異世界に憑いてるモノまでついてきた 異郷で開くマヨイガの宿   作:星野純三

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第24話 宿屋の外

 その日のお昼ごろ、ぼくは久しぶりに宿屋の外、聖王国の一都市の町はずれにいた。

 南野さんにこのあたりを案内するためだ。

 

 なんでこの日まで南野さんが外に出なかったかと言えば、一度でも若枝を使わず宿屋の外に出てしまうと、二度とその若枝は使えなくなるからである。

 つまり、南野さんの場合は北の魔王の城が若枝で戻る先だったわけだけど……。

 

 あれからちょこちょこと、キタマと共にあの場所へ戻って、使えそうな物資の回収をしていたのだ。

 その作業も終わり、南野さんはようやく聖王国に足を踏み入れることができたのであった。

 

 ぼくと南野さんは、宿屋の正面扉を出て、その外を守るふたりの衛兵に挨拶する。

 先日、貴族の襲撃の際も、彼らは身を挺して宿を守ろうとしてくれたらしい。

 

 おかげで死にこそしなかったものの、だいぶぼこぼこにされて気絶していたとか。

 怪我については治療魔法で完治した様子である。

 

 この世界には魔法があって、治療魔法と呼ばれるものもある。

 高位の治療魔法ともなるとちぎれた腕をつなげたり、破壊された臓器を再生したりすらできるらしい。

 

 でも死者を蘇生することはできない。

 老人のように生命力が低下した者に対しては効果が薄い。

 

 あとは病気に対して効果のある魔法が少なかったり、呪いというこの世界独特のものがあったり……。

 とにかく、ぼくたちがいた世界とは、命のありようがだいぶ違う。

 

 キタマだって、肉体を破壊された後、赤い宝石になって生きていたしね。

 ああいうのすらアリ、というこの世界において、ぼくたちの常識はだいぶ非常識だったりするのだ。

 

「ご無事でなによりです」

 

 ぼくがそう挨拶すると、背が高くてがっちりした体格のふたりは身を小さくしてぺこぺこ頭を下げた。

 

「自分たちではなにもできず、宿に警告のひとつも入れることができませんでした。本当に申し訳ございません」

 

「警告を入れられなかったのは、ぼくたちのシステムの不備です。次はそうならないよう、システムを再考します」

 

 彼らは普段から彼らの職分を全うしてくれている。

 宿屋に来る人たちの質が一定を保たれているのは、彼らがある程度の条件で初来客を選別してくれているおかげである。

 

 具体的には、クソ貴族とかクソ貴族とかクソ貴族のことなんだけど。

 逆に、ただのチンピラじみた冒険者なんかは通すようにお願いしている。

 

 チンピラが襲ってきても、狛犬たちが返り討ちにして終わりだからね。

 とはいえ、安易に返り討ちにしてはいけない相手を返り討ちにしてしまったのが、共和国時代に冒したぼくたちのミスのひとつだったんだよなあ……。

 

 だから、返り討ちにしたらマズい人たちは彼らにブロックして貰うのだ。

 それが殿下の配慮で、西田くんが殿下と決めたとりきめなのだった。

 

 それはさておき、だ。

 初めて宿屋を外から見て、南野さんがひとこと。

 

「まわりから浮いてる! 浮いてるよこの宿!」

 

 そう、ここはとある町のはずれである。

 この町、周囲に壁がないから郊外にもぽつぽつ家があって、まわりに畑とかもあったりするんだけども。

 

 そんな中で、デンと立っている我らが宿屋は、四階建ての木造老舗旅館という感じである。

 まあ……そうだよね……こんな和風の宿が西洋風の都市部近くにあったら雰囲気が浮きまくるよね……。

 

 うちの宿屋が普段、二階部分が埋まるか埋まらないか、くらいしか客が来ないのも納得である。

 よほど覚悟がキマった奴か、あらかじめこの宿屋のことを知っている奴でもないと、そりゃこの門をくぐらない。

 

 でもこの外観、ぼくも西田くんも気に入っているんだ。

 納得はすべてに優先されるのだ。

 

「あとまあ、この外観なら、もしクラスメイトがこの付近に立ち寄ったらすぐ気づくかなあ、というのもね」

 

「あー、そうだよねえ。そりゃあ気づくよねえ!」

 

「クラスメイトでこの宿に足を踏み入れたのって西田くんと南野さんだけだけどね」

 

 かくもこの世はままならぬ。

 いやまあ、ぼくたちが転移してきた地方からこの聖王国に来るには険しい山越えが必要だったから、そうそうこっちにクラスメイトが来ることはないってのもわかるんだけどね。

 

 まだあれから三か月しか経っていないのである。

 もしかしたら、迂回路を通って、ゆっくりとこっちに向かっている人もいるかもしれない。

 

 あるいはこの宿屋が評判になって、噂話を聞きつけた者がやって来るかもしれない。

 この世界の噂の伝達速度を考えると、あともう半年、一年もすれば……とかの話になるけれども。

 

「ご主人、今日はどちらにおでかけですか」

 

「冒険者組合に行きます。こちらの南野さんの登録を」

 

「それでしたら、至急、護衛の手配をしますので……」

 

「あ、大丈夫です。殿下が組合の方に話を通してくれているという話です」

 

「なるほど、ではお気をつけて」

 

 そんな挨拶を交わし、ぼくたちは歩き出す。

 行き交う人たちは、ぼくと南野さんが宿屋から出てきたのを見て、すーっと道の脇に退いていく。

 

 うーん、相変わらず警戒されているなあ。

 普段から殿下がよく来ていたりするし、無理もないんだけど。

 

 宿屋のそばにある、やたら広い空き地のそばを通り過ぎた。

 きょろきょろしていた南野さんが、広場の隅にある器具に目をつける。

 

「ねえねえ、東横くん、ここの広場ってなに? なんか木に紐がついてるけど……遊具かな?」

 

「ここ、ワイバーン便の発着場なんだ。殿下が無理矢理、ここにつくらせたんだって」

 

「……そりゃ、さっきからわたしたちに向けられる目が冷たいよね! いろいろ納得だよ!」

 

 別にここのあたりの人たちを強制的に立ち退かせた、とかじゃないんだけどね。

 もともと殿下の母方の土地だったとかで、それを再開発しただけとか。

 

 この町も、そもそも殿下の母方の貴族が治めている土地なんだそうだ。

 だから他の貴族も、この土地で好き勝手したりはできない……はずだったんだけどなあ。

 

 先日みたいなことがあると、そのあたりも怪しくなる。

 というかこの聖王国という国全体がだいぶそのへん、緩み切っているみたいな感じが……とは西田くんの弁であった。

 

 彼は二回くらい王都にも行っていて、そのあたりの空気を調べてくれている。

 このあたりとは違って、ひどく治安が悪い土地なのだそうだ。

 

「王都の方が治安が悪いのは、納得かなあ。いろいろな人が集まるからねえ。帝都もそうだったよ」

 

「そういうものなんだね。南野さんは大丈夫だったの?」

 

「大丈夫じゃなかったよ! 二回くらい自爆したよ!」

 

 そうかー、自爆したのかー。

 先日の指爆弾といい、彼女がどれほど苦労してきたか、少しはわかろうというものだ。

 

 




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