異世界に憑いてるモノまでついてきた 異郷で開くマヨイガの宿   作:星野純三

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第29話 タコ料理

 末姫さんの従者さんたちに、食事について訊ねた。

 普段、どういうものを食べているのかと、この宿で食事を出すかどうか、だ。

 

 王族なら専用の食事とかあるかもしれない、と気をまわしたのだが……。

 

「この宿の食事を食べられないのですか? お姉さまは、この宿の料理はとても素晴らしい、とおっしゃっていたのですが……」

 

 と末姫さんが悲しそうな顔で従者たちを見上げる。

 なにか言う前にそんな主の様子を見てしまった従者たちが、口をぱくぱくさせていた。

 

「第二王女殿下には、なにか特別な料理を?」

 

 従者さんがぼくに訊ねてくる。

 

「宿の他のお客さまと同じものです」

 

「わかりました、ではそれを。毒見いたしますので、少し多めにお願いします」

 

 そういうことになった。

 実際につくるのは座敷童なんだけどね。

 

 本当は和食を出したかったのだが、そもそも味噌が手に入らないし、醤油に似た調味料も……ないことはないんだけどこの聖王国じゃ高価である。

 現在、旅一家の人たちがあちこち旅して手に入れてくれる調味料をかたっぱしから試しているところなのだ。

 

 そういう意味で、昆布の出汁が取れるようになったのは大きな前進だ。

 魚醤もあるから、ちょっと臭いが強いけど、味のレパートリーは豊富になった。

 

 米も、パエリアみたいにすればおいしい品種を発見した。

 おにぎりにできるような感じの米は、まだ発見できていない。

 

「いろいろ変わった料理が出ると思いますから、嫌なものがあったらすぐにおっしゃってください。かわりを用意いたします」

 

 なおその日の夕食として出した中だと、末姫さんはタコの酢の物をたいそう気に入ったそうだ。

 従者の人が、「このぶつぶつしたものは、どういった植物なのでしょうか」と首をかしげていたけど……。

 

「そういえばタコって聖教で魔物扱いされていたりするのかな」

 

 西田くんに訊ねてみた。

 

「知らん。ちょっとチームメイトに聞いてくるわ」

 

 結果、いろいろな食事情が明らかになった。

 で、そもそも海の幸は聖王国ではほとんど知られていないそうである。

 

 そりゃそうか、この国って海産物は輸入品だけだものね。

 海に面した友好国はあるらしいから、そこから持ってくるものはあるとかで……。

 

 冷凍の魔法を使って魚を運んで、みたいなことは貴族の間で行われているとのことである。

 

「タコとかイカの見た目が悪い、というのはそれはそうなんだよな」

 

「わたしはタコ好きだよ! タコわさ食べたいっ!」

 

 カウンターで西田くんと話をしていたら、ちょうどお風呂からあがったばかりのほかほかの南野さんが声をかけてきた。

 彼女は最近、一日に二回か三回は風呂に入っている。

 

「日本人の意見はアテにならないとして、だ」

 

 そもそも、わさびがない。

 

「ちくしょう西田くん、なんの否定もできないぜっ」

 

 南野さんの意見を無視する西田くんと、悔しがる南野さん。

 コントなのかな?

 

「いっそ、宿の宿泊者のうち暇している奴らに片っ端から聞いてみるか」

 

 西田くんが、ついにはそんなことを言い出した。

 

「タコとかイカのサンプルがあれば、キッチンに用意しておいてくれ。あとは……うなぎ、とか?」

 

「ちょうどアナゴならあるよ」

 

 というわけで、西田くんは暇そうな宿泊者を五人ばかり連れてキッチンにやってきた。

 彼らに海産物を見て貰う。

 

 結果、イカは全員OKだがタコは嫌な顔をした者がひとり、アナゴについては全員が拒否反応を覚える、という結果が出た。

 

「アナゴが駄目とはなあ。蛇みたいなもんだと思うんだが……」

 

「蛇を食べる地方がある、という知識はあるわ。でもわたしが食べるのはちょっと……」

 

 と言ったのは西田くんのチームメイトの女魔術師さんである。

 なお、みんなでキッチンでガヤガヤやっていたのを見咎めた旅一家も途中から混ざってきて、こっちは三人全員が「全部おいしそう」と一致団結していた。

 

 さすがはあちこち旅していろいろなものを食べてきた者たちだ。

 というか海産物に関してはだいたいこの一家が仕入れてきてくれたものだったりする。

 

「そもそも、このアナゴとかタコでどんな料理ができるのかしら」

 

 旅一家の娘さんが首をかしげる。

 あ、そういえば食材の調達は頼んだけど、具体的にどう食べるのか、については説明していなかったなあ。

 

 タコ料理については、この一家に出したことあるんだけどね。

 と、先ほどの一品がタコを使ったものであることを説明する。

 

「あれ、酸っぱいからちょっと苦手かも」

 

「ん、味は調節する」

 

 座敷童が旅一家の娘さんの言葉にうなずく。

 料理の研究に熱心なのだ、うちの座敷童たちは。

 

 ちなみに、このキッチンには現在、三人の座敷童がいるが、この宿ではいつものことなので誰も同じ顔の少女が働いていることを気にしていない。

 

「海産物はお酢と合うから、要調整だね」

 

「ねえねえ、座敷童ちゃん、タコ焼きとかつくれる?」

 

 南野さんが、ふとそんなことを訊ねた。

 座敷童は「ついに、このときが」とちいさくうなずき、キッチンの棚の奥からタコ焼き用の鉄板を取り出す。

 

「わっ、なんでこんなのあるの!?」

 

「おいおい、マジか」

 

「こんなことも、あろうかと」

 

 えっへんと胸を張る座敷童。

 俄然、テンションが上がる南野さんと西田くん。

 

「いまから、食べる?」

 

「はいはいはーい、食べまーすっ!」

 

 南野さんが、びしっと勢いよく手を上げる。

 かくして急遽、タコ焼きパーティが開かれることになり……。

 

 なんだなんだ、と二階から宿泊客が次々と下りてきて、このパーティは深夜まで続くことになるのだった。

 

 




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