異世界に憑いてるモノまでついてきた 異郷で開くマヨイガの宿 作:星野純三
ぼくたちが異世界にやってきてから四か月が経過した。
南野さんがやってきてから一か月ということだ。
南野さんは聖王国の冒険者として何度か依頼を果たし、冒険者としてお金を稼いでいる。
ただやっぱり、そのスキルの関係上、他人とチームを組むのが難しいのがネックであるらしい。
魔物を討伐する依頼とかはこなせるけど、護衛とか捕獲は無理も無理。
そんなわけで、適当な依頼がない期間はぼくの宿屋で飲んだくれているようになった。
飲んでいるのは果実ジュースだけどね。
聖王国では別に未成年が相手でもお酒を出して問題ないのだけど……。
南野さんは、一度だけ葡萄酒を呑んでみたことがあるのだ。
ほんとうに少しだけ、ひと口だけだった。
ただそれだけでひどく酔っぱらってしまって、危うく自爆スキルを発動しかけるところであった。
以来、彼女は自主的にお酒に近づかないようにしている。
ぼくとしても店の中で自爆はご遠慮願いたい。
そういうわけで、彼女は日々、果実ジュースをちびちびやりながら酒場の片隅で黄昏れているのであった。
「ねえねえ東横くん、またさ、たこパやろうよう」
「タコがないんだよね。いま沿岸の方の国に殿下お抱えの商人が走ってるから、定期的なタコの供給にはもう少しかかると思う」
「殿下お抱えの商人さん?」
「ほら、あの日、お客さんたちのほとんどがタコ焼きパーティに参加したでしょ」
「うんうん、楽しかったねえ。タコ焼き、おいしかったねえ」
なおあの時点ではタコ焼き用の鉄板が一枚しかなかったため、一度にあまり多く焼くことができなかった。
現在、来たるべき第二回タコ焼きパーティに向けて、専用の鉄板を第二王女殿下経由で業者に依頼している。
「でも四階にいた末姫さんたちは、パーティのことに気づかなかったみたいでね」
「ああ、そうだよねえ、階段とかもないし」
四階は、未だにエレベーターと従業員専用通路でしか入れない場所となっている。
そのため、一般のお客さんたちも極力、エレベーターは使わず、実質的にエレベーターが王家専用になっている、というのはちょっと困った事態であったりする。
まあ、そこは、いまはいいんだ。
「末姫さんが、自分も食べたかった、ってこぼしたらしくってね。殿下が『では、わたくしも』と言い出して、あとはまあじゃあタコの供給ができないとね、ってことになったわけだよ」
渡りをつけるため奔走する商人さんたちには、うちの若枝を渡してある。
沿岸の国でタコの買いつけに成功したら、若枝を使って自らの足でこの宿に商品を届けてくれる手筈となっていた。
「いろいろ段取りがあったから出発したのは三日前なんだよね。だから、まだもうしばらく時間がかかると思う」
「そうかー、ざんねーん」
南野さんは、テーブルにだらしなく顔を押しつけ、だらんとしている。
彼女がこうしてゆるみきっているのは、まあそれはそれでいいことな気がするんだよね。
「うう、来たるべきタコパのためにわたしもお金を稼がないといけないんだけどなあ」
「前回同様、無料で開催するつもりだけど」
「それは駄目だよ東横くん! おいしいものには対価が支払われるべきさあ!」
がばっと顔をあげて叫ぶ南野さん。
食欲旺盛でなによりである。
「でも所詮は、タコと小麦粉、あとは独自に揃えたソースくらいだよ。たいした値段にはならないと思う。ましてや冒険者の討伐依頼なら、ねえ」
「うう、そうかもしれないけどー。ここの宿代もあるしー」
「前も言ったけど、高校生割引。あとそもそも南野さんなら、タダでいくらでもいてくれていいよ」
「それって、わたしを養ってくれるってことかい?」
「南野さんがいいなら、養ってあげますとも」
友達だしね。
困っているなら助けるさ、くらいの気持ちでそう言ったところ……。
彼女は、なんかとてもあたふたし始めて、顔を真っ赤にして口をぱくぱくさせ、ぼくをじーっと見つめた。
うん、なにかへんなことを言っただろうか。
「あ、うん、全然他意がないよね。知ってた。東横くんだもんね」
かと思ったら、今度は急にどよんと肩を落とす。
勝手に納得してしまったらしい。
なんか微妙にけなされているような気がするけど、まあいいか。
「いちおう言っておくと、クラスメイト全員を養うのはさすがに無理だからね」
「うん、そういう話だよね! わかってる!」
わかっているならいいんだ。
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