異世界に憑いてるモノまでついてきた 異郷で開くマヨイガの宿 作:星野純三
なんか偉そうな奴が酒場に入ってきた。
いつまでも作戦が終わらず、しびれを切らしたのだろう。
「ふむ、魔術師がいるのか」
貴族っぽい青年は、手にした杖をさっと振るう。
すると、うねうねと生き物のように動いていたロープが動きを止め、花がしおれるように元気を失い床に落ちる。
「そこの流民どもは雑魚だな」
旅一家を一瞥し、青年は不愉快そうに鼻を鳴らした。
その視線がずれて、ぼくのそばを通り過ぎ……。
酒場の隅に立つキタマのところで、ぴたりと止まる。
「そこのチビ、おれの兵士たちがもたもたしているのは、貴様が原因か。フードを取るがいい。おれへの拝謁を許す」
「うるさい死ねっ!」
全身黒ずくめの少女は、激昂して右手を振る。
しかし、青年がそれとほぼ同時に右手を突き出し……。
お互い、なにも起きなかった。
キタマがひるんだように後ずさる。
「なるほど、たいした力量の魔術師だ。しかし如何せん、我流だな。聖教の神殿できちんと学んだ者ならば、もう少しうまく魔力を操る」
「うわあ、あんな尊大で小物っぽいのにキタマちゃんより腕がいいとかズルじゃない?」
南野さんが小声でささやく。
ズルかどうかはわからないが、厄介な相手が残っていたなとはぼくも思うよ。
「そもそも貴族って、強いんだ?」
「そりゃ、ちからが認められて王様に爵位を貰った人たちだからねえ。わたしたちとは血が違う」
旅一家の母親が、吐き捨てるように言う。
さっき、流民で雑魚って言われたことを根にもってるなあ。
ちょっと考えて、彼女の言葉を咀嚼する。
ああ……なるほど。
以前、この世界の魔術師は魔法の才能を親から子へと受け継ぐって聞いたことがあるけど。
それってこういうことなのか。
「魔術師の血が濃いほど魔法が得意になって、強力な魔術師になる。貴族としての血が濃いほど魔術師として強い?」
ぼくの呟きは、思ったより大きな声だったらしい。
尊大な男がぼくの方を向く。
「我々にとっては当然のことを知らぬとは、さてはきさまが稀人か」
稀人。
初めて聞く単語だけど、意味はだいたいわかる。
「この世界以外から来た、という意味でしたらそうですね」
「きさまは無知でも見どころがある。おれに下れ。特別に、身分を与えて取り立ててやってもいい。直答を許す」
うわあ、なんて上から目線の勧誘。
これってたぶん、彼の立場からはごく普通の言葉かけなんだろうけど。
そう考えると、王女殿下の態度がすごいんだよなあ。
彼女はぼくや西田くんとの対話を始める際、その所作をちょっと見ただけで、「あなた方は身分のない土地から来たのですね」と言って、対等に話すよう求めたのである。
ちなみに右子さんと左子さんは猛反対した。
でも王女殿下は、「彼らにとっては、それがあたりまえなのです。交渉を持ちかけたのはこちらです。まずは彼らの流儀に合わせましょう」と返事をし、平然と机を並べての会話を選んだ。
この国の権威である王族としては失格の対応なんだろうなあ。
でも彼女の誠意は伝わった。
西田くんが彼女を信頼に足ると考えた理由の一端もそのあたりにあるに違いない。
同時に、殿下が他の王族をぼくたちに会わせたくないと考えるのも、理解できてしまう。
「あの態度、うへえって感じだね」
南野さんが、ぼくの顔のそばで囁いた。
まったくもって同感だ。
「あの方はおまえたちを魔族と認定したがっているが、おれの考えは違う。利用できる者までなにもかも異端として排斥するのでは、我が国の未来は暗い。第二王女殿下とも、そこはわかりあえたのだがな。あれはやりすぎた。あれのやり方では国が割れるのだ」
なんか勝手にべらべらしゃべっているなあ。
なお第二王女殿下というのは、まあ、いま二階にいる人のことである。
彼女のやり方が先進的すぎる、というのはよくわかる。
魔族であるキタマのことを相談できちゃうくらいだから、そりゃあね……という感じだ。
たぶん彼女はこの国にとって劇薬だ。
だからこそぼくたちは彼女を守る必要がある。
そのあたりの認識のすり合わせは、すでに西田くんとの間でよく話し合っていた。
というか西田くんがそういうの得意みたいでね……。
ぼくの考えは、だいたい西田くんの受け売りである。
「ふむ、高貴なおれに声をかけられ、言葉を失ったか。よい、きさまの言葉で語るがいい」
いや、別に気圧されているとか言葉遣いがわからないとかじゃないんだけど……。
「うわー、あいつこれまでどれだけ自己肯定感満載で生きてきたんだろね」
南野さんが毒を吐く。
うーん、こちらとしてはもうこれ以上、引き延ばす理由もないかなって感じなんだけど……。
あ、座敷童から、おっけーの合図が来た。
よし、じゃあもういいか。
「マヨイガ! 正面の扉、閉めて!」
ぼくが命じると、勢いよく入り口の扉が閉まる。
傲慢な青年が、少し慌てた様子で後ろを向いた。
「アレイ、イウン!」
青年の左右の床から現れた二体の黒い犬が、傲慢なこの男を強襲する。
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