異世界に憑いてるモノまでついてきた 異郷で開くマヨイガの宿   作:星野純三

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第42話 偽計

 第一王子殿下が嬉々として語ってくれたところによると……。

 今後、第二王子殿下と第二王女殿下は第一王子殿下と王位継承を争うフリをしつつ、ひそかに第一王子殿下を王位につかせるべく動いていくらしい。

 

 たとえフリでも争っていないと、各勢力が納得してくれないのだとか。

 でも第二王子殿下も第二王女殿下も、自分が王位につくつもりはあんまりなくて……。

 

 その役目は長男に押しつけたい、とのことであった。

 

「別に、おれが特に優秀である、というわけではない。おれでなければ絶対に納得しない勢力が、聖教教会だからだ」

 

「教会ってそんなに偉いんですか?」

 

「うむ、実に稀人らしい言葉だな! 外では絶対に言うなよ!」

 

 がはは、と笑う殿下。

 うん、ぼくも言っちゃった後、少しまずかったかなとは思ったんだ。

 

「そもそも我が国は、初代聖王が初代教皇と共につくったとある。国のはじまりから、王と教会は不可分なのだ」

 

「やっぱり、いろいろと言って来るんですか」

 

「来る。本当にうるさい」

 

 めちゃくちゃ嫌そうな顔をする殿下。

 

 そうなんだ、うるさいんだ……。

 たいへんなんだなあ。

 

「だが、教会のおかげで助かることも多々ある。あの小生意気な妹は毛嫌いしておるがな。民の安寧という意味では、王家よりも教会の方がよほどそちらに心を砕いていると言える」

 

「そういうものなんですか」

 

「無論、我ら王家が動かなくては、国の安定は維持できぬ。荷車の右輪と左輪のようなものだ。どちらも必要なのだ」

 

 なるほどなあ、とぼくは旅の間に通り過ぎてきた土地について考える。

 土地も、ヒトの心も、ひどく荒れていたように思った。

 

 対してこの国においては、まず国境の山を越えてたどり着いた最初の村で、「疲れただろう」と一夜の宿を無料で提供してくれて、粗末とはいえ食事まで出してもらえた。

 ぼくと西田くんの格好がよほどみすぼらしく見えたのか、町に行く馬車に載せてあげようか、とまで言われてしまった。

 

 それまで旅してきた土地なら、囲んで身ぐるみ剥がそうとしてきたに違いない。

 ぼくと西田くんも最初は警戒していたけど、どうも彼らは本心からぼくたちを心配していると理解して……。

 

 それからいろいろと調べていたら、第二王女殿下の部下が接触してきたんだよね。

 そんな次第であるからして。

 

 この国の人々の心が豊かであるのは教会のおかげ、と言われてしまっては、聖教について否定し辛いものがある。

 ぼくたちが裏庭で抱える魔族たちのことを考えたら、いろいろ難しいものはあるんだけどね……。

 

 聖教が魔族を毛嫌いする理由についても、歴史の勉強の中である程度理解しちゃったしなあ。

 もっと言うと、そうしないと聖教の根本がひっくり返ってしまうのだ、ということで……。

 

 これは本当に難しい問題だ。

 

「無論、このままでいい、と言うわけではない。猊下もそれはわかっておられる。おれは、おそらく猊下の本音を聞いた、数少ないひとりであろう」

 

「そのへんのことも、上で話し合ったんですね」

 

「うむ。あやつの驚く顔は見ものだったぞ」

 

 第二王女殿下が驚くような本音ってなんだろう。

 いやまあ、さすがにそこまではぼくには教えてくれないみたいだけど。

 

「いずれにせよ、一度にあれもこれも、とはいかぬ。少しずつ、何年も、場合によっては何世代もかけて変えていかねば、他の者がついていけぬ。愚妹もそのことは理解しておるのだ。故に、この宿の四階で話し合う場を設けた。おまえたちを守る意味もあろう」

 

「守ってもらっている自覚はあります」

 

「おぬしたちが自由にすぎて、いつもてんやわんやだと愚痴られたがな」

 

「わりと節度を持ってやっているつもりなんですけどねえ」

 

 マジかこいつ、という目で見られた。

 うーん、自重ポイントを間違えている、と言われたらそれはそうかもしれない。

 

「まあ、よい。これからもほどよく、あやつを翻弄してやれ。どうしようもなくなったらおれを頼れ。最悪でも隣の国まで逃がしてやる」

 

 あーこれ、裏庭の魔族たちのことも知っているんだな。

 まあ、本当にマズいことになったら頼らせてもらおう。

 

「さっきも言ったが、おれたち兄弟は、それぞれの手の者を完全に制御できているわけではない。むしろ、暴走をギリギリのところで留めている状態だ。それを表に出すことはできないがな……」

 

「政治ってたいへんなんですね」

 

「たいへんなのだ。先日、この宿にちょっかいをかけた者もいたであろう? あれはどちらかというと弟の派閥であったが、聖教会に将来を嘱望された才能であったのだ。しかしいささか、考え方が保守的に過ぎた。加えて己の才に自信を持ちすぎた。王家より己の方がよくやれる、とまで考えてしまった。結果はおぬしも知っての通りだ」

 

 あの傲慢な貴族さんか。

 たぶん、ぼくと西田くんがこれまで出会った敵の中ではいちばん強かったんじゃないかなあ。

 

 あのあと、キタマにも聞いてみたんだけどね。

 彼女が完全状態でも、正面から戦って勝てるかどうかはわからない相手だった、とのことであった。

 

 それを聞いた南野さんがびっくりしていたよ。

 南野さんは、完全状態のキタマを知っている唯一の人だからね……。

 

 まあ、そもそも北帝国の軍隊をなんども追い返しているって時点で尋常じゃないんだけど。

 そんな奴と互角以上って……あのとき、よく勝てたものだ。

 

 狛犬で足止めして、完全に意識の外から奇襲して……それでも一撃は防がれたわけだからなあ。

 この国の貴族、本当に強い。

 

 まあ、こっちもあれからいろいろ対策したから、二度と同じ手は食わないはずだけど。

 うん、西田くんとも相談して、いろいろ考えたんだよね。

 

 だからって、絶対に大丈夫とは言えない。

 できれば彼らとの敵対はしたくないものだ。

 

 いや本気で奥の手を使うなら、勝つだけならなんとかなるけどね。

 宿の中をトラップだらけにした上で裏庭を使うっていう、本当に最後の手が……。

 

 




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