異世界に憑いてるモノまでついてきた 異郷で開くマヨイガの宿 作:星野純三
ちょうど翌日、第二王女殿下が宿に来たので、西田くんの立ち合いのもと、そのあたりのことを聞いてみた。
さすがにこの話は余計な人に聞かせられないので、個室に呼んでのことである。
話している間中、右子さんと左子さんのじっとりとした視線が痛かった。
「おおむね、事実でございましょう。わたくしも文献を紐解き、同様の結論を導き出しました。魔族に聞く、という手段が取れるあなたが羨ましく思います」
はたして殿下は、あっさりとそう認めた。
というか自分で文献を漁ったりしていたんだね。
「王家の大半がこの事実を知らぬ、というのもその通りです。知る必要がないと考えている以上、なにを語っても彼らの心には響きません」
「必要がないの? でも実際に、魔法技術で遅れを取っているんだよね」
「ですからこうして、わたくしがあなたに接触しているのです。他国から知識と技術を集めるに際して、この宿ほど有用なちからはございません」
西田くんは、「筋が通っていやがるなあ」とため息をついている。
えー、この宿屋ってそういう理解をされていたの?
たしかにいろいろ集まって来るけど。
具体的にはタコとか、イカとか。
「そもそも、この事実が表沙汰になれば、聖王国の支配の正当性が揺らぎます。初代聖王が迂闊に動いたため多くの者が亡くなり文明の停滞が起こった、ともなればなおさらです」
右子さんと左子さんが、ますますぼくを睨む。
えー、いま話しているのは殿下じゃないか、なんでぼくを睨むんだよ。
ぼくが余計な話をしたからですね、はい。
「この国がこの国として成り立つために魔族を迫害する必要がある、ということ、よくご理解いただけたかと思います」
「身内に魔族を抱える身としては納得したくないなあ」
「殿下はな、納得しなくてもいいから理解はしろ、って言ってるんだよ」
西田くんが口を挟んでくる。
ああ、なるほどね……そちら側の事情で譲れない部分、ってことか。
王家の正当性が揺らぐということは、この国が危うくなって、結果ぼくのこの宿屋も危険にさらされる。
うん、そういう意味では、理解したかもしれない。
「別におれたちは、正しい行いをしたいわけじゃない。おれの目的は、もとの世界に戻るための手がかりを探すことだ。そのためにはこの宿がどっしりと構えていないと困る」
「そうだね、西田くん。ぼくはもとの世界に帰るつもりがないけど、西田くんが帰るための手伝いはする。他にも帰りたい人はいるだろうから、その手伝いもできれば……」
南野さんは、はたしてどうなのだろう。
結局、彼女は自分が帰りたいのかどうか、まだ意見を保留している。
別に急ぐ話でもないから、いいんだけどね。
それだけぼくのこの宿の居心地がいい、ということでもあるし。
「もう一点、補足を。この国の技術に劣った部分がある、というのはあくまでも西方や東方、北の帝国などに比べての話でございます。この国の周辺で考えれば、圧倒的な優位があります」
「ああ、そうなんですね。覇の帝国の領土だった一帯の中ではいちばん、と」
二百年前に始まる暗黒期はだいぶひどかったんだろうなあ。
結果的に、その混乱からいち早く抜け出したのが聖王国で、だからこの国はこれだけ安定している。
安定している、って本当に大事だからね。
ぼくと西田くんは、不安定な地域を旅して、さんざん賊に襲われたり騙されかけたり……本当にいろいろあったのである。
ああいう国々では、兵士も粗暴で乱暴で、賄賂がはびこり、恒常的な暴力が町や村を覆っていた。
食料の補給のためとある村に立ち寄ったら、村人総出で追い剥ぎしてきた、なんてこともあった。
聖王国では、そんなことがない。
南野さんがひとりで旅をして一度も襲われていない、と言っていたくらいに。
いやまあ南野さんも、夜はこの宿に帰ってくるからいちばん危険な時間帯とかは外にいないんだけどね。
それでも、昼に村人が追い剥ぎしてきたりしない、というだけでだいぶマシなのである。
「治安がいい、って本当に大切だよね」
「ご理解いただけたようで、なによりです」
「ぼくとしても、聖王国には、引き続き治安のいい国であって欲しいですね」
「わたくしどもの望みでもあります」
なんか王宮ではいろいろ危険があるらしいけど。
夜に暗殺者が来るくらいなら、まだマシなんだよなあ、というのがぼくと西田くんの理解するところの底辺なのである。
そんな底辺、知りたくなかったと言われれば、それは本当にそう。
「ところで、ひとつご報告がございます。この件は内密にしていただきたいのですが……」
そう前置きして、殿下は語り出す。
聞きたくないなあ、と思ったけど、ぼくと西田くんはその話に耳を傾けた。
現国王が病に倒れ、政務ができない状態になった、という話であった。
本当に聞きたくない話だったよ……。
「あー、次の王が誰かとか、全然決まってないんだっけか?」
西田くんがこめかみを押さえて呻きながら訊ねる。
この国ではそういう制度がないっぽいんだよねえ。
「はい。陛下はつい先日まで、己があと二十年はこの国を差配していく、と元気におっしゃっておりました」
「ひょっとして、殿下。なにか兆候があったから、末姫さまをこの宿に逃がしたとか?」
「それは考えすぎです、トーヨコ」
本当かなあ。
うーん、それにしても、きなくさい話になってきた……。
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