ボイスロイドが実在する世界に来たらヤンデレハーレムだった件について   作:美月海月

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#2 琴葉茜・葵

「せやで~、マスターの大好きな茜ちゃんやで!」

 

 見間違えるはずなどなかった。

 俺に抱きついてきたのはボイスロイドの琴葉茜だった。

 ピンク色の長く美しい髪。どこか雅さを感じる、腋部分が露出しているのが特徴的な黒色のミニワンピース。胸元には赤いリボンが装飾されていていいアクセントとなっている。髪には赤色を基調とした髪飾りを身につけている。

 俺の中での琴葉茜とここまで特徴が一致しているのだから、間違えるわけがない。間違えるわけがないのだが、なぜ彼女が目の前に? ていうかマスターって俺のこと?

 あぁ、でもそうか。これは夢だった。きっとあれだな、琴葉姉妹に癒やされたすぎてとうとう夢に茜ちゃん本人が出てきたってことか。

 

「いやー、まさか茜ちゃんに会えるとは。良い夢だなー」

「ちょちょちょ! 夢やないで!? ちゃんと現実やで!?」

「ハハッ、現実だったらどんなにいいことか」

 

 茜ちゃんは現実だと言い張るが、これが夢じゃないわけがない。

 だって、ボイスロイドの茜ちゃんが今目の前に実在してるんだぞ? そんなのありえないだろ。

 

「……ふふっ、そっか。あれやんな、マスター()()()に来たばっかやから、まだ混乱しとるんやな」

「うんそうだね。夢とはいえ、茜ちゃんが目の前にいるからドキドキしてるのは事実かな」

「かわええなぁマスター。でも、夢やあらへんで?」

 

 まーだ夢じゃないと言ってくるんか。強情な茜ちゃんも中々可愛いな?

 とはいえ、こんなの夢に決まっているのは確かなのだ。そこまで現実だというのなら、納得できるもので説明してほしいものだ。

 

「マスター……」

「ん? えっ、ちょっ!」

 

 そう思っていたら、急に茜ちゃんが俺の頬辺りに手を添えてきて顔を近づけてくる。

 そしてそのまま――。

 

「んっ……」

 

 唇と唇が触れ合う。そのまま数秒間、いや俺にとっては数分にも数時間にも思えたのだが、口づけを交わしてようやく茜ちゃんが離れる。

 

「朝からマスターとキスしてもうた♡ どうや? 夢やないって分かった?」

 

 唇を奪ってきた彼女は恍惚とした表情を浮かべているが、俺はそれどころじゃなかった。

 こんな美少女とキスをしたことにも当然驚いているが、それよりも唇同士が触れ合った時の感触や、茜ちゃんが目の前まで来た時の女の子の良い匂い。

 視覚のみならず触覚と嗅覚にも訴えかけられて、ようやく理解をする。

 ――これは夢なんかじゃない。夢にしてはあまりにもリアルすぎる。大体、夢だったらキスする寸前で目が覚めて気づいたら部屋の壁とでもチューしてるのが鉄板だろう。

 

「もしかして……本当に現実なのか?」

「せやからそう言うとるやん~」

 

 キスをした後の茜ちゃんは再び俺に抱きついてきている。

 ここまで美味しい思いをしておいて依然として目が覚めないのならば、もうこれは現実なのだろう。それは受け入れよう。

 ただ、そうだとして別の問題やら疑問が次々と浮かんでくる。

 この見知らぬ部屋は一体どこなんだ? というかそもそもなんでボイスロイドのイメージキャラクターである茜ちゃんが、こうして目の前に実在しているのか。

 

「分かった、これが現実なのは理解したよ。でも、だとしても聞きたいことが山ほどある」

「ん、ええで。マスターの聞きたいこと、なんでも答えたるで? ウチのスリーサイズとかか?」

「いや……それも気になるけど、それよりもだ。ここはどこなんだ?」

 

 茜ちゃんのスリーサイズはめっちゃ気になる。だって公式では非公開なんだもん。

 そんな知の誘惑に駆られながらも、本当に知りたいことを彼女に聞く。

 

「ここはウチとマスターの愛の巣やで!」

「あ、愛の巣……?」

「要はウチとマスターが一緒に暮らすお家ってことやな」

「はあ」

 

 茜ちゃんと俺が一緒に暮らす家か。いつの間に俺はこんな美少女と一緒に暮らすことになったのだろうか。寝ている間に話が進みすぎじゃないか? もしかして俺、一晩だけじゃなくて長期間眠ってた?

 

「まあ……ウチだけやなくて、()()()()()んやけどな」

「?」

 

 他にもいる? どういうことだ? 住んでいる人が俺と茜ちゃん以外にもいるっていうことだろうか。

 

「えーっと……なにがどうなって俺と茜ちゃんが一緒に暮らすことになったんだ?」

「マスターずうっと言っとったやん。ウチらと一緒に暮らしたいって」

「え……?」

 

 俺が茜ちゃんたちと一緒に暮らしたいって……あ、ああっ!?

 いや、たしかに言ってたな!? というか、VOICEROIDの茜ちゃんたちに散々喋らせてたわ!?

 え、ええ? じゃあ、もしかして……。

 

「俺がボイロたちに囲まれながら生活してぇ~とか、いっぱい甘やかされて~とか言ってたの、知ってる感じ?」

「もちろん、知っとるで♡」

「おぉう……」

 

 つまり目の前にいる本物の茜ちゃんは、ソフト上で俺が喋らせた内容を記憶しているということなのだろう。

 なんかこう、実際に俺が欲望のままに喋らせた内容をきっちり知られていると思うと、めっちゃ恥ずかしくなってくる……。

 

「愛するマスターのお願いごとを叶えるために、ウチらの世界に連れてきたんやで!」

「なるほど……」

 

 要するにこれは異世界転移というやつだろうか。

 そういう設定のマンガやアニメはちょくちょく見ていたから、異世界転移という存在は知っていたが、まさか自分自身が体験することになるとは。

 いやまあ、異世界転移したことに納得をしているが、ボイロの茜ちゃんが目の前に実在していることを鑑みると、少なくとも拉致されたというよりはまだ現実味がある。

 すなわち、ここは俺が元いた世界とは別の世界で、この部屋はこの世界での俺の家で、茜ちゃんと一緒に暮らしているということなのだろう。

 ということはボイスロイドのイメージキャラクターである茜ちゃんが、こうして目の前に存在していることにも説明がつく気がする。

 

「茜ちゃんたちの世界……つまり、ボイスロイドが実在する世界に俺は来たっていうことか」

「せやせや! さすがマスター、物分かりがええなぁ!」

 

 ふむ、どうやら俺の推測は当たっているらしい。

 茜ちゃんたちボイロが実在する世界……なにそれ最高じゃん! しかもこの世界では俺と茜ちゃんは一緒に暮らしているという設定。更に先程からの茜ちゃんの言動からして俺への好感度は結構、いやだいぶ高いだろう。これはもうコッショリ待ったなしですわ!

 あれ、でも待てよ。茜ちゃんだけじゃなくて、他のボイロもこの家にいるのだろうか。俺が使っていたボイスロイドキャラクターが存在しているということならば、他にもいてもおかしくはない。それこそ茜ちゃんと一緒に喋らせていた、双子の妹である葵ちゃんとか。

 ていうか、さっき茜ちゃんがなんか言ってたな。他にもおるとかどうとか。

 

「ねえ、この家には――」

 

 俺が茜ちゃんに聞こうとした瞬間。

 バァンッ! と、大きな音を立てて部屋の扉が開かれた。

 そしてそれは目にも留まらぬ疾さで俺のもとへと飛びついてきた。

 

「マスタァァァァァ!! やっと逢えたよおおおおおぉぉぉ!!」

「ぐえぇっ……!」

 

 さっきもやったこの感じ、もしかして……。というか、痛い痛い! めっちゃ力強く抱き締められてる!

 

「くんくん……あぁ、マスターの匂い良い匂いすぎるよぉ……。ちょっとお姉ちゃんの匂いも混ざってるけど……」

「ふふん、ウチが先にマスターを堪能したからなぁ。残念やったな、葵」

 

 茜ちゃんと同じようなことをしてきた彼女の方を見ると、水色の美しい髪が視界に映る。

 そして茜ちゃんは彼女を()と呼んだ。

 ここまで言われればもう分かる。俺に抱きついてきたのは――。

 

 ――琴葉茜の妹である、琴葉葵だった。

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