異世界に憑いてるモノまでついてきた 異郷で開くマヨイガの宿   作:星野純三

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第5話 南野さんと西田くん(1)

「南野さんがよければ、その赤い宝石は聖王国に渡して、封印するなり壊すなりして貰おうか」

 

 ここで破壊してどうなるかもわからないし、それがいちばん安全な気がする。

 帝国で受けた依頼だから、本当は帝国に持っていくべきなんだろうけどね。

 

 南野さんが、なんとなく帝国に戻りたくなさそうだからさあ。

 なにがあったかは知らないし、ぼくの方から聞く気もないけど。

 

「うーん、でもそれを持って帰らないと、賞金がね……」

 

「そのあたりは聖王国と交渉するよ。西田くんが」

 

「西田くんに丸投げ!?」

 

「ぼく、そういうの苦手だし……西田くんは得意だし……」

 

 適材適所ってやつさ。

 ぼくの交渉力じゃ、逆に南野さんに不利な条件がつきかねない。

 

「そうしてくれると、とっても助かるなあ」

 

 あ、すごいほっとした顔になってる。

 本当に、帝国にいい思い出がないっぽいなあ。

 

 聖王国は大陸の中央付近にあって、帝国は大陸の北側の覇権国家だ。

 両者の仲は、かなり悪い。

 

 両国の緩衝地帯となってる国々を主戦場として、いろいろやりあっているらしい、という話は聞いていた。

 だから、まあ、南野さんが今後は聖王国で暮らすというなら。

 

 帝国のことなんて全部捨てちゃってもいいというなら。

 この対応でいいと思うんだよね。

 

 その結果、帝国と聖王国の仲はいっそう悪くなるかもしれないけど……。

 たぶんそんなの、皆が「いつものこと」と考えるくらいのものでしかない。

 

「迷惑かけちゃうね」

 

「そこは気にしなくていいよ。……あ、でも、帝国内に友達とかいるなら……」

 

「いたけど、もういい」

 

 南野さんは食器を片づけた後のテーブルに突っ伏して、ぼそりと呟く。

 

「もういいの」

 

「わかった、聞かないよ。話したくなったら、話してね」

 

「うん、ありがとね、東横くん」

 

 三か月。

 彼女にも、いろいろなことがあったのだろう。

 

 気持ちの整理をする時間が必要なのだ。

 座敷童が南野さんのもとにやってきて、頭をよしよしと撫でた。

 

 普段はあまりお客さん個人には関わらないのに、珍しいことである。

 いや……そういえばぼくの背中に憑いていたモノも、南野さんには一度もちょっかいをかけなかった気がする。

 

 ぼくと南野さんの接点は、これまでもそこそこあったんだけどね。

 文化祭の企画とか……修学旅行の班もいっしょで、いろいろ相談し会ったりした。

 

 そこそこ仲が良くなった相手は、ぼくの背中に憑いていたモノに意地悪をされて離れてしまうことが多いんだけど……。

 例外はこれまで西田くんくらいで、西田くんは背中に憑いていたモノに対して対抗手段があった。

 

 それがお寺の息子故のものなのかどうか、よくは知らない。

 中学校でも高校でも、彼ひとりがぼくの友達としていっしょにいてくれたことだけが事実である。

 

「座敷童ちゃん、わたしをなぐさめてくれるの?」

 

「んっ」

 

「ありがとうねえ、いい子だねえ。うちの子にならないかい?」

 

「こらこら、引き抜き行為は禁止です」

 

「けちーっ!」

 

 南野さんは座敷童をぎゅっと抱きしめ、甘えている。

 なぜか座敷童も、彼女にだけは甘い様子で、言われるまま抱っこされて、ぼくに向かってブイサインを出している。

 

 本当に珍しいことだ。

 基本、ぼく以外には……西田くん相手にすら、そっけないのに。

 

 

        # & # & #

 

 

 夕方になって、西田くんのチームが戻ってきた。

 みんな汗だくで、泥だらけである。

 

「おかえり。お風呂沸いてるから、入ってきて」

 

「ああ、そうさせて貰うが……南野さん、久しぶり」

 

「久しぶりーっ! 西田くん、元気だったかい? わたしは元気だぜーっ!」

 

 あれから風呂に入って、すっかり元気が回復した南野さんが、びしっと西田くんに手を挙げる。

 カラ元気かもしれないけど、とにかく西田くんの前で弱気な態度を見せる気はないみたいだ。

 

 西田くんは、「そりゃあ、よかった」と笑って、軽く彼女と言葉を交わした後、奥の風呂場に消えていった。

 ちなみにうちの風呂場は男女に分かれていて、深夜以外はいつでも湯が張られている和式のものである。

 

 最初は温泉宿みたいにしようかなとも思ったんだけどね。

 天然の温泉なんて手に入るわけもなく、ためしに富士山の絵を張ってみたところ、保守的な傾向がある聖王国の人たちから「なんか怖い、外にいるみたいで落ち着かない」と不評だったのである。

 

 いま、壁面は普通に煉瓦っぽい感じに塗装したタイル敷きだ。

 明らかにこの世界のものではない、滑らかなタイルなんだけど……そのあたりはこの宿そのものが、一晩でさっくりとつくってくれた。

 

 この宿が再現できない、向こう側の世界のテクノロジーもいっぱいあるんだけどね。

 たとえばトイレとかも、水洗にはできたけど、ウォッシュレットとかは無理だったし……。

 

 でもまあ、全体的には旅館っぽい感じにできていると思う。

 一階の酒場部分は、明らかにこの世界の酒場っぽくなってるけど。

 

 これもね……宿泊客たちが、こういうのがいいって強く主張したからなんだよね……。。

 やっぱり現地の事情に合わせたローカライズは必要なのである。

 

 お客さんあっての宿だからね。

 

「西田くん、めっちゃ日焼けしているね!」

 

「むしろ南野さんが、全然、日に焼けてないように見える」

 

「あー、それはね」

 

 南野さんは左右を見る。

 ぼちぼちと、宿に戻ってきた常連客が座敷童に出迎えられていた。

 

 ちょいちょい、と手を振られた。

 こっちにこい、ということらしいので、おとなしくそばに寄る。

 

「あのね」

 

 小声で、南野さんが言った。

 

「わたし、自爆するとリセットされるみたい」

 

「リセットって?」

 

「もとに戻る、ってこと。だいたい、この世界に来た直後の状態に戻るの。だから傷とかも全部、治っちゃうんだあ」

 

 そういえば、昨夜、見てしまった彼女の身体はすべすべで、傷ひとつなかった気がする。

 いや、そこまでまじまじと凝視したわけじゃないんだけど。

 

「でもこっちの世界に来てから歩き詰めで、脚はだいぶ鍛えられたんだよね。そういうのはリセットされないみたい。よくわからないよね」

 

「そのあたり、西田くんと話し合えば、いろいろわかるかもね」

 

「うーん、そうだね。西田くんなら、いいかなあ」

 

 彼女としても、この秘密は打ち明け辛いのだろう。

 なにせとんでもない長所であり、スキルのメリットとデメリットであるのだから。

 

 いやデメリットあるのかな? ちょっとよくわからない。

 たぶんそのへんも、西田くんが詳しい。

 

「自爆というより、それって……リセットの方が本命だったりする?」

 

「わからない。スキルって、なんかよくわからないけど、できるって思って使ったら使えた、みたいな感じじゃない?」

 

 そうなのかな、そうかも。

 ぼくもなんとなく、出てこいって思ったら座敷童や狛犬が出てきたんだよね。

 

 西田くんは自分のスキルやぼくのスキルでいろいろ研究していたけど、それがなにか有意義な結果に繋がったのかは、いまだによくわかっていない。

 そもそも、スキルってなんなんだろうねえ。

 

「わたしの場合、いまこれを使えばイケる! って思って使ったらイケたわけで……その後、とってもたいへんだったんだけどね」

 

 そりゃ、そうだろうね……。

 そのときのことは、あまり聞かない方がよさそうだ。

 

 いまも話しながら、顔を赤くしているし。

 思春期の女の子には、ずいぶん酷なスキルだと思う。

 

 そのあたりが本当によくわからないんだよねえ。

 なまじぼくの場合、ぼくにぴったりのスキルだから……ぼくがこのスキル以外だったら、と思うと色々と考えさせられるものがある。

 

 西田くんなら、このあたりについても考察を進めてそうだ。

 あとで、詳しく聞いてみてもいいかもしれない。

 




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