催眠ポケモンメガカラマネロとの理想的なカラマれ方 作:あいいろ ののめ
まだ朝日の昇って間もない早朝。大昔から補修を繰り返してきた伝統的な建物の外壁、フェンスに取り込まれた青いバトルコート、つい昨日までカフェだったと思わしき無人のテラス席。
そこに拡がる景色はまるで小さな
その世界の中に、私のキーストーンを持ったヤミカラスは居た。
そのヤミカラスは誰もいない無人のバトルコートの真ん中に降り立ち、何度も私のキーストーンを嘴で咥えたりして眺めている。
見間違えようがない。ピンクと若草色のリボン、植物のツタを象った金属製の髪留め。
(周囲の警戒が薄れている。今なら、やれ…)
「ルミヤさん!」
―――…ばさり、ばさばさ。
「………。」
無常にもヤミカラスは翼を羽ばたかせてバトルコートから飛び去って行く。私はただそれを眺めている事しか出来ず、やがて諦めると私は振り返った。
「貴方は、シローさん。ムクちゃんのお兄さんの」
「はい!ムクはルミヤさんの事を心配していましたので!」
「あ、ありがとうございます…?」
取り敢えずで感謝の言葉を言ってみたものの、当のヤミカラスは飛び去ってしまった後。
…さて、どうしたものか。
(モクローなら空も飛べるけど、今のここはワイルドゾーン。野生ポケモンに襲われたら普段戦わないこの子じゃ対処できない可能性も…)
「ルミヤさんはヤミカラスを追い掛けていたんですよね?」
「え…うん、そうだけど…」
「だったら自分に任せて下さい!」
何が、そんな疑問を抱く間もなく視界が揺れる。
石畳の並んだ床、鉄の階段、アンティーク調の窓、そして驚き飛び立ってゆく小鳥のヤヤコマ。
私はシローさんに抱えられた次の瞬間、ビルの屋上に立っていた。
まさかこの高さをたった二度の跳躍で…?
「高い所から探せば見つかりますよ!」
奴の飛び去った方角は把握している。しかしたった一羽のヤミカラスを探すというのは、そう容易な事ではない。
「…モッ!!」
(っ見つけたのか、モクロー!?)
「シローさん!!」
「はいっ、何ですか!?」
「ヤミカラスを手分けして探しましょう!私はあっち側を探すので、シローさんはそっち側を!……、…10分後にここで集合しましょう!」
「了解しましたルミヤさん!」
「行くよジバコイル!」
私はボールからジバコイルを繰り出し、モクローを頼りにヤミカラスを追い掛ける。
制限時間は10分、シローさんは悪い人じゃ無いけれど…キーストーンを取り返すには一人で充分…―――
―――…モクローは私の想像通り、ヤミカラスを見付けていた。
(モクローは獲物を捕らえるため羽ばたきも静かで、何より眼が良い。バトルの強さだけがポケモンの利点では無い、その事が良く解るな。
カラマネロではこうは行かないだろ…む。)
私の視線の先にあるカフェのテーブルの上であのキーストーンを持ったヤミカラスは羽繕いをしていた、どうやら畜生の癖にずいぶん優雅な趣味を持ってるらしい。
私は周囲に警戒を払いつつジバコイルに指示しようとした、が…。
(…! 飛び立ったが、今度こそ逃がすか…!)
私はジバコイルを引き連れてヤミカラスを追い掛ける。
―――残る時間は…8分半。
ヤミカラスはビルの屋上よりも低空を飛行していて、クチバシに咥えたキーストーンが時折陽の光を反射する。
(次に飛び疲れて地面に降り立った時がキサマの年貢の納め時だ…!)
空飛ぶひこうポケモンを全速力で追い掛ける私を嘲笑うかのように、ヤミカラスはさっきとは別の屋上の隅に止まる。
「ここか…!」
私がその黒い影を追って屋上に辿り着くと、そこには…。
「ガァーアァーっ!!」
「カラスっ!」
「カラスッ!」
「ヤミッ!カラス!」
「っ…と、これはこれは手厚い歓迎感謝…とでも言ったところかな?」
いつかのヘルガーとデルビルの群れを思い出す光景。しかしそこに居るのはひと際大きな体格のおおボスポケモンドンカラスと、数十羽をゆうに超えるヤミカラス達。
私がヤミカラスを追いかけているように見えたがその実、ヤミカラスのテリトリーへと誘い込まれたらしい。
「モクローとヘルガーは私の近くで待機、ジバコイルは率先してヤミカラスを散らして。カラマネロは…」
「カラ?」
「私が戦えるように後ろ、『全部任せた』からな?」
「…カロロロ」
カラマネロなら私の指示無しでも充分に戦える、むしろ私が今語り掛けるべきは…。
「モクロー!」
「モ…!?」
「あのヤミカラスにリベンジしたいのだろう?」
「モ…モモ……」
「大丈夫だ、私が傍に付いている。最初は支援に徹して貰うぞ?」
私は頭の上で怯むモクローを勇気づけつつ、指示を繰り出す。
「モクロー、追い風!ジバコイル、ほうでん!」
ポケモンの集団を蹴散らすならこの手段に限る。
だがそんなのは畜生だって解って居るのだろう。ドンの傍に立つキーストーンを持ったヤミカラスから向かい風が吹き、ほうでんの終わったジバコイルに向かって十羽以上のヤミカラスが向かってくる。
「フフ…戻れジバコイル!ヘルガー、纏まったヤツらを火炎放射で焼き烏にしてやれ!!」
ジバコイルの居た場所に集まったヤミカラスを今度はヘルガーで一気に打撃を与える。その隙にジバコイルを傍に再展開し、こちらに近付くヤミカラスはカラマネロとヘルガーに守って貰う。
(…流石に忙しいな。余裕があればカラマネロの方に指示を飛ばしたり、他の子で凌ぎつつ回復もしたかったが…如何せん頭数だけは多い)
そんな余裕は無いと見切りを付け、ヘルガーとジバコイルへの指示を優先する。むしろジバコイル達に頑張って貰えばその分だけカラマネロの負担も減る。
それまではジバコイルとヘルガーでサイクルを回しつつ、足りない所はモクローの補助に補って貰い、戦線を膠着状態へと持ち込む。
(時間は…残り2分か!)
想像より時間が掛かった…が。
「ドンカラァ…!カ……?」
「今さら気付いたのか、ドンカラス?…やはり多少知恵が回ったとて畜生風情だな。」
「ネロロロロ…!」
屋上に倒れた、数え切れないほどのヤミカラス。
それらをのしたのは、カラマネロ。
私はその間の抜けた表情を見て、勝者の笑みを浮かべた。
「ヤミカラスは知能の高いポケモンだが、こんな有名な話がある。
それは海の水面で魚ポケモンを啄む海のヤミカラスの習性を利用して、マーイーカが海面で死んだフリをしてヤミカラスを騙して捕まえる…という話だ」
こちらの言葉を理解したのか、はたまたやられた同族への怒りか。より大きく翼を拡げて威嚇するドンカラスを見て、私は声を上げた。
「解ったか?…知恵比べで烏風情が私とカラマネロに勝とうと言うのがそもそもの間違いだ、という事を。
さぁ!お膳立ては済んだぞモクロー!!カラマネロの頭に乗れ!」
「モックロー!!」
モクローがカラマネロの頭の上でポーズを取るように翼を拡げると同時に、ドンカラスの身体を夥しい量のエネルギーが覆う。
それはただのブレイブバードでは無く、ヤミカラスの手助けが入った超火力の一撃。
「モクロー、カラマネロにフェザーダンスだ!お前の力を借りて撃ち合いに勝つぞっ!!」
「モッ!!!」
本来は相手の攻撃性を低下させるフェザーダンスだが、天邪鬼なカラマネロにとっては最高の支援へと変化する。
「カラァッ!!」
衝突で突風が吹く。威力はほぼ同程度…だがッ!!
威力を相殺して距離を離そうとしたドンカラスにカラマネロの腕がまとわりつき、無防備になった状態からインファイトの乱打が襲い掛かる。
「モクロッ!?」
「モクロー!」
私は勝機を見出すもしかし、そこにヤミカラスがモクローへと突撃してきて吹き飛び、一瞬の隙を縫ってカラマネロの拘束からドンカラスが逃げ出す。
「…ドカラス!」
だが、本当に予想外だったのはその後だった。
群の親分であるドンカラスがひと際響く鳴き声を上げると、今まで倒してきたよりも多くのヤミカラスが一斉に飛び上がり、ドンカラスの後ろへと集結する。
その中にはカラマネロやジバコイルが倒したと思っていた、屋上に伏せていた個体も混じっていた。
「ドッドッカラスッ!」
「カァァ!?」
「カー!」
「カァ!!」
ドンカラスを主体に盛り上がりを見せるヤミカラスの群れ。その集団の中から、私のキーストーンを咥えたヤミカラスが軽く羽ばたいて前に出てくる。
「キーストーン、返してくれるの?」
「カラスッ!」
一体、何だったのか。そんな疑問を頭の片隅に持ちつつキーストーンを手に取ろうとすると、ヤミカラスはキーストーンごと飛び去る。
けどすぐにそのヤミカラスは戻ってきた、今度はクチバシに丸いゴージャスボールをひとつ銜えて。
「ボールもくれるの?…詫びの印と言うやつか?」
「カー!!」
「くれると言うなら、有り難く貰っておくが…」
そう言って私がゴージャスボールを受け取った瞬間、ヤミカラスは真っ先にその開閉ボタンをつついた。
「あっ…え?」
流石の私も面食らう出来事だった。その状況や意図を理解する頃には既に、キーストーンを盗んだヤミカラスはボールに入ってしまったのだから。
(自分から捕まっ…いや、元は誰かのポケモンだったのか?)
「ドッドッ!!」
私が困惑する中、ドンカラスのひと声でヤミカラスの群れがビルから飛び立っていく。
「何だったのだ、全く…。まあなんにせよ、グラタンの焼き上がる時間に間に合ったのだから良しとしようか」
黒い群れの背を眺めつつ、私は珍しく振り回され疲れた頃に出た言葉と共に、ホロキャストロトムに掛けてもらったタイマーでムクのお兄さんであるシローさんとの集合時間に間に合ったことを確認する。
「食前の運動にはちょうど良かったな。カラマネロ、今日の朝ご飯は一品増やすとして、何が良いかな?」
「カラネ」
「まだ朝だから眠いのか?…そんなつれない態度は無いだろう、著名な格言にもこんな言葉があるのだぞ?
『人はパンのみに生くるものに非ず、されどまたパンなくして人は生くるものに非ず。』…生命にとって食事と言うものは代替の無い代物だが、ただ食事をするだけが人生という訳でもない。
だが食事とは人生において必ず訪れし『幸福の源』なのだから、しっかり考えるに値すると私は思うのだがね…」
少し早めに集合場所に訪れた私はカラマネロにそんな会話をしつつ、今作れてグラタンと一緒に食べて美味しいものを考えて待ち時間を潰す事にしたのであった…―――
◎解説・設定コーナー『烏賊』
作中で彼女が話していたカラスを捕らえるイカの話は、中国の伝説。烏賊という漢字は『烏』にとっての『賊』という意味なんですね。
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