ボイスロイドが実在する世界に来たらヤンデレハーレムだった件について   作:美月海月

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#7 はじめてのおつかい?

 天国のようにも地獄のようにも思える朝食の時間が終わり、現在なにをしているのかというと――。

 

「ふへへ……マスターの匂い……最高やなぁ……」

「すぅぅぅぅ……はぁぁ……マスター成分がどんどん私の中に取り込まれていくよぉ……」

 

 俺の部屋で、琴葉姉妹に抱きつかれてひたすら匂いを嗅がれまくっていた。

 だから俺自身は身動きが取れず2人にされるがままの人形と化しているので、なにをしているのかと問われれば「なにもしていない」が答えになるのだろう。

 朝食は途中までは良かった。葵ちゃんのとびっきりの隠し味が入っているというプチハプニングもあったが、まあヤンデレならそれくらいするだろうと納得して特に問題なかった。

 問題はそこからだ。料理当番という役割を活かして自分の一部を料理に紛れ込ませ俺に食べさせることに嫉妬した茜ちゃんが、突如として口移しで食べさせてきたところから比較的平和だった朝食タイムは崩壊したのだ。

 口移しで食べさせられたモノは、ぶっちゃけ味があまり感じられなくて食べた気がしなかったが、それ以上に口移しされるという行為そのものに俺は思わず興奮してしまい、下半身が元気になってしまったのだ。

 朝一番での出来事で元気になったのを鎮めるために朝食へと逃げてきたというのに、こうなってしまっていては本末転倒である。

 おまけに、今茜ちゃんと葵ちゃんに抱きつかれて、顔を埋めて深呼吸をして匂いを嗅がれているもんだからやばい。

 美少女2人が俺にしがみついて匂いを堪能しているという事実だけでも興奮するというのに、さっきから姉妹の柔らかい女の子の身体が当たってきて俺の理性を崩そうとしてきている。おかげでアソコはもうずっと元気いっぱいである。

 どうにかしてこの状況から抜け出さないとまずい。……一応、ここから抜け出すための方法は考えてある。あるのだが、成功するかどうか分からない博打のようなものなのだ。しかし、それに頼るしかないか……。最悪の場合はもう全てを受け入れよう。

 

「そうだ、ちょっといいかな?」

「ん? なんやマスター?」

「どうしたのマスター?」

 

 さっきまでされるがままで全く喋らなかった俺が口を開くと、匂いを嗅ぐのを継続したまま2人が応える。

 

「ちょっと外出……散歩したいんだけど」

「散歩?」

「ああ」

 

 この状況から抜け出すための方法とは、外出をすることである。

 家から出ればこの誘惑的状況から離れられるし、そもそもこの世界に来たばかりなので純粋に外がどうなっているのか気になっているのだ。

 とはいえこの作戦には明確な弱点が存在するのだ。

 それはヤンデレの地雷を踏む可能性があるということ。せっかく同じ屋根の下にいるというのに、わざわざ鳥籠の中から逃がしてくれるほど甘いだろうか。……考えたくはないが、琴葉姉妹の俺へのヤンデレ度合いを見るに、「マスターがわざわざ外出しなくてもいいよね♡」な可能性があるのだ。

 

「ほら、俺この世界に来たばっかだからさ。この世界での家の外がどうなっているのか気になるんだよね」

 

 あくまで君たちから逃げたいわけではありませんよ、純粋に外が気になるんですよというアピールをすることによって、成功率を上げつつ、もし万が一失敗をした時のダメージを抑えることができる。我ながら完璧なムーヴである。

 

「そういうことなら全然ええで!」

「でもちゃんと早く帰ってくるんだよ?」

「ほ、ほんとか!?」

 

 結果は意外にも快諾だった。

 早く帰ってくるんだよって、俺は子どもか! と思わずツッコミたくなったがグッと堪える。それで機嫌を損ねて外出許可を取り消されたら嫌だしな。

 

「外出るなら着替えんとな。マスターの服は、そこのウォークインクローゼットに入っとるからな」

「ちゃんとマスターの体格にピッタリだから安心してね!」

「分かった、ありがとう」

 

 もはやウォークインクローゼットが当然のようにあることには驚かない。むしろこんだけの豪邸でWICがない方が変だし。

 中に入ると、ものすごい量の衣類が収納されていた。俺はファッションには無頓着で、元いた世界では最低限の服しか持っていなかった。それを考慮すると、ここにある服の数は元の世界の数十倍どころか数百倍以上はありそうだ。こんだけあると服選びの時に困りそうである。やっぱり服は最低限持つだけでいいよな……。

 とりあえず適当に選んだ服に着替えて、ウォークインクローゼットから出る。

 

「おぉぉ〜、さっすがマスター! 似合っとるで!」

「マスター……かっこいいよぉ……。写真撮っていい? てか撮るね!?」

 

 着替えた俺を見るなり称賛の声が姉妹から上がってくる。

 葵ちゃんに関しては、どこからかカメラを取り出しパシャパシャと俺を撮影しまくっている。スマホカメラじゃなくて一眼レフカメラで撮ってるのがガチ感出てる。さすがヤンデレ(?)

 

「あ、せやせや。さっきまで着てた寝巻きはウチが預かっとくな? 洗濯しとくで」

「おぉ、ありがとう。じゃあ頼むよ」

「お姉ちゃん洗濯するとかいって、本当は自分が愉しむために使うんでしょ?」

「そんなん当たり前やろ。結局洗濯するんやから、その前にどうしようとウチの勝手やろ?」

「…………」

 

 聞かなかったことにしよ。

 

「それじゃマスター、お小遣いは30万円でいいかな?」

「さ、さんじゅうまん……!?」

「あ、ごめんね。30万じゃ足りない? 300万にする?」

「いやいやいやいや」

 

 なに言ってんのこの子……。

 それはもうお小遣いじゃなくて給料なのよ。しかも30万って、俺の月の給料よりも高いし……。

 このぶっとんだ金銭感覚、本当にこの姉妹は死ぬほど稼いでんだなと思い知らされる。

 

「そんなにいらないよ……」

「え……じゃあ3万円とか?」

「もうそれでいいや……」

 

 ポンと俺の月給以上の金額を渡されそうになる事実に悲しくなりながらも、3万円という相変わらず高額な金額設定のお小遣いを受け取る。

 別に外でお金を使うつもりはないし、この3万円そのまま帰宅後に返せばいいだろう。

 

「マスター、これもいるやろ。スマホ」

「あぁ、ありがとう。……って、これは」

 

 茜ちゃんから手渡されたのは俺のスマホ。いや、正確にはこの世界での俺のスマホだった。

 差し出されたのは、リンゴマークが特徴的なあの有名なブランドのスマホ。それの最新機種かつ最上位モデルで、スマホなのにそれなりに良いゲーミングパソコンなどが買えてしまうくらい高価なものである。

 元の世界でも同じ会社のスマホを使っていたので操作感とかは別にいいのだが、問題は値段である。

 元々10万円以下のモデルを使っていたというのに、いきなりそれが3倍、下手したら4倍以上の金額の高級品になったらビビる。

 これはもう歩きスマホとかながらスマホとかはできないな……。まぁそもそも歩きスマホとかやらない方がいいんだけど。

 

「じゃあ……ちょっと行ってくるね」

「「いってらっしゃ〜い!」」

 

 色々あったが、ついに俺は外出することに成功した!

 まさか、ヤンデレ姉妹と暮らしている世界で家の外に出ることができるとは。監禁されて外に出られないとか嫌だからな。こうしてみると割と彼女らは友好的なヤンデレなのでは? いや、ヤンデレなんだから友好どころか狂愛なんだけどさ。

 

「……これは」

 

 この世界での自宅から出て、視界に広がったのは――。

 

 ――()()()()()()だった。

 

「え、これって……元の世界と同じ……」

 

 憂鬱な朝、解放感溢れる夜の帰り道、無敵な気分の休日。毎日毎日見続けたから、見間違えるわけがない。

 そこに広がっていたのは、元いた世界で一人暮らしをしていたアパートから出た時に見る風景と全く同じだった。

 しばしの間、脳がフリーズした後、俺の背後にある建物はどうなっている? という疑問が浮かび、すぐさま振り返る。

 

「……!!」

 

 そこにあったのは、俺が住んでいたアパート――ではなく、とんでもない豪邸が鎮座していた。

 アパートの代わりに、豪邸が建っていたといえば分かりやすいだろうか。

 元のアパートの要素は一欠片も感じず、駐車場なども含めた無駄に広かった敷地に一軒の豪邸が建っている。

 元の風景に見慣れた俺にとってはこの状況だけでも脳がバグるというのに、アパートが豪邸に変わったこと以外は元の世界と変わらず見慣れた道や建物が広がっているということが、更に脳バグを加速させる。

 

「……アパートが豪邸に変わったこと以外は、元の世界と同じ。ということは住所自体は変わっていないということか?」

 

 必死に思考をまとめて現状を理解しようとする。

 冷静に考えれば、建物が変わっただけで住所が変わっていないのは好都合なんじゃないのか?

 これで全く知らない土地に引っ越されていたり、そもそも元いた世界とは全く違う世界観だったら、もっと混乱していただろう。

 ……俺以外にアパートに住んでいた人たちがどうなったか少しばかり気になるが、まあ元の世界ではちゃんと無事に生活しているだろう。俺がこちらの世界に転移してきた形だからな。それはそれで、元の世界で俺という人間が消えたという別の問題が生じるわけだが……まあ深く考えないでおこう。

 

 なにはともあれ、知っている土地なら散歩するのに不自由はないだろう。

 とりあえず人がたくさんいるであろう、繁華街へ向かうことにする。

 今のところ元いた世界とこの世界の異なる点が、家が変わっていることと、その家に俺のことが大好きなヤンデレ琴葉姉妹というボイスロイドが存在していることくらいしか分かっていないからな。街まで行けば他にもなにか分かるかもしれない。

 

 

 

 ***

 

 

 

 ……驚いた。

 あれから俺は街に繰り出して、色々な場所を歩き観察をしまくった。

 その結果、元いた世界となんら変わりのないことが判明したのだ。

 道、建物、お店などは俺が知っているものと全く同じだったし、俺以外にもちゃんと人間はいて、働いているのも同じ人間。てっきり琴葉姉妹のように他にも高性能アンドロイドがいて、それらが働いていたりするのかなと思ったがそういうわけではなかった。まあ、人間と全く同じ見た目なだけで実はアンドロイドです、とかだったら分からないけどな。でも、言われなきゃ分からないレベルならもう実質人間でしょ(適当)

 

 あとは、これはスマホを見ればすぐ分かったことではあるのだが、日付も俺がこの世界に来る前の日から1日しか進んでいなかったので変化していないことになるだろう。

 当然、インフレやデフレもしていない。金銭の価値は元いた世界と同じである。葵ちゃんから貰った3万円は俺が思い描いている通りの3万円なのである。

 

「ふぅ〜……。しっかしこんだけ変わんないと、そもそも異世界転移なんてしてないんじゃねって思っちゃうなぁ」

 

 もちろん、自宅の豪邸化に加えて、ボイスロイドである琴葉姉妹が実在しているのだから確実に元の世界とは違うんだろうけど、逆に言えばそれくらいしか違う点がないからなぁ……。

 異世界転移したのだから新しい世界の環境に慣れようと意気込んでいたのだが、これでは拍子抜けである。

 まあ元の世界と同じ感じで生活できると思えば、そこまで落胆するほどのことでもないのだが。

 

「はぁ……どうしようか」

 

 もうこの世界のことは大体分かったので、俺の目的は達成されたことになる。

 特にすることもないし、そろそろ家に帰ろうかなと思った時だった。

 

「そこのお兄さん!」

「……? 俺?」

「そう、貴方です!」

 

 急に声をかけられて、思わずそちらへ視線を向ける。

 すると、そこにはメイド姿の女の人が立っていた。顔立ちは整っており、正直かなり可愛い。

 

「どうかしました?」

「お兄さん、今お暇ですか?」

「え? あ〜……まあ暇、ですけど……」

「本当ですか! よかったらメイド喫茶、興味ありませんか!?」

「あ〜」

 

 メイド喫茶と言われて、その女性の格好について納得がいった。

 要するにこの人はメイド喫茶のキャッチなのだろう。

 

「うーん……すみません、間に合ってます」

「そうですか……残念です。また機会がありましたらお願いしますね! これよかったらどうぞ!」

 

 そう言ってチラシを1枚渡される。別に拒否するものでもないので素直に受け取った。

 そして、そのメイドさんは離れていき、別の人に声をかけてはビラ配りをしていた。……大変そうだなぁ。

 メイド喫茶には行ったことがないが、興味がないわけではない。むしろ、状況次第ではさっきのやりとりで行っていたかもしれない。

 それでも行かなかったのは単純に今はそういう気分じゃなかったのと、家にヤンデレ姉妹がいるからである。どうせ、これメイド喫茶に行ったらバレるからな。俺の知っているヤンデレはそういうもんなのである。痛い目には遭いたくないので、この選択は間違っていないのだ。

 

「……帰るか」

 

 このまま外にいても良いことはなさそうだと判断し、帰宅することにした。

 そうだ、せめて琴葉姉妹にお土産でも買って帰るか。……まあ、それを買うお金が俺のではなく姉妹から貰ったものなのだが。

 

 

 

 ***

 

 

 

「ただいま〜」

「「おかえり、マスター!!」」

「ぐえっ」

 

 帰宅するなり、いきなり姉妹に飛びつかれ俺は思わずバランスを崩しそうになる。

 

「くんくん……はぁぁ……マスターの匂いやぁ……」

「すぅはぁすぅはぁ……マスターマスターマスター……」

 

 抱きついてきたかと思えば、顔を埋めて俺の匂いを嗅ぎまくる茜ちゃんと葵ちゃん。

 なんか浮気をしていないかチェックをする猫みたいだな……。

 

「そうだ、2人にお土産があるんだ」

「えっ! ほんまに!?」

「マスターからのお土産……嬉しすぎて死んじゃうかも」

「そ、そこまで? ほら、これ」

 

 俺が買ってきたのは、デパ地下の高級エビフライと高級チョコミントアイスである。

 元の世界では非公式であるが、茜ちゃんはエビフライが、葵ちゃんはチョコミントが好物という設定があった。ちなみに公式設定だと和風のものが好みらしい。

 ともかく、その設定がこの世界での彼女らに適用されているのかどうか確認するべく、これらをチョイスしたのだ。

 

「こ、これは……ウチの大好きなエビフライ……!」

「私の大好きなチョコミントアイスもある!」

 

 どうやらこの世界での茜ちゃんはエビフライが、葵ちゃんはチョコミントが好物らしい。

 すっかりそのイメージで定着しているから、これであんまり好きじゃないとか言われたらショックを受けていたかもしれない。

 

「さすがマスター! ウチのこと、よう分かっとるなぁ♡」

「このチョコミントアイス、マスターのことだと思って大事にするね♡」

「大事にするのはいいけど、ちゃんと食べてね?」

 

 こんなに喜ばれると、買ってきた甲斐があるもんだな。

 エビフライやチョコミントが好物だっていうことも分かったし、よかったよかった。

 

「……そんで、マスター?」

「ん?」

「例のチラシ、まだ持っとる?」

「え?」

 

 満足していたのも束の間。

 茜ちゃんの問いに、俺は一気に血の気が引く感覚に陥った。

 

「ほら、メイド姿の女に声かけられとったやろ? そん時に貰ったやつや」

「……どうしてそれを」

「そりゃマスターのことなんでも知っとるからな♡」

 

 なんとなくあのままメイド喫茶についていったら、後で絶対にバレるとは思っていたが、まさか声をかけられたこととチラシを貰ったことまで把握されているとは……。

 

「まだ持ってるけど……」

「ん、じゃあそれ貰うで」

 

 メイドさんから貰ったチラシを取り出すと、それをパッと取り上げる茜ちゃん。

 

「どこの馬の骨か分からん女から貰ったモノなんて、マスターには不要やからな。これは処分しとくで」

「あ、あぁ……」

 

 まぁ元々捨てるつもりだったから別にいいんだけど……。やはりヤンデレらしく、他の女に対しては容赦ないんだな。葵ちゃんに対してはまだ比較的マイルドな感じがするのは、やっぱり双子の妹だからなのか。

 

「さて……マスターを誑かしたあの雌……どう処理しようかな?」

「え」

 

 めちゃくちゃ物騒なことを言い出した葵ちゃん。

 いやでもヤンデレなら普通、なのか!?

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。なにもそこまでしなくても」

「ん、ダメだよ。マスターに話しかけるだけでも重罪なのに、メイド服なんか着て誘惑するなんてもう死刑ものだよね」

 

 そう、光のない瞳で言う葵ちゃん。

 ま、まずい……この感じ、冗談なんかじゃない。本当に殺る気だ……。ど、どうしよう俺のせいで、罪のない1人の女性が葬られてしまう……!

 

「あ……安心してくれ! そもそも俺は葵ちゃんたちしか興味がない! あんなの眼中にもないから!」

「マスター……♡ ……でも眼中になかったら別に処理しちゃっていいよね?」

「うっ……。いや、ほら処理するのも楽じゃないだろ? 別に処理しなくたって、俺にとっては存在していないのと同義なんだからさ? だったら、わざわざ葵ちゃんの手を煩わせたくないよ」

「うーん……。分かったよ、マスターがそこまで言うならやめておくよ」

「ふふっ……あの雌、マスターのおかげで命拾いしたなぁ」

「うんうん、マスターに感謝してほしいよね。でも、そんなことも知らずに、のうのうと生きてくんだろうなぁ」

 

 ほっ……。どうやらあのメイドさんがkillされる未来は回避できたようだ。

 説得するために俺まで、あの女性に対して酷い言い様をしてしまったが仕方がない。

 それにしても声をかけられただけでこんなことになるとは……。もしかして俺って、この世界では外に出ない方がいいのでは? 今回はなんとか犠牲者を出さずに済んだが、今後もこのようなことが続くと思うと胃が痛くなってくる。しょうがない、今後は極力外に出ないようにしよう。

 ……ていうか、なんで俺がメイドさんに声をかけられたことを知っているんだろうか。

 気になる。気になるのだが……とても彼女らにそれを聞く勇気は出なかったので、ヤンデレだからということで自分の中でそう結論づけたのだった。




 お待たせしました。
 今回からサブタイトルを書き始めました。それに伴い、今までの話にも全て付け加えました。
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