異世界に憑いてるモノまでついてきた 異郷で開くマヨイガの宿   作:星野純三

40 / 45
第40話 長男

 翌日のお昼過ぎ。

 キッチンで夕食の仕込みを手伝っていたら、エレベーターから見覚えのない大柄な男性が、座敷童を伴って出てきた。

 

 年のころ二十代の後半くらいで、金髪碧眼、肩幅が広く全身によく筋肉がついたスポーツマンとおぼしき人物である。

 口髭と顎鬚をたっぷりと生やしていて、着ているものはぼくがぱっと見てもわかるくらい上等で……。

 

 ああ、思い出した。

 この人、第一王子殿下だ。

 

 え、なんで下りてきちゃってるの?

 座敷童も、なんでキッチンに案内しちゃってるの?

 

「うちのご飯、食べてみたいって」

 

「ええと……毒見役とか、必要なんじゃないですか」

 

「いまのおれは、ただの客だ。一部の者以外は、おれが王宮の自室にいると思っている。なんの問題ない」

 

 えーまあ、いいならいいんだけども。

 昼食の残りならあるけど、そんなものをお出ししていいのかなあ。

 

 ちなみに今日の昼食は、まさに今朝、旅一家が仕入れてきた西の海の魚の塩焼きである。

 秋刀魚に似た魚で、骨が取りやすいにもかかわらず身が柔らかくておいしかった。

 

 でもこの宿屋でお昼を食べる人って、いつも宿屋にいるぼくの他は四階の末姫さんたちと、あと最近ニート気味の南野さんくらいなんだよね。

 旅一家は、夕食までに戻ると言って、また忙しそうに出ていっちゃったし。

 

「西の海の魚か! それを新鮮な状態で食べられるとは、存外の幸運だ!」

 

 説明したら、とても食べたそうにしていたので、座敷童に焼いてもらうことにする。

 あとはお味噌汁でもよそって……あ、味噌にも興味が?

 

 モヒカン一党がグリフォン便で東方に戻って、さっそく味噌を持ってきてくれたんだよねえ。

 原材料は大豆だけど、味噌は熟成に時間がかかるらしいから、買うしかないのである。

 

 で、味噌を見た南野さんが、「東横くんのお味噌汁が飲みたいですっ!」と元気よく言うのでつくってあげたのである。

 もちろん実際につくったのは座敷童なんだけど……。

 

 幸いにして、味噌汁は好評。

 西田くんが帰ってきたら、彼にも飲んでもらおうと思っている。

 

 もっと味噌の量があったら、みんなに提供できるんだけどね。

 まだモヒカン一党も、細々とした活動が精一杯なんだそうで……今後に期待、といったところである。

 

 というわけで、魚が焼けるのを待っている間に、彼には味噌汁を飲んでもらうことになった。

 味噌という東方の調味料でつくった野菜スープ、と説明する。

 

 第一王子殿下は、味噌汁をひと口飲んで、くわっ、と目をおおきく見開いた。

 

「これは……酒のつまみになるな!!」

 

「あ、そういう観点ですか……」

 

「味噌という調味料に興味が湧いた。東方か……この宿で交易をするのか?」

 

「この宿で消費するぶんを個人的に頼むつもりです」

 

「愚妹が言っていた通りだな。おぬし、この宿には途方もない可能性があると理解しているか?」

 

 可能性、か。

 言わんとしていることは、わからないでもない。

 

 いまのこの大陸において、遠隔地との交易は基本的には何か月もかかる船か、あるいは陸をとぼとぼ行くか。

 グリフォン便は高価だし、ものを大量に運ぶのには向いていない。

 

 だから、この宿の若枝システムを使った交易を積極的に推し進めれば、それはおおきな利益をもたらす。

 この前、南野さんと西田くんにも説明されたんだよね、そのへんは。

 

 そのうえで、ぼくがどうしたいかが重要だと言われた。

 そのときは、考えておく、ってふたりに返したんだけど……。

 

「あまり目立ちすぎると、潰される気がするんです」

 

「故にこそ、王族を後ろ盾にしたのだろう?」

 

「味噌を手に入れた人たちと魚を買ってきてくれた人たちは、聖王国のちからが及ばない場所まで行っていますから……」

 

「なるほど、大々的にやる場合は先方にも筋を通す必要がある、か。場合によっては国と国の関係に影響を及ぼすことになるわけだな」

 

 道理だ、と腕組みして唸る第一王子。

 あ、この説明で納得してくれるんだ。

 

 いやそうか、王族だからこそ、国と国の関係になった場合、迂闊なことを言えないのか。

 そうだよなあ、それぞれの国で商売の権益とか縄張りとかがあるし、制度も全然違ううえ、現地には現地のしきたりとかもあって……。

 

 だから本当に大々的にやるとなると、聖王国の権力者と現地の権力者が話し合う必要がある。

 ぼくと西田くんは、共和国でそのへんを一応やったにも関わらず、最終的にはもっと上の権力者によって叩き潰されかけたからね……。

 

 知っての通り、逆に叩き潰し返して逃げたんだけど。

 あれはぼくたちにとって、とても重大な教訓を与えてくれたのだ。

 

 この宿屋の出入り口を聖王国の第二都市の郊外に置いたのも、そのひとつ。

 西田くんが相変わらずのコミュニケーション能力でするすると第二王女殿下に近づき、交渉した結果である。

 

「よし、そのあたりはまた後日としよう」

 

 魚が焼けるいい匂いが漂ってきた。

 うん、この人がご飯をおいしく食べてくれるなら、ぼくとしてはそれでいいんだ。

 

 




ブックマーク、高評価、感想等いただければたいへん喜びます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。