異世界に憑いてるモノまでついてきた 異郷で開くマヨイガの宿 作:星野純三
宿屋の外で待機していた敵兵は、護衛を伴い現れた第二王女殿下の姿を見た瞬間に降伏した。
彼女がこうしている以上、公爵家の当主が無事であるはずもないからだ。
ちなみに殿下のもともとの護衛や普段から宿屋の外で見張りを務めてくれていた衛兵さんたちは、幸いにしてちょっと怪我をした程度で済んだ。
ぼくとしても彼らのことは心配していたので、なによりである。
ぼくたちが殺した公爵だが、本命の暗殺以外では無駄に血を流す気はなかった様子で……。
すごい真面目に、殿下を暗殺しようとしていたんだなあ、という印象である。
真面目な暗殺ってなんだよ、という話ではあるけども。
実力も確かで、これまででも一、二を争うくらいに強い相手だったように思うし。
ただ、殿下も言う通り、彼の軽挙妄動に関しては言い訳の余地がなかった。
ぼくたち稀人を侮りすぎたが故の、当然の敗北であったのだろう。
「隙を見せたつもりはないのですが、結果的に、かの公爵にとっては隙と映ってしまいました。それが故に、今回のこの宿への襲撃に繋がってしまったこと、謝罪いたします」
後日、宿の一室にて。
殿下はそう言って、ぼくに頭を下げた。
この場にいるのは殿下と右子さんと左子さん、それからぼくたち稀人三人だけだ。
王族の頭はそうそう下げられない程度には重いものらしいけど、殿下はぼくたちの流儀に従い謝罪をしてくれたのだ。
南野さんは、「ほへー」と綺麗なお姫さまの謝罪に感嘆している。
でも西田くんは、たいそうご不満の様子である。
「謝罪は受け取った。だが、こっちで調べたところじゃ、聖王国の貴族の間じゃ稀人の噂が出まわっているそうじゃないか」
そう言って、殿下を睨んでいる。
右子さんと左子さんが剣呑な雰囲気で西田くんを睨み返していた。
西田くんは、ちょっと怒っているみたいだった。
ぼくも西田くんも、殿下が貴族たちを抑えてくれている、と思っていたんだから当然だ。
彼はあれから、ぼくのこの宿屋が王都でどう思われているか、チームメイトの伝手とかを使って調査してくれていた。
結果、第二王女が稀人を取り込み、自分の武力として運用しようとしている、みたいな噂が流れていることが判明したのである。
西田くんたちは、ここ最近ずっと登山していたから、このあたりの噂話を全然キャッチできていなかったのだ。
あ、西田くんたちは登山は無事に終わって、組合本部に報告するため王都に戻り、そのついでで情報を集めることができた、というわけだ。
「わたくしに、そのような意図はございません。と、申したところで信用できないかもしれませんが……」
「そっちが意図してのものじゃないことはわかっている。もし本当におれたちを武力として取り込むつもりなら、もっとちゃんと隠すだろうからな」
「ええ、王族として、独自の武力を誇示するなど愚の骨頂。兄たちを刺激するだけですので。……ですが、そう呑気なことを言ってはいられなくなりました」
「今回の件が表沙汰になっていないのは知っている。火消しのために誰を頼ったんだ。第一王子派か、それとも第二王子派か……」
ちなみにこれも、西田くんのチームメイトが調べてくれた結果である。
「両方の兄の手を借りました」
殿下は、平然とそう告げた。
うわあ、王位継承を巡って争っている両方に借りをつくったのか、大丈夫かなあ。
「保険か」
「ええ」
「上手くやってくれるなら、それでいい」
あれ、でも西田くんは納得してる様子だ。
ぼくと南野さんが、仲良く首をかしげる。
「東横、南野、おまえらたぶん、借りをつくりすぎじゃないか、って心配してるだろ」
「違うのかな?」
「わたしさっぱりだよ! 西田くん、説明を求むぞーっ!」
「逆なんだ。この宿は第二王女派の拠点だと認識されていて、だからこそ襲撃を受けた。権力争いに関わらないためには、どの派閥からも等しく距離を置くか、その反対をする必要がある。距離を置くのはいまさら無理だから、必然的に後者になる」
なるほど……なるほど?
まあでも、そうか、どことも距離を置くなら、どこから襲われても自分で身を守る必要がある、と。
貴族の庇護は必要だ。
ぼくと西田くんは、共和国での一件でそれをよく認識している。
「もっとも、いくつか譲歩の必要がございます。少々、お願いがあるのですが……」
「揉め事の種になるのは御免だぞ。あとこの宿は、あくまでも東横のものだ」
もちろんです、と殿下はうなずいてみせる。
「ひと部屋、お借りしたく思います。そこに、王族をひとり、常に滞在させます」
「ええと……殿下以外を、ってことですか?」
ぼくは首をかしげてみせた。
西田くんを見ると、彼の方は理解したのか「悪くない話だ」と言ってのける。
「王族でこの宿の部屋をひとつ借り上げて、そこを王家の者たちの交渉場所や避難所にする。若枝があれば、誰がいつ交渉したか、外からまったくわからない。密談には最高だ」
な、なるほど……。
この宿屋は一度、訪れれば、以後は若枝で、どこからでも戻って来られる。
その仕様を利用して、各派閥のトップ同士が交流する場所にする、ということか。
たしかに、そこまでしてしまえば、この宿屋はすべての派閥から等しく、価値を認められて……。
今後、襲われることもなくなる、ということか。
そのかわり、王族との関わりはいっそう強くなってしまうわけだけど……これはもう、仕方がないことなのかもしれない。
王位継承争いをするどちらの陣営にも利がある話、として殿下はこの話をまとめたのだそうだ。
ぼくたちは一室を差し出すかわりに、この聖王国における絶対の安全を得る。
で、そのうえで、安全の保障として王族が常駐し、睨みをきかせる。
これは先のような襲撃が起きないようにするセーフティであると同時に、ぼくたちに対する人質でもある、と。
「ぼくから、正直なこと言っていい?」
「どうぞ、忌憚のない意見をお聞かせください」
「王族の相手とか面倒」
「わたくしも王族なのですが……」
殿下が苦笑いし、右子さんと左子さんからの無言の圧力が強くなる。
でもさあ、これは一応、言っておかないとさあ。
「ご懸念は理解いたします。心配なさらずとも、肩肘張る必要がない者を手配いたします」
「肩肘張る必要がない人、ですか……」
いるのか、そんな王族。
不安でしかないのだけど。
借りにいたとして、フランクに接して大丈夫かと言われると……。
うーん、どうなんだろうなあ。
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