異世界に憑いてるモノまでついてきた 異郷で開くマヨイガの宿   作:星野純三

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第22話 奇襲

 狛犬の戦力が、この世界においてどれほどか。

 正確なところはわからないが、共和国の追っ手との戦いでは、二体揃った状態で倒せない相手はいなかった、程度である。

 

 とはいえこれは、二対一での話だ。

 加えて小国である共和国よりも大国である聖王国の方が、はるかに人材の層が厚いのは間違いない。

 

 あとそもそも、西田くんは狛犬二体を同時に相手にして勝てる。

 彼のスキル、本当に強すぎるんだよなあ。

 

 個々人に与えられたスキルというものが、どれもそれだけ強力なのかもしれないけど。

 ぼくの場合、そもそもスキルは、たぶん「向こう側の世界で背負っていたモノ、ちからを従える」というもののはずで……。

 

 西田くんも、「おまえのちからすべてを相手にしたら、いまのおれでもてんで敵わん」と言っていた。

 ぼくが自分のちからを上手く使いこなせていないんだろうなあ。

 

 まあ、この話は別にどうでもいいんだ。

 重要なのは、己のちからを過信してはならない、敵を侮ってはならないということである。

 

 故に、傲慢な青年を倒すにしても、相手の注意をそらした上で不意を打つ。

 やりすぎかもしれないけど、侮って負けるよりもずっといい。

 

 本当は、新しく仲間になったキタマとの連係も考えたかったんだけどね。

 今回はそんなことを考えるような時間も、訓練をする時間もなかった。

 

 だから既存の戦術の範囲で戦う。

 マヨイガに命じて扉を閉めて、驚いた相手の左右から狛犬を飛びかからせるという初見殺しを仕掛ける。

 

 はたして、その用心は正しかった。

 なにせ青年のちからは傲慢さに見合うだけのものだったのだ。

 

 狛犬が襲いかかった瞬間、半透明の青白い盾のようなものが青年の左右に出現したのである。

 あ、これ自動的に発動して術者を防御するやつだ、とぼくが気づいたときにはもう遅く、狛犬たちの飛びかかりは青白い盾に正面から防がれてしまう。

 

「やはりきさまは危険だ、おれのものにならぬなら死ね!」

 

 青年が憤怒の形相でぼくを睨んだ。

 まあ、仕方がない。

 

 ならば二の矢だ。

 

「マヨイガ、天井のロック解除」

 

 ぼくは小声で命じる。

 酒場の天井に瞬時に穴が開いた。

 

 うん、あそこだけ仕掛けがあるんだよね。

 そして。

 

 その穴から落ちてくる者がいる。

 西田くんだ。

 

 ここまで、扉が閉じてから数秒。

 座敷童を使った伝達で、仕掛けの上で待機して貰っていたのである。

 

 本当に強敵を相手にする場合にはこうしよう、とあらかじめ打ち合わせが済んでいた。

 これも所詮は初見殺しだが――。

 

 そもそも、西田くんの一撃は、わかっていても防げないのだ。

 はたして西田くんは全身を黄金色のオーラで輝かせ、青年の頭上に自動的に展開された盾を拳の一撃で粉砕し、そのまま落下。

 

 青年が驚愕する間もなく、目にもとまらぬ蹴りが繰り出される。

 傲慢な貴族の首が、あらぬ方向に折れ曲がった。

 

 そのまま、青年は地面に頽れる。

 護衛の兵たちが、慌てて西田くんに迫るも……。

 

「アレイ、イウン!」

 

 ぼくが命じると、狛犬たちはその兵士に飛びかかり、これを蹂躙する。

 酒場の中の敵は、あっという間に制圧された。

 

「で、こいつはなんなんだ」

 

 改めて貴族の身体を調べ、きちんと死んでいることを確認した西田くんが顔をあげる。

 二階から右子さんを伴い下りてきた殿下が、「公爵家のご当主です」と返事をする。

 

「公爵って?」

 

 南野さんが首をかしげた。

 西田くんが「お偉い貴族だ」と雑な説明をする。

 

 ちなみに左子さんは、兵士が混乱している隙をついて狛犬が床に引きずりこみ、地下で座敷童が手当てをしている。

 彼女の無事については、きちんと殿下に説明してある。

 

「代替わりしたばかりなのですが……まさか、これほどの軽挙妄動に出るとは考えておりませんでした。わたしの単独行動を隙と捉えたのでしょうが、なんとも愚かなことです」

 

「殺しちゃったらまずかったですかね」

 

 ぼくは心配になって訊ねた。

 殿下はくすりと笑う。

 

「わたくしを狙った以上、殺す以外にありません」

 

「おれたちは餌に使われたってことか?」

 

 西田くんが、冷たい目で殿下を睨む。

 右子さんが殿下を守るように一歩、前に出た。

 

 殿下が右子さんを手で制する。

 

「やめなさい。ここで彼らと争って、わたくしたちに勝ち目はありませんよ。あの扉が閉じている間、わたくしたちはここでは弱者、哀れな籠の中の鳥なのですから」

 

「どちらかというと、籠の中の鶏という感じのやかましさね」

 

 呆れた様子で、キタマがツッコミを入れる。

 




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