異世界に憑いてるモノまでついてきた 異郷で開くマヨイガの宿 作:星野純三
たこ焼きパーティ、通称タコパの第二回が開催されることになった。
今回は、宿屋のお客さんたち、ほとんど全員が参加する。
本当は裏庭の人たちも呼びたかったんだけど……。
さすがにそれは人数的にもコンプラ的にも無理、ということで。
彼らには後日また、裏庭たこ焼きパーティ、通称裏タコパを開催するということで許してもらうことにした。
いやキタマを始めとした裏庭のひとたちはそもそもタコパしたいとか一度も言ったことないんだけど。
そこはそれ、これまで苦難の道を歩んできた彼らには、これからおいしいものをたくさん食べて欲しいと思うのである。
とはいえ、ね。
繰り返すが今回、宿屋のお客さんのほぼ全員……そう、四階の人々も参加するのだ。
つまり末姫さんである。
あとなぜかフードを深くかぶった第一王子殿下と第二王子殿下と第二王女殿下も、特別枠でちゃっかり、末姫さんと同じテーブルにいる。
おかげで末姫さんの従者さんたちは隣のテーブルから心配そうに主人を見守ることになってしまった。
これ本当にいいの? と思うのだけど……。
第一王子殿下いわく、
「末の妹と共に異国の珍味を頂戴する。いい思い出になろう。なに、護衛たちはおれが部屋でおとなしくしていると思っている。問題ない」
とのことである。
問題しかない発言な気がするけど……。
末姫さんは、とてもうきうきして、「兄さまたちといっしょが、嬉しいです」とのことなので。
まあ、本人たちがいいなら、いいか……。
なお、初めて顔を合わせた第二王子殿下は、少し背が低く華奢で、頬がこけた苦労人っぽい顔つきをしていた。
そりゃあ、上と下が第一王子殿下と第二王女殿下だものね……これからもふたりの間で調整に苦労しそうだものね……。
頑張って生きて欲しいものである。
ちなみに今回、第二王女殿下の護衛である右子さんと左子さんは来ていない。
彼女の護衛だけいるのは不公平、と第二王女殿下が判断したとのこと。
たしかにその通りなので、こればかりは仕方がない。
たこ焼き用の鉄板は、今回、十六個焼きのものが四つ用意された。
火鉢も増設され、座敷童が次々に生地を焼いていく。
特有のいい匂いが酒場に漂い、南野さんと西田くんが「これこれ」という顔になる。
「ところで、東横、かつおぶしの匂いがするんだが……」
「いいところに気づいたね、西田くん。実は東方で見つかったんだ、かつおぶしをつくっている国が」
モヒカン一党の功績である。
これこれこういうものがあったら……と頼んだところ。
ようやくたどり着いた彼らの地元から各地の業者を頼り……。
ついに、鰹に似た魚を日干しして出汁をつくる文化圏の存在を突き止めてくれたのであった。
ちなみに現在、モヒカン一党は彼らの地元に居座っていた賊軍を退治し、自治権を取り戻したところだという。
今後の資金源として、是非ともぼくの宿屋を交易の拠点にさせてくれ、とのことで……。
とりあえず、交易はかつおぶしから始めましょう、ということなっていた。
あとはうどんとか、いろいろな香辛料とかそのへんもね。
なお、この話を横で聞いていた南野さんが舌なめずりしていたことを追記しておく。
さて、出来上がったたこ焼きは、まず王族のみなさんが集まるテーブルに持っていった。
毒見として、ぼくがひとつ、つまようじでたこ焼きを刺して持ち上げる。
ふーふーと息を吹きかけて少し冷まし……あ、上にたっぷり載っていたかつおぶしが飛んだ。
「うむ、うまい」
さて食べるかと思っていたら、横から皿に手を伸ばした第一王子殿下が一個つまんで、ぱくりとひと口で食べてしまった。
「あ、いいんですか、毒見」
「おぬしが殺そうと思えば、わざわざ毒を入れるような面倒な真似はすまい」
「それは、まあ、そうなんですが」
第二王女殿下と末姫さんが次々とつまようじに手を出し、最後におずおずと第二王子殿下が手を伸ばす。
みんなが一個ずつ口にしたところで、残りが三個しかないことに気づいた。
あ、ぼくが一個食べたからですね、はい。
「次、持ってきますから。喧嘩しないでくださいね」
「おれたちにそんなこと言ったやつは初めてだぞ」
速攻で二個目をぱくりとした第一王子殿下がそう皮肉るも、そこで自分が残り三人から呆れた目で見られていることに気づいた様子。
こほん、とひとつ咳払いする青年に、今度は卓の皆がくすくすと笑う。
ぼくが王族のテーブルにいる間にも、座敷童たちが他のテーブルに次々とたこ焼きを運んでいる。
旅一家に、モヒカン一党、それに西田くんの仲間たち。
他にもいろいろな人々が、首を長くして料理の到着を待っていて……。
うん、王族さんたちのテーブルに次のたこ焼きがまわってくるのは、もう少し先になりそうだ。
「飲み物、持ってきますね。なにがいいですか」
末姫さんが、西の方で見つかった果実の絞り汁を注文した。
最近、ためしに飲んでみてもらったところ、これがいたく気に入った様子なのである。
なんだそれはと残りの三人が興味を示し、末姫さんが、えっへんと胸を張って説明する。
ならば全員がそれを、と声を揃えた。
はいはい、四人分ね。
本当に、家族の仲がいいのは何よりである。
ぼくにはなかったものだ。
……だから、かな。
南野さんや西田くんには、是非とも幸せになって欲しい。
この宿屋は、そのためにあるのだから、と願うのは。
「東横くん、東横くん! はい、あーんして!」
西田くんと南野さんが座るテーブルのそばを通りがかったところ、つまようじを刺したたこ焼きがぼくの前に突き出された。
ぼくは少し戸惑いながら、ぱくりとそれを口の中へ。
南野さんを見れば、にへらと笑っていた。
うん、きみが脳天気なそんな顔をしてくれるのが、とても嬉しい。
最初の頃のきみは、本当に辛そうな顔をしていたからね。
西田くんだってそれは同じで……まあ西田くんの場合は、ぼくといっしょに苦難に立ち向かっていたわけだけど。
ずっとぴりぴりしていて、まわりの誰が敵かわからなくて……。
それがいまや、結婚の相手まで見つけてしまった。
なお、結婚したらこの宿屋を出ていくのかと訊ねたら、「この宿屋に住んじゃ駄目か」と逆に相談されてしまった。
うーん、別にぼくとしてはそれで構わないかな。
いっそ五階建てに改装して、末姫さんたちは五階に移ってもらい、四階には家族用の広めの部屋をつくろうか。
みたいなことを相談している。
「はい、東横くん、もういっちょあーん!」
「さすがに南野さんが自分で食べなよ。今日のぼくはもてなす側」
二個目はさすがに断って、キッチンに戻る。
座敷童たちが五人、忙しく走りまわっていたので王族たちの注文を伝え、すぐにたこ焼きが載った皿を持ってフロアに戻る。
忙しい。
でも、嬉しい。
こういう日々がずっと続いて欲しいと……。
そう、強く願った。
毎日更新、一度やってみたかったのですが、ちから尽きました。
いったんここで締めさせていただきたいと思います。
ここまで読んでくださってありがとうございました。
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