異世界に憑いてるモノまでついてきた 異郷で開くマヨイガの宿   作:星野純三

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第33話 モヒカン一党

 ここ一か月ほどで新しく長期滞在客となった人たちがいる。

 その中のひと組が、ぼくの脳内でモヒカン一党と呼んでいる四人だ。

 

 文字通り、全員が頭をモヒカン狩りにしているのである。

 男性三人、女性ひとりで、リーダーの女性につき従う三人という構図。

 

 ちなみに全員、とても礼儀正しい。

 遠い国から来て諸国漫遊しているという話なんだけど、たぶんこのひとたち、身分が高いんだろうなあと思わせる。

 

 モヒカンなのは、その国の風習なんだろうな。

 日本でいうとちょんまげみたいなやつで……。

 

 みたいなことを、他のお客さんがいないときに南野さんとカウンターで話していたら、エレベーターで下りてきた末姫さんの従者さんが、「東方の大国のお客人の話ですか」と話しかけてきた。

 当初はぼくたちを警戒していた彼女たちであったが、最近はだいぶ打ち解けてきている。

 

「少しだけお話させていただきましたが、少なくとも女性の方はやんごとなきお身分でございましょう」

 

「あ、やっぱりわかっちゃいます? そういうの」

 

 南野さんが従者さんに訊ねる。

 彼女は、「先方が身分を隠している以上、詮索は野暮でございますが……」と前置きした上で話を始めた。

 

「かの国では三百年間、偉大なる天帝を戴き、ひとつにまとまっておりました。しかし近年、天帝のお隠れに伴い、後継者争いを端に発した内乱が勃発、いくつもの国に割れて、現在も戦乱が続いているそうです。あの方々にもさまざまな事情がございましょう」

 

「うわー、春秋戦国とか五胡十六国とか三国志とかそういうやつだーっ」

 

「稀人殿の国にも、似た時代がございましたか」

 

「南野さんが言っているのは隣の国の歴史だけど、まあそんな感じですね。ぼくたちの国でも戦国時代は何度かありましたが」

 

 それにしても、さっき聞き捨てならないことを言っていた気がする。

 

「天帝と呼ばれた人、三百年間、ずっと同一人物が統治していたんですか。というか、何百歳も生きる人がいるんですか、この世界」

 

「あ、それわたしもちょっと気になった。そもそも、この世界の人たちがわたしたちと同じ寿命かみたいなのも知らないや」

 

 従者さんは、少し驚いた顔になる。

 とりあえず、認識のすり合わせを行った。

 

 幸いにして、ヒト種の寿命はぼくたちの世界とあまり変わらないようだ。

 それ以外の種族については千差万別で、魔族は一般的に寿命が長めなのだとか。

 

 そうなのか……あとでそのあたり、裏庭の人たちにも聞いてみよう。

 あと天帝さんは、天族と呼ばれる背中に翼がある種族で、かなり長生きらしい。

 

 くだんの天帝さんは亡くなったとき、五百歳くらいだったとのこと。

 これは天族でもかなり長生きの部類らしいから、大往生だったんだろうなあ。

 

 で、ここからが重要なんだけど。

 純血の天族は種族として数が少なく、大半が人里離れた山脈の彼方に住んでいるらしい。

 

 天帝はその種族でも例外で、活動的な天族で……。

 わざわざ人に交わり、巨大な帝国をつくってしまった。

 

 しかも、ヒトとの間にたくさんの子どもをつくった。

 天族とヒト種のハーフは、東方では天人と呼ばれて、貴族の地位にいるという。

 

「天人……」

 

 彼らは見かけこそヒト種と変わらないものの、高い身体能力と強い魔力を持ち、寿命もヒトの倍以上あるのだとか。

 現在、東方で覇を争っている国々の多くでは、この天人が王となって君臨しているらしい。

 

 まあそりゃ、戦国時代で強い者が王になるのは当然である。

 これ、桁外れの身体能力を持つ天人の武将とかもいるんだろうなあ。

 

「うわあ、呂布とか関羽とかみたいな天人さんがいるのかな!?」

 

 あ、南野さんが目をきらきらさせている。

 こういう話、好きなのかな。

 

 ちなみに西野くんもこういう話が大好きである。

 戦国武将のエピソードで一晩中語れるのは、なにせ中学校時代の修学旅行とかでつき合わされたことがあるのでよく知っているのだ。

 

「話の流れ的に、あのお客さんたちが天人で、モヒカンはそのトレードマークということですか?」

 

「ご理解いただけましたか」

 

「一応、確認なんですけど。天人は魔族扱いじゃないんですね」

 

「無論です。もっとも、あなた方稀人にとっては、現在の聖教経典における細かい解釈など、至極どうでもいいことでございましょうが……」

 

「ああ、あるんですね、解釈論とかそういうの」

 

「ええ、はい……」

 

 従者さんが、遠い目になる。

 中年の彼女がこれまでどんな人生を歩んできたかは知らないが、聖教の教会にいい思い入れがないことだけは明らかだった。

 

 加えて、魔族差別に対してもだいぶマイルドな考え方をしているというのも。

 まあそのあたりは、第二王女殿下が手まわしして、マイルドな考え方の人だけをこの宿に集めているだろうしなあ。

 

 うん、裏庭のこととかも、彼女たちは知っているのだ。

 もっとも、なるべく関わり合いにならないように、とこちら側でも配慮してるけどね。

 

「ちなみに東方だと、別の宗教がメジャーだったりするんですかね」

 

「はい、彼らの大半は理教と呼ばれる教えを信奉しているとのことです」

 

 へー、理教か。

 従者さんによると、理教の中でもいろいろな宗派があったりするんだそうだけど……まあ、そういうのはどの世界でもそうだよなあ。

 

 なお。

 聖教の神と理教の神は実は同じと考える流派みたいなのもあるらしくって、いろいろ面倒だからあまり立ち入らない方がいいよ、と諭された。

 

 言われなくても、そのあたりには関わりたくない。

 本当にね、もうね、心の底からね。

 

 




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