鴨志田転生~ペルソナ5一番の嫌われ役に憑依転生してしまったが、原作知識の力で雨宮蓮に代わって怪盗になり破滅フラグをへし折ってみせる!~ 作:DreamFrog
あれから、小一時間分ほど経った。
結論から言うと…鷹瀬夫妻との話は無事に成功。
原作で、川上先生の口から聞いたような号泣謝罪に、一生掛けても返すという言葉。それに対して、川上先生が許しを与えれば…また号泣。
謝罪と感謝の言葉を繰り返し何回もまくしたてながら…取り急ぎに、と借金してまでお金を渡そうとしたのを止め、2人を帰した。
現在の状況は…
川上先生が、原作とはまた違う家庭的なエプロンを着て
料理を作り始めた、背中を見ているところ。
アルバイトのメイド服はエプロンドレスだし、辞めたなら返すのはよくある事で。
だから、今の格好は当然の物…なのだが。
鴨志田卓
「何を作られるんです?」
川上貞代
「出来てからのお楽しみで。」
鴨志田卓
「おお…」
振り返り、微笑んでそう言う川上先生。
キッチンに立つ女性の背中。
夜の、その女性の家の中。
(なんというか…凄い、ときめくシチュエーションというか…なんだろう、原作の、聖地巡礼とはまた違う…)
原作には無いマップ。
原作には無い服装。
原作には無い一面。
…なのに、なぜだか無性に心がときめいている。
ペルソナを初見で遊んでいる時のような、胸の高鳴り。
理解ができない感情。
川上貞代
「ん〜…まぁ大丈夫か。」
二口コンロの片方では、鍋でパスタを茹で始めた。
もう片方のコンロにはフライパン。近くに出ているオリーブオイルやにんにくの匂い。並べられた卵やチーズからして…何が完成するかは察しが付く。
しばらく、会話も無く
鳩時計の音と、小気味いい調理の音を聴きながら…川上先生の背中を眺めていた。
パスタソースであろう物を手の甲に乗せ、味を見ている。小さく頷いたあたり、上手く行ったのだろう。
…。
川上貞代
「ハイ、おまたせしました〜♡」
「べっ……、貞代特製カルボナーラです♡」
出てきたのは、山盛りのカルボナーラ。
明らかに200グラム(2人前)以上の麺が盛られている…!
鴨志田卓
「おお、これは…」
(俺のウケ狙いの料理とはえらい違いだ。最高か?)
川上貞代
「前、ちょうど麺料理でしたから。」
「ちょっとズルいですけど…蝶野先生づてに、好み聞いたんです。」
鴨志田卓
「ああ、あの話ってそう言う…」
ついこの間の金曜日。実は英語の蝶野先生らと居酒屋に行っていた。
生物の蛭田先生や数学の宇佐美先生なども一緒である。
その際、話題として鴨志田卓の最近の食の好みを振られたのを思い出す…
お酒を辞めると味覚変わると言いますし…と前置かれ
自然に好物を聞き出されていたらしい。
川上貞代
「美味しく作れたと思いますよ。」
鴨志田卓
「もう見るからに美味しそうです。んじゃ…いただきます。」
川上先生特製のカルボナーラを頂く。
生クリームを使うタイプの、粘性低めのソースが深い皿に溜まっているタイプのカルボナーラ。
マッシュルームとベーコンが浮かび、中でも目を見張るのがたっぷり入ったにんにく。
最初に油でしっかりと火を通したにんにくは甘く、ガツンとしたパンチというバフを全体に掛けている。
ベーコンやマッシュルームが柔らかい物の中、カリカリとした食感がアクセントになる。ソースの中でふやけた個体もその甘さをふんだんに発揮。
そんな素晴らしいソースが、塩味のついたパスタに土台を補強され口の中で暴れまわり…
旨さアグネヤストラ級の逸品だった。
うんうんと頷きながらガンガン食べていると
川上貞代
「…聞く必要無いくらいわかりやすいですね。」
鴨志田卓
「最高です。」
川上貞代
「ふふ。知ってます。」
立ってこちらをみていた川上先生は安心した様子で、自分用のカルボナーラを持って椅子に座る。
別に鷹瀬夫妻は帰ったから必要ないのに…わざわざ隣へと座ってくれる。
川上貞代
「明日…同じ臭いで出勤しちゃいましょっか。」
冗談めかして笑いながら、カルボナーラに手を付け始めた。
鴨志田卓
「ん、にんにくの臭いの消し方なら覚えがありますよ。成人男性ですからね、対策しないとすぐに色々ボロが出ちゃって」
ポケットに入れてきた、口臭ケアアイテム各種を机の上に出す
川上貞代
「え…」
鴨志田卓
「これとか即効性があって良いですよ。起きてからでも良いですが、寝る前にも一回使っておくとベストです。」
川上先生になんか薔薇みたいな匂いのする高い歯磨き粉をプレゼントする
憑依転生する前から鴨志田卓の家にある、デパートで購入するような高級品。
川上貞代
「…はは、そうですね…」
川上貞代は、目論見が外れ、言い回しが鴨志田卓に刺さらなかった事に悲しむも
2人とも口臭ケアアイテムによってケアされた後の状態=同じ匂いの状態という等式に気づき、気分を持ち直す。
川上貞代
「うん、頂きますね。」
鴨志田卓
「家に在庫は残ってるので気にせず貰っちゃって下さい。歯ブラシの半分くらい出して磨くと俺にはちょうどいい量ですね」
「気に入れば、綺麗な箱に入った新品を進呈しましょう。」
…。
恋愛偏差値の低い現在の鴨志田卓は川上貞代の言葉の裏を理解できなかった。
しかし、悪くはない実用性あるプレゼントを渡せているので好感度の維持に成功する。もとより高い好感度は、ちょっとやそっとじゃ揺らがない。
歯磨き粉を洗面台に置いてくると言って出ていった川上先生は、すぐに戻ってくる。
ただ、手には缶ビールが1つ。
事前に、自分は飲まないと川上先生に伝えたからか…自分の方に置き。開けたソレを一気に飲む。
原作では見られなかった、飲み物を飲む時の喉の動き。
一口目に豪快に飲む、真夏のCMのようなそれは…BBQのハイテンションな時はまだしも、夜にするには不自然。味わうより他に目的があるような煽り方。
まるで…お酒の力を借りるような。
一瞬、コーラを一口で一缶飲み干す校長先生を想起して慌てて思考から追い出していると…
缶ビールを机に起き、ぷはぁと一息つく川上先生。
目を、数度繰り返しまばたき。
川上貞代
「…駄目か。そりゃ、そんなに即効性ないよね…」
鴨志田卓
「良い飲みっぷりで。」
川上貞代
「ありがとう、ございます…」
「…。」
「本当に、秀尽高校…変わりましたよね。活気というか…熱意というか。」
鴨志田卓
「俺と校長先生の、腐敗・保身ツートップが良くなって、予算を潤沢に投入してますからね。変わってくれないと困ります。」
「川上先生は、いきいきと働ける環境になりました?」
川上貞代
「…勿論。こうして、部屋の掃除もできたんです。4月頃なんて、どこからかコバエ湧いちゃったりして…」
鴨志田卓
「うわ、常に2,3体飛んでて発生源が自宅内にあると確信して絶望するやつ」
川上貞代
「雨漏りと零して忘れたコンビニ食のコンボ…辛いというより情けなさが出て…」
鴨志田卓
「あちゃ〜…」
川上先生を褒めるための話が、一人暮らしあるあるに移り変わりそうなのを、少し強引に軌道修正した。
鴨志田卓
「本当に良かったです。聞いてますよ?生徒から、かなり慕われるようになってきたの。」
川上先生は、原作でそうなっていたように…張り切った後は、生徒からの人気がうなぎ登りになっている。
ちょっぴりルーズな雰囲気は、堅苦しいのが苦手な生徒に良くマッチするのだろう。
川上貞代
「あはは…そうなんです。少し、気恥ずかしいですけど…皆、授業終わりに引き留めてくれたりして。」
「私が、熱意を出す余裕が無かっただけで…出せば、生徒達は応えてくれるんですね。」
鴨志田卓
「川上先生の人柄がなせる業ですよ。きちんと役目は果たしていたんですから。」
川上貞代
「ええ…。」
鴨志田卓
「生徒たちに素敵な環境を与えるには、まずは教師からだ。体を壊さない範囲で…楽しく、やりがいのある仕事をして欲しい。」
川上貞代
「…もう、してますよ。」
夜は更けていく。
ビールを飲みきり、もう一缶持ってきてから。
ひんやりとした缶を両手で包み、缶を開けずに見つめて
川上貞代
「…。」
「鴨志田…さん?」
鴨志田卓
「…なんでしょう?」
恋愛についてゲームくらいでしか知らない憑依転生者と
相手が自身の活躍を見てラブレター持って突撃してきた事くらいしかない鴨志田卓でも
目の前の異性が、何か言い淀んでいる事くらいは分かる。
川上貞代
「…。」
「鴨志田先生には、失礼な事を言っても…少しくらい、許してくれるんじゃないかなって…思うから、言うんだけど。」
鴨志田卓
「大丈夫ですよ。学生時代折った骨の数でも何でも聞いてください」
憑依転生者は2だ
川上貞代
「…。」
夜の、相手の自宅。
流れる雰囲気を切り替えることはできずに。
川上先生は口を開いた。
川上貞代
「こんなに、助けてくれて…」
「なんで、なの?」
少し、湿り気のある眼差しで。
こちらに視線を流す。
鴨志田卓に電撃が走る。
敬語で、鴨志田卓の記憶もあり 『職場の同僚』だという認知が強かった川上先生が
原作で馴染みあるタメ口と、今の状況によって…
攻略対象である、川上貞代として…初めて目に映る。
(流石に、この言い回しは俺にもわかる。川上さんの、好感度が高い…!!)
(俺の心は、鴨志田卓は何も言わない。明らかにこの状況楽しんでやがる。えっどうしよう、ここで結論出さないといけない?)
(うー……。)
憑依転生者は、自身のペルソナ5の記憶を思い返す。
一人一人、交際する度に周回を重ねたプレイ経験。
どの恋愛対象者と交際する時も、川上貞代のコープは完遂していた。
だって、主人公が助けないと どうしようもない破滅に向かってるから。
ある意味、運命の囚われだと言われる主人公以上に雁字搦めになっていた人生。
…素直な、川上貞代への想いを口に出す覚悟を固めた。
ヤルダバオトにヒントを与えてしまうかもしれない。だけど…これはここで言うべきだ。
鴨志田卓
「…放っておけなかった。」
川上貞代
「…。」
話を、最後まで聞く姿勢を取ってくれる
鴨志田卓
「犯罪者と戦ったり…校長や、鷹瀬夫妻の目を覚ませたり。俺…そういう事ができる伝手から、情報を貰っ…てるんだ。目を覚まして頂いた後に。」
「鷹瀬夫妻の情報を得た経路…あれ、嘘なんだよ。」
まず、不義理を詫びる。
考えながら、言葉をよく選んでいく。
鴨志田卓
「川上さんの状況を知って…この人、助けないと大変な事になると思った。」
「まっさか、気だるげな同僚が裏でこんな辛い目に遭ってたなんて…考えた事も無かった。」
敬語で会話していた、同僚から。
原作の主人公がやっていたように…タメ口で。
どうにも気恥ずかしく、お互いたどたどしくなりながらも。
川上貞代
「あの時…罪滅ぼしって言ってたよね?あと、学校を空ける時に穴埋めを手伝って欲しいみたいなさ。」
鴨志田卓
「あれが一番納得してもらい易いと思って。」
「突然、助けるって言い出しても…何処で知ったんだ、なんで助けるんだって困らせるだろ?」
「どう、自然に助けるか…だいぶ悩んだの覚えてる。」
緊張を隠すために、姿勢を崩し
椅子に背中を大きく預け、斜め上を見上げながら話す。
楽しいという気持ちで胸がいっぱいな聖地巡礼の高鳴りとは別種の、心の躍り方。
緊張感からか、雨漏りの補修跡がある事を見つけたり…どこか別の事を思考に混ぜてしまう。
川上貞代
「…うん。正直、相談してって言われても…バイトの事、鴨志田先生には言えなかったんじゃないかな…」
恥ずかしい物を隠すように…苦い顔をしながら頬を掻いていた
川上貞代
「今じゃすっかり、部屋が汚れてた事とか言えるくらいだけど。」
冗談めかして言う川上さんに、嬉しさから笑いが溢れてしまう。
鴨志田卓
「ははは、打ち解けられて良かった。」
「…改めて、この世界に生まれ直したような気持ちになってから。川上さんが2人目に仲良くなれた人でさ。」
川上貞代
「…一人目は?」
鴨志田卓
「モルガナ。」
一瞬表情が強張った川上さんだが、モルガナの名前を出せば成る程と納得してくれる。
鴨志田卓
「こう、なんというか…」
「俺でも、本当に人助けできるんだなと。」
「嬉しいんだよな。…現在進行形で。」
憑依転生をしてきて、ワクワクしながらも不安だった心に積み重ねることのできた、1つ目の『勝利』は…この川上さんだろう。
正直、初手全力で謝罪しないといけなかったり
生身で偶然、原作知識の通用しない知らんパレスに入っちゃったり
そんな中、軌道に乗った一発目の作戦成功。記憶に強く残っている。
鴨志田卓の話術を借りることができるとはいえ、自身に対人、特に女性とコミュニケーションする実践経験は皆無。
乗り越えられた事は…かなり大きな自信に繋がっていた。
嬉しさに、口角を上げながら…川上さんを見れば。
眩しい程の笑顔で、笑い返してくれる。
川上貞代
「鴨志田さんって、ヒーローみたい。」
♪♪〜
鴨志田卓
「…嬉しい。」
「これからも、正義の味方カモシダーマンをよろしくお願いします!ってね。」
川上貞代
「ふふ、何それ。」
ちょうど、区切りのいいことに
時計の、11時を知らせる音が鳴る。心地のよい、控えめな鳩の音。
鴨志田卓
「おわ、レディのお部屋に長居し過ぎだ。」
「それじゃ、また学校で。ご馳走様でした。」
慌てて席を立つ。思わず時間を忘れてしまっていた事に少し焦っていた。
川上さんは笑みが残る顔に他の感情が混ざり、こちらを見上げている。
川上貞代
「…。」
鴨志田卓
「あー、良かったら、また料理とか。」
「店でも良いし…次は俺の番って事で、作る方でも。」
敬語を使っている同年代の相手に、敬語を外すのは、存外難しいもので。
敬語で頭に浮かぶ語彙を咄嗟に訂正しながら
いつものようにスラスラ話せず固まりながらも、次回の予定を話す。
川上貞代
「…ええ、もちろん!」
玄関までの見送りを受けて、川上さんの家を後にする。
(本当に、長い一日だった。)
(…凄く、心地良い体験だったな…)
(原作どうこうってのも勿論あるけど…なんか、凄く心地良かった。仲良くなった人から、何かを与えてもらえるのは…こんなにも嬉しいんだ。ルブランや武見内科医院の聖地巡礼してる感で薄れてた気がするけど…改めて実感湧いたな。)
車のエンジンを更かし、深夜の街を走っていく。
(明日からも…頑張ろう。)
活力を、心に漲らせながら。
…。
※川上貞代視点
持ってきてから、結局飲まなかった2本目のビールを開ける。
ぷしゅっ、と鳴る音と共に
外で、車が発進する音を聞き
川上貞代
「…。」
ビールを一気に半分傾ける。少しぬるい。
今更、酔いが回ってきた。口に含んだ残りを、少し間を置いてから飲み…息を吐く。
川上貞代
「…はぁ。」
「お酒、口移しでもする度胸があれば…泊まってってくれたかな…」
パレス内でのお名前表記をコードネームにするかどうかを迷っております。演出的に好みな/見やすい方を教えてください
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原作と同じ本名表記
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わかりやすいコードネーム表記