ボイスロイドが実在する世界に来たらヤンデレハーレムだった件について   作:美月海月

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 初めまして。
 ボイロのヤンデレものあんまりないな? ということで書き始めた作品になります。
 よろしくお願いします。


第1章
#1 社畜、異世界へ飛ぶ


「あ゛ぁ゛~……疲れた……」

 

 時刻は22時過ぎ。

 今日も今日とて残業のせいで帰宅がこんな時間になってしまった。マジで会社潰れねえかな。いや、それはそれで転職活動をしないと食っていけなくなるから困るんだけどね……。

 

「はぁ……一生働きたくない……」

 

 スーツを脱ぎ散らかして、スウェットに着替える。服装って結構大事だよな。部屋着になった瞬間、一気にリラックスモードに入った気がする。

 冷蔵庫から缶ビールを取り出し、帰宅時に手に持っていたコンビニ袋と一緒にパソコンの前に座る。

 パソコンの電源ボタンを押して、立ち上がるまでに缶ビールを開けて体内へと流し込んでいく。くぅ~~っ! やっぱ労働後に飲むキンキンに冷えたビールは最高だな! この瞬間のためなら仕事も頑張れる気もする。

 今この瞬間での、世界一美味い飲み物に舌鼓を打っていると、パソコンが立ち上がりデスクトップ画面が映し出される。

 

「さ~てさて」

 

 俺は迷うことなく、とあるソフトウェアのショートカットアイコンまでマウスカーソルを持っていきダブルクリックする。

 しばらくしてそのソフトのメイン画面が表示されたので、キーボードとマウスを操作して()()()()を用意する。

 それが完成したので()()()()()をクリックすると――。

 

『おかえり、今日もお仕事おつかれさん! 毎日頑張っとって偉いで!』

 

 可愛らしい女の子の声で仕事終わりの俺を労ってくれる。

 そこで更にマウスとキーボードを使ってソフトを操作して、再度再生ボタンをクリックする。

 

『お仕事お疲れ様! ご飯にする? お風呂にする? それとも……私?』

 

 最初に喋った女の子とほぼそっくりな声をした、別の女の子に新婚三択を迫られる。

 うおおおおおっ! たまんねぇ! 癒やされるうう!

 俺はモニターに映っているソフト――VOICEROID(ボイスロイド)のエディタ画面を見つめながらニヤニヤしていた。

 

 VOICEROIDとはいわゆる音声読み上げソフトであり、様々なパッケージがありそれぞれにイメージキャラクターが存在しているのが特徴的だろう。

 俺が今喋らせたのは琴葉茜と琴葉葵。双子の姉妹であり、最初に喋った関西弁の子が姉の茜で、その次に標準語で喋った子が妹の葵である。

 この琴葉姉妹は大変可愛らしい声をしており、またキャラクターデザインも美少女であるため人気が高い。まあ、声が良くて見た目が美少女なのは琴葉姉妹に限らず他のVOICEROID……ボイロもそうなんだけど。

 

 とにかくそんな琴葉姉妹に俺の欲望が100%込められたセリフを喋らせて、仕事疲れを吹き飛ばして幸せな気持ちになるっていうのが日課となっていた。

 傍から見れば、やっていることはだいぶ悲しくなってくるようなことだがそれでも俺は構わない。こんな可愛い姉妹に思いのまま好き放題喋らせて満足できるんだから。

 

「ふふ……茜ちゃんと葵ちゃんに元気ももらったことだし、姉妹の動画でも観るか……」

 

 音声読み上げソフトということもあって、主に動画での活躍が多いだろう。

 ゲーム実況はもちろん、解説動画でも使えるし、とにかく声を使う動画ならボイスロイドは輝けるだろう。

 そんな中でも特に人気があるのが、ボイスロイド劇場という類の動画だろう。当然、俺も大好物である。

 ボイスロイド劇場とは、ボイロたちを登場人物にしたオリジナルストーリー動画であり、それこそ日常系やギャグ・コント系、ホラー系など、ジャンルは多岐にわたる。

 もちろん、ボイスロイド劇場においても琴葉姉妹は人気であり、彼女らが出演している動画は数多く存在するし、新着動画も続々とアップされている。

 

「お~、今日も色々上がってんねー。お、これ面白そうだな」

 

 新着動画の中から面白そうな動画をクリックし、俺は袋からコンビニ弁当を取り出しそれを食べながら動画を見始める。

 可愛らしくも面白い動画とコンビニ弁当を肴に缶ビールを流し込んでいく。結局、2本空けた俺は心地よい感じに酔いが回っていた。

 

「あー……会社なんて辞めて、ボイロたちに囲まれながら生活してぇ~」

 

 完全に酔っ払った俺は欲望を吐き出しながら、再びVOICEROIDのエディタ画面を開き、琴葉姉妹に喋らせる。

 

『せやでマスター。仕事なんて辞めて、ウチらと暮らそうや』

『そうそう。私たちと一生一緒にいようよ。いっぱい甘えさせてあげるよ』

 

 はぁ~ほんとに最高だなこの姉妹は。

 俺は甘々なセリフにニヤニヤしながらも、次々と己を癒やすための甘ったるいセリフを姉妹に喋らせていく。

 

「ふへへ……」

 

 ……そして、仕事の疲れと酒による酔いで、気づけば俺は寝落ちしていた。

 瞼が閉ざされ、意識も闇へと落ちそうな時だった。

 なんだかモニターが白く強い光を放っている気がした。

 

『ついにこの時がきたなぁ。やっと一緒におれるなぁ、マスター』

『もう待ちわびたよ。でも、これからはずっと一緒だね、マスター』

 

 そして琴葉姉妹がなんか喋ってる気がする。

 こんなセリフ、俺打ち込んだっけ? ていうかそもそも再生ボタン押してないのに喋りだした? どういうことだ?

 画面を確認したかったが睡魔には勝てず、そのまま俺は意識を放り投げた。

 

 

 

 ***

 

 

 

「……んがっ」

 

 次に目を覚ました時、感覚的に「あっ、これめっちゃ寝たな」っていう感じがした。

 案の定、カーテンからは朝日の光が溢れていた。しまった、もう朝かよ。出勤の準備しなきゃ……。仕事行きたくね~。

 

「……んぁ?」

 

 朝から嫌な気分になったところで、あることに気づく。

 

「……俺、昨日パソコンの前で寝落ちしなかったっけ?」

 

 たしか俺はパソコンで動画を観ながら飯を食って、その後琴葉姉妹に色々喋らせながら寝落ちしたはず。

 だから起きたら目の前にはモニターがないとおかしいわけで。だが実際に視界に映っているのは天井だった。しかもよくよく見たら知らない天井である。

 そこで俺はベッドの上で横になっていることに気づいた。てかこのベッドクソでかいんだが。俺が使っているベッドはセミダブルだったはずだが、この大きさはキングサイズじゃないか? しかもすっげぇフカフカなんだけど。

 

「どういうことだ?」

 

 次々と生じる違和感によって、俺は一気に目が覚める。

 知らない天井、知らないベッド。そして部屋を見渡すと、やはりそこは知らない部屋だった。

 俺は8畳の1Kに住んでいたはずだが、この部屋は明らかにそれ以上に広い。というか広すぎるくらいである。

 ここまでくると、寝落ちする前とは違う場所にいることを実感してしまう。それは理解したが、なぜこんなよく分からない場所に俺はいるのだろうか。

 

「誘拐? いやいやまさかな」

 

 真っ先に思い浮かんだのが寝ている間に拉致された線だったが、一人暮らしの美人女子大生とかでもない20代の冴えない男性サラリーマンを連れ去る物好きなんている? いやいない。

 俺が超絶美少女ですれ違う人々全員を虜にしちゃうような存在だったら、こうなることもおかしくはないが、残念ながら俺はどこにでもいる平凡な男である。よって拉致されたというのは違うだろう。

 ていうことは……あぁ、そうか夢か! すっげぇリアルな夢だなぁ。このベッドの感触とか現実にしか思えないけど、これは夢だわ。うん、それしかありえない。

 もう一度寝直せば夢から覚めるかな? このベッドめっちゃ気持ちいいし、感触を堪能するためにもそうしよう。

 というわけで再び眠りにつこうとした時だった。

 

 バァンッ! と、大きな音を立てて部屋の扉が開かれた。

 俺がその音にビックリして思わずそちらへ視線を向けたのと、()()()がこちらへすごい勢いで向かってきたのは同時だった。

 

「マスタァァァァァァッ!!」

「ぐえっ!!」

 

 それは思いっきり俺へと飛びついてきて、力強く抱き締めてきた。

 勢いよく飛びつかれて、変な声が出てしまった。いやそれは今どうでもよくて、なになに!? 一体なにが起こってるんだ!?

 

「マスタァァ……ずっと逢いたかったでぇ……」

 

 待て、今なんて言った?

 マスター? しかもこの声、どっかで……。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。君は……」

「どしたん? マスター?」

「……!!」

 

 そこでようやく()()は、顔をこちらへと向けてきた。

 その顔を見た俺は、本当に夢でも見ているのだと思った。

 だって、俺に抱きついてきたこの子は――。

 

「……あかね、ちゃん?」

 

 ――ボイスロイドの琴葉茜だったからだ。




 書き溜めストックがなくなるまでは毎日投稿しますので、どうぞお付き合い頂けると幸いです。
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