鴨志田転生~ペルソナ5一番の嫌われ役に憑依転生してしまったが、原作知識の力で雨宮蓮に代わって怪盗になり破滅フラグをへし折ってみせる!~ 作:DreamFrog
時は、僅かに遡る。
…。
※武見妙視点
明かりを消しても眠れず、やっと意識を手放し…
目を開けてスマホを見れば既に昼。
この部屋からは外の様子が分からず、時間でしか状況を測れない。
鎧兵士
「お目覚めになりましたか。」
武見妙
「…。」
「ええ。」
来た時と同様の煌々とした光に、ロクに眠れなかった頭が冴えていく。
研修医時代の過密なスケジュールに比べると、これくらいの寝不足はなんてことない。
…つまり、嫌でも現状について考えてしまう。
外の風景でも眺めれば気分は変わるだろうか。
武見妙
「…お手洗いは、何処にあるの?」
鎧兵士
「ご案内します。」
部屋を出て、物々しい兵士に気圧されながら廊下を進んでいく。
すると突然兵士がグネグネと動き、バシャッと音を立て消えてしまう。
武見妙
「っ!?」
驚いている間に、よく分からない生物…生物?が出てきた。
見上げるほどの大きさの浮遊する給仕服の存在に、これまた浮遊するカボチャランタン。
愉快そうな表情に彫られたランタンに威圧感は無い。
武見妙
「…何??」
「威圧しちゃったらアルジサマの意向に反するからだホー!」
武見妙
「ごめんね、理由じゃなくて原理が気になって…」
地下室のランプ男
「戦うときの手間も省けるし、一石二鳥ホー!」
武見妙
「…。」
「配慮であることだけ把握いただければ問題ありませんよ。」
どうやって姿を変えたのか、なぜ2人出てきたのか。
何も疑問が解けない説明に虚を突かれながら、気を取り直して移動を再開。
目当ての…外が見える窓を発見する。
横を何気なく通るような素振りで外を眺め、城以外の街並みを見て心を落ち着かせようとする。
…
窓の外に見えたのは、昨晩に見た現実とはまるで異なる世界。
赤い雨が振り、その雲によるためなのか世界全体が赤みがかっている。
地面から木の根のようなものが生え、巨大な丸い高層ビルの様な建物が近くに見える。
この城のような、置き換わった変化ではない。上からなにかの要素を混ぜ込んだような…
武見妙
「あれは…何…?」
つい、こっそり見るつもりだったことも忘れて窓にかじりついてしまう。
地下室のランプ男
「心配することないホ。ここならなんてことないホ!」
その言葉のとおりに、向こう側の空間の足元に溜まっている赤い水はこちらに流れておらず不自然に止まっている。
人々はその光景も水圧も何も気にせずに歩いている。
武見妙
「つまり、向こうで起きているあれはなんてことある状況ってこと?」
地下室のランプ男
「アッ。」
武見妙
「よく見える所に連れて行ってくれない?」
地下室のランプ男
「ええっと…」
不和を呼ぶ家政婦
「貴女から大衆への干渉は、主の意に反します。」
「高い所から話しかけず見るだけなら構いませんよ。」
地下室のランプ男
「大丈夫ホ?」
不和を呼ぶ家政婦
「抑圧は反抗を生みます。客人には可能な限り自由を与えよとの命です。」
地下室のランプ男
「な〜るほどホー!」
「お客人、こっちホ!カボチャプリン食べるホ?」
不和を呼ぶ家政婦
「先にお手洗いでは?」
…。
2人(人?)の間で方針がまとまったらしく、一先ずお手洗いに案内される。
あまりにも仰々しい女子トイレを避け、現実と同じような外見だった男子トイレの個室で用を済ませ、
城の頂上にあるテラスへと案内された。
所々荒廃していても柱の類は生きているようで、テラスにはグラつきや穴も無い。
地下室のランプ男
「ア、ここの手すり崩れてるホー!気をつけるホ!」
不和を呼ぶ家政婦
「壺でも置いておきますね。」
武見妙
「…ありがとう。」
手には皿とスプーン。
親身なランタン君から貰ったカボチャプリン*1を食べながら…よく分からない世界から、よく分からない世界を見つめる。
少しは、気が紛れるだろうか…
武見妙
「…。」
私が見つけた
存在が気づかれれば、世界がこんな風にされるほどの人物。それがあの鴨志田卓という男の中に入っていた。
どこかで別の人生を歩いていた彼は…鴨志田を通しての会話でも、ここまでの事をされる様な人物に思えなかった。
良くも悪くも、ただの一般人に見える。それがなぜ、ここまでの事が起きるか考えれば…自然に一つの記憶を思い出す。
…あれから結局、貼る大気功でプリンパ?を無限に使ったのだろうか。
こんな風に露見するリスクを冒してでも、会う価値は私にはあったのだろうか。
その知識で美羽ちゃんの無事を即座に伝え、正しき道を照らしてくれた対価は支払えたのだろうか。
ある意味、この状況は私が招いたと言える。
急に押しかけて私の全てを好転させた彼に、恩を仇で返した。
最初から私の事が好きで、私の問題と、問題を解決する方法を全て知っているモルモット志願者。
出来の悪い小説みたいに、私に都合が良い存在。
…。
食べ終わった皿を見つめる。
甘くて
与えられたものを、ただただおいしく楽しんでいた。
今は、汚れた
武見妙
「…。」
地下室のランプ男
「何で悲しそうホ?」
「おかわり欲しいならそう言うホー!」
武見妙
「あ…」
浮かぶカボチャ頭が、カボチャプリンを皿にプチンと叩きつける*3のと同時に…
誰かが、城内からテラスに入ってきた。
成人男性
「よぉし…行くぞぉ…深呼吸…ついでにcos呼吸とtan呼吸もしてけ〜…?」
地下室のランプ男
「ホ?」
困惑する成人男性
「え、なんかジャックランタン居る」
武見妙
「…?」
驚愕する成人男性
「どぉぅわぁぁたったた武見さん!?!?!?」
その男はものっっすごく動揺して後退り、テラスに押された壺にぶつかって止まる。
不和を呼ぶ家政婦
「…置いて正解ですね。」
気まずい沈黙は生まれず、狼狽えた男が即座に喋り始める。
羅列する成人男性
「えーっと何と言えばうっわ可愛い服着すぎじゃん最高なにそれ写真撮らせてってそうじゃなくて、あえ、そうだ急がないとああー…は、はじめまして、いいお天気ですね?」
地下室のランプ男
「クソ悪いホ。」
不和を呼ぶ家政婦
「しーっ。」
知らない姿、知らない声。
しかし、どこか知っている態度。
武見妙
「…貴方が、鴨志田くんの中に居た人?」
驚愕する成人男性
「!?!?!?!?」
「えっ、な、な、なんでそんな確信して」
武見妙
「してなかったよ。今、確信したけど。」
諦念する成人男性
「オーマイガッネス…」
「ええと…その…」
目の前の男は、「あー」やら「えー」やら時間を稼ぐような言葉を話すも良い返しを思いつかなかったようで。
「そうです…コーチです…あっその、鴨志田卓の中に入ってご指導してたからコーチっていうか…別にコーチって呼ばれたいなとか思ったりでしゃばろうとしてた訳ではなく…」
観念したようにそう話す。
どうやら、目の前の男が『彼』らしい。
…そのピエロのようなオーバーリアクションでも…胸の中の負い目は薄まらなかった。
目線が落ちてしまう。彼を直視できない。
コーチ
「え、っと…なんか悲しいんですか?…そうだよな、ここに居るって事はなんか迷い込んだとか呼ばれたとかか。イセカイナビか?ヤルダバオト何してんのアイツ、武見さん困惑してるじゃん…」
「なんか甘いモノとか…ああくっそ持ってないてか時間そのものがマジで無い…こんな時どう言えば…ええと。」
「どしたん?話聞こか?」
あまりにも口下手にこちらを心配する声を、つい先程の出来事と重ねてしまう。
…。
シャドウ。そのうち心の海から引き寄せられてきた存在は、引き寄せた物から影響を受ける。
フタバパレスが良い例だろう。ロクに知らず恐怖しかない外界には、
悲しむ武見妙を放っておけない。
自分の身を削ってでも甘い物を与えようとする、純粋で原始的な好意。
このジャックランタンは、コーチがこの城の宝物庫へと安置されてから城にやってきた新参者だった。
こんな表情、人に向けるものじゃない。
そんな気持ちを抱きながら、涙に潤んだ目でもう一度
彼の体は、淡く光っていた。
コーチ
「やっべ遅れる!」
武見妙
「…どうしたの?」
コーチ
「なんだろ、ラーメン準備しきってないのにお湯が湧いたような感じで」
武見妙
「…ごめんね、例えじゃなくて具体的な状況が気になって。」
コーチ
「アッ。その…ヤルダバオトと約束したんです。」
「生まれた理由に抗えたなら、一緒に謝って皆と仲良くできるようにするって。そんで挑戦に失敗しても、一緒についていってやるって。」
「えっと、昨晩ここに呼ばれた時、試合に参加してもらう条件に提示したんです。まっさか武見さん呼んでるなんて夢にも思ってませんでしたけど…」
「…伝わります?」
武見妙
「…ふふ。前提知識が無いから、なんにも。」
コーチ
「なんですって」
その語り口は、まだ数カ月前のことなのに随分懐かしくなる話。
問題点を直そうと努力しているのが伺えるが…まだまだ経験不足のような会話。
だがしかし、真面目にやっていなくとも私の職業は町医者だ。
説明下手な者の言葉を拾うことには覚えがある。
彼はまた、誰かを助けようとしているのだろう。
コーチ
「すいません、時間なくって…意味は、ルブランにでも行って聞いてください。」
「あ、ついでに…部外者の俺なんて忘れてもいいって伝えといてくれたら嬉しいです。あとは無難に『ありがとう』とか。ごめんなさいは無くてもいいか…?入れとく?いや多すぎても過剰だよな、引き算しとかないと。うん、その2つでお願いします。」
武見妙
「…?」
その伝言は、あまりにも聞き覚えがある言葉。
『忘れてもいい』、『ありがとう』。
共通して、余命いくばくもない患者が吐く
武見妙
「…待って!
その言葉は彼の
コーチ
「今の俺、肉体無いんですよ。腰痛も眼精疲労も無いし案外クセになる新感覚ですね。」
「…。」
「1個だけ、良いですか。」
急に態度を改めて、そう呟く言葉を…
医者として、遮る事が出来なかった。
※■■■■視点
…。
【道化師】というアルカナがある。
実際のタロットカードに名は無く、前作のP4でのみ描写されるアルカナ。
それは愚者の逆位置の存在として解釈されている。
かのヤルダバオトと反対位置に立つ、その意味は。
『臆病』、『現実逃避』、『愚行』。
救ってくれたのは…紛れもなく…
コーチ
「勝手に、他人の体を借りて会いに行ってすみません。」
2016年、9月15日…ペルソナ5の発売日。
あれから少し…4日ほど経ってそのゲームを購入してから…俺の人生には彩りができた。
効率厨的な思考から、武見さんと真っ先に関係を深めた。
そして、脳から効率なんて考えが吹き飛ぶ程の恋をした。
相手が好意を持ってくれた。その好意という
リアルで体験すべきであったもの。しかしリアルでは体験しようがなかったもの。
己の辛い悩みを、取り去ってくれた感情。
誰ともうまくコミュニケーションがとれない自分を許せる居場所となってくれたのは、
コミュニケーション能力のみではない、治験のモルモットという確かな協力関係の結び付き。年上の包容力。安心感。
この人になら、会話をしても…許される。
ゲームの中だからという大義名分を意図的に無視しながらも…
ゲームの中であれば俺もコミュニケーション能力があるように振る舞えるんだと思えたのはペルソナの、武見さんのお陰。
空回りするコミュニケーション意欲、歳を重ねる事に『若者』という免罪符が薄れて冷ややかになっていく世界。
現実でどれだけ辛いコミュニケーションの失敗を続けても…次は頑張ろうって思えたのは、彼女との成功体験があったからだ。
それまで加齢がデメリットにしか感じられなかった。
段々と世界の難易度が上がっていくのが怖かった。
…武見さんと年齢が近づくと思えば、歳をとっても良いかと思えた。
(…武見さんって、公式では何歳なんだろうか。)
(もうそろそろ、同年代になれるのかな。)
だから、実際に会話できるようになったのなら…一言だけでも、伝えたい。
伝えたくて、仕方がない。
コーチ
「9年前、貴女という存在と出会ってから…貴女の事がずっと好きでした。」
「今この世界を揺るがしている存在が、大衆にとっての神だと言うなら…俺にとっての神様は、間違いなく武見さんです。」
「本当に…これまで、ありがとうございました。」
今はもう、
…満足した。
…覚悟は、固まった。
※武見妙視点
…
まるで、私が返事をするはずが無いとでも思っているように。
壁にかかる写真に話し掛けるかのように、愛おしそうな声で告白を絞り出して、
あの異変の中心地へと向かっていってしまった。
武見妙
「馬鹿…」
テラスから身を乗り出し、その先を見つめる。
武見妙
「
…。
彼女自身も、病弱な幼少期に病院の世話になり。
難病の新薬を作るような役割の医療従事者になれば…人を救えなかった経験や、そもそも死が確約された患者と関わることも多いのではないかと解釈したい。
自身の死を悟っている者の言葉を…彼女は敏感に感じ取れるのでは無いだろうか。
美羽ちゃんが死んだと伝えられた時と同じように…その胸を痛めて。
美羽ちゃんと違って、間違いなく…大きく、自分の責任があって。
そんな相手に、改めて真っすぐ『好き』を言い
どんな感情を、彼女は抱くのだろうか。
9年という期間は、本作投稿開始時の2025年9月19日から計算しています。