あるいはマッチ売りの少女

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白草四音の夢

昔から姉に否定されて生きてきた

 

最初の夢は、『白草月花』だった

物心ついた時には既に、『白草月花』という個は完成していた

持つものが持つがままに立ち振る舞う

威風堂々、その凛々しい姿に憧れていた

姉と同じ道を歩もうとするのは必然であった

しかし、アイドルとしての『姉』は正しく嵐そのもので

姉のようになれると思っていた心ごと砕かれるのは時間の問題だった

憧れは、理解によって反転し

自分にとっての『姉』とは、そういうものになっていた

 

最初の夢が燃え尽きた。

 

 

次の『夢』は、女の子でもカッコ良くなれると

別の可能性を示してくれた舞台の『有村あきら』だった

一人称が『ボク』だった頃

ダメだ。変だ。無駄だ。と姉から言われていた昔の『ボク』

 

諦めたくはなかった。

 

自分もあんな風にカッコよくなりたかった

憧れに近づきたい

『カッコいいボク』になりたい

いつか『ボク』を認められたい

そう励んだ

 

その憧れの『有村あきら』はすぐに舞台をやめ、有村麻央としてアイドルを目指し始めた

姉の言った通りだった

結局『ボク』はダメで、変で、無駄だった

ボクは『私』に矯正し、髪も伸ばし始めた

 

ボクの『夢』は、あっけなく燃え尽きた。

 

 

 

次の私の『夢』は私より年上でありながら妹キャラを演じる『リナぽよ』だった

売れないなりに頑張る

私の、かわいいかわいい妹

その姿に親近感と、傷の舐め合いのような憐れみを感じていた

何処か生温かな泥に沈み込むような澱みを感じていたが、居心地は良かった

泥の中で必死に踊る、私の妹

感傷は いつの間にか私の感情を揺さぶり

沈み込んだ心が微かに燃えるのを確かに感じた

私の唯一無二の妹だった

私が妹であることを忘れさせてくれる

大切な妹だった。

 

その推しの『リナぽよ』は妹を辞め、年下の姉として売り出し始めた

そうすると、今までの売れなさが嘘のように売れ始めた

 

私の大切な『夢』は、跡形もなく消え去った。

 

『出来損ないの妹』は『なかったことにされた』

『姉は売れて』『妹は売れない』

『姉になれない妹』

自分が根本から否定されているようで

何処からも居場所がなくなったようで

頭がどうにかなりそうだった

 

そして今

『みんなのお姉ちゃん』が『妹』である私の前に立ちはだかっている

私と『リナぽよ』は妹ですらなかった

私たちは『妹』であることですら

『姉』から否定されてしまった

私たちは『踏み台』にすらなれなかった

私は『夢』を見ることさえ。

 

私は、ボクは

一体 なんだったのか。

 

 

 

光り輝くステージ

スポットライトで照らされる星々たち、爛漫の舞台

 

その暗がりの、端の隅っこの、燃え尽きた残骸。

 

遠くの熱気で冷え切った床に座り込み、ちぢこまり

冷える身体が愉しげな耳鳴りの底に沈み込む

 

 

昔から姉に否定されて生きてきた

 

これからも

ずっと、そうなんだろう。


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