日はもう山登りの気分でもないだろうし。

 

 北の魔王を名乗っていたこの人物がうちの宿の従業員になることも確定だし。

 とぼくが言ったところ……。

 

「従業員!? 正気ですか!!」

 

 西田くんのチームメイトたちが驚愕して、ぼくに詰め寄ってくる。

 西田くんと南野さんが慌てて制するも、彼らはおおきく首を横に振るばかり。

 

「いえ、魔族に対して偏見を持つのもよくないとは思いますが……ついさっき、敵対したばかりの相手ですよ!?」

 

「でも、もうぼくのテイム・モンスターだから。安全だし、従順だよ」

 

「彼女には罪がある」

 

「そのあたりは、この大陸の一般的な法とか聖教の戒律とか、ぼくはよく知らないんだけど……そもそもこの宿屋の内側では、宿屋の主人であるぼくが法なんじゃないかなあ」

 

 正直、これに関しては、西田くんとも少し話し合っている。

 ぼくたちは外から来た者たちで、ぼくたちの世界の法律はこの世界でなんの意味もないことはよく理解していた。

 

 そのうえで、この世界の法をなにもかもこの宿屋の中でも認めるか、ということになると……。

 正直、それはそれで、ないな、となってしまう。

 

 だから、この宿屋の中ではぼくが法。

 ぼくは独裁者として、この宿を経営する。

 

 それにどうしても従えないなら……退去して貰うしかないだろう。

 そういう取り決めになった。

 

 少なくとも、ぼくと西田くんの間では。

 それは西田くんのチームメイトであっても同じである。

 

 チームメイトの三人は互いに顔を見合わせた後、「わかりました」とうなずき、椅子に腰を下ろした。

 ふう、とりあえず理性では納得してくれたか。

 

 感情で呑み込めなくても、まあそれは仕方がない。

 こういうのは一朝一夕にはいかないものだ、と西田くんも言っていたから。

 

 これで、ひとつスタートラインに立つことができた。

 これから先のことに関する、おおきな一歩である。

 

「でね、南野さん。その上でちょっと頼みたいことがあるんだけど」

 

「なにかな、東横くん。なんかわたし、東横くんがこれ以上にとんでもないことを言い出す気がしてならないんだよね」

 

「とんでもないこと、ではないけど」

 

「そうかな。だったらよかったかな」

 

「北の魔王の領地には、配下の人たちがたくさん生き残っているらしいんだよね。きみは若枝があれば魔王の城まで戻れるから、その配下の人たちをこの宿に連れてきてくれないかな」

 

「とんでもないことだよそれは!!」

 

 そうかなあ。

 




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