異世界に憑いてるモノまでついてきた 異郷で開くマヨイガの宿   作:星野純三

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第36話 土地の魔力

 末姫さんといっしょに講義を受けた話を、冒険から帰ってきた南野さんにした。

 南野さんはぷんすこ怒って、「ネトラレだよ、これはっ!」と叫ぶ。

 

「南野さんも、講義を受けたかったの?」

 

「いや、わたしはそういうの、いいかなあ。ほら、感覚派だからさ」

 

 感覚派でも、南野さんはそのスキルの関係上、基本的にひとりで行動しなきゃいけないから、知識は詰め込んだ方がいいと思うけどなあ。

 いやまあ、昼はなるべくお金稼ぎと冒険者組合の信用向上に使いたい、という気持ちはわかるのだけども。

 

「モヒカン……天人さんたちの一件で、ぼくはこの世界のことをなにも知らないんだな、って気づいたから」

 

 と急に勉学に目覚めた理由を語る。

 南野さんも、「そうだねえ」と腕組みしてうなずいた。

 

「お蕎麦、おいしかったもんねえ」

 

「食事に熱心だね、南野さんは」

 

「この宿に来るまでは、本気でひどい食生活だったんだよっ!」

 

「うん、今日の講義でも、北方では食の事情がだいぶ厳しいって話が出てきたんだよね。帝国では粗食が普通で、だからこそバイタリティがある、とか」

 

「バイタリティ……うーん、あったかなあ。まあ、わたしを襲う程度のバイタリティは……」

 

「この話やめようか」

 

「うん、やめようやめよう。もっとおいしそうな話をしようよ」

 

 おいしそうな話、ねえ。

 そういえば南方の話で……。

 

「この大陸、南の方ではトウモロコシの栽培が盛んなんだってさ。トマトもあるみたい」

 

「本当においしそうな話だね! わたしはトウモロコシもトマトも好きだよ!」

 

「うん、地球だと新大陸……アメリカ大陸が原産地でしょ。ジャガイモとかもそうだけど」

 

「そうだっけ? わたし理科は苦手で……」

 

 これは歴史と地理だよ。

 まあ、それはいいとして、だ。

 

「聖王国でジャガイモ料理が豊富なのは知ってたけど、北方ではもっとジャガイモが主食って話だよね」

 

「あ、うん、帝国では毎日ジャガイモ食べてたよ! サツマイモも食べたかった!」

 

「トウモロコシとかトマトも、聖王国でもっと栽培されたらいいのにね。気候の問題なのかな、と思ったら、どうもそうじゃないみたいなんだ」

 

「気候、関係ないの? 野菜とか穀物に?」

 

 トマトは分類上フルーツらしいけど。

 

「この大陸では、土地の持つ魔力で育てられるものが違うんだ。山脈ひとつ隔てただけで食文化が大きく変わるのも、それが理由なんだって。ジャガイモなんかは、どこでも育てられるから広まった感じ」

 

「魔力……そうかぁ、魔法のある世界だもんねぇ」

 

「まあそもそも、トウモロコシとかジャガイモとか言ってるけど、これもぼくたちの世界の同じ穀物と完全に同じとは限らないわけだよ」

 

「それは、そうだねえ。じゃあトマトだと思ってかぶりついたらトウガラシだったりするかもしれないんだね」

 

 それだったら、まだマシだけどね。

 毒かもしれない、とか未知の成分が入っていたりするかもしれない、とかは普通にあり得る。

 

 よく旅に出る南野さんには、よくよく注意して欲しいものだ。

 と言ってみたところ、彼女は「大丈夫だよっ」と胸を張った。

 

「だって最近、この宿以外でご飯食べてないからねっ! お昼も、お弁当だしっ!」

 

「そういえばそうだったね……。この宿の長期宿泊客はみんなそうだね……」

 

 なおそういった客が持ち帰った食材のサンプルは、座敷童が毎日、熱心に研究し新作料理に取り入れている。

 そのため、この宿では日々、料理のレパートリーが増え続けている。

 

 現在は、うどんについて研究中らしい。

 東に旅立ったモヒカン一党も、毎日、この宿に戻っては新しい食材を渡してくれるのだった。

 

「わたし、トマトパスタが食べたいなあ」

 

「裏庭の魔族の人たちに、栽培できないか聞いてみるよ」

 

 あそこの人たち、いろいろな地方から北の魔王のもとに流れ着いたって言ってたから。

 とはいえ、裏庭でどんな穀物や野菜が栽培できるかは未だに未知の領域なのだ。

 

 いまのところキャベツとかキュウリあたりは栽培できる、と判明しているんだけど……。

 土地は充分にあるから、いろいろ活用していきたいところである。

 

 いまのところは家庭菜園といったレベルだけど、森の奥から流れてくる川から水を引いて、本格的な畑をつくる計画はすでにあるのだ。

 

「スイカとかも食べたいねえ」

 

 いまにもよだれを垂らしそうな顔をしている欠食児童を満足させるためにも、彼らには頑張ってもらわなければ。

 

 




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