異世界に憑いてるモノまでついてきた 異郷で開くマヨイガの宿 作:星野純三
ふと。
唐突に思い出した出来事がある。
あれはたしか、ぼくが高校一年生のときだ。
放課後、学校の裏手にある焼却炉の前で、ひとりの少女が茂みの前にうずくまっていた。
なにをしているのかと少しの間眺めていた。
ぼくなんかに話しかけられても嫌だろうし、それにぼくの背中に憑いているモノが彼女に危害を加えないとも限らなかったのだ。
でも彼女は、なにかを探している様子で、それはいつまでたっても見つからないみたいだった。
少女は泣きそうな顔になりながら探すのをやめなかった。
もうすぐ暗くなる。
仕方がなく、ぼくは彼女に近寄って行った。
その途中で、ふと気づく。
ぼくの背中のモノが、焼却炉の中が気になって仕方がないとでも言うように、不気味に蠢くような感覚を覚えたのである。
ぼくは焼却炉に近寄り、中を覗き見た。
幸いにして炉にはまだ火がついていなくて、そこにはゴミといっしょに桃色のハンカチがくしゃくしゃに丸められ、捨てられていた。
たぶんこれ、間違えて捨てられちゃったんだろうな、とハンカチを取り出す。
少女がこちらを振り向き、「あっ」と声をあげた。
「もしかして、これを探していたの?」
「うん。あの……ありがとう」
ぼくは彼女にハンカチを渡し、その場を立ち去った。
めでたし、めでたし。
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「あのときの女の子が、南野さんだったんだ。いまさら思い出したよ」
「んー、あはは」
「どうしたの、南野さん」
「やーどうせ東横くんのことだから忘れているんだろうなあとは思ってたからさ」
「ごめんね、忘れていて」
「全然、全然! いいんだよそんなの! だいたい、わたしが助けて貰ったんじゃないか!」
慌てて首を横に振る南野さん。
「ちょっと聞きたかったんだよね。どうして焼却炉にハンカチが入っていたのかって……」
「うん、ええと……あはは」
南野さんは、口を濁す。
あー、聞かれたくないことだったか。
「南野はな。あのころ、粘着的に絡んでくる奴がいてな」
と、裏庭から戻ってきた西田くんが話に割り込んでくる。
南野さんが、「え、言っちゃうの!?」とびっくりした顔をしていた。
「ハンカチも嫌がらせのひとつだ。でもな、おまえが南野のハンカチを探し当てた少し後から、嫌がらせがぴたりと止んだ。嫌がらせをしていた相手が車に撥ねられて大怪我したんだ。本人の主張によると、勝手に足が動いて、気づいたら車道に跳び出していたんだそうだ」
へー、そんなことがあったんだ。
というか、西田くんにはハンカチの一件を話したことなかったような?
なんで知っているんだろ。
それにしても……勝手に車道に跳び出した、か。
それってなんか、ぼくにちょっかいをかけてきた人たちの末路と似ているなあ。
いやまさか……でもなあ、向こう側の世界でぼくの背中に憑いていたモノは、そんな無差別に攻撃するようなことはなかった気がするんだけどなあ。
いや、そうでもないか。
ぼくが嫌って思うようなことがあると、勝手に介入するようなことが……うん、あったかもしれない。
通りすがりの公園で子どもを怒鳴っている母親を見て、子どもが可哀想だなと思ったとき。
後日、同じ公園で見た母親が松葉杖をついていた。
雨の日、ぼくの前を歩いていた女性のスカートが車のしぶきで汚れてしまったのを見て、顔をしかめたとき。
まっすぐ進んでいった車が突然スピンして、電柱に衝突してしまった。
そんなことが何度か続いて、ぼくはいつしか、他人に対してなるべく感情を覚えないようにしていたんだ。
いまさらのように、そんなことを思い出す。
「わたしはさ、東横くん。けっこう、あのときのこと、感謝してるんだよ。あのころは友達も少なくてさ、みんな、見て見ぬふりでさ……あのハンカチ、前のお母さんから貰った、大切なものだったから」
「前のお母さん?」
「うち、一度離婚して、あのころはお父さんが再婚したばかりでさ。次のお母さんとは折り合いが悪くて、去年はね、だから学校でも家でも、居場所がなくってね……」
「南野さんにも、そんな頃があったんだ」
全然、知らなかった。
ぼくが知っている南野さんは、二年生になってからの、活発でみんなの活動の中心にいる、いつも笑顔の女の子だったから。
まあ、学校でいつも彼女とつるんでいた子たちは、この異世界で彼女を裏切ったって話だけども。
彼女、なんだか思ったより、波乱万丈の人生を歩んでいるんだなあ。
「あ、でも、安心してね。わたし、二年生になってから充実しているから。いまもね、この宿、とっても居心地がいいんだ」
「それなら、よかったよ」
にぱっと笑う南野さん。
彼女が笑顔でいてくれる一助になれるなら、それはとても嬉しいことだと思うのである。
いやなんだか西田くんが、ひどく呆れた顔をしているんだけど……どうしたの?
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