催眠ポケモンメガカラマネロとの理想的なカラマれ方 作:あいいろ ののめ
―――…今日向かうローズ地区のバトルゾーンは、高低差のある建物が主軸の場所。
しかし幾らコンクリートジャングルと呼ばれるからと、高低差がどうだと認識する必要があるのだろうかと問われれば…私は『当然』と答える。
まず、ミアレシティにおいてビルの屋上に登るのは大した苦労を伴わない。空を飛べるポケモンの背に乗れることもそうだが、ホロベーターと呼ばれる昇降機が存在するからだ。
それらを上手く扱えばビルを跨いで向かい側の道路に降り、そこを歩くトレーナーの背後を不意打つのもそう難しくない。
つまりローズ地区バトルゾーンでは入った瞬間から頭上に気を付けて居なければならない、かつ屋上であろうと下からのホロベーターによる奇襲も存在する、そう言い換えることが出来る。
「……とは言え、
私はバトルゾーン付近の路地で後ろを振り返り、そこに立っている男に疑問を投げ掛けた。
(体格の良いスーツを几帳面に着こなした強面の男性、目元はサングラスを掛けている以上人相は不明だが、茶髪を頭上でお団子に結んだマンバンヘア。それを結ぶゴム紐に付いたポケモンのフェルト人形のセンスが妙に愛らしい。
スリや強盗の類とは思えないが…家を出てから明らかにこちらの動きに注意を払っていた。)
「失礼、わたくしはクエーサー社のマスカットという者です。
…少々、お時間を頂いても宜しいでしょうか?」
「すみません、先を急いでいるもので…」
と、私が一歩逸れて踏み出した瞬間。自身をマスカットと自称した男が砂音をざりと立てて私の行き先を塞ぐ。
「お手間は取らせません。」
「話を聞き終わるまで通さないと言われれば仕方ないですね、それで要件は?」
クエーサー社と言えばZAロワイヤルを開催している会社だ。無理に通っても状況は好転しないと考え、私は一旦は歩み寄りの姿勢をとった。
「最近、ZAロワイヤルで妙な動きが確認されています。ここ一週間ほどでロワイヤルランクをあげている熱心な参加者である貴方にも心当たりがないかを聞きたいのです」
「『妙』…というのは曖昧ですね、具体的にはどのような事態が起きているのですか?」
「ZAロワイヤルではランクの離れ過ぎた参加者がひとつの集中しないよう、複数エリアである程度のランク分けを行っています。
低いランクの相手とバトルゾーンで戦ってもかえってランクアップには遠回りになる筈ですが、ここのところ参加者が下位エリアに入場する事態が見受けられるのです」
「そんな事が。私が今より低いランクにいた頃は運が良かったのか、そこまで実力差のある人は見掛けませんでした…本当に運が良かっただけで会わなかっただけかもしれませんがね」
私の答えを聞いて強面さんは何を思ったのか、口角の端の下がったままの口元を強ばらせ、それからこちらに脅しでもかけるように首を鳴らしてから会話を続けた。
「………。…では、少し前にバトルゾーン内で起きたメガリングの窃盗については知りませんか?
どうやらクエーサー社で提供したメガシンカ用のキーストーン等が窃盗されたようなのです」
(ギクッ…)
―――『ほう、これがメガストーンというヤツか。そしてこっちがカラマネロ…ナイトだったか?…まあ細かい名称などどうでも良いだろう』
「少し不思議に思ったのですが、警察ではなくクエーサー社の人が捜査しているんですね?」
「警察も動いていますが、今回の件はZAバトルロワイヤルの運営にも関わるので独自調査を進めているのです」
(…一応、スマホロトムに残るような証拠はホロ技術の虚弱性を突いて隠蔽したつもりだったのだがな。いや、まだこのマスカットという男が確信を持ったと決まったわけでは無い。
…私が容疑者Xである事実に変わりはないが。)
「それで、怪しい人を見かけた事は?」
「バトルゾーンでの窃盗事件ですよね…私は怪しい人を見ていませんね。
ポケモンバトルは気を抜けないので集中して他が疎かになったり、夜間、乱戦にもなるので犯行はそこまで難しくないとは思いますが…しかしそれでも得策ではないのでは?」
「何故ですか?」
私は思考を纏め、幾つかの根拠を口にした。
あくまで第三者として、客観的な事実を軸に。
「まず、ZAロワイヤルアプリでポケモンバトルのデータが提供されていますよね?…バトルの不正を防ぐ意味もあると思いますが、誰にも見付からずに犯行を行わない限り、バトルゾーンでは誰彼構わずバトルを行うので必然と同時刻に窃盗犯とバトルしたスマホロトムにはデータが残る筈です。
それを抜きにしてもポケモンには鼻や耳の良い子が多いですから、全部を掻い潜って犯行するのは到底無理に思えます」
「具体的な内容は企業情報なので話せませんが、アプリ利用者のバトルデータ収集は規約に明記されていますね」
「はい、もちろん知っています。これでもZAロワイヤル参加者ですからっ。ところで…そろそろ行っても良いですか?」
「いいえ、もうひとつ聞きたいことが。」
表情をまた一段と険しくしたマスカットさんの言葉に、内心『残念』と呟く。大人しく行かせてくれれば、後でもっと楽な方法で済ませてあげたのに。
「ルミヤさんはメガカラマネロをお使いになられますよね。そのメガストーンは一体、どのようにして手に入れたものなのですか?」
「メガストーン、ですか」
カラマネロのボールをチラリと確認して、それから私は言葉を濁しつつこう言った。
「マスカットさんが信じてくれるか分からないのですが…」
「それでも構いません」
「……。…実は、私のメガストーンは『夢』で手に入れたんです」
「は?」
マスカットさんの唖然とする声を聞き、私はすかさず反論を口にした。
「不思議な話ですが荒唐無稽では無いですよね?…例えばカロスと大昔から親交のあるイッシュ地方では、ポケモンの夢から道具を取り出すなんてもの凄い技術も開発されていますし」
「いや、しかし…」
「…だったら、『確かめて』みます?」
「!ジジーロン!」
私の態度の変化を機敏に感じ取ったマスカットがポケモンを繰り出したのを見て、私も取り繕うのを止めて声をあげた。
「行くぞカラマネロ、ジバコイルッ!」
「ダブルバトルですか、ではヘルガーもお願いします!」
恐らくだが、このマスカットさんは確信かそれに近しいものを持って私に接触してきたんだろう。
ZAアプリの録画映像もしっかり対策したつもりだが、カラマネロのメガストーンを持つ存在に限ればその数は大分絞られる。もちろんその盗んだメガストーンを売り払った可能性を加味すれば、必ずしもメガカラマネロそのものが証拠にはなり得ないが…。
「実力行使だカラマネロ、
「…!ロマネロ…!!」
私はグッと握った拳に力を籠め、それからパチリと指を鳴らして声高らかに叫んだ。
「…確実に仕留めるぞ、メガシンカだッ!!」
私の宣告と同時、マスカットの表情が明らかな驚愕に染まるのを見て私は笑みを口の端に浮かべる、それは何故ならば…。
「…!?事前にZAロワイヤルで確認していた姿とは違う…!?それに…!」
「こういう事もあるかと、念のため隠しておこうと思ってな。
…そうでなくともどちらのメガカラマネロになるか解らないだけで、充分脅威になり得るだろう?」
幸いここはバトルゾーンの外。バトルゾーン付近は夜間人通りが減る傾向にあるので私が普段使うメガカラマネロの情報が露呈する心配は少ない。
…とはいえ念には念を、最速で終わらせるッ!
―――…おはようルミヤ、今日はどうしたの?」
私は紅茶をソーサーに戻してから、声のした方にぱっと笑顔を向けた。
「おはようデウロちゃん。実は…ZAロワイヤルでKランクに上がったんだ」
「えっ!?すごーい!Kランクって…えーっと、かなり上の方だよねえ!?」
「26段階あるうちの11番目って言うと、中々のところまで来た気がするよね。
それで今朝偶然市場でタウニーにあって同じ話をしたら『キョウヤもランクアップしたから今日はお祝いだし』って」
「まあルミヤならおかしくは無いよねえ、メガシンカも使えるんだもんね?」
「まあね」
私が会話にひと息ついて紅茶を飲むと、デウロの後ろからさらに別の声が聞こえて来た。
「もう少し静かにお願い出来ませんか、朝からデウロさんの声は頭に響きます…」
「あ、ピュール。ピュールいまの聞いた?ルミヤが…」
「聴こえてましたよ、今日はお祝いだって所まで全部」
「お祝い自体は今夜なんだけど、今回は私が料理を作るんだ〜」
「え…ルミヤが料理を?…お祝いされる本人が?」
「ふふっ、この前タウニーのクロワッサンカレーを作るときに今度カレーを振る舞うって言ったでしょ? 丁度いい機会だと思ってね。
ピュールくんも満足してくれる最っ高のカレーを用意するよっ!」
私はそこまで言ってから思い出したことを口に出した。
「あ、ピュールくんやデウロちゃんはこのホテルZで足りてないものは無い?…今日のお祝いに使う食材の他にホテルで使う必需品の予備も買い足すから、遠慮なく言ってね♪」
「あんた一人で買い出しに行くんですか?」
それはピュールくんが溢した疑問だった、私が頷くと彼は溜息を吐きながらこう返してきた。
「そうですか…買い出しなら僕も手伝いますよ」
「え?…気持ちは嬉しいけど、良いの?」
「構いませんよ。そもそも備品は普段ホテルに住んでないあんたには関係ない話ですし、それに…」
「あっピュールもしかして、ルミヤがカレーを作ることに罪悪感感じてる?」
「………」
―――…ぷい。
言葉はなくても、ピュールくんがデウロちゃんから背くように視線を避けたことで彼の意図はバレバレなんだけど……ちょっと仕草があざと過ぎるんじゃないかな?
「それじゃあピュールくん、一緒に買い出しにいこうかっ?」
「あっわたしも行くから、置いてかないでよう!」
そんなこんなで私たちは三人で今夜のお祝いの買い出しにお出かけするのであった―――
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