異世界に憑いてるモノまでついてきた 異郷で開くマヨイガの宿   作:星野純三

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第25話 冒険者組合

 冒険者組合は二階建ての石造りの建物で、一階が酒場、二階が組合の受付となっている。

 朝方は仕事を求める者たちで熱気にあふれ、夕方は仕事帰りの荒くれ者たちでにぎわうという。

 

 ぼくの宿屋から徒歩で三十分くらいの距離にあって、西田くんはよくここに来るらしい。

 ぼくは初めてなんだけどね。

 

 で、だ。

 組合の中に入ったぼくと南野さんであったが……。

 

 薄暗い店の中に入ったところで、待ち構えていたとおぼしき鎧姿の女性四人に深く頭を下げられ、びくっと身をこわばらせた。

 いやだって、扉を開けたら、一斉にこちらを振り返ってばたばた駆けてきたんだよ?

 

 で、お待ちしておりましたっ! って叫ばれたら誰だってびっくりするって。

 

「えーと、殿下の……?」

 

「はいっ! ミナミノさまの冒険者登録、我らにお任せくださいっ!」

 

 声が、でかい、でかい。

 幸いにして、この一階の酒場部分にはほとんど客がいないけど。

 

 そりゃあね、だからこそ、昼下がりのいまの時間帯を選んだんだけどね。

 いやー、人がいっぱいいる時間を選ばなくて本当によかったよ……。

 

 殿下は、信頼できる人を派遣して南野さんの冒険者組合の登録を手伝わせる、とだけ伝えてきたんだよね。

 たしかに先日の襲撃も考え合わせれば、信頼できる、というのはなによりも代えがたいものだと理解はできるけど……。

 

 ほら、酒場のウェイトレスさんがドン引きしているよ?

 

「え、ええと……あはは、ドーモ、ミナミノです! よろしくお願いしまっす!」

 

 南野さんがぎこちなく挨拶している。

 うん、ごめんね、気持ちはわかるけどいまは彼女たちに従ってね……。

 

 なお彼女たちは、全員が十代の後半で、この町の領主に仕える騎士なのだそうだ。

 同時に冒険者でもあるらしい。

 

「騎士と言っても、我々は平民の出なのです。たいした禄もなく、平時の食いぶちは自分たちで稼がなくてはなりません」

 

 へー、この国の騎士ってそういうものなんだ。

 でも領主への忠誠心はかなりあるっぽくって、ついでに殿下の話をするときは目をきらきらさせている。

 

 なるほどなー、そのへんぼくにはよくわからないけど、たぶんいろいろな彼女たちだけの物語があったのだろう。

 ついでに……うん、これってぼくと南野さんを彼女たちと顔合わせさせたかったんだね。

 

 というわけで南野さんが女性ふたりと共に二階へ向かう。

 彼女の冒険者組合の登録を待つ間、ぼくは一階の酒場で、残りふたりの女性を護衛として待つことになった。

 

 彼女たちのぶんも含めて、軽く料理と飲み物を注文する。

 うちの酒場のライバルでもあるこのお店の敵情視察、と思ったのだが……。

 

 出された煮込み料理をひと口食べて、ぼくは思わず固まってしまった。

 うん、その……。

 

 味が。

 雑。

 

 次は揚げた川魚をいただく。

 ぱくっ……うーん、小骨が多くて苦味がすごい。

 

 なるほど、ね……こりゃ、常連客がうちの酒場で朝と夜を食べるわけだ。

 お昼も、皆が皆、うちの宿のお弁当を持っていくわけだ。

 

 うちの酒場、もっと値上げするべきなんだろうね、本当は。

 しないけど。

 

 いやー、共和国からこっちに移動する際も、基本的には夜は宿屋に引きこもっていたから、こっちの料理をそこまで食べてなかったんだよね。

 もちろんまったく食べてない、ってわけじゃなくて、たとえばこっちの世界に来てから最初に赴いた町では、領主の屋敷でいろいろ食べたんだけど。

 

 あそこの領主さま、ちゃんとした料理を出してくれたんだよなあ……。

 いま思えば、かなりぼくたちに配慮してくれていたのだろう。

 

 料理人が味つけとかいろいろ聞いてきてたし。

 その後も、共和国で貴族に歓待されたときとか、こっちに来たときも殿下の派閥の屋敷でとか。

 

 あとは農村とかで食べた料理もあるにはあるんだけど……。

 ああいうのは味に全然期待してなかったしねえ。

 

 もうちょっと標準的な酒場の料理、というやつを食べてみるべきだったかもしれない。

 いや、こういうのが標準かどうかはわからないんだけども……。

 

「宿のご主人殿、感情が顔に出てますよ」

 

 女騎士さんのひとりが、笑いをこらえて指摘してくれる。

 あ、うん、失礼だよね……仕方がない、我慢して食べるか。

 

「あなたに一般的な酒場の料理を知っていただくのも、今回の目的のひとつですので」

 

「よく理解しました。今度、うちの宿の料理を食べに来てくださいね」

 

「楽しみにさせていただきます。ところで、宿のご主人殿、忠告をもうひとつ」

 

「なんでしょう」

 

「この聖王国では、男性が女性に、料理を食べに来てくれと家に誘うのはプロポーズです」

 

「ごめん、そういうつもりはなかったんだ」

 

「わかっております。文化の違いがあることについては、殿下からいただいた指示書に記されておりました。よく注意するように、と。あなたが不快に思われたら土下座し腹を斬ると良い、とも」

 

「腹は斬らなくていいです。あと土下座もしなくていいですよ。普通に言葉で謝ってくれれば」

 

「そうですか、助かります。治療の魔法は、我々の身分では高価なのです」

 

 怖いよう、いろいろと価値観が違う。

 




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