異世界に憑いてるモノまでついてきた 異郷で開くマヨイガの宿 作:星野純三
西田くんは最近、とても忙しそうにしている。
チームメンバーと冒険に出る合間にも、町でなんかしていたり、時には聖王国の王都にまで足を伸ばしていたり。
殿下から紹介された商人との交渉が、その主な仕事である。
ぼくの宿への食品の仕入れもそのひとつなのだけど、それ以上に、ぼくたち独自の情報網を構築すると頑張っているのだ。
「王国全体が、どうもきなくさいからな。この宿の弱点は、奇襲を受けやすいことだ。それを事前に察知できるだけでもだいぶ違って来る」
彼の言う通り、ぼくの宿屋は共和国で一回、一か月前にこの聖王国で一回の合計二回も襲撃を受けている。
どちらも事前の察知ができなくて、場当たり的な対応をするしかなかった。
幸いにして、どちらもなんとか切り抜けることができたわけだけど……。
これからも幸運が続くとは限らない。
せめて事前に襲撃があることがわかっていれば、取れる方法はいくらでもあるわけで……。
そこをしっかりしよう、と西田くんが頑張ってくれているのは嬉しいことであった。
とはいえ、だ。
「きなくさいの?」
「ああ。王都で政争が激しくなっているみたいでな。一か月前のやつも、そのとばっちりだ」
「その対策で、末姫さんが来たんだよね?」
ちなみに末姫というのは現在うちの宿の四階に住む第七王女の世間一般での愛称である。
聖王国のいまの王さまには四人のお妃さんがいたんだけど、いろいろあって四人とも亡くなり、でも王さまはそれ以上のお妃さんを取らなかったことからこれ以上の子どもは生まれないということで、この愛称がついたそうだ。
それでも王子が八人、王女が七人。
合計で十五人も子どもがいれば充分な気はするよねえ。
とぼくは思うのだが、西田くんによるとそうでもないらしい。
「おれたちの世界とは事情が違うんだ。王家の女はいくらいても政略結婚の弾として便利だし、次の王のスペアは何人いてもいい。この世界ではそう考えるんだってよ」
「人がモノ扱いなんだね」
「おれたちの世界の日本だって、ひと昔前まではそうだったらしいぞ」
西田くんは戦国時代の武将のエピソードとかに詳しい。
そういうゲームが好きだ、みたいなことも以前、言っていた。
だから、なのかな、戦国武将が自分の娘をどう政略結婚に使ったとか、一度離婚させた後別の武将に嫁がせて、みたいな話をいくつも聞かせてくれた。
いまぼくたちがいる世界では、そういう話がよくあることであるとも。
「加えて、王族は貴族の頂点だ。ということは、この世界では……」
「ああ、魔力がある」
「末姫さんはありすぎて身体にまでそれが出ちゃっているわけだが、それ以外の王族だって、そこらの貴族よりもずっと魔力があるらしい」
「この前、戦った人よりも?」
「あの公爵か。あいつはあいつで、特別に強かったらしいが……あそこまでじゃなくても、だ」
なるほど、そりゃ子どもなんていくらいてもいい、という考え方になるか。
子どもを百人いたら、強力な兵隊が百人増えることになるんだから。
うーん、週に一回くらいのペースでこの宿屋に来る第二王女殿下も、けっこう大変なんだなあ。
とか完全に他人事で聞いていたら、西田くんは呆れた様子になる。
「おまえだって渦中の人物なんだぞ」
「え、ぼくが?」
「公爵家がひとつ壊滅的な打撃を受けた。現公爵をぶっ潰したのは、おれたちだ。世間的には別の理由で公爵家の交代が告知されたが、知ってるヤツは真相を知っている。おまえは武力を示した。第二王女と第七王女がおまえと親しくしている」
「向こうが勝手に来たんだけど……うちの宿は来るもの拒まず、の方針でしょ」
厄介客でなければ門前払いにはしない。
必要なら、部屋と従業員は増やせばいいわけだからね。
拡張にも限界はあるだろうけど、少なくともいまのところはその余裕がある。
「そんなの、実際におまえを知らない奴には分からないだろ」
「それこそ情報収集が足りてないんじゃないの」
「広報が足りていない、というのもある。あえて広報してないんだが」
それは、そう。
あんまり目立つのもどうかと思うしねえ。
「重要なのは、そう考えるヤツがいる、ということだ。貴族界隈で流れている噂のひとつは、第二王女が第七王女をおまえの愛人にしてやることで、おまえを取り込んだ、という話だな」
「愛人、ねえ」
末姫さん、まだ子どもだよ?
文化が違いすぎる。
「おまえは遠い地から来た魔術師で、遠くと近くを繋ぐ門を開くという未知の魔法を使う」
「それは、だいたい合ってるね」
「そのちからを使って、第二王女はいったいどんな悪辣な方法で第一王子や第二王子に対抗するのか……王位継承争いは新しい局面に入った」
「入ってない、入ってない。そんな局面はないよ」
「本当にな。おれたちは全然そんなつもりがないし、第二王女殿下は……いやあの人はどうなんだろうな、それくらい考えていてもおかしくはないんだが、少なくともおれたちに対して彼女が説明した事情は全然違う」
「そうなんだよねえ」
第二王女殿下が、この宿屋でだけ、すやすやと安眠できている。
それは、ぼくたちだけが知る事実だ。
これは弱みになるから絶対に他言無用、と右子さんや左子さんから厳命されている。
王女が王宮で安眠できないって、ひどい話だよね。
第七王女をこの宿に避難させるのも、当然のことだと思ってしまう。
そうしてこの宿を中立地帯にした、という説明だったんだけど……。
結果的に、貴族たちがこの宿を第二王女派だと考えているなら、それも無意味だった……のかなあ。
「もうちょっと裏の事情はいろいろあるんだろうがな」
西田くんはやれやれとため息をつく。
「とにかく、おれの方でもう少し調べてみるよ」
「お願いするね。ぼくにはできないことだから」
適材適所である。
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