異世界に憑いてるモノまでついてきた 異郷で開くマヨイガの宿 作:星野純三
西田くんの衝撃の告白の、その翌日の午前中。
ぼくと南野さんは、酒場のカウンターの裏に並んで、あごをカウンターに載せた状態でぼーっと宿屋の入り口を眺めていた。
「結婚、か」
「結婚、するんだねえ」
どちらからともなく、そう言葉にする。
うん、西田くんが結婚する、そう宣言した衝撃から、一日経っても立ち直っていないのである。
結婚相手はチームメイト……ではなく。
チームメイトの身内だ。
王都に住む子で、年齢は数えで十七。
何度かチームメイトまるごと家での食事に誘われて、その折に知り合ったとのこと。
話をしてみると、なんか妙に気が合って……いつの間にか相思相愛に。
チームメイトも、この出会いを祝福してくれているらしい。
最近、王都に出かけることが多いと思ったら……。
ちなみに、冒険者の仕事は続けていくとのことで、ただ向こうの家に婿入りする形になりそうだ、とのこと。
先方はそれほど格が高くないけど貴族らしくて、だから彼も貴族としての作法とかを習わなきゃいけなくて……。
いろいろなしがらみもあるから勉強が大変だ、と笑っていた。
「こんなのネトラレだよね、東横くん!」
「ぼくに何を言えと……?」
「こういうときは、やけ酒だよやけ酒」
「お酒は飲まないから。……座敷童、持ってこなくていいから」
座敷童が酒瓶を取って来ようとしたので、手を振ってキャンセルする。
南野さんのたわごとに耳を貸す必要なんてないんだって。
座敷童は、最近、ますます南野さんに甘くなっている気がする。
これを情緒が育っていると見るべきか、暴走していると考えるべきかはちょっとわからない。
「正直言って、わたしはよくわかっていなかったんだ、元の世界に帰らないって意味。家族をつくってこの世界に骨を埋めるってことなんだね」
「ぼくもそうだ。宿屋を営んでいるいまが心地よくて、だからずっとこのままでいいと思っていた。でも、それだけじゃ……駄目なのかな」
「前にさ、東横くん、おっぱい姫さんが迫ってくるっぽい話をしてたよね」
「誰それ……いやわかるけど、他の人に言ったら危険だからね」
「西田くん以外には言わないよう」
「迫られてはいないけど、やんわりと圧をかけられたことはあるね。たぶん、血の繋がりをつくるのがあの人たちにとっての当然、くらいの感覚なんだよね」
「そりゃねえ、東横くんの能力を考えたら、取り込みたくなるのはわかるよねえ……複雑だけど」
「うん、だから今度は末姫さんを送り込んできた、というのもあるはずだよね」
「それ、わかってたんだ」
「従者さんたちの反応とかで、なんとなく」
「その……東横くんとしては、どうなの?」
「前だったら、逃げにくくなるから困るしキタマたちも嫌がるだろうし、絶対にないな、と断言できた」
「え、じゃあ、いま……は?」
「西田くんがこの国の貴族になるというなら、ぼくは……どうしよう、って。考えれば考えるほど、余計に考えちゃう。難しいよ」
「そりゃ、そうだよね……難しいよね……」
「南野さんは、これからどうするとか、思いついた? 別に、考え中ならそれでいいけど」
「え、あ、うん、わたしは……わたしは……どうしようねえ」
「この宿は、居心地がいい?」
「いい」
「ずっとこの宿にいたい?」
「……いたい」
「なら、ずっといてよ。ぼくもその方が嬉しい」
「それで、いい、の?」
南野さんが、顔を横に倒してこちらを見る。
窓から漏れる光を浴びて、その顔が葡萄酒のように赤らんで見えた。
というか、耳まで真っ赤だった。
「本当はね。南野さんが痛い思いをしてまで冒険者として頑張るの、ちょっと嫌だった」
ぼくは、ゆっくりと語り出す。
一度、言葉にすると、それは止まらなかった。
「できれば自爆なんてスキル、ずっと使わないでいて欲しいって思ってるんだ。でも、それはぼくのわがままかな、って。ぼくの勝手で、南野さんのこれからを縛っちゃいけないって、そう思っていて……いまでも、そう考えることはある」
でも、昨日の夜、色々考えてしまった。
西田くんがこの世界で暮らすと言ったことが、ぼくはとても嬉しくて……でも、結婚するその子に西田くんが取られちゃうような気がして……。
少し寂しくて、でも、それでも西田くんが決めたことだから、応援したいと思った。
同時に、南野さんがいまも迷っている様子で、それでも彼女は自分のスキルを何度も使って痛い思いをしながら冒険者を続けていることについて考えてしまった。
そして、これだけは言わなければいけないと思ったのだ。
「南野さんが望むなら、ぼくは何でも、それを叶えるよ」
あれ、なんかちょっと南野さんが微妙な顔になったな。
「も、もうひと息!」
「ええと……嫌なら別にいいんだけど……」
「嫌じゃないけどもうちょい! ほんのちょっとだけだから!」
注文が多いなあ。
ブックマーク、高評価、感想等いただければたいへん喜びます。