異世界に憑いてるモノまでついてきた 異郷で開くマヨイガの宿   作:星野純三

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第34話 故郷の料理

 モヒカン一党から、料理について相談を受けた。

 故郷の料理があるらしいんだけど、それを食べたい、と。

 

「こちらの地方で手に入る材料を使い、なんとかつくれないか、試してみたいのです。ご主人、少しだけキッチンを貸していただけませんか」

 

 丁寧にそう言われてだいぶ多めにお金も積まれては、こちらとしても断れない。

 材料持ち込みで、つくってもらうことにする。

 

 なおつくるのはモヒカン部下のひとりで、特に大柄な男であった。

 そばで座敷童が三人、さまざまな角度から見守り、隙あらばその技術を盗もうとする。

 

 大きなボウルで彼らが持参した粉を混ぜ、伸ばして、細く切って……。

 あ、これ蕎麦だわ。

 

 ってことは、さっきのあれ小麦粉かー。

 別に用意された鍋では、蕎麦つゆっぽい匂いが漂ってきている。

 

 出来上がった蕎麦を、ぼくたち稀人三人と座敷童、モヒカン一党、それからなぜか招待された末姫さんの従者ふたりで食す。

 従者さんたちはフォークで、それ以外の全員が箸を手にして……。

 

「うん、蕎麦だ」「お蕎麦だね!」「蕎麦っぽいね」「ん」

 

 稀人三人が口々にそう語り、座敷童がこれこれとうなずく。

 実際のところ、見事までに蕎麦で、おつゆはちょっと微妙だけど、でも食感は実によかった。

 

 末姫さんの従者ふたりは、なるほどと関心しているが、それはそれとしてあまり好みの味ではない様子。

 ちなみに座敷童がこれまで蕎麦をつくらなかったのは、単につくり方を知らなかったからだ。

 

 モヒカンの大男が蕎麦を打っている横でじーっと見ていたから、座敷童としては今後、麺類に手を出す気まんまんである。

 でもこの蕎麦のつゆ、彼らが持ってきたものだけど、どんな調味料を使ってるんだろう……?

 

 座敷童が、この蕎麦つゆが欲しいと目で訴えかけてきている。

 わかっているって、後できちんと交渉するから。

 

 なにせ南野さんと西田くんが、すごい勢いで蕎麦を啜っているからね。

 本当に気に入ったんだなあ、という感じである。

 

 そんなに日本の味に飢えてたなら、言ってくれればよかったのに。

 ふたりとも、そういうところはわりと遠慮しがちである。

 

 なお、肝心のモヒカン一党であるが。

 ひと口食べて、リーダーの女性の箸が止まってしまっていた。

 

 なにごとか、と部下の三人が見守る中。

 モヒカンリーダーの頬を、涙が伝い落ちる。

 

「懐かしいわ」

 

 普段、厳めしい顔を崩さないモヒカンリーダーが、ぽつりとひとこと、そう呟いた。

 

「また、これを食べられるとは思っていなかった」

 

 おそらくは彼女の故郷における蕎麦の名前を、ぽつりと呟く。

 いかつい部下三人もまた、さめざめと泣き始めた。

 

 いや、ひとりは号泣している。

 末姫さんの従者ふたりがドン引きしていた。

 

 いやでも、ぼくは彼らの気持ちがわかるよ。

 故郷の料理を食べるとね、いろいろと心が動くものなのだ。

 

 たぶん南野さんと西田くんもね。

 というか普段は飄々としている西田くんが、少し涙ぐんでいるし。

 

 南野さんは……あ、とうに自分の分は食べ終わって、おかわりが欲しいって顔をしている。

 この欠食児童め。

 

「故郷に戻ろうか」

 

「し、しかし……かの地はいまや……」

 

「なあに、危なくなったらこの宿に逃げ込めばいい。なあ、ご主人」

 

 あ、モヒカンリーダーがぼくに話を振ってきた。

 そうだね、若枝を使えばいつでもこの宿に戻って来られるけど……追っ手が近くにいると、そいつらも宿になだれ込んでくるんだよね。

 

 そこだけが、ちょっと若枝システムの弱点なのだ。

 いちおう、そこのあたりは皆に若枝を渡す際、しっかりと注意しているんだけども。

 

 過去にも二度ほど、宿屋のお客さんが宿屋に逃げ込んできて……それを追って、招かれざる客が宿になだれ込んできたことがある。

 どっちのときも虎や狼のような魔物だった。

 

 都度、狛犬が仕留めたんだけども。

 

「宿には迷惑をかけないように留意しよう。あと……あなた方の故郷の料理も、これに似ている様子だ。本場の材料が欲しくはないかい?」

 

「欲しい、かな?」

 

 ぼくは南野さんと西田くんの方を向いた。

 ふたりとも、首を激しく上下に振っている。

 

 うーん、いやしんぼたちめ。

 それはそれとして、さっきから座敷童がぼくの脇腹をつっついて催促してくるので、この蕎麦つゆがどこで手に入るか教えてくれませんかね。

 

 え? 故郷からわざわざ輸入した?

 なるほど……それはたしかに。

 

 故郷に戻ってもらう必要があるかもしれない。

 あ、だったらついでに、わさびとかも手に入らないかな?

 

 




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