異世界に憑いてるモノまでついてきた 異郷で開くマヨイガの宿 作:星野純三
爆風の余波を浴びながら、ぼくはようやく理解する。
あれは南野さんのスキルだ。
自爆。
おそらく、だけど。
このスキルは、南野さんの身体を木っ端みじんに爆発させるだけではないのだ。
その応用として、彼女の身体の一部だけを爆発させることも可能なのだろう。
南野さんの方を見れば、切断されたはずの左手の指がもう再生している。
なるほどねー、こういう使い方をすれば多少は使い勝手もよくなる、か。
いや、めちゃくちゃ顔をしかめてるからたぶんすごく痛いんだと思うけど。
やっぱり使い勝手はよくないよ、これ……。
スキルを自分で選べるわけじゃないんだから、仕方がないとはいえ、これはなあ……。
ぼくたちも苦労してきたけど、南野さんの苦労は確実にぼくたち以上だろう。
そりゃあ、涙のひとつやふたつも出るというものである。
できればこの宿でたっぷりと休んで疲れを癒して欲しい、ところなのだけど……。
状況がそれを許さない。
とにかくまずは、この押し寄せてくる兵士の群れをなんとかしないといけない。
「よくわからんが、好機!」
あ、旅一家の親父さんが、爆風で陣形を崩した兵士に突っ込んだ。
剣と槍を構えて隙がなかったので、攻めあぐねていたのである。
援護として、母親と娘が雷撃の魔法や突風の魔法を飛ばす。
さっきまでは大きな盾を構えてそれらを迎撃するつもりだった兵士たちだったが、いまはそれもできずに正面から魔法を浴びて、苦悶の声をあげ次々と倒れ伏す。
「アレイ、イウン」
いつの間にか消えていた狛犬たちがぼくのもとに戻ってきた。
いつの間にか、というか宿屋の入り口のそばに転がっていた左子さんを回収して貰っていたんだけどね。
いまは地下の安全な場所にいるはずだ。
「ゴー」
ぼくは、ひと働きしたばかりの狛犬たちに攻撃の合図を出した。
二体の黒い犬が、兵士たちに飛びかかり、その喉笛に食らいつく。
ふたりの兵士が地面に押し倒され、そのまま狛犬は地面に広がる黒い泥となって兵士たちを飲み込んでいく。
彼らを助けようと駆け寄る兵士に、旅一家の親父が剣で鋭い突きを繰り出した。
金属鎧の胴に突きを浴びた兵士が、吹き飛ばされて床を転がる。
別の兵士が旅一家の親父に攻撃しようと槍を構えるも……。
そこに母親と娘の魔法が繰り出され、突風に体勢を崩されたところで雷撃をまともに浴びて、そいつもまた倒れ伏す。
六人いた兵士が、あっという間に残りふたりとなった。
まあ、正面の扉から更に五人ほどなだれ込んできて、二階には行かずこっちの方へ殺到してきているんだけどね。
うーん、このままじゃジリ貧、か……?
マヨイガの宿に命じて正面の扉を封鎖してしまうという手もあるっちゃあるんだけど。
そうすると、新たに出口をつくるためにいろいろ面倒な手順が必要なんだよなあ。
それにいまは夕方で、外出している常連客たちが帰って来る時間である。
あまり長引かせるわけにはいかない。
「あ、あのっ、東横くん! この酒場、ちょーっと壊しちゃってもいいかな!?」
「あ、自爆は禁止で」
「なんで!?」
なんでも何も、それってめちゃくちゃ痛いんでしょ。
これ以上、南野さんが顔をしかめるところを見たくないんだよ。
と言ったところ、南野さんはなぜか目をおおきく見開き、顔を真っ赤にしてしゃがみこんでしまった。
え、なに、どうしたの……?
「ご主人さん、あなたには罪があります」
なぜか旅一家の娘さんにジト目で睨まれた。
え、なにさなにさ……。
いや、そもそもいまは、そんなことを気にしている場合じゃないんだった。
襲って来る兵士たちを対処しないと。
といっても、ぼく自身が打てる手はもうだいたい打っているんだけど。
たとえば、そう。
裏庭へ続く通路の奥から高笑いが聞こえてくる。
キタマの声だ。
「なんだなんだ、聖教の兵よ! あたしを討伐しに来たのかと思えば、目当ては別か?」
いま彼女は正体を隠すように黒い衣で全身を隠している。
フードを目深にかぶり、顔すらよく見えない中で、フードの奥の赤い双眸が爛々と輝いていた。
その右手が鋭く振り上げられて、ぱちんと指が鳴る。
次の瞬間、酒場のあちこちに散乱していた椅子と机がふわりと浮き上がった。
まるで、目に見えないちからもちに持ち上げられたかのように。
兵士たちが慌てる中、机と椅子が、武器や盾を構える兵士のもとに次々と殺到する。
兵士たちは悲鳴をあげながらそれを迎撃するも……。
盾で受け止めるにしても、机はいささか大きすぎ、椅子はその形状から迎撃するのが難しかった様子であった。
飛来した机や椅子に衝突し、彼らは次々と床に転がる。
うん、まあ彼らだってヒトを相手にすると思っていただろうからね……まさかこんな攻撃をされるとは思ってもいかなかっただろう。
ぼくもキタマの能力は、そのすべてを知っているわけじゃないんだけど。
彼女がこうした魔法も使えることは、記憶を覗いたときに知っていた。
「さて、ご主人、あたしはどこまでやればいいかな?」
「倒れている奴らを拘束できるかな。ロープとかはキッチンの隅にあるから……」
「任せてちょうだい!」
キタマが、またぱちんと指を鳴らす。
するとキッチンから跳び出したロープの束は、蛇のようにのたくりながら、床に這いつくばる兵士たちを襲った。
あまりにも奇怪な現象に、兵士たちは甲高い悲鳴をあげる。
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