異世界に憑いてるモノまでついてきた 異郷で開くマヨイガの宿   作:星野純三

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第14話 恋する乙女の密談(1)

「西田くん!」

 

 呼ばれて、はい、とおれは背筋を伸ばした。

 おれはいま、三か月ぶりに再会したクラスメイトである南野さんに睨まれている。

 

 宿屋の主にして親友である東横のことについて、話があるのだと言って二階の空き部屋に連れ込まれたのだ。

 

「前、言ってたよね! 東横くんは、わたしみたいに頼りがいがあって元気でおっぱいが大きな女の子が好きだって!」

 

「そこまで言ってない。ましてや胸の話なんてした覚えはない。そんなに殿下の胸を見てたのか?」

 

「見てたよこんちくしょう! お姫さまもこれみよがしに見せつけてたよおっ!」

 

 半泣きで、ぽすぽすと枕を叩く南野さん。

 確かになー、あの殿下、絶対に東横のこと狙ってるんだよなあ。

 

「この宿、国にとっては戦略的な価値が高すぎるんだよな」

 

「うう、それはわかるよぉ。なんか東横くんはイマイチ理解してないよね?」

 

「あいつゲームとか全然やらないからな……」

 

 少しでもゲームをしていれば、このマヨイガの宿という存在がどれだけチートかわかってしまうだろう。

 別にそれがコンピュータ・ゲームでなくても、ボードゲームとかカードゲームでもいい。

 

 それ単独では、直接的な戦闘力はそうたいしたものではない。

 狛犬たちはたしかに強いが、単騎でそれよりも強いヤツはこれまで何度か見てきた。

 

 聖王国なら、そのクラスの戦力が存在してもおかしくはない。

 最悪でも数で押せばなんとかなるレベルだ。

 

 あいつの本当のヤバさは、そんなところじゃない。

 例えば……。

 

 国としてあいつを運用できれば、兵に若枝を握らせて、神出鬼没の大軍があちこちに出現することになる。

 実は若枝一本で任意の場所に出られるのは同時に六人まで、という制限があるのだが……。

 

 この宿に戻る場合は、若枝を掲げて出現する扉から何人でも入ることが可能だ。

 それは現に、まさに今日、二百人の魔族を移住させたことからも有用性が明らかである。

 

 この移住で、キタマと名づけられた元北の魔王を始めとする魔族の数人が、さっそく「あっ、こいつやべぇな」と気づいた様子であった。

 この軍事利用も充分にヤバいが……。

 

 もっと戦略級にヤバいのが、宿を中継点として交易をする場合である。

 たとえば大陸の西の果てで商人Aがその地の特産品を買い込み、この宿の倉庫にそれを詰め込んでおく。

 

 大陸の東の果てで、商人Bが若枝を抱えて出入りし、倉庫から運び出した商品を売り捌く。

 そうして得た利益で商人Bが東方の特産品を買い込み、倉庫に詰め込み……。

 

 商人Aがそれを西方で売り捌く。

 この世界では、未だ馬車での移動が一般的だ。

 

 大陸の端と端で交易する場合、それはおれたちの世界に例えるなら、シルクロードを旅して西洋世界と中華世界を繋ぐに等しい行為となる。

 そりゃあ、無条件で儲かるよ。

 

 誰だって濡れ手に粟だろう。

 しかも移動が実質的には即時なわけだから、いまその地方で足りないものを即座に輸入できるわけで。

 

 冬は降雪で移動もままならないという話の帝国における輸送なんて、なおのこと価値が高いわけで。

 そのくらいのことは、殿下くらい頭がまわる奴ならすぐ気がつく。

 

 彼女が躍起になって色仕掛けしてきても、ちっともおかしくはないのだ。

 みたいなことを、軽く南野さんに言った。

 

 南野さんは、ううーっ、と呻きながらいっそうの涙目でおれを睨んでくる。

 

「西田くんはいじめっこなのかな!? わたしが東横くんのこと好きなの知ってて、ひどいじゃないか!」

 

「だから、ちゃんと機会はあげただろう。文化祭でもふたりきりで企画を考えて、修学旅行で同じ班になって、旅行の予定を決めるのもふたりに任せたじゃないか。で、その結果はどうだった?」

 

「東横くんと仲良くしゃべれて距離も縮まりました! ありがとうね!」

 

「そこで一気に攻め切れないのが駄目」

 

「修学旅行当日に攻めるつもりだったんだよぉっ!」

 

 うーん、こいつ普段から元気いっぱいだから、勢いで東横を攻め落とせると思ったんだけどなあ。

 失望したぜ、南野さん。

 

「なんで蔑むような目で見るんだよぉっ」

 

「きみなら、性質的にあいつの背中のモノと相性良くやれると思ったんだよ。実際に、座敷童とも仲良くやれてるよな」

 

「あ、うん、座敷童ちゃん、かわいいよね。向こうもなついてくれてるし。頭撫でてくれるし」

 

「座敷童も、普通の客にはあそこまでサービスしないからな」

 

 座敷童のやつ、殿下なんかには、めちゃくちゃ警戒しているのがよくわかるんだ。

 ちなみにおれに対してもだいぶ塩対応である。

 

 これは向こう側の世界にいた頃もそうで、何度か呪いのようなものを浴びせてきたので軽く反撃したところ、以後おとなしくなったという経緯があったりするんだが……。

 まあ、そのあたりの刺激的な話は、わざわざ彼女に話さなくてもいいだろう。

 

「南野さん、実は妖怪の血筋を引いてたりしないのか?」

 

「しているわけがないんだ! 自分がお寺の生まれだからって、みんなが伝奇漫画の登場人物だと思わないでよね!」

 

「おれはちょっと見えて、対処法を少し知っている程度のしょっぱい人間だよ」

 

「伝奇的な対処法を知っている人は現実にそういないから! やっぱり西田くん、ちょっとズレてるよ!」

 

 そうかなあ。

 うちのお寺、そういう相談事とかよく持ち込まれてたから……。

 

 




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