ガチ愉悦部を追放した   作:RH−

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 更新めっちゃ遅れて申し訳ない(土下座)
 三連休が三連休してなかったりプロットに致命的な穴見つけたり再来週〆切だったはずの書類の納期が一週間短縮されたりして死んでました。
 ともかく、今話より二章目の開幕となります。よろしやす。


第2章 NODUM
縁の行方


 

「……はぁ」

 

 物憂げな表情で溜息を吐く影が、一つ。

 少女どころか幼女と言っても問題なさそうな背丈の、しかしれっきとした成人女性である彼女の名はチィファン。

 

 ネウムル・フォトクリフ王国──通称“王国”のごく平凡な家庭に生まれ、ごく平凡な価値観を抱いて成長し、しかし戦闘能力だけがちょっとよく分からない育ち方をした人間である。

 当人もよく分かっていない辺り、彼女の戦闘能力は由来のない天然物なのかもしれない。

 

 ともかく、そんな彼女は王国が勇者パーティの一員として国外に出ていた。ゆくゆくは大陸中央にある“中心の湖”にまで向かう予定である。

 さて、そんな彼女が物憂げな表情で溜息を吐いている理由。それは今後の旅の長さや過酷さを思って……などではない。

 いや、もちろんそれもある。彼女らの当座の目的地もまた、相当に厄介な形で込み入っているからだ。

 

 だが、しかし。

 彼女の脳裏を巡るのはもっと別の事、具体的には一週間と少し前の記憶であった。

 

(……ヴァンさん。あなたは、何を)

 

 

──*──

 

 

「これが、現時点で上がってきている騒動の被害となります」

 

 スルヂェレはノワール侯爵家が屋敷。

 魔物侵攻(スタンピード)という超級の動乱から一夜明け、主人であるノワール・ステラにそう書類を渡される人間がいた。

 

「覚悟はしてたが、案外軽傷だな」

「スラムの被害は計上されてないですからね」

「……ああ、なるほど」

 

 返答に表情を歪めるのは、ノワール・ステラと友人関係にもある勇者サィアトヴァン。

 隣には同様に紙束を渡された幼女──チィファンの姿もある。

 

「そっちまで含めたら?」

「まあ、桁が一つ増えるぐらいは覚悟しておくべきじゃないですかね。正確な数字は今のところは何とも」

「……そうか」

「これでも、どこかの誰かさんが時間を稼いだからマシになってるはずですけどね」

 

 交わされる言葉は、意図してか平坦なものとなっている。

 人の命を数として数える事の是非は分かれるだろうが、上位に立つ者が感情に容易く左右されるようではならない。時に非道と映ろうと、情を排した振る舞いは必要となるのである。

 

 そうして会話は進み、諸々の状況の共有が終わった時の事であった。

 都市の防衛に関しての礼に『報告したろ。真の功労者はオレじゃねえよ』と席を立った勇者へと、言葉が投げかけられたのは。

 

「下手人は、転移魔法で逃亡したと聞きました」

「……ああ」

「貴方なら、発動前に捕らえる事もできたんじゃないですか、ヴァンさん──いえ。勇者サィアトヴァン」

 

 硬い声音の問い。否、詰問。

 それに、答えはなく。

 

 室内に、鉛のような沈黙が満ちる。

 

「私と妻が、地下の避難区画へ退避していた時の事です。防衛網を抜けてきた魔物から、私たちを身を挺して庇ってくれた人がいました。薄汚れた、みすぼらしい格好の男でした」

「……」

「彼は『こんなに堕ち切った俺らを、まだ救おうとしてくれる奴がいた。そんなのを見たせいで、ヤキが回ったんだろうな』なんて言って、笑いながら息絶えました」

 

 ありがちな話だ。

 ありがちな話ではある。

 

 魔物に襲われて死ぬ者など、世界中に吐いて捨てるほど溢れている。

 誰かを庇って、というのは多少稀かもしれないが……結局のところは、よくある話だ。

 

 そう。ありがちで、そして。

 平然と呑み下せはしない、そんな話だ。特に、善人に分類される者にとっては。

 

 

 苦々しく顔を歪める者、悲痛に唇を引き結ぶ者、そして──鉄面皮のような無表情のまま、言葉を紡ぐもの。

 窓の外から差し込む午前の日差しとは裏腹に、その空間に柔らかさは欠片もなかった。

 

「ええ、何を今さらという話です。何を今さらという話でしかありません。私はこれまで、碌にスラム街への政策を打ち出したりしてきませんでした。大多数の者と同様、見て見ぬフリをしていました。それよりも優先するべき事柄があるから、なんて嘯いて」

 

 まくし立てる声には、感情が色を乗せていた。

 それがなぜか……なんて、問うまでもないだろう。

 

「それでも、思ってしまったんですよ。ええ、馬鹿らしく、そして無様な事に。何かできたんじゃないか、なんて。たった一度救われただけで、そんな風に思ってしまったんです」

 

 スゥ、と息を吸い込む音が、やけに大きく響き渡る。

 あるいはそれは、その内に渦巻くモノの強さによってか。

 

「分かっています。この行動がどれほどみっともないかも、そして私にこれを言う資格がないという事も」

 

 一瞬。言葉が途切れ、天使が通り過ぎる。

 

 “それでも”と、音は連なった。

 

「もう一度、問います。──ヴァンさん、貴方ならば下手人を捕らえる事を、最低でも討ち果たす事はできたんじゃないですか」

 

 ノワール・ステラという人間は、善良な人間である。

 ともすれば、人並み以上に。

 

 勇者たる青年が幼年から抱えていた異常性を察しつつ、それでも友人として付き合う事を選べるのだ。それは疑うまでもない。

 

 だが。

 だからこそ。

 だからこそ、彼は苦しむ事となった。善良であるが故に。

 

 そんな、いっそ憐れにすら映るかもしれない青年の問いへの、答えは。

 

 

()()

 

 

 端的な二文字が響いた。

 次いで、息を呑む音が。

 

「この場でお前に嘘を吐かない事こそが──これまでオレの友であろうとしてくれたステラという人間への、礼儀であると。そう思ったが故に。お前の問いに、オレは是を返そう」

 

 もはや、ここまで詳細に断言されては解釈の余地もない。

 それは間違いなく勇者の言葉であり、だからこそ勇者の言葉だとは思えないものであった。

 

「……そう、ですか」

 

 それまでの激情が嘘であったみたく、弱々しく掠れた声。

 ソファに深く沈み込むようにした青年は、小さく問いかける。

 

「今さら……貴方は人々を救いたいと思っていたんじゃなかったのか、なんて問い詰めたりはしません。そんな浅い仲じゃありませんから。ただ、でも、一つ聞かせてください」

 

 ──貴方の救いは、どこを向いているんですか?

 

「さてな。オレはオレとして、変わらず一つを目指している。それだけだよ」

 

 間を置かない答えは、端的に。

 そうとだけ返すと、今度こそ勇者は席を立った。

 

 それはあるいは、決別のように。

 

「ヴァンさん。こんな風に振る舞っておいて、何を言うのかとなるでしょうけど。貴方がどう思おうと──どう、なろうと。それでも私は、貴方の友を辞めるつもりだけはありませんよ」

 

 答えは、今度こそなく。

 硬質な扉の閉ざされた音と、場の流れに付いていけなかったチィファン。そしてソファに座ったままの部屋の主だけが、そこには残されていた。

 

 

──*──

 

 

 ──チィファンさん。ああ見えて、案外繊細な奴なんですよ、アイツ。……どうか、よろしくお願いします。

 

 その後に言われた言葉も含めて。チィファンは、小さく息を吐く。

 言われずとも、勇者と共に行く事は彼女の中では確定事項だった。ああも強い言葉を使ってまで言い切ったのだから、それを撤回するなど論外だ、と。

 

 だが、それは決して盲信する事を意味するのではない。

 そも、彼女は──少なくとも精神性に関しては──自他共に認める平凡な人間なのだ。人を簡単には見限れないし、狂信性を内に抱いてもない。

 つまり、疑問だって生まれ得る。

 

 もちろん、彼女の中にはそれまでの旅路で育まれてきた印象というものがある。勇者の善性までもを疑っているわけではない。

 以前に彼女自身が口にした『勇者は救わずにはいられない』という事実は、変わらず彼女にとっての真実のままだ。

 

 が、その『救い』の方向性がどこを向いているのか。

 ノワール・ステラが零した疑問は、彼女の内にも生まれていた。

 

 それこそ、極端な例ではあるが、邪教徒の中には“死こそ救済”という題目を掲げて()()()人を殺す者もいる。

 そこまでではなくとも、勇者の描く救いが自身の中にある救いの形と一緒だと、どうして言えようか──というのが、偽らざるチィファンという人間の心情であった。

 

 まあ、一言で表すならば“不安”だろう。

 

 疑念に至るほどではなく、落胆など遥か遠く。しかし、これまで通りの期待を抱くには不安が勝る。

 そしてそれは、その他の事象も重なった結果でもあった。

 

「……えと、ヴァンさん。ドーマント、でしたっけ。たぶん確認できました」

 

 声は、彼女の頭上から。

 空を浮かぶのは計二つ分の人影。白髪に黒と紅のオッドアイの少女と、黒髪で紅と黒のオッドアイの少年。すなわち、スルヂェレにおける動乱の中心に置かれていたノルン・マルンとノモク・ウォロフの二人である。

 

 当人たちからの希望もあったとはいえ、勇者はこの二人を“中心の湖”への旅路に連れて行く事にしたのだ。

 

 もちろん、そこには色々な事情があった。

 先に触れた通り、当人たちがスルヂェレの外に出る事──もっと言えば、ノルンはマザーについて、ノモクは世界の外で出会ったラックについて知りたいと強く希望した事もある。

 強大な力を目覚めさせた二人がこれまで通りの生活を送る事は難しいというのもある。特にまだまだ幼い少年と少女である以上、目を付けられれば裏の住人から狙われる事になる。

 加えて、スルヂェレが大きな被害を受けた事で、領主であるノワール・ステラの発言力が高い確率で削がれる、というのもあった。貴族同士のパワーゲームである。

 そのノワール・ステラ自身も認可していた。

 

 とはいえ、だ。

 それでも、どれだけの事情があろうとノルンとノモクは幼い子どもに他ならない。それを苦難が確定している勇者の旅に同行させる、というのは簡単に受け入れられる事ではない。

 

 あと勇者以外のメンバーが全員小柄なのも怪しい。

 まさかロリコンかショタコンなんじゃないだろうな。

 

 さすがに最後のは半分冗談であるが、不安を感じさせるには十分に過ぎるだろう。

 

 まあ、そんな感じなのがスルヂェレからの彼女の話であった。

 

 

 

 では、話を先に進めるとして。

 一応は4人パーティに戻ったチィファンらは、先に述べた通り王国を既に出ている。その最終的な目的地が大陸中央にある“中心の湖”である事は疑うまでもないが、ここではひとまず措いて擱いて。

 この場で重要なのは、当座の目的地がどこであるのかという点である。

 

 すなわち、ドーマントという名の小国。

 あるいは、『訪れると必ず幸せになれる』などという与太話が流れている国、と言う方が伝わりやすいかもしれない。スルヂェレに到着したその日に、ノワール・ステラから話されていた“きな臭い国”である。

 

 さて。こうなると、次の疑問が生まれるだろう。

 単純な話として、“なぜ向かっているのか”という事だ。当然の疑問である。

 

 調査を頼まれていたとはいえ、それは書面を通しての正式な依頼ではなく、単なる口頭での約束に他ならない。つまり、そこに強制力は何もない。

 加えて、魔物侵攻後の一件もある。勇者自身は変わらぬ雰囲気のままであり、ノワール・ステラもその発言通りに友人たらんとしてはいるものの、その関係性が以前と変わらぬままとは言い難い。

 

 では何故なのかと言えば、こちらもまた単純な話。勇者が向かうと言ったから。それだけである。

 

 曰く、ノルンとノモク同様、この国にも回収しなければならない“布石”があると。

 

 中心の湖へ向かう動線上にある、というのもあった。加えて、彼女らにとってもあまり無視できない形で厄介な事になっているというのもあった。

 そんなわけで、勇者以外の三名も同意したわけで。

 

 それが、これまでの状況の話。

 

 

 

 さて、それでは最後に。

 現在の話に焦点を当ててみよう。

 

「王国の勇者様、ですわよね? 幼児の誘拐犯ではなく」

「オイあんた相変わらずだな」

「おほほ、歳を取ると記憶が曖昧になるのよ」

 

 聖教会の修道服に袖を通した、老成した雰囲気を纏う女性。

 枢機卿の位に就く、聖教会でも屈指の重鎮である。

 

「にしても、こーんな小さかった子が大きくなったわねぇ。最近は時間の流れが早くて嫌だわ、もう」

「あんたの中のオレは豆粒から進化したのか。おい、指と指の隙間を狭めるな。仮想のオレを押し潰すな」

「おほほ」

 

 ……重鎮、である。

 決して冗談ばかり口にするふわふわした婆さんではない。

 

「──それで。その子たちが?」

「相変わらず話題の転換急すぎるだろ。温度差で風邪ひくぞ」

「……そう。本当に嫌なものね」

「人の話聞けよ」

 

 口ぶりから察せる事ではあるが、彼女と勇者は旧知の仲である。あるいは、共犯者と言ってもいいかもしれないが。

 まあ、それで言えば聖教会の枢機卿以上の人間は全員がそうなのだが。

 

 閑話休題(話シ過ギタ)

 

 

 ノワール・ステラの一件でなんとなく察していたチィファンはともかく、場の流れに付いていけずにいたノルンとノモク。目を丸くして固まっている二人を見て、枢機卿たる老女は僅かに顔を歪めた。

 

「ごめんなさいね。本当なら、私みたいな老い先短い年寄りが宿命を背負うべきなのに」

「あ、えと、いえ……」

「ああ、ごめんなさい。初対面の人間の自虐なんて反応に困るだけよね」

 

 そう言って、次いで、彼女はその視線を横へとずらし。

 

「ヴァン君? この子は?」

「チィファン。……まあ、オレの仲間だよ」

 

 ぱちくり、と。

 その視線を左右に、勇者とチィファンを見比べるように動かして。

 

「……ロリコ」

「違うからな!? てかどこでそんな言葉覚えてきた!?」

「チィファンちゃん、嫌な事されたらすぐに言うのよ? 男なんてみんなケダモノなんだから」

「なあやめてくんねえかなぁ!? オレに対する名誉棄損だよねぇそれ! てかいい加減ルキフとか邪教の話聞いときたいんだけど!?」

「まあ、そうね。十分に場の雰囲気もほぐれたでしょうし」

「……オレの名誉はほぐすどころか壊されそうになってたがな」

「おほほ」

「それ言っときゃなんでも許されると思うなよ」

「おほほほほ」

 

 ルキフ。そして邪教。

 加えて、ドーマントという国自体の持つ特異性。

 そして()()()()

 

 それが、この国に関する“厄介な事”の中身であった。

 

 

 一つずつ、紐解いていこう。

 まず、ルキフについて。

 

 スルヂェレから転移魔法で逃亡したルキフであるが、その数日後からとんでもない問題を起こし始めていた。

 曰く、大陸各地に出没しては姿も偽らずに悲劇をばら撒いている、と。

 

 ここで重要なのが、転移魔法の性能、あるいは仕様である。

 というのも、本来転移魔法は一度行った事のある場所以外には飛べないのだ。魔導連邦が中心となってそのからくりを探っているものの、それはつまり現状ではどうにもできないという事の裏返しでもある。

 

 これまで転移魔法を悪用した犯罪など、大陸全土を見ても両手で数えられる程度しか起きていない。

 そもそも使うだけでも相当な技量を要求されるのが転移魔法。それを扱える程の腕を持つ魔法使いであれば犯罪になど走らずとも金は稼げるし、大抵の望みは実現できる。

 

 故に、できる事と言えば即応体制を整えておく程度しかなく。

 今では大陸中が“無貌の厄”改め“無縁の厄”に恐怖する事となっていた。

 

 さて、こうなると困ってくるのが王国と聖教会である。

 出身国であり、捕らえられず世界へとその脅威を解き放ってしまった。その危険性の片鱗を理解して追放しておきながら、それ以上の事をしなかった。

 十分すぎるほどの過失であるし、実際にその手の声を上げる国も出て来つつある。仕方のない話だ。

 

 そして──そんなルキフが、このドーマントという小国を訪ねた、という情報が入ったのが少し前。

 

 以降、聖教会から派遣された戦闘部隊は転移封じに特化した結界を張りながら待機しているのである。

 

 

 では次に、邪教について。

 読んで字のごとく、聖教会の崇める神を偽物と断じ、世間的には傍迷惑な活動を精力的に行う宗教組織である。

 

 そんな彼ら彼女らにとっても、突然に現れては悲劇を振りまくルキフという存在は無視できるものではなかった。

 同胞か、あるいはそれを装った下賤な犯罪者か。見極めねばならぬし、場合によっては討ち取らねばならない、と。

 

 そんな訳で、ドーマントの近くに邪教の戦闘者は集まっていた。ちょうど、聖教会の部隊と睨み合うような形で。

 

 

 続けて、そのドーマントの特異性──あるいは異端性について。

 訪れると必ず幸せになれる、という噂については既に触れた事であるが、ある意味ではそれは真実であるのだ。随分と怪しくきな臭くはあるが。

 それを成り立たせているモノこそが、勇者の言うところの“布石”。

 

 加えて、ソレはこの世界を根幹から揺らがせる存在でもある。邪教徒に露見してしまえば、相当な事態にまで発展すると予想できるぐらいには。

 

 

 そして最後に、()()()()について。

 すなわち。

 

「……どうでしょうか、ノルンちゃん。読み解けそうですか?」

「どうにか……結構アレンジも入ってますけど、根本は魔法陣の魔法なので」

 

 ドーマントを中心とした大地に煌々と輝く、謎の超規模魔法陣。

 聖教会だけでなく邪教の者たちまで足を止める。否、止めさせる未知のソレは、時間にして数日前から展開されていた。

 

「ただ──」

「ただ?」

「たぶんですけど、コレ、攻撃系の魔法を発動させるためのものだと思います」

「……なるほど」

 

 魔法の知識に関しては世界的に見ても上位に当たる少女からの言葉に、枢機卿の老女は勇者とアイコンタクトを交わす。

 それはあるいは、両者には下手人の心当たりがあるかのように。

 

「ノルン。この魔法陣の解読と、できるなら解除。頼めるか?」

「解読までなら、保証できます。ただ、解除は……」

「それでもいいさ。ノモク、チィファン、ノルンの護衛を任せた」

 

 邪教が陣を構えている方へ視線を向けながら、勇者が指示を下す。

 合理的な配備だ。もしくは、適材適所と表現するべきか。

 

 問題があると言えば、一つ。

 

「却下で。どうせヴァンさん、単騎でドーマントに突入するつもりですよね」

 

 勇者の人間性を人並み以上に理解しており、それでいて事情を知らぬが故の選択を行える彼女がいた事。

 

「……チィファン」

「一緒に行きますよ? ステラさんにも頼まれましたし」

「…………」

「私に、あなたの事を信じさせてください」

 

 数秒ほど、黒の瞳と金の瞳が見つめ合って。

 折れたのは。

 

「分ぁーったよ」

 

 ガシガシと後頭部をかきながら、渋々といった様子ながらも青年が返す。

 

「ぶっちゃけ、うだうだしてられるほど時間に余裕がない。拒んだら無理矢理についてきそうだし」

「よく分かってるじゃないですか」

「分からされたか……ごめんやっぱちょっとなし」

 

 コテンと首を傾げるチィファンに手をかざし、“幼女に分からされるって言うのはマズすぎる”などと呟いて。

 

「んん゛。さすがにそんぐらいなら分かるっての。ただ、コレ」

「……タリスマン、ですか?」

「オレの師匠が拵えたもんだ。これを持つ事が絶対条件な」

「まあ、分かりましたけど。コレ、私が持ってもいいんですか?」

「おう。なんならこのまま装備しといてもいい」

 

 そうとだけ言うと、勇者は踵を返す。

 おそらく、すぐにでもドーマントへ突入するつもりなのだろう。

 

「……チィファンちゃん。あなた、凄いのね」

「え?」

「あの子のこと、お願いね。すぐ無茶するじゃじゃ馬だから。首根っこ掴んどいて」

「え、あ、はい。行ってきます?」

 

 置いていかれないよう、小さな影もその後に続き。

 

 

 

 かくして、舞台と配役は整った。

 次なる幕においては、何が起きるのか。

 

 笑う影は、少なくとも一つ。

 

 

 

 

 




Tips.聖教会の起源は『はじまりの■■』にある
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