異世界に憑いてるモノまでついてきた 異郷で開くマヨイガの宿   作:星野純三

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第41話 派閥の対立

 秋刀魚に似た、西の海で獲れた魚を塩焼きにしたものに、すりおろした大根を添えた白いお皿。

 お好みで魚醤を、と座敷童が差し出す。

 

 テーブルについた第一王子殿下は、フォークとナイフで器用に魚の骨を取り、白身の上に大根をたっぷりと載せて口に運んだ。

 めちゃくちゃ優雅な動作で、彼の身分を知らなくても、その食事の様子を見るだけで彼が貴種だとわかってしまうだろう。

 

 幸いにして、昼過ぎのこの酒場にはぼくと座敷童の目しかないわけだけど。

 あっという間に、頭と骨だけ残して食べ終えてしまった。

 

「いい料理だった。娘、おれの下で働かぬか」

 

 いきなり従業員を勧誘しないでください。

 

「冗談だ。これがいつでも食べられるようになるなら、この宿を使った交易、本格的に試みて欲しいものだよ」

 

「いつでも、は無理でしょうね。そのうちランチを始めたら、日替わりのひとつにするかもしれません」

 

「どういうシステムかはわからぬが、勿体ないことを考えているのはわかるぞ」

 

 第一王子殿下は、ひどく呆れた様子だった。

 うーん、勿体ない、か……。

 

 彼が言わんとしていることはわかるんだけどね。

 

「宿泊客じゃなくても、うちに食べに来てくれるなら歓迎しますよ」

 

「いまのところは、それで我慢するとするか。気軽に訊ねさせて貰うとしよう。我が家では冷めた料理しか食えぬ上、たまに毒見の者が腹を壊す。これでは落ち着いて食事を楽しめるはずもない」

 

 あ、本当に毒が入っていたりするんだ。

 怖いよう、王宮。

 

「末の妹にも、申し訳ないことをした。我らの目の届かぬところに置いておけば誰も手だししない、と考えてのことであったが、そうだとしても我らの意志は伝えるべきであった、と愚妹に怒られたよ」

 

 愚妹って、第二王女殿下のことか。

 彼が愚妹と言うときの口調は優しいから、本気で愚かと思っているわけじゃなさそうだ。

 

「兄弟仲、悪かったんじゃないですか」

 

「政治的な対立と兄弟姉妹の仲は別だ。そもそも、政治的な対立も、それが必要だからしているまでのことなのだよ」

 

 食事のお礼なのか。

 第一王子殿下の口はだいぶ滑らかで、本来はたぶん絶対口にしちゃいけないことまで口にしてくれていた。

 

 あー、これ、西田くんが予想していたパターンのひとつだな、たぶん。

 

「その顔、想定内といったところか」

 

「友人が、可能性はある、って教えてくれたんです。各派閥の上同士が喧嘩していると見せかけて、実はそれがプロレスで、悪い虫をあぶり出すためにやっているんじゃないかって」

 

「プロレスとはなにか知らぬが、ニュアンスは承知した。その友、大切にするがよい。なかなかいい目をしている。我が家に取り込みたいくらいだ」

 

 駄目です、西田くんはぼくの大切な親友なんだから。

 王宮になんか、絶対に渡さないぞ。

 

「この宿はいい。誰といくら話しても、外の誰もそれを掴めぬ」

 

「じゃあ、兄弟姉妹でたっぷりと話ができたんですね」

 

「うむ。もう少しゆっくりと進める算段であったが、その必要もなくなった」

 

 第一王子殿下と第二王子殿下と、そして第二王女殿下。

 三人が膝をつき合わせての対話は、思った以上に上手くいった様子だ。

 

 というか、末姫さんとも、ちゃんと話ができたのか。

 彼女がこれまで放置されていた理由も、西田くんの予想通りだったわけで……。

 

 でもまともな教育すら受けさせない、ってひどくないかなあ。

 教育を受けること自体が危ない、という理屈らしいけど。

 

「末の妹は、おぬしのことをいたく気に入った様子。これからもよろしく頼む」

 

「そう……なんですかね。もちろん、無下にはしませんが……」

 

 四階を貸し切りにして住んでもらっているわけだしね。

 座敷童とも、やけに仲がいいし。

 

 というか末姫さんが住み始めてから、座敷童の数がいっそう増えたような気がするんだよね……。

 増えた座敷童たちはみんな末姫さんのところに遊びに行っているだけなんだけど。

 

 ふと、思う。

 この宿屋の成長の条件に、宿泊者の数やちからも入っているのではないか、ということだ。

 

 スキルは使えば成長する。

 この宿屋における『使う』って、つまりはそういうことなんじゃないか、と。

 

 末姫さんは、王族の中でも特に魔力が多いらしい。

 それが、あの白髪赤眼に表れているのだとか。

 

 彼女がいることで、この宿屋はいっそう成長が早くなった?

 もしかして目の前の第一王子を含めた王族が滞在していることでも……。

 

 いや、まあ、ひとまずはいいか。

 ぼくは思索を打ち切る。

 

「それじゃあ、兄弟姉妹の会話でなにか決まったりはしないんですか」

 

「いくつか決まったぞ。知りたいか」

 

「あ、知りたくないです」

 

 ぼくは反射的に拒絶した。

 いや、だって、ねえ……この国の往く末のことなんて、下手に直接聞いてもねえ……。

 

 第一王子殿下は笑って、「で、あろうな」と言った。

 

「だが話す」

 

「嫌がらせなんですか?」

 




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