異世界に憑いてるモノまでついてきた 異郷で開くマヨイガの宿 作:星野純三
モヒカン一党から、料理について相談を受けた。
故郷の料理があるらしいんだけど、それを食べたい、と。
「こちらの地方で手に入る材料を使い、なんとかつくれないか、試してみたいのです。ご主人、少しだけキッチンを貸していただけませんか」
丁寧にそう言われてだいぶ多めにお金も積まれては、こちらとしても断れない。
材料持ち込みで、つくってもらうことにする。
なおつくるのはモヒカン部下のひとりで、特に大柄な男であった。
そばで座敷童が三人、さまざまな角度から見守り、隙あらばその技術を盗もうとする。
大きなボウルで彼らが持参した粉を混ぜ、伸ばして、細く切って……。
あ、これ蕎麦だわ。
ってことは、さっきのあれ小麦粉かー。
別に用意された鍋では、蕎麦つゆっぽい匂いが漂ってきている。
出来上がった蕎麦を、ぼくたち稀人三人と座敷童、モヒカン一党、それからなぜか招待された末姫さんの従者ふたりで食す。
従者さんたちはフォークで、それ以外の全員が箸を手にして……。
「うん、蕎麦だ」「お蕎麦だね!」「蕎麦っぽいね」「ん」
稀人三人が口々にそう語り、座敷童がこれこれとうなずく。
実際のところ、見事までに蕎麦で、おつゆはちょっと微妙だけど、でも食感は実によかった。
末姫さんの従者ふたりは、なるほどと関心しているが、それはそれとしてあまり好みの味ではない様子。
ちなみに座敷童がこれまで蕎麦をつくらなかったのは、単につくり方を知らなかったからだ。
モヒカンの大男が蕎麦を打っている横でじーっと見ていたから、座敷童としては今後、麺類に手を出す気まんまんである。
でもこの蕎麦のつゆ、彼らが持ってきたものだけど、どんな調味料を使ってるんだろう……?
座敷童が、この蕎麦つゆが欲しいと目で訴えかけてきている。
わかっているって、後できちんと交渉するから。
なにせ南野さんと西田くんが、すごい勢いで蕎麦を啜っているからね。
本当に気に入ったんだなあ、という感じである。
そんなに日本の味に飢えてたなら、言ってくれればよかったのに。
ふたりとも、そういうところはわりと遠慮しがちである。
なお、肝心のモヒカン一党であるが。
ひと口食べて、リーダーの女性の箸が止まってしまっていた。
なにごとか、と部下の三人が見守る中。
モヒカンリーダーの頬を、涙が伝い落ちる。
「懐かしいわ」
普段、厳めしい顔を崩さないモヒカンリーダーが、ぽつりとひとこと、そう呟いた。
「また、これを食べられるとは思っていなかった」
おそらくは彼女の故郷における蕎麦の名前を、ぽつりと呟く。
いかつい部下三人もまた、さめざめと泣き始めた。
いや、ひとりは号泣している。
末姫さんの従者ふたりがドン引きしていた。
いやでも、ぼくは彼らの気持ちがわかるよ。
故郷の料理を食べるとね、いろいろと心が動くものなのだ。
たぶん南野さんと西田くんもね。
というか普段は飄々としている西田くんが、少し涙ぐんでいるし。
南野さんは……あ、とうに自分の分は食べ終わって、おかわりが欲しいって顔をしている。
この欠食児童め。
「故郷に戻ろうか」
「し、しかし……かの地はいまや……」
「なあに、危なくなったらこの宿に逃げ込めばいい。なあ、ご主人」
あ、モヒカンリーダーがぼくに話を振ってきた。
そうだね、若枝を使えばいつでもこの宿に戻って来られるけど……追っ手が近くにいると、そいつらも宿になだれ込んでくるんだよね。
そこだけが、ちょっと若枝システムの弱点なのだ。
いちおう、そこのあたりは皆に若枝を渡す際、しっかりと注意しているんだけども。
過去にも二度ほど、宿屋のお客さんが宿屋に逃げ込んできて……それを追って、招かれざる客が宿になだれ込んできたことがある。
どっちのときも虎や狼のような魔物だった。
都度、狛犬が仕留めたんだけども。
「宿には迷惑をかけないように留意しよう。あと……あなた方の故郷の料理も、これに似ている様子だ。本場の材料が欲しくはないかい?」
「欲しい、かな?」
ぼくは南野さんと西田くんの方を向いた。
ふたりとも、首を激しく上下に振っている。
うーん、いやしんぼたちめ。
それはそれとして、さっきから座敷童がぼくの脇腹をつっついて催促してくるので、この蕎麦つゆがどこで手に入るか教えてくれませんかね。
え? 故郷からわざわざ輸入した?
なるほど……それはたしかに。
故郷に戻ってもらう必要があるかもしれない。
あ、だったらついでに、わさびとかも手に入らないかな?
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