催眠ポケモンメガカラマネロとの理想的なカラマれ方   作:あいいろ ののめ

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第二章『交わる線と触手』
phase13『戦律』


 

 

 時にミアレシティはクラシックが良く似合う。

 五年前の事件があろうと決して潰えることのない街並みの輝き、闇を駆ける夜烏の群れ、そして…戦いの音色。

 

『お前知…――永遠―Zラ…ク…―――』

 

『また一………狂宴…導か……―――』

 

 狂宴、というのは言い得て妙かも知れない。

 現に『何でも願いが叶う』という甘言に誘われ、近頃はバトルの為にミアレの外からも人が訪れているのを感じる。

 

 其れは正に宴と呼ぶ他ないだろう。

 このような宵の帳に覆われた舞台上で、演者達は狂ったように夜を踊り明かすのだ。

 

「話が違…!永遠のザッ……ず……最…―――」

 

「ええ…確………。―――…う…………マ……!――――――!!」

 

 そして一人、また一人と。

 運命の女神に操られた機械人形の如く、淡い光は数多の星々のように煌めき。

 

 奏で、響き、ステップ(カノン)、アイソレーション。

 

 旋律が聴こえるだろう、塔に幽閉される姫君の唄声が。

 彼女が望むは自らを呪縛より解き放ってくれる王子様か、それとも誰にも触れられない静謐な居処か、はたまた遥かなる塔より見渡す世界そのものか。

 

「時計の針はちょうど一時間。幕は切って落とされ、飢えた獣は駆り立たん…」

 

「おい、お前!」

 

「………。」

 

「チッ、またかよ(・・・・)!…まあ良い、お前もさっさと賞金メダル寄越せ!」

 

 あゝ無情…いや単に風情が無いと云うべきか。

 手に持ったねむけざましコーヒーをソーサーに戻し、組んだ脚を解いて立ち上がる。

 

 振り返った先にはスキンヘッドの見事な男…恐らくミアレギャングと言うものだと直感した。ミアレシティの中で家無しに生活する、浮浪者とも呼ばれる存在。

 ミアレシティは確かに華やかな都ではあるが、誰もが夜空の星のように輝ける場所では無い。

 

「な、なんだよ…?」

 

―――…ポケモンバトルを御所望だろう?と。

 

 少女はゆらりとモンスターボールを翳し、不穏な夜の静けさを纏って問い掛ける。彼もこのバトルゾーンという舞台上に居るのであれば言葉など不要。

 その意図を以て繰り出された筈のポケモンを見て、しかし男は何故か引き攣ったような顔を浮かべた。

 

「クソッ!お前もアイツら(・・・・)の仲間かよッ!」

 

 男は踵を返し脱兎の如く駆け出す、自らの繰り出したポケモンさえをも置き去りにする速さで。

 その背後で影が揺らめく、それは男が『アイツら』と呼んだ物だった。

 

 ゆらり、ゆらり。ひらり、ひらり。

 

 影は夏の生暖かい風のように男を追い掛けた。

 ジメジメと纏わりつくような、鬱陶しがろうと際限のない、男がどれだけ恐怖しようと泥濘(でいねい)へと沈むように足取りは遅々として進みやしない。

 

 男の背を這う汗が自身の恐怖から来たものなのか、酷く息の上がった身体のせいなのか……或いは人ならざる者の指先が其処に触れているのか。

 男は振り返る気なぞ毛頭無かったが、その必要は無かった……それは何故か。

 

「この先に出口が…ッ!…どこからこんな…!?ッ何で…!!…最初から仕組まれて…!?」

 

 狼狽える男が口にしたのは怒りなのか、それとも諦念なのか。

 

 彼の目の前には色鮮やかな星空が拡がっていた。

 

 いや…それは深海だったかもしれない。

 深海に潜む生物はその昏らき世界にて体を輝かせ、光に誘われる獲物を待つと言う。

 男の目の前に拡がる夜空とはその『生態』によく酷似していた。

 

「何でこんな…っカラマネロが居るんだ…!」

 

 そう……男の前に現れた『夜空』とは、闇の中で輝くポケモンだったのだ。カラマネロの胴体に存在する斑点のような小さな光が集まり、まるで星々のように男の前に拡がっていた訳だ。

 

「…クソ!…クソ…ッ!」

 

「…っ」

 

「っ?」

 

「っフフ…っ…♪」

 

「ッ!? 笑ったのか、お前。お前いま…俺の事をコケにして笑いやがったな!?…馬鹿にしやがって…この、クソアマァアアッ!!」

 

 男は最早正気では無かった。数にして三十を超えるカラマネロ達に追い回され、包囲され、外に逃げる事も許されないまま極限まで追い詰められ…男はまともな状態では居られなかった。

 

 そんな時目の前にいた、いかにもか弱そうな少女がフッと。男を滑稽だと嘲笑うように口角を持ち上げてい……失礼。ように、では無く。

 男を滑稽だと嘲笑い口角を持ち上げたのだ、滑稽な姿であることは紛れもない事実なのだから。

 

 憤り、激昂し、苛立ち、ケダモノの咆哮のような男の怒鳴り散らす声。然し意味は無い、或いは意味が無かったとして、男はそう叫ぶ他無かった。

 

 彼等は騙されたのだ。

 

 己がポケモンを思い上がった自身の力と信じ込み、己を舞台の主役と信じて止まず、己の無知蒙昧さを顧みなかったが故に。

 

―――…泳がされて居たのだよ、最初から。

 

 バトルゾーンに集まった参加者が潰し合い、賞金メダルを集めた後…ゾーンの全ての入口からカラマネロの部隊が立ち入り、追い込み漁のように弱った獲物を狩り尽くす。

 賞金メダルという些細な小銭を逃すまいと入口のカラマネロから逃げようとすれば、自ずと獲物は『私』の所へとやって来るのだ。

 

…激昂する男の呆気ない幕引き、それは指揮者が檀上から定めたように不変の結末だった。

 

 それでも夜は明ける。

 それは彼が舞台の主役では無いことを、残酷なまでに指し示しているようだった…―――

 

 

 

 

 

 

 

 

―――…V…U…………Nランク、初めての作戦にしてはまあまあの戦果といった所か。

 

「…くぁ……然しバトルゾーン中心での待ち時間は退屈だったな。バトルゾーンではいついかなる時も不意を突かれかねないとは言え…カラマネロ、今夜の仕事は少々過保護だったんじゃないか?」

 

―――…私は振り返り、そこに立つ『私』へと話し掛けた。

 

 しかし返ってくる声は無い。

 代わりに在るのは人形のように綺麗で無機質な青白い少女が機械的に笑みを浮かべる姿。

 

「……」

 

『私』は無言で佇み、静かに一礼するとそのままテレビ映像が途切れるように消えてしまう。

 

「人形にしては随分表情豊かなものだ」

 

 それはホロキャストロトムによって映し出された、ただの虚像だったのだ。

 純粋な技術のみで投影されたルミヤは当然意志を持たない。だが高度に発達したメガカラマネロの知能であれば、ポケモンバトルで人間の指示を偽装する事など容易い。

 多数のカラマネロによる包囲網と、二人(・・)のルミヤによる内側から食い破る双牙。

 

 その作戦を成功させられたのは他でもないホロキャストロトムによる映像の立体投影、そして……。

 

「『マジカル交換』…世の中は便利なもので溢れているな、カラマネロ。

『名前も知らない相手同士でポケモン交換ができる』だなんて、これほど都合のいい手段もそう無いだろう?」

 

 私はホロキャスターの『脆弱性』を知っていた。いや、正確にはカロス地方で使われるホロ技術に共通する…『裏口(バックドア)』の存在か。

 それは恐らく現在のホロ技術の前身であるホロキャスターを作ったフラダリラボが搭載した、フレア団が情報収集するために作った回路。

 もちろん肝心なセキュリティがあんな大事件のあった後、そのまま使用されている訳では無いが…幸い私には巧妙に隠されたバックドアを詳しく調べるだけの伝手があった。

 

 なので私はマジカル交換の相手の情報を少々覗き見て『ZAロワイヤル参加者』にカラマネロを送り出したのだ。

 

「だが…ZAロワイヤルの参加者という事は少なくとも何か叶えたい夢があるのだろう、カラマネロ達はその手伝いをしているに過ぎない。

 事実として私からカラマネロを受け取った者はその殆どが昨晩の内にランクアップ戦を行っている、作為的だろうと夢の成就に近付くランクアップを喜ばない筈はない…そうだろう?」

 

 いくら私が二人居てもバトルゾーンの参加者全員を倒すには手が足りないし、カラマネロの包囲を強引に抜けようとする血気盛んな参加者も当然居る。

 なので余った分は私以外で分けるべきだと考えた、そうすればカラマネロの持ち主もランクアップ戦に挑めて、尚且つ戦力はカラマネロだけでもある程度保証される。

 

……ただし、この作戦には重要な問題点がひとつ存在していた。

 

(連戦による消耗…今はまだランク帯も低いのでメンバーの負担もそこまで大きく無いが、これからランクが上がり同じレベルの相手に近付くほど、連戦によるポケモンの疲労は単なる戦力低下という話では済まなくなる。

 ムクちゃんのようにメガシンカを使う相手をするなら、コンディションは可能な限り高めた状態で対戦に臨みたいが…)

 

 それもまた難しい問題だと言える。

 ZAロワイヤルにおいて既に私は他の参加者に対して出遅れた状態であるのだ。

 

(最前線に追い付くには必ず今のペースが必須…いや、ZAロワイヤルのランクを上げるだけが目標なら、それこそメガカラマネロの統制下にあるトレーナーを使ってバトルゾーンで八百長試合を組むことは容易い。

 しかし今の私の手持ちに充分な実戦経験を積ませなければ、上位ランクで勝ち残ることは難しいだろう。

 つまり今以上にペースを上げつつ、上位ランクの戦いでの準備を整えるだけの猶予を作らねばなるまい訳だ。)

 

「…ネロ。」

 

「…?…ああ、疲れたのだな。カラマネロ達の催眠を統括コントロールしているのは他でもないメガカラマネロなのだから。

 では、今日は美味しいご飯を食べてゆっくりと休むとしようか…朝食はカフェでどうだ?」

 

「ロネっ」

 

「今日はスラロームの気分だ、そこに向かうとしよう。あの店はチョコタルトが美味しいのだ、朝食は…メニューを見てから決めようか」

 

 カラマネロの返事を聞き、私は早速思案を始める。その頭の中では様々なカフェのメニューが思い浮かんでは消えていったが…昨晩の疲れを癒すにはチョコタルトの甘さが恋しい。

 

 私とカラマネロはカフェスラロームを目指し、心を踊らせながら準備を進めるのであった―――

 

 




〇Tips『マジカル交換』
 ポケモントレーナー同士の誰かと何かのポケモンを交換できるマジカルな機能。
 ゲーム本編では手軽さが売りの交換機能であり、海外産のポケモンが交換されてきたり、上級者の孵化厳選した孵化余りのポケモンが手に入ったり、偶に育成済みの即戦力が流れて来たり、ランダムなのでもしかすると伝説のポケモンが手に入る…かもしれない。

…が、誰でも交換が行える仕様上、ゲームでは改造ポケモンが流れてきたり、ルミヤからはカラマネロが送り付けられたりするので気を付けよう。

『ポケモン小説って何目的で読むのですか?』という作者さんが気になるだけで設置したアンケート

  • ポケモンが可愛い(等魅力)を求めて。
  • コレもZA作品なんだから熱いバトル!
  • ポケモンゲットのストーリー性
  • シンオウ神話のような設定が読みたくて
  • 推し(人間)のあれそれ
  • なんとなく開いた作品がコレ
  • その他   ...
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