異世界に憑いてるモノまでついてきた 異郷で開くマヨイガの宿 作:星野純三
その日の夕方、第一王子殿下との会話を、ぼくはさっそく西田くんと南野さんに話した。
宿の二階の一室に、三人で引きこもる。
ぼくひとりであれこれ考えても仕方がないし、かといってこれはふたり以外には語ることができない内容だ。
「宗教かー。うーん、宗教かー」
南野さんはうんうん唸る機械になってしまった。
いろいろと思うところがあるんだろうか。
「実際に、この国の治安がいいのはおれもよく知っている。問題は、三兄弟の争いがやらせだったことだろう。第一王子殿下は聖教と貴族たちを上手く操れているつもりみたいだが、一歩間違えば……」
「そういうもの? 王都じゃ、どうなの?」
「まだ王様は元気ってことになっているからな。それでも貴族たちが騒がしい、という雰囲気は伝わって来ている」
西田くんとそのチームの人たちは、若枝を使って、毎日王都に出かけている。
主に情報収集だ。
王家と貴族の政争についてだけでなく、クラスメイトの行方についてや元の世界に戻る方法についてなど、調査するべきことは多々あった。
一か月前の冒険で、冒険者組合においてある程度の地位と信用を得たいまこそ、そちらに専念するとき、とのことで……西田くんのチームメイトたちもそれに協力してくれている。
彼らにも彼らなりの目的があるらしいんだけどね。
まあ、それはそれとして。
「この国の貴族は、王家に絶対服従ってわけじゃない。隙あらば寝首をかいて来るような奴らだ。王家はちからづくでそれを従えている」
この世界の貴族は魔法を使う術に長けた人々だ。
王族はその頂点で、つまり強いからまわりを従えているというわけで……。
だからこそ、ちからを示さないといけない、ということか。
脳みそに筋肉が詰まってないと生きていけない人種なのかなあ。
「一か月前のこの宿を襲った人とか、本気で第二王女殿下の首を狙っていたよね」
「殺してしまえば、あとでなんとでもなると考えていたんだろう。三兄弟の争いがやらせだと知らなかったのも確実だ。あいつは第二王子殿下の派閥だったんだろう? 第二王子殿下にかばってもらえる、って確信していたんだ」
実際に成功していたら、どうだったんだろうか。
第二王子殿下とはまだ会ったことがないけど……でも表向きでは争っていたんだから、あの貴族を許すしかなかったのかな。
でもその後は、きっと……もう第一王子派閥も、第二王子派閥も、後には引けなくなる。
本気で殴り合いをするしかなくなる。
きっとこの国は、いまほど安定してはいなかっただろう。
そう考えると、あのときあいつを倒せて本当によかった。
結果、この宿屋はけっこうな注目を集めることになってしまったんだけど……。
あのときもいまも、これ以外の方法はなかったし、現実にこうなんだからもうこのままいくしかない。
状況に流されながらここまで来てしまった、というのはあるんだけどね。
いつまでも、このまま流され続けるわけにはいかない。
だから、このふたりに話をした。
「宿屋を畳んで他の国に移動するのも、ひとつの手だよ」
ぼくはあえて、そう提案してみる。
いちばん失うモノの多いぼくがこの言葉を口にするべきだろう。
「それって、東横くんは困っちゃうよね」
「うん、常連さんのほとんどは失うし、せっかく仕入れることができた食材とかのこともあるし……でも、いちばん大切なのは、みんなの安全だと思うから」
南野さんの言葉に、そう返す。
うん、優先順位を誤っちゃいけない、いまのぼくにとって、このふたりより大切なものはない。
あとはもちろん、キタマたちもね。
キタマと二百人の魔族は、ぼくが責任を持って保護した人たちなんだから……最後まで、ぼくが彼らを守るべきだろう。
「キタマちゃんたちもとなると、守る相手が多いね」
「でも、あの人たちを抱え込んでから、急速に宿が拡張している感じがあるし……きっと、お互いに得をしているんだよ」
「そういえばエレベーターを二基にしようかって言ってたね……」
うん、実は最近、エレベーターを増設できそうな感覚があったんだよね。
まだしてないし、いまのところその必要もない感じだけど。
いま四階のこの宿屋を五階建てにすることもできる気がする。
両方はちょっとキャパオーバーっぽいから、どちらか片方かなあ。
そんな感じで、この一か月で宿屋はどんどん、成長しているのだ。
宿屋だけじゃなくて、座敷童と狛犬も変化していってる気がするんだけど……それらにも、キタマたちが関わっているような気がする。
単純に、人が多ければ多いだけいい、ということではない。
たぶんそれは魔力とか、ヒトのありようとか、そういうものが関わっているように思えた。
そのあたりについては一度、西田くんとも相談していて……。
もう少し様子を見たあと、具体的なところを検証しようということになっている。
でも、それはそれとして、まず宿屋が安全でなくてはどうしようもないわけで……。
「おれの考えとしては、いま移動するのはナシだな」
でも西田くんは、はっきりとそう告げた。
「そもそも論として、この国より暮らしやすい国を探せる気がしない」
「それは、本当にそう」
「だったらこの国でなんとかする方が現実的だろう。それに」
西田くんは言葉を切って、少し黙った。
ぼくと南野さんは少し顔を見合わせたあと、彼の次の言葉に注目する。
「実は、もうひとつ理由があってな」
はたして……彼は少し顔を赤らめて、こう告げた。
「おれ、もとの世界に戻らないことに決めたんだ」
「あれ、そうなの? ぼくとしては嬉しいけど。でも、なんで?」
「結婚することにした」
ぼくと南野さんの、驚愕の声が部屋の外まで響き渡った。
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