催眠ポケモンメガカラマネロとの理想的なカラマれ方   作:あいいろ ののめ

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作品タグ:『R-15』『ガールズラブ』を追記しました。
 ガールズラブは正直要らない?と思うのですが、保険的な意味を含めてます。


phase9『決意』

 秘密基地に突然落ちてきたピジョットは怪我こそしていないけれど、広場の隅でとても苦しそうにしていた。

 

 そんな時、広場を渦巻く風が鳴りを潜めたと同時に、鋭い刃のような風が吹き荒ぶ。それは乱気流のように不規則な勢いで周囲に余波を巻き起こした。

 広場の大きな樹が根元から揺れ、建物の窓には風が叩き付けられ、あたしの横に居たヒトモシに向かって突風が飛んで…。

 

「…あっ!?」

 

「モシ…っ!?」

 

「っ任せて!」

 

 風で軽々と浮き上がったその小さな蝋燭のようなヒトモシを、壁に打ち付けられる寸前でルミヤが受け止める。

 

「大丈夫ヒトモシ…意外と君の頭の青い炎は熱くないんだね?」

 

「ヒトっ!!」

 

 ルミヤはヒトモシを床に降ろすと、両手で別々のモンスターボールを取り出して声を上げた。

 

「コイル、ひかりのかべで防御を整えて!マーイーカはサイドチェンジでケガをした野生ポケモンを一箇所に集めるよっ!」

 

「コイッ!」「マイっ!」

 

 身の、竦むような思いだった。

 突如深さも分からない落とし穴に突き落とされるような恐怖、どこに伸ばそうとしたのかも分からない指先が震える。

 

―――…生きた心地がしない。

 

 その感想が何一つ比喩の無い今という現実を示す全てだった。

 

「コイルは私と一緒にひこうタイプに有効なでんきショックでアレを引き付けて、マーイーカは隙を伺ってイカサマで少しづつ削るよ!」

 

「ピジョォアァ!!」

 

「! サイドチェンジ!!」

 

 ピジョットの注意がマーイーカに逸れた瞬間マーイーカがその場から掻き消えて、代わりにルミヤの傍に居たコイルが入れ替わるように現れる。

 風で作られた竜巻はコイルにダメージを与えるけど、致命傷には至らない。

 

「マーイーカ、もう一度サイドチェンジでコイルと入れ替わって…そのまま『いばる』!

 ピジョットがいばるで混乱状態の内にコイルの手当てを済ませて体勢を立て直すよ!」

 

 傷付いた野生ポケモンが並ぶ様子は、まるで大昔のカロス地方で起きた戦争の野戦病院の一端を体感してるような酷い有様だった。

 あたしの周囲には酷く衰弱した野生のポケモンが散乱しており、暴風の余波が鼓膜を揺らし、ルミヤの普段聞くことの無いような鋭い声がひっきりなしに脳内で残響する。

 

「…ムクちゃん(・・・・・)!」

 

「…!!」

 

「傷付いたポケモン達をボールに入れてポケモンセンターまで運んであげてっ!」

 

 ルミヤのひと声で現実に引き戻された。

 喉奥に詰まっていた呼吸が急速に始まり、硬直していた肉体の震えが止まる。

 

(っ急がなきゃ…!)

 

 ルミヤがピジョットを何とかしている間に、ポケモン達を助けるのが今のあたしができる事。怖くて脚のもつれそうになる度、無理矢理にでも動かす為にその言葉を何度も頭の中で復唱する。

 

 

 

 

 

 ポケモンセンターに辿り着くと、色んな人があたしを驚いた目で見ていた。

 それは全力で走ってきたせいで髪が乱れてるからか、それとも腕いっぱいに弱っているポケモンの入ったネストボールを抱えて来たからなのか。

 

 ポケモンセンターのジョーイさんも一瞬言葉をどもらせていた。でも、あたしにとってそんな事はどうだって良かった。

 

「この野生ポケモン達をお願いします」

 

「ちょっと貴女どこに…!」

 

 ジョーイさんの静止の声も聞かず、あたしはルミヤの居る場所へととんぼ返り。

 

「っ…はぁ…っ…ああ……」

 

 

 こういう時、日頃から少しくらい運動していればと思う。

 

 

 酸素の回らない頭が痛む。

 

 

 

 肺が握り込まれたように苦しい。

 

 

 

 

 口からは乱れた呼吸と共に、自身への諦めを含んだような声が混じっていた。

 

「っ…ルミヤ……!」

 

 それでも体を動かしているのは、最早気力が全てだった。

 

「モシモシ…っ?」

 

「っヒトモシ、あたしは大丈夫…だから…!」

 

 ルミヤの居る場所は路地の奥まった小さな広場、普段なら秘密の場所に相応しいその道も、時間の無い今だけは煩わしさを覚える。

 息を切らしながら階段を登り、石床を靴底が叩く音は煩いぐらい耳に残る。

 

 

…この角を曲がれば、後少し…!

 

 

―――ルミヤを助けないと…!

 

 

 頭にあるのは唯それだけ。

 ルミヤがポケモンバトルで強いのは見れば分かる。それでも今回のルミヤが戦っていたのは、マーイーカやヒトモシの何倍もの体格を持つピジョット。

 

(あたしが、ルミヤを助けなきゃ……!!)

 

「ッ!? ムクちゃん危ない…!!」

 

「え…?」

 

 予想外の展開。

 

 曲がり角のすぐ先にルミヤは居て、上空のピジョットがソレを追うように羽ばたく。驚きに硬直して身体は動かず、あたしは唖然としたまま両翼を拡げてビル街の隙間の空を覆い尽くさんとするピジョットを見上げた。

 

 その翼から発生した風の予兆は微かに熱を帯びている、ソレは人間が生身で受けていいものでは到底無い。

 

「ひ…っ!?」

 

 悲鳴は心の底からの恐怖だった。でも其れは、身体に来る痛みや恐怖に起因したものでは無かった。

 身を包む浮遊感、空を舞うヒトモシ、頬を掠める熱波。

 

「……」

 

 けれどあたし()無事だった。

 

「…っ……?」

 

……雨、では無かった。

 それよりももっと生温くて、粘ついて、生理的な嫌悪感を催すナニカ。

 あたしは怖くて、顔を上げることができなかった。

 

「ピジョォオ…!!」

 

「!邪魔しないで欲しいなあ…ッ!!」

 

 ルミヤの初めて聴く苛立ちの声色。理性ではポケモン達を護るためのものだと解っていても、怒声に心は恐怖していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…そして、ふとした瞬間。

 

 あたしは周囲が静かになったと思った。

 

「………。」

 

 あたしは恐怖に竦んで路地の隅に蹲っていた。

 

「モシモシ…?」

 

 足元ではヒトモシが不安そうに見上げていて。

 あんなにも風の暴れていた場所が不自然な程に静まっている事を不思議に思い、顔を持ち上げる…

 

「………っ!」

 

 小さな女の子が倒れていた。

 その横にはマーイーカにコイルと、大人しくなった傷だらけのピジョット。そして、跡形もなく崩れた幸福のケーキ…―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――……全部、あたしが弱かったから。

 

『ねえ聞いた? あの病室の女の子の話』

 

『結構有名なモデルさんの娘さんの話よね。あの子、()ジュニアモデルらしいわよ』

 

『でも、もうアレじゃねぇ…』

 

『この前お母様が御見舞いに来てたけど、部屋から怒鳴り声が聴こえたって噂よ。なんでもポケモンは危ないから手放しなさいって』

 

 近くを通り過ぎた看護婦の言葉に耳を塞ぎたくなる。逃げるように早足でその場を後にして、病室の扉に手を掛けた。

 

 

 

 

 綺麗で清潔な白い一室。窓の外には蒼空が拡がっていて、窓際の寝具には外を眺めて黄昏れる少女。

 

「おはよう、ムクちゃん」

 

「…おはよう」

 

 あたしが何を言うか迷う間に、ルミヤは窓の外を眺めたまま挨拶をする。その腕は包帯でぐるぐる巻きにされ、彼女がベッドから起き上がる素振りは無い。

 

「いやあ、ごめんねムクちゃん?…こう見えて実は首を動かすのも大変で、できたら窓側の椅子に座ってくれると話しやすくて助かるのだけど」

 

「……なんでそんな平然としていられるの」

 

「平然とって、それはどういう意味?…まさか私がムクちゃんにやつあたりするとでも思ったの?」

 

「違う、あんな危険な事をしたせいであんたは夢を諦める事になった」

 

「…夢を諦める?…ムクちゃん、私の顔を見て話してよ。

 ほら、私の顔には傷ひとつ無いでしょ?包帯がちょっと大げさなだけで、すぐ元気になるんだから…」

 

「なんでそんなウソを吐くの」

 

「……嘘じゃないよ。夢を諦めるつもりは無いし、やりたい事はいっぱいあるからはやく元気にならないと」

 

 ルミヤの声には抑揚が無かった。

 まるで魂の抜けたような、覇気を感じられない言葉の数々。今のルミヤにはどんな言葉も届かないような気がして。

 

「どうしたの、ムクちゃん?」

 

 それで、むしゃくしゃしてつい言葉を荒げてしまったのだ。

 

「…っどうしたのじゃ無い!あんたが火傷を負ったのは弱いのにあたしが首を突っ込んだせい!ルミヤを見て、あたしもやれるって思い上がったせい!

 なのにどうしてそんないつも通りでいられるのっ!?」

 

「ムクちゃん……」

 

「っ、ごめん、もう帰る…」

 

 そんな事が言いたくて来た訳じゃ無いのに。感情を制御できない自分が居ることに気付いたあたしは逃げるようにその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――…ムク、部屋に居ますか?」

 

 暗くなった部屋の中で抱え込んだ膝の上に顔を乗せて後悔していると、扉の向こう側から兄の声がした。

 

「…今は話したくない。」

 

「ですがムク…」

 

 兄はいつもそうだ。

 人の話は聞かないし、動き出せばサイホーンのように止まらない。あたしがこうしている理由だって……。

 

「…ムクがそうしていたいと思うのには理由があるのでしょう。

 しかしいつかお腹は空きますし、ヒトモシ達も心配すると思います。」

 

「…」

 

「ですからムク、元気になったら一緒に鍛錬しましょう!」

 

 は……?

 

「強さでは解決できませんが、強さがあれば大切なものを守れますから」

 

「…………」

 

「お腹が空いたら出てきて下さい、ムクのために兄がなんでも好きな料理を作りますよ!」

 

(……。…料理がまともに成功したことなんて一度もない癖に。)

 

「………」

 

……静かになった部屋に、一人。

 

「………」

 

『強さでは解決できませんが、強さがあれば大切なものを守れますから』

 

 頭に思い浮かぶのは、最近兄が煩いぐらいに繰り返す言葉。

 

『力こそパワー、力こそジャスティス』

 

 あたしがあの時に挫ける事が無ければ。あの瞬間恐怖に竦む事が無ければ。ルミヤを助けられるほど強く在ることが出来ていたのなら。

 

 

 

 

 後悔を繰り返さないための強さ、それがあたしの持った決意だった…―――

 




 物語の序章はここまで。そしてここからは後書きとなります、作者さんです!
 後書きではZA本編の内容や作者さん視点の考察を含むので、お気になされる方はここで切ってくださると助かります。



 まずムクとルミヤの過去についてですが、人間のヒロインが一人もいないと言うのも味気ないな、という事で。
 ムクの兄が作中でその度を越した境地に至った幼少期の出来事は仄めかされていますが、ムク自身にはそういった描写が見られなかったのでそこに理由があっても美味しいのかなといった理由もあります。
 いや作者さんはずっとカラマネロがヒロインだと思っているのですけどね?…というのは二割ぐらい冗談なのですが。

 本作は一話完結の短編として執筆した関係上、一話時点では主人公ルミヤは名前も出さ無かったのですが、物語が続いてようやく読者さんからもルミヤの一人の人物としての性格だとか個性が感じられてくる頃合なのかなと作者さんは思います。

 物語の序章も終わり、次回からはいよいよ動き出す予定なので、お楽しみにですね?

…あ、最後に是非に作品お気に入りや評価、感想などなど頂ければと思います!作者さんはZAの登場人物やカラマネロちゃんの魅力をあっぴーるしたいのです!

『ポケモン小説って何目的で読むのですか?』という作者さんが気になるだけで設置したアンケート

  • ポケモンが可愛い(等魅力)を求めて。
  • コレもZA作品なんだから熱いバトル!
  • ポケモンゲットのストーリー性
  • シンオウ神話のような設定が読みたくて
  • 推し(人間)のあれそれ
  • なんとなく開いた作品がコレ
  • その他   ...
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