異世界に憑いてるモノまでついてきた 異郷で開くマヨイガの宿 作:星野純三
聖王国の王さまが病に倒れたと聞いた日から、数日後の、お昼過ぎ。
ぼくは一階の酒場で南野さんとグダグダしゃべりながら、お金を数えていた。
聖王国では一般的に覇帝国時代の金貨、銀貨、銅貨が主に使われている。
当時の最高の技術でつくられたもので、偽造防止の魔法がかかっているとのこと。
その魔法は現在は失伝していて……。
だからこそこの大陸の人々にいちばん信頼されているお金は、これなのだという話だ。
いちおう、各国で独自通貨をつくったりもしていたらしいんだけどね。
どうしても信頼性が落ちるということで、商人が嫌がって、現在でもそういった通貨は価値が低いらしい。
西田くんによれば、魔法こそ使われていなかったけど、他国の通貨が自国のそれに優越する現象は、ぼくたちの世界でもよくあったことで……。
もっと言えば、いまでも米ドルが自国通貨より便利に流通している国はあちこちにあるわけで……。
「聖王国は大国って言われているが、中身を調べりゃその程度の信用度しかないってことだ」
西田くんの、その嫌味にも聞こえる言葉は、ちょうど下りてきていた末姫さんの従者さんに聞かれていて、ひどく睨まれていた。
彼女たちだって聖王国の貴族の出なんだから、もうちょっと配慮した方がいいよね。
ぼくたち稀人が全員、貴族とか王族というものに対してちょっと思うところがある、というのはあるんだけども。
身分とか人種とかそういうものに対して、いろいろとこう、この大陸の人たちの扱いが、日本に比べてねえ……。
うちのキタマが未だに表に出せないとかも、そうだし。
裏庭で暮らす人たちは、別に表に出なくてもいまの暮らしで全然OKみたいではあるんだけど……。
実際に裏庭は、もう庭って広さじゃないし、どっちかと言えば裏世界、とでも言うべき広さな気がするんだけどね。
その裏世界だけでしか暮らせないのもどうなのだろう、とつい思ってしまうのだ。
そんなことを考えながら、小銭を数えていく。
うん、出納帳ときっちり合ってるな。
ここ数日は大きな入金と出金が同時にあったからねえ。
「ところで、東横くん、大金貨がとっても多い気がするんだけど、気のせいかな?」
大金貨一枚で金貨百枚分の価値があるとされている。
普通の宿屋で使われるようなものではない。
「気のせいじゃないよ。大口のお客さんが、ちょっとね」
ぼくは天井を指さした。
「ヒント、四階」
「あ、ああ……なるほど?」
わかったような、わからないようなという感じで首をひねる南野さん。
うん、ちょっと婉曲すぎたか。
ぼくたち全員に関わることだから、いまは他のお客さんもいないし、ちゃんと説明しておいた方がいいか。
「第一王子さんと第二王子さんが、第二王女さんといっしょに、いま四階の会議室を使っているんだよ」
「ええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!」
さすがに驚き過ぎだよ。
声が大きい、大きい。
「王子さまたちが来てるの!? いつ!? どこで!?」
「実はちょっと前、個別に一度、護衛を連れて訊ねてきてるんだよね、第一王子さんと第二王子さん。お忍びでね。それで、帰るときに若枝を渡してあるんだ」
「あ、そっか。若枝があれば……」
「そう、王宮の自分の部屋から、この宿に来ることができる。ちょっと変わった若枝でね。それを使うと四階に直接、出入りできるようになっている」
「そんな風に使えたんだ、若枝」
「最近、できるようになったんだよ。これもスキルの成長なのかなあ」
以前は絶対にできなかった。
出入り口を増やしても、一度に外と出入りできる場所は一ヶ所だけだった。
任意に出入り口の場所を移動させることはできたんだけどね。
裏庭に魔族を移住させたときは、誰も出入りしない時間を見繕い、一時的に出入り口を移動させていた。
それがいまは、なぜか特殊な若枝を使って出入り口を指定できるようになっていたのである。
もっとも、この新しい若枝はちょっとコストがかかって……。
まあ、そのあたりの話は、また今度でいいだろう。
「でも、なんで王子さまたちが?」
「配下の誰にも知られないように会議したい、って。兄弟姉妹だけで」
「あー、部下がいると本音で話せないんだ。王族ってのも大変だねえ」
たいへんらしいよ、本当に。
下手したら、兄弟姉妹で殺しあわなきゃいけないくらいに。
第二王女殿下としては、なんとかそれを回避したいとのことで……。
末姫さんを四階に住まわせたのも、この兄弟会議を開くための最初の一手であったとのことである。
「どんな話をしているんだろうねえ」
「少なくとも、普通の兄弟みたいな話ではないと思う」
ちなみに会議中は座敷童でも立ち入り禁止と言われてしまっている。
まあ、そうだよなあ、絶対に外に漏れて欲しくない話をしているんだもんなあ。
なお、場所を提供した末姫さんも、この会議には入れない。
これはむしろ、あの子を関わらせたくない、という第二王女殿下の配慮だと思いたいところである。
「わたしたちの頭の上で今後のこの国のことが決まるのって、不思議な気分だね」
「今回、一回だけで決まるとも限らないけどね」
「ああ、そうかー。じゃあ何度も話し合うのかなあ」
たぶん、ね。
いつ話し合うかも外部にはわからないようにして、外野が余計なことをしたりできないようにして。
こうして徹底しないと、本音をぶつけることもできない。
それがいまの、殿下たちの立場なのだろう。
「つくづく、王族との関わりなんてつくりたくなかったよ」
「でも東横くんのおかげで、血生臭い展開が回避されるかもしれないんだよ」
「本当にそうなれば、嬉しいけどねえ」
さて、どうなるんだろうね。
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