催眠ポケモンメガカラマネロとの理想的なカラマれ方   作:あいいろ ののめ

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第一章『少女とカラマネロと』
phase1『メガカラマネロとの理想的な付き合い方』


―――陸に打ち上がった海洋生物を拾ったことが始まりだった。

 

 少女が観察する限り、その海洋生物(ポケモン)は波によって浜辺に打ち上げられたと言うよりは『海辺から自ら逃げ出して来た』ように見えた。

 

 海の生物が海から逃げてくるなんて不思議なことがあるものだと思いながらも、少女はソレを拾って家に持ち帰ったのだ。

 

 その拾われたポケモンの名前はマーイーカ。体長は約0.4mで大きく丸い目がとても愛らしい、イカのような軟体生物で頭足類…オクタンやオトスパスに近しいと思われるポケモン。

 そして少女が名前と一緒に調べた限り…マーイーカの症状はひんしかつマヒ状態という状況から、海中で天敵のあんこうポケモン『チョンチー』に電撃を浴びせられ逃げた先が陸でマーイーカの干からびていた場所だと推測した。

 

 幸いマーイーカはポケモンセンターに搬送されるとその日のうちに回復した。

 

 

 

 

 しかし、今度はマーイーカが少女から離れなくなってしまったのだ。

 

「あははっ…服の中にまで手を入れて来ないでってば!擽ったいんだから!!」

 

 少女の両親は何度かの説得によって少女とマーイーカを引き離そうとするも、マーイーカの方はひどく少女を気に入ったのかよくじゃれて遊ぶ姿が家の中でも見られるようになっていた。

 そして少女もまた、マーイーカと一緒に過ごすようになってからはよく笑うようになっていたのだ。

 

 

 

 

 

 では、ここから少しだけ少女の話をしよう。

 少女はマーイーカと出会う前から笑ったりしない訳では無かったが、理性的であると言うべき性格をしていた。

 笑顔が人の好意を引き出し、定期的に笑うことが心理的な健康状態にも良いと理解すると自らそれを実践してみることにした。なので周りからは人並みかそれ以上に笑うことが多いと評されるが、その裏側ではいつも『理性』が働いていた。

 

 笑顔だけでなく、自己評価で苦手とする運動も自身よりも上手いと思える相手を観察することで克服し、場合によっては参考として観察をしていた相手から『目標にしている』と純粋な切磋琢磨なのか、はたまたひねくれたお世辞なのか分からない言葉を貰ったこともあった。

 

 ただ、そんな中でも彼女の外面を取り繕う必要のない貴重な時間と言うのがマーイーカと過ごす時間だった。

 

 

 

 

 

「今日のおやつはハチミツ漬けチーゴの実のはなびらの舞風チョコタルトだ、お前も食べるか?…ははっ、その手なのか足なのか解らないものを巻き付けてくる癖はマーイーカの頃から変わらないものなのだな」

 

 マーイーカは少女の成長と共にいつの間にか、カラマネロに進化していた。

 少女もマーイーカの頃とは様変わりした、イカのようなマーイーカを逆さまに立てた目つきの悪い風貌を初めて見たときはそれはそれは驚いたのだが、一番不思議なのは少女がこれといった事をした訳でもないのにマーイーカは何故か進化していた事だった。

 

 その真実は家で両親が飼っていたモクローが首を傾げるのを真似したマーイーカが上下逆さまになった事で偶然進化したという物なのだが、その真相を知るものは恐らく今後も本人とモクローを除いて現れることは無いだろう。

 

「よく頭を使った後には糖分がよく染み渡る、カラマネロもそうだろう?」

 

 彼女のカラマネロは飼い主に似て甘い物が好物だった。

 似たもの同士と言うべきか、波長の合うポケモンと人間同士だったのだと思われる。だからこそ一緒に過ごす時間はお互いにとって心地の良いものであった。

 

「ンぐんぐ…んむ、なんだ? カラマネロ、次はその菓子が良いと言っているのか?」

 

 少女はタルトを口いっぱいに頬張りながら、カラマネロが持つ液晶タブレットに映った未だ見知らぬミアレシティで流行りの洋菓子の画像に反応を返す。

 こうして彼が人間と変わらないレベルで意思疎通を図ることは珍しく無い、むしろそうする事で人間ほど手先が器用では無いカラマネロが意図的に甘味を飼い主に与えて貰っている節さえあった。

 当の飼い主の少女も菓子作りが半ば趣味のようなものでもあったため、カラマネロの主張はまんざらでもないのだった―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――転機が訪れたのは『ミアレシティ』と呼ばれる都市で夜な夜な妙な形式のポケモンバトルが行われていると少女が知った事だった。

 

「ジバコイル、じゅうりょく!」

 

「なっ!」

 

 その戦いにルールは無いと言って良い。夜闇に乗じた不意打ちは勿論のこと、複数人で徒党を組むことも珍しくは無い。

 そんな中で少女は当然のように鋼の身体を持つジバコイルと呼ばれた磁場操作によって宙を浮遊するポケモンの背に乗って家の屋根を渡り、相手の背後の物陰に隠れさせていたもう一匹(・・・・)に指示を飛ばした。

 

「今だカラマネロ!『ひっくり返して』やれっ!!」

 

 狂ったように大きな満月が照らす中心に、名も知らない男の全身が浮かび上がる。そして彼の隣に立っていた屈強そうなポケモンさえもが世界の理に逆らって宙へと浮かび上がってゆく。

 

「カラマネロの『ひっくりかえす』を見るのは初めてか?…図鑑にも知性が高く中々骨の折れるポケモンだと書いてあったからな、研究が未だ進んでいないのだろう…。

 カラマネロ、通称『ぎゃくてんポケモン』…その進化前であるマーイーカとは真逆さまにも見える不思議な姿をしたポケモンなのだが、彼の力は小規模に限定すれば重力さえも逆転させてしまうらしい。

 とは言え、あれ程遠くまで浮かび上がってはもうこちらの声も届いてはいるまいだろうが……」

 

 満月の逆光に照らし出される影を見上げながら、少女は掌の中で夜闇の中に光り輝くソレを眺めた。

 

「ほう、これがメガストーンというヤツか。そしてこっちがカラマネロ…ナイトだったか?…まあ細かい名称などどうでも良いだろう。

 コレがあればこのミアレで行われるZAロワイヤルでも確実に優位に立てる筈だ…そうだろう、カラマネロ?

 

 では早速、その力とやらを見せて貰おうか……」

 

 満面の笑みを見せる少女の前で、カラマネロは小さく笑顔を浮かべ返した気がした。

 しかしその真相は誰にも解らない。例え少女でさえも満月の裏側を見透かすことは叶わないのだから……―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――…時に少女がZAロワイヤルに興味を持ったのは、半分は偶然だった。話を聞く限り、その戦いでは『なんでも願いが叶う』のだと。

 

 そして少女は考えた。

 

―――なんでも願いが叶う噂が本当なのであれば、何かしらの『秘密』…もっと具体的に言えば何でも願いを叶える程の『大きな力』がこのミアレシティには隠されていると推測した。

 

「見ろ、カラマネロ」

 

 そこで次に少女が目を付けたのは、数年前に起きた大きな事件…フレア団と呼ばれる組織が起こした事件だ。

 その事件では『古代兵器』と呼ばれる物を使って、人類を滅ぼそうとしたという。にわかには信じがたい事件だがしかし、遠く離れたホウエン地方でも同様の技術が研究されていた文献を突き止めると…少女の頭にはひとつの推測が浮かんだ。

 

(カロスとホウエン地方、いずれもポケモンのメガシンカ現象が確認されている地域だ。そして最近のテレビ放送では野生のポケモンのメガシンカという異常事態が散見される…。

 そしてこのホウエンでの研究の文面から読み取る限り、ポケモンのメガシンカには普通の進化以上の膨大なエネルギーが放出される…この事から導き出される推測は…)

 

「………!!」

 

(ミアレシティで最近野生ポケモンがメガシンカするのも、ZAロワイヤルでトレーナーを集めているのも、ポケモンのメガシンカエネルギーを集めるのが目的…?

『願いを叶える為』に必要な膨大なエネルギー源が、ポケモンのメガシンカエネルギーということか……?)

 

 少女の推測は空想を含んでいた為に現実とは少し違っている。

 数年前にカロス地方で起きた事件ではメガシンカポケモンではなく、再生と破壊を司るポケモンのエネルギーを利用することで古代兵器を動かしていた。

 だが結論として、ポケモンのメガシンカには膨大なエネルギーが放出される事実自体は合っていた。現在のミアレシティであれば再生と破壊を司るポケモンに比類するエネルギーも充分に手に入るだろう。

 

(…しかしメガシンカ単体の力ですら、かなり大きなものに見えるが……。もしその力を何十、いや何千回と集約した際、どれほど大きな力になるのだろう…?

 そもそもの話、そこまでしないと『何でもは叶えられない』という訳なのか……?)

 

「…カラマネロ、このZAロワイヤルという代物に参加すれば面白い事が出来るかもしれないな」

 

 カラマネロが主人の言葉の意図を図り兼ねて首を傾げると、少女は軽く笑いながら両腕を拡げた。

 

「私の推測通りであれば、どんな願いでも叶うというおあつらえ向きの『エサ』を吊るして、何者かがポケモンのメガシンカエネルギーを集めているとしか思えない。

 その目的が本物の『願望器』なのか、かつて使われた『古代兵器』なのかは知らないが…もし、その技術を奪う事が出来れば。

 私たち二人だけでは古代兵器を動かす事は無理かも知れないが、それこそ『お菓子食べ放題』ぐらいの奇跡なら発現できる…やもしれん」

 

 カラマネロはその賢さゆえに少女が言わんとすることを正確に理解していた。

 古代兵器を動かすにはそれこそミアレシティ中のポケモンのエネルギーを必要とするかもしれない。

 しかしもしメガシンカのエネルギーを利用することで『願い事を叶えられる』のなら、『毎日一緒にお腹いっぱいお菓子を食べる』くらいの願望であれば、一人と一匹のメガシンカエネルギーでも可能かもしれないと言っているのだと。

 

 常人であれば馬鹿馬鹿しい理由だったが、少女とカラマネロにとってはそれだけで充分な理由であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――…メガシンカしたカラマネロはその強力な催眠によって、自身のトレーナーすらも操る。

 

 そしてソレは今回も例外では無い。

 メガカラマネロは即座に黄金の髪と瞳を持つ少女に催眠を掛け、その身体を意のままに操った。

 

 その高い知性ゆえにメガカラマネロは自身の意に沿わない命令を出すトレーナーの人格を書き換え、カラマネロ自身にとって都合の良い主人へと作り変えてしまう。

…では、このメガカラマネロにとっても少女がそうだったのか?

 

 

 

 

 

 メガシンカによってイカで言う腕部の先端が蛍光色のような緑と桃色に光るようになったカラマネロは、その光る腕をまるでトンボの目の前で人が指を回すようにクルクルと動かすと、主人である少女は金色の髪を揺らして動き始めた。

 

「………」

 

 その歩きは確かなもので、傍から見れば少女が催眠に掛かっているとは思わないだろう。それほど強力な強制力を持った催眠術であるという証左だった。

 

 暫くして、少女はメガカラマネロと共に家に帰ると何か得体の知れない意思に突き動かされるようにとある場所へと向かった。

 

「りょ……り……」

 

 少女は慣れた手つきで冷蔵庫を開き、包丁と甘い木の実を手に取るとおもむろにソレを切り始める。

 

「カラマネロ…、でき…ました……よ…」

 

 言葉はやや拙いが、その目の前にはカラマネロの好物であるデザートがこれでもかと作りあげられていた。

 メガカラマネロはそのひとつをひかる腕で器用に持ち上げるとソレをぱくり。

 

「…はい…また作ります………好きなだけ…食べて……良いんですよ……」

 

 メガカラマネロはその手を動かすと甘味を食べながら少女に料理を続けさせた、メガカラマネロは少女の作るお菓子を食べ続けた。

 

「…………。」

 

 しかし、メガカラマネロはどうにも満たされなかった。

 確かに少女の作るお菓子は美味しい、それこそカラマネロがメガシンカして尚求めるほど。

 

 だが彼が以前に食べていたものはいま食べているものとはまるで違った物のように思えたのだ。

 

「っ痛…い……」

 

 その僅かな乱れが強制力の強い催眠にも支障をきたしたのだろう。キッチンで指を切り、反射的に指を舐める少女を見てメガカラマネロは不意に現実に目を向けた。

 

「………」

 

 メガカラマネロのことをぼんやりとピンクとエメラルド色を反射する瞳で見つめている少女を見下ろして、カラマネロはその両腕を振りかぶる―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――…っんん…ぅ……」

 

 少女はとても清々しい朝を迎えた、と思った。

 最近はミアレシティについて調べたりと夜更かしも増えていた為、こんなによく眠ったのは久しぶりだった気がすると。

 

「……なんだ、片腕が随分重…そうだ昨日…」

 

 そして少女は思い出した。

 昨晩自分はミアレのZAロワイヤルに参加し、カラマネロのメガシンカに必要な道具を密かに確保していると言う噂の元を突き止め、ソレを強奪したのだと。

 そして少女は自身の左腕にメガリングを嵌めるとカラマネロにメガストーンを手渡し、そして……。

 

「私はあのまま、倒れてしまったのか。…それでカラマネロが家まで運んでくれたのだろう?」

 

 少女は自身の部屋の寝具の上で腕を枕のようにして眠っているカラマネロの眠る頭を撫でながらそう推測立てた。そうでなければカラマネロをボールの外に出したまま眠るなんてことも無いのだから。

 

「有難うな、カラマネロ……」

 

 少女がその手でカラマネロの頭を撫でていると、その腕を少女の腕に絡ませてくる。

 

「ふふっ、眠っていてもお前は甘えんぼうだな…マーイーカの頃から変わらん…」

 

 少女は腕を絡めるカラマネロを起こす訳にもいかず、仕方ないと言ってしばらくの間は合法的な二度寝を決行することにした。

 

 

 

 そしてまた少し時間が経ち、カラマネロが起きると少女は優しい声色でこう言った。

 

「おはよう、昨晩はどうやらお前に心配をかけてしまったようだな。その詫びという訳でも無いが…昨日準備をしていたプリンがあるから食べるとしようか」

 

 眠い眼を擦るカラマネロは菓子はもう要らないと。まるで夢の中でいっぱい食べたとでも言いたげだったが、少女はそんな事は気にせず用意を始め、ほどなくして二つのプリンを皿に乗せて帰ってきた。

 

 カラマネロは昨夜のせいでやや食傷気味だったが、ここで食べないと主人が心配してまたポケモンセンターに連れていかれると思い、スプーンで一口運ぶ。

 

「はは…っ!そうだろう、そうだろう!手が止まらないほど美味しいだろう!…なにせ今回はいつにも増して手間暇を掛けた特別な一品だからなっ!

 カラマネロもきっと気に入ってくれると最初から解っていたとも!!」

 

「……!!…!!!」

 

 カラマネロの腕か脚か分からないモノがウネウネとして喜んでいるらしいことに、少女も気を良くする。少女はカラマネロの言いたい事は解らないが、その手に持ったスプーンの動きが美味しいと伝えている事だけは理解していた。

 そしてカラマネロ自身も、昨日の夜にあれだけ作らせた物のどれよりも、このプリンの方がずっと美味しいことを理解していた。

 

「何?…美味しい菓子の秘密だと?

…ふむ、いくらお前相手でもそこまで教えられるほど私の口は軽く無い…と、普段なら言いたい所なのだが。

 昨晩の件は私も感謝しているからな……特別だぞ?

 

 

 

 

………それは『愛情』というものさ。とびきりのトッピングに違いない、カラマネロもそう思うだろう?」

 

 カラマネロは一瞬、そのプリンを食べる手が止まる。

 愛情、そんなものが菓子の味に作用を与えているとは思えない。カラマネロの知る理知的な少女像からも非現実的な事を理屈も無く言うような相手ではないことを知っていた。

 

 もちろん彼女の作るお菓子は大抵が美味しい。けれどそれは愛情などという物ではなく、失敗しても尚反省や改善を繰り返し、失敗作のお菓子を『焦げ味がする!』と言って笑いながら食べる少女の試行錯誤の甲斐あっての結果だった。

 だからこそカラマネロはメガシンカによる強制力によって彼女に菓子作りをさせれば、いつでもあの幸福が享受できるとこれまで信じて疑わなかったのだ。

 

「どうしたカラマネロこっちを見…もしかして私の分のプリンまで欲しいのか?……仕方の無い奴だな、少しだけだぞ?」

 

 ミアレシティで行われる怪しげな噂や、かつて存在した古代兵器…様々な陰謀が少女の住まうこの街には渦巻いていると二人は確信を得つつ合ったが、少女の白い腕が支えるスプーンに乗ってぷるぷると揺れるカラメルの絡まったプリンを見てカラマネロはこう思った。

 

 

―――…こんな主人なら今まで通りでもまあ良いか、だなんて。

 




つづかない。

9/29追記: 評価してくれた方々ありがとうございます、執筆中の筆休みにささっと書いた作品だったので意外と嬉しかったりします。




〇少女について
 風貌はXYに登場するエリートトレーナーの幼少期と思って貰えればだいたい良いと思います、ただし作中にある通り髪色だけでなく瞳も金色。
 性格は表向きでは人畜無害を装うが、本来の性格は好奇心旺盛でメガシンカの謎やzaロワイヤルの真実に数年前に使われた古代兵器の正体と彼女の疑問は尽きない。

 菓子作りは完全な趣味だが、その探究心の高さがカラマネロも満足するレベルの高い逸品を作り上げている。
 現在の小目標はカラマネロと一緒にミアレシティ中のお菓子を制覇すること。



『ポケモン小説って何目的で読むのですか?』という作者さんが気になるだけで設置したアンケート

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