鴨志田転生~ペルソナ5一番の嫌われ役に憑依転生してしまったが、原作知識の力で雨宮蓮に代わって怪盗になり破滅フラグをへし折ってみせる!~ 作:DreamFrog
『死』への恐怖というのは、大きく分けて2つあると思っている。
今ある積み重ねが全て消える恐怖と、
誰も知らない未知の領域に足を踏み出す恐怖。
だから、積み重なったものをむしろ消したいと望む者は…既知の地獄から逃げようと、その未知の場所に安息があることを願って自ら死んでいく。
…屋上から飛び降りた、鈴井志帆のように。
だから、ヤルダバオトのその2つの恐怖に対して…俺は寄り添ってやりたかった。
斑目一流斎を取りこぼしてから、もう二度と取りこぼしたくないと感じていて…
だから、どちらに転んでもヤルダバオトも怪盗団も救いがある選択肢を選んだ。
知識を持っているだけのただの人間がなし得るには過ぎた願いだとは思う。
だから、
主人公のような決意に俺は燃えていた。
『…けど、こんな終わり方かぁ…。』
…。
目が覚めると、知らない病院だった。
武見内科医院ではない、俺の知らない病院。
点滴が繋がれた腕は、
…元の、自分の体だった。
当然、思いつく推測。
(元の世界に、帰ってきたのかなぁ…。)
ため息が出る。
俺が世界を移って居た間、何日経ったのだろうか。
ログインボーナスは当然として…仕事はどうなったのだろうか。
無断欠勤はしていたのだろうか。
クビとなっていたら、キャリアやお金はどうなるのだろうか。
納められなかった税金、家賃、光熱費…この病院の入院費もある。
金のかかる趣味はしていなかったから金はあるが、あまりにも手間が多い。
それに、理不尽に金が持っていかれる事が辛い。
眼鏡を掛けておらず、視界はぼやけている。
…しばらく、そのまま現実をはっきりとは見ないで居たかった。
開きっぱなしの病室の扉。その奥で誰かがこちらを見ていた
裸眼でよく見えないが、恐らく白衣を着ている医者。
ぼんやりとそちらを見やると医者は何処かに引っ込んでいく。カルテの類を取りに行ったのだろうか。
…現実を見ないといけない時間が来てしまった。
床頭台*1を見やれば黒いシルエット。
手で探れば俺のお気に入り、ペルソナコラボ商品の眼鏡が見つかる。
雨宮蓮の眼鏡を再現した黒いウェリントン形の眼鏡。
新品のように綺麗なのは、病院の人が消毒とかしておいてくれたのだろう。
…思い出して、辛くなる。
結局俺は、聖杯を助けられたのか?
…アレだけ鮮明に見ていた夢も、こんな程度の繋がりしか無くなってしまった。
こちらに近づいてきた医者を前に、どうやって話したものか考えながら眼鏡を掛ける。
見たくもない現実が、鮮明に見えてくる。
武見妙
「おはよ。よく眠れた?」
『!?!?!?!?』
ビーッ!!ビーッ!!ビーーーッッ!!
武見妙
「あ、ちょっと!バイタルが!」
何かの発作にしか見えない急な心拍数の増加と発汗に過呼吸。
絶対に誰かしらダッシュしてきている足音を聞きながら、どうにか落ち着こうとする。
…。
武見妙
「あのね?今改心だなんだって心因性の過呼吸やバイタル異常が続出してるの。」
「まさしく今の君の状態。異常が出たら対策チームが飛んでくるから、控えて?」
『申し訳ありません…』
現在、寝転がる俺の真横には武見さんがおり。
思いっきり処置対応され色々と確認されてしまった後、武見さんに手をバインダーでぺちぺちと叩かれている。(ガチ嬉しいが嬉しすぎて現実味が無い)
『あ、あの〜…ここって一体。』
武見妙
「病院。大学の先輩が居るとこ。」
「研究開発チームのリーダー、アレから正式に受けたんだ。今は改心者向けの精神薬の製品化進めてるところ。人手が足りなくてヘルプに入ることもあるけどね。」
『あ、なるほど〜…初めて来ました…』
武見妙
「当然でしょ。」
なんとまぁ驚いた事に、ここはまだペルソナの世界で。
東京に山ほどある病院のうち1つ、武見さんの職場だった。
武見妙
「…勝ったんだ。」
『?』
武見妙
「目立つから仕舞っておいたんだけど…」
椅子を転がして、武見さんが床頭台の前に来る。
戸棚を開いて中から何かを取り出した。
…金ピカに光る、杯。
『おぅわそれって…』
武見妙
「私が受け取ったのは、君と君についての手紙にこのトロフィー。」
「ラヴェンツァって子が運んでくれたんだ。また目が覚めた頃に会いに来るって。」
歯車に、翼がつつみ込んでいるような意匠。
それは少なくとも自分の記憶ではつい先程まで見ていたもので…
メメントスのオタカラ、聖杯が随分可愛いサイズで置いてあるのだった。
武見妙
「…あの子、なんで重いトロフィーと成人男性を一人で抱えられたの?」
『う〜ん…
武見妙
「…まぁいいや。」
「血液検査の類は軒並み不健康だけど…危険なのは無し。目が覚めたらいつでも退院できる状態だから、今夜帰ろっか。」
『…あ〜、その。前に調べた感じ、俺ってこの世界に身寄りが存在してなさそうっぽくて…』
カルテをめくりながら健康状態を話してくれる武見さんに、申し訳ないながらも現状を伝える。
ヤルダバオトにバレない程度に、ニュースの類で俺自身の痕跡がこの世界にあるのかどうかを調べていたのだが…どうやら俺はこの世界にはまるっきりそのまま存在しないらしい。2016年当時の若い年齢の俺自体でさえも、だ。
自分自身の運命を変えることができない悲しさではなく、この世界では同じように苦しんでいる俺が存在しないことを喜びを感じたのを覚えている。
武見妙
「?」
お前は何を言ってるんだ、とでも語るようなきょとんとした可愛い顔。
『あ〜、その。帰るってどこに?』
武見妙
「私の家だけど?」
『!?!?!?!?!?』
ビーッ!!ビーッ!!ビーーーッッ!!
武見妙
「あ、また!」
…。
武見妙
「…はい、入院延長決定。」
「自分が今機械に繋がれてること理解してくれる?」
『すいません…』
武見妙
「そんなに病院が好き?」
『大好きです…』
武見妙
「私は?」
『大好きです…』
武見妙
「…良い子。」
褒められてしまい、無条件に嬉しくなる。ふふ…
武見妙
「あーあ。何であんな事言っちゃったんだろうな…」
『…?』
武見妙
「ラヴェンツァちゃんがひとまずの置き場所をって言ったから、この病院に入れたんだけど…正直、その後は何も考えてなくって。」
「それで2,3日したら、何を聞きつけたか知らないけど御船さんって人がお見舞いに来たの。」
武見さんが話すのは、アレからがわかること。
メメントスとの融合が解かれ、カモシダパレスも消滅した後…武見さんはラヴェンツァさんの頼みで俺をここに連れてきていたらしい。
そして、御船といえば我らが運命コープのスーパー占い師の事なのだろうが…
武見妙
「御船さん、『私は訳知りなので、師匠を引き取って匿う』って言って聞かなくって。」
「…つい、訳は私の方が知ってるから私が引き取るって言っちゃった。」
「はぁ…。キャラじゃなかったな。」
…!!!
なんとまぁ、聞き間違いで無いのなら。
消極的な『そうするしかない』系の理由ではなく、自分から俺の事を匿ってくれるのだと目の前の武見さんは話した。
そしてもう一つ、これまた聞き間違いで無いのなら。
武見妙
「訳のわからないスピリチュアルな伝言だけど…『貴方のこれからの運命が、幸多からんことを祈っています。』だって。」
…御船さんが、その手で。
俺の運命を切り開いてくれていたのだった。
繰り返す、自身へ与えられる恩恵に驚いて何も言えずフリーズしていれば…武見さんは俺の顔を覗きこんでくる。
顔を触られ、前髪をかき上げられた。
『!?』
武見妙
「耐えたね。良い子。」
「…うん、目鼻立ちは合格かな…表情筋とニキビはマストとして、髪型何にしよっかな…」
『あ、あの〜…何を見ていらっしゃって…?』
武見妙
「…私の事、好き?」
『え、あ、はい。大好きです。』
武見妙
「私、正直言ってタイプじゃないの。」
『!?!?!?』
武見妙
「だから、
「食事、運動…薬は、何を処方してあげようかしら。」
「ちゃんと、全部守ってくれるよね?モルモット君?」
バインダーで口元を隠して、いたずらに笑う武見さん。
目元だけが見える、原作のカットインの様な表情。
それを原作で一切見たことのない構図で見る。
数あるゲームプレイヤーとして覗き見ているのではない。
俺だけに、武見さんが自分の意思で見せている。
武見妙
「ラヴェンツァちゃんから聞いたけど…コーチって名乗ってたんだ。」
『あ、はい。その…勝手に改心されたみたいに振る舞うカモフラージュで、鴨志田卓のコーチのフリしてて。』
『その…呼ばれたくなっちゃって。コーチと呼んでほしいって鴨志田に言ったんです。』
武見妙
「なるほどね。そりゃ、呼ばれたいか…」
バインダーが口元から外れ、代わりに手に持っていたのは青い便箋。
蝶の意匠があるソレに書かれている、恐らくは俺の素性であろう文書を読んで、クスリと微笑む武見さん。
武見妙
「今はゆっくり休んで。まだ、一カ月も経ってないから。」
「退院したら、私の家に置いてあげる。…私好みのオトコに育ててあげるから、覚悟しててね?
あっ、あっ、あっ。
その、
河内幸一
「…きゅう。」
…。
あまりの幸福に気を失う、
聖杯はソレを見て笑うように歯車を回した。
…。
死神のアルカナが示す1つの暗示。
『物語の終わりと新しい始まり』。
彼はまた、この世界で目を覚ます。
明日も、明後日も、これからも。
この、夢に見ていた世界の中で。
のそりと起き上がり、周囲を見渡す。
いつもの寝室。我ながら趣味が良い。
昔、海外遠征の際に気に入ったフレグランスオイルとアロマディフューザー。
紺色のセミダブルベッドに白い壁、間接照明…
寝室は、あれからきちんと整え直してある。
部屋の外に出ると、
キッチンには生活感が色濃く残っている。
部屋に馴染んできたヨーグルトメーカーから完成したヨーグルトを取り出し、冷蔵庫からジャムを取り出す。
夏頃に仕込まれた、悪魔の果実を使った一品だ。
馴染ませておくために、軽く混ぜる。
メダル記念に奮発して買った輸入品のソファに座ると、ガラスのテーブルを挟んでテレビが見える。
左右にスピーカーを備えた、音響に拘ったテレビだ。
もっとも、テレビの下部の棚からはDVDを軒並み片付けているが。
…廃棄するつもりだったが、校長が全て引き取って行ってしまった。
スマホを指紋認証で開いて、スケジュールを確認する。
今日は仕事は無い。
代わりに、大きな用事がある。
スマホをポケットにしまって、ため息をつく。
…。
洗面所に行く。
歯磨き粉を使って歯を磨く。昔にCMを勤めて以来、俺の歯磨き粉と言えばこれだ。
口をゆすぐ。
ローズフレーバーの品がある歯磨き粉の味を洗い流し…
洗顔料を出して、顔を洗い始めた。
体が自然に動く。
いつも通り、肌の調子は悪くない。
洗顔料は高けりゃ良いものでは無く、肌との相性だと改めて実感する。
タオルで顔を拭いて、化粧水で肌を整えた。
階段を上がってリビングに戻り、朝食をとる。
今日の手筈を改めて確認し…服を選びにクローゼットへ。
…。
車を停める。
インターホンを鳴らし、家主が出てくるのを待つ。
花束を持って。普段と、まるで違った服装で。
扉を開けた家主は、泣いているような…笑っているような顔で俺を見た。
鴨志田卓
「約束通り…迎えに来ました。」
俺を、腐っていた頃から見ていてくれた人。
その期待に、俺は応えたい。
川上貞代
「…はい。」
この、もう一度得た『その後』では…
絶対に歪まないでいよう。
ーーー
河内幸一(こうち こういち)
憑依転生者。武見妙や鴨志田卓よりちょっと年下。
あだ名は当然コーチ。
運動神経が悪いために体育で「コーチの癖に」と高頻度で笑われ、
ウケを狙ってブランドのコーチの財布を見せびらかしても誰にもネタに気付いてもらえず財布をカツアゲされ、
キモくて底辺に這いつくばった存在であることから『コーチは
この世界にやって来るまで、自分の名前が大嫌いだった。
名前の初出は第9話。
ーーー
ーーー
聖杯
真なる意味で
イゴールらの協力と、何よりもヤルダバオト本人の意思によって神の座を降りた。
それに寄り添おうとした河内と共に、大衆の心に溶けて消えるはずだった寸前に彼が願ったのは。
大衆への恨み節ではなく、悪
ーーー
あとがき
長らく鴨志田転生をご愛読くださりありがとうございました!
これにて、本作は完結となります!
素人なりに1年頑張って書いたラブレターは、皆様のペルソナ5の記憶を振り返る機会となりましたでしょうか?
ペルソナ6や4Rなどなど、ペルソナの歴史はこれからもガンガン続いていきます!
それまでのちょっとした繋ぎに本作がなれていたら最高に嬉しいです!
そしてここまで本作をお読みいただけた方になら欲張っても良いだろうと、初めての露骨なお願いとなるのですが
ものっすごく励みとなりますので…この機会に評価や感想などをいただけますと嬉しいです…っ!!
最後、本編完結記念にランキングに載りたいです!!評価ください!!お願いします!!
そしてこちらは主人公達のエピローグでございますので
蛇足になるやもしれませんが、『おまけ その後の世界』と銘打った章をのんびりすこしだけ連載させていただければなと考えております!
まだ煮詰まりきっていない部分もありますので1話投稿した後は少々時間を頂きますが、また2日に1話ペースで投稿予定です!
もうちょっとだけ続くんじゃ…