異世界に憑いてるモノまでついてきた 異郷で開くマヨイガの宿   作:星野純三

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第15話 恋する乙女の密談(2)

 おれの父は、お寺の住職だ。

 わが西田家は、この世のモノならざるナニカを見ることができる家系である、と子どもの頃から教えられてきた。

 

 高校にあがってからは、たまにそういう厄介事の対処をおれに任せていたりもした。

 でもなあ、そういうの、おれにはあまり向いていないみたいでなあ……。

 

 だから、おれの将来の夢は。

 北海道で牧畜でもして、そういう世界とは全然関係のないところで生きること、だったりするのだ。

 

 そのことを話したのは東横だけだけど。

 まあ、そのことも別にいまはいいんだ。

 

「三か月前のあの日だって、バスを出るときわたしも誘ってくれればよかったのに……」

 

「スマン、それはさすがに厳しかった。まずはあいつの安全だけでも確保しないと、あのときあいつの背中にいたモノが暴れ出しそうでな……」

 

「うわ、そういうのわかったんだ?」

 

「バスの中であいつのまわりのペットボトルとかが、カタカタ震えていただろう。菓子が浮き上がったり……気づかなかったか? ……ああ、席が離れていたか」

 

「うん、ちょっとそっちの様子が見えなかったんだよねえ。気づいたらふたりが外に出ていて、びっくりしてるうちに行っちゃったんだよね」

 

「それは本当に悪いことをしたな。おれも、数日くらいなら、みんなバスに閉じこもっていると思ったんだよ」

 

「うーん、そのあたりはいろいろあってね……。でもやっぱり、ひとことくらい欲しかったな」

 

「おれ、きみの取り巻きの女子と仲が悪いだろ。あの状況じゃ、きみに近寄るのも難しかった」

 

「うう、そうだったね……。ちなみにその子たちがわたしを罠に嵌めて奴隷落ちさせようとしたんだよね……」

 

 とことんクズだったな、あいつら。

 南野さんも、もっとちゃんと友達を選ぶべきだったんだろうが……。

 

 まあ、いまさらそんなことを言っても後の祭りか。

 

「わたしも反省したよ。もう女性の友達は座敷童ちゃんとキタマちゃんだけでいい」

 

「もっと交友範囲を広げろ」

 

 学校じゃ、友達が多くてあっちこっちと仲がいいカースト上位女子って感じだったのになあ。

 まあ、こっちの世界に来てから、いろいろあったことは想像に難くない。

 

 おれと東横だって、たくさん失敗をしてきた。

 そして、その結果として。

 

 たくさん、人を殺した。

 たぶん南野さんだって、そのあたりは同じだろう。

 

 ちょっと彼女のスキルを聞いただけでも、相手を殺さずに終わらせて来られたとは思えない。

 たぶんそれは、北の魔王との戦いも同じで……北の魔王の手下も、何人も殺したに違いない。

 

 それでも今朝は、北の魔王の領地に赴き、北の魔王と共に移住者を募るという仕事をやってのけた。

 南野さんが弱い人間だとは、おれはまったく思わない。

 

「と、とにかくいまは、あの女狐対策なんだよ!」

 

「殿下のことか? 本人には絶対言うなよ、それ」

 

「言わないよ! 後ろの人たちはともかく、殿下の目が怖いもん!」

 

 おっ、後ろについてる女性ふたりもそこそこの腕の持ち主だけど、そっちより殿下の方に圧力を覚えたか。

 なかなかいいスジをしているじゃないか。

 

 あの殿下、平然と人を殺す命令を出しそうな雰囲気あるもんなあ。

 それはそれとして、かなりの善性の持ち主でもあるのは()()いるから、おれとしては信用しているんだけどね。

 

「あまり、あの人を嫌ってやってくれるなよ。あの人も必死なんだから」

 

「それって、西田くんはあのおっぱいがいい、ってことかな!?」

 

「胸で人の善し悪しを判断するような人間だと思われたくないなあ」

 

「わかっているけど! わかっているけど! でも、おっきいんだよあの人!」

 

 それは、わかる。

 わかるけど、ここでうなずいたら冷たい目で睨まれるのだ。

 

「おれとしては、聖王国の王族で頼りになるのはあの人だけだと考えている」

 

「それって、王様とか他の王子とかが馬鹿ってこと?」

 

「頭が悪いわけじゃないんだ。思想が強い方とか、好戦的な方とか、善悪の区別がつかない方とか、便利な道具は使い倒す方とか、人を人とも思わない方とか……」

 

「あ、もういいや、うん、ごめん、わたしが全面的に悪かったよ。おっぱい無罪を宣言するよ」

 

「それはよかった。まあ、そういうわけでな、あの殿下も、王家の間での権力争いで疲れているんだ。この宿でくらいは、ゆっくりさせてやりたい」

 

「うう、そう言われるとあの胸を憎めないなあ」

 

「胸から話を逸らせないのか?」

 

 南野さん、こんなに愉快な人だったっけな。

 この宿屋という安全地帯を得て、疲れきった心身がゆるんでいるのかもしれない。

 

 まあ、だったらダルダルにゆるみきるまで休んでいるのもいいだろう。

 この世界は、ただの高校生だったおれたちにとって過酷すぎる。

 

「まあそれはそれとして、だ。東横を押し倒すなら、上手くやれよ」

 

「ええと……それはもうちょっと、様子を見てから気を窺いつつ……」

 

 なんで急に恥じらう乙女になってるんだ。

 そこで一気呵成に攻めたてられないから駄目なんじゃないかコイツ。

 

 




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