異世界に憑いてるモノまでついてきた 異郷で開くマヨイガの宿 作:星野純三
ふと背後に威圧感のようなものを覚えて振り向くと、笑顔の南野さんが立っていた。
どうやら組合登録の手続きは終わったようだ。
まあ、もともと帝国の組合に所属していたわけだからね。
あくまでも移籍手続き、ということなので、いろいろ簡略化できるのだろう。
ちなみに冒険者組合は大陸全体で情報の共有ができる、特殊な機器を使っているらしい。
らしい、というのはそのあたりの情報がぼくたちの下には降りて来ないからである。
ちょっと特殊な魔道具を使っている、みたいな噂はあるんだけどね……。
殿下に聞けば教えてくれそうだけども、とりあえず別にそこまで知りたいわけじゃないから別にいいや。
「東横くん、プロポーズしたの?」
「どこから聞いていたのさ」
「へー、そうなんだ、プロポーズしたんだ」
「聞いていたなら誤解だってわかるよね」
「ごめん、ちょっと言ってみたかっただけ」
「どういう反応をすればいいのかわからないよ」
南野さんが少しスネたような態度をしているときは、だいたい冗談なのだと理解している。
それはそれとして、反応に困るネタを振られても、ぼくは西田くんみたいにノリよく返せないんだよね、ごめんね、と謝った。
「え、いや、別にそんなこと気にしなくていいんだよ! わたしが勝手に言ってるだけなんだから!」
「ミナミノは、もう少し素直になってもよろしいのではありませんか」
横にいた女騎士のひとりが、ぼそりと呟いた。
南野さんが、頬を朱に染めてそちらを睨む。
「出過ぎたことを申しました」
「あ、ええと、うん、わたしこそごめん……」
今度はお互いにぺこぺこ頭を下げている。
いったいどういうことなのか、ぼくにはよくわからないんだけど……南野さんは、この短時間で彼女たちとだいぶ仲良くなったみたいだ。
コミュニケーション能力が高いのは、そもそもクラスで人気者の立場だった彼女なのだから当然なのだけど……。
ぼくには絶対に真似できないことだなあ。
「南野さんも、ここのご飯食べてみる? お腹空いてるよね?」
「で、できれば宿の方でいただけると嬉しいかな……って」
「あ、知ってるんだ」
「そりゃ、わたしひとりで冒険者やってたんだよ!?」
そういえば、そうだった。
帝国でも食料事情はあまり変わらないか……。
まあ、料理の値段も安かったから、そういうものなんだろうけどね。
衛生事情についてもお察しだろうから、うん、気軽に外食、とかいう文化じゃないんだろうと納得することにする。
「うちの宿、もっときちんと宣伝すればいっぱい人が来る気がしてきたよ」
「あえて宣伝してないんだと思ってたよ」
南野さんが、呆れた様子で言う。
あ、そう思われてたんだ?
「実は宣伝とかよくわからないから、西田くんと殿下に丸投げしてた」
「あのふたりのことだから、東横くんの負担も考えてほどほどにしてたって感じじゃないかな!」
そうかもしれない、ふたりともぼくのことをコミュ障のひきこもりだと思っているフシがあるから。
いやまあ、だいたい事実なんだけども……。
「東横くんは、やる気はあってもまわりからそう見えないところがあるよね!」
「そんな風に見える?」
「いまはなんか、やる気になっているってわかるよ」
うん、少しやる気になっている。
でもそうだね、あんまり流行っても、座敷童が大変なだけかもしれないな……。
別にいまの状態でも食うに困っているわけじゃないからねえ。
先日、襲撃があったばかりだし。
ちなみに襲撃があっても、それが理由で宿屋を引き払ったお客さんはゼロでした。
一組、目的地についたとかで出ていった人たちはいるんだけどね。
そもそも自宅がない旅人が多い上に、うちの宿屋は居心地いいから、と長期滞在する人ばかりなのである。
旅一家なんかもそういうお客さんで、娘さんなんかは、あちこちで買ったぬいぐるみを自室に溜め込んでいまやすごいことになっていたりする。
うん、あの一家、夫婦でひと部屋、娘さんひとりでひと部屋の合計ふた部屋を借りてるんだよねえ。
なんか娘さんは、「父と母をふたりきりにしておけば、いずれ家族が増えるでしょう」とか言ってるし……。
「ま、それじゃ帰ろうか」
「うん、帰ろう帰ろう。どうせすぐは仕事を受けないからね!」
というわけで、ぼくたちは女騎士さんたちにお礼を言って宿屋に帰った。
南野さんはお昼ご飯をたっぷりとおかわりして、満足そうだった。
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