催眠ポケモンメガカラマネロとの理想的なカラマれ方   作:あいいろ ののめ

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作品タグ『ホラー』『ヤンデレ』『共依存』を追記しました。


phase4『信頼』

 

―――石床を厚底靴が叩く規則正しい音が身体中に響く。

 いくら走り慣れていると言っても、人間とポケモンの走力では差は縮まるばかり。

 

(ジバコイルに乗ってこのまま逃げおおせたいものだが…!)

 

―――私を乗せたジバコイルではビルの上まで逃げる前にヘルガーに焼き堕とされるのがせいぜいだろう。

 

(タイプ相性の不利なジバコイルに負担を掛けない為にも、ここはトレーナーである私が…!)

 

「ッ!!?」

 

 まずい、追い付かれる…!

 

 私は物音で背後を振り返った瞬間に大きく跳躍したヘルガーが太陽を覆い隠す姿を見上げ、鋭くソレを見据えた。

 

「……!!」

 

 歯を食いしばって、右腕に力を篭める。

 私は牙を食い込ませようと大きく口を開いたヘルガーの下顎目掛けて自身の握り拳…ではなく握りこんだ捕獲用のハイパーボールを直にぶつけてやった。

 

「ハッ!リーダーが居なければ纏まりもしない烏合の衆め!

 悪いがまだ逃げさせて貰うからなッ!今暫くそこで留まっていろっ!!」

 

…ボールの中に入ったヘルガーの暴れようからも足止めできるのはほんの一瞬かつ、次も同じように上手くとは思えない。

 むしろ跳躍という最大限のチャンスを活かして一度成功させたのが奇跡だ。ヘルガーの反射神経では普通に投げても野球選手並の球速が無けれぱ当たらないだろう。

 

「ちぃ…!」

 

 私は路側の段差に躓きながらもワイルドゾーンを駆け抜け、一気にヘルガーとの距離を離そうとする。だが必死の時間稼ぎも虚しく、ヘルガーは拘束から抜け出すと全速力で瞬く間に迫ってきた。

 

「…行くぞジバコイルっ!」

 

 私は追い掛けてくるヘルガーとは真逆(・・)の進行方角にジバコイルの入ったボールを投擲し、その鳴き声の聞こえる方向に声を飛ばした。

 

「低く構えろ!」

 

 私は一気に歩幅を拡げ、充分に屈むとそのまま飛び上がる。

 背中と頬に肌の焼ける熱さを感じながらジバコイルのなだらかな金属の巨体に足を掛け、そのまま踏み付けて空へと舞った。

 

「この瞬間を…待っていたぞ……!!」

 

 世界が反転する。

 ジバコイルを踏みつけて私はそのまま安全の為に用意された柵を越え、頭から落下しながら逆さまに映るジバコイルに指示をした。

 

「ジバコイル、ほうでんで薙ぎ払えッ!」

 

 私を追って飛び跳ねるヘルガーとそれを更に追うデルビル達の中心でジバコイルの磁石のような腕が電気を纏う。黄色い稲妻が半球状に拡がり、デルビルの金属音によって防御性能の低下した全身に生半可ではない電撃が走った。

 

「…ッぐゥっ!!?」

 

 ギリギリの攻防は私の身体さえをも電撃と炎で焼き焦がしながら、柵を超えた先に拡がる水路の浅瀬を受身で転がる。

 

「っ…はぁ…ッ!はぁ……!っまだ、生きてるか…!!」

 

「ガルルッガァ!!!!」

 

 相当なダメージを喰らわせた筈だが…健在。このヘルガーは恐らく、通常よりも強大な『オヤブン個体』なのだろう。

 

「……」

 

 確信は絶望となり周囲を見回すも、逃げ道は無防備に背中を見せる他ないハシゴのみ。

 

「…………」

 

「ヘル、ガルルルル…!」

 

…背後には、壁。

 紛うことなき窮地……そう思ったか?

 

「…元よりきのみ屋の店主を護る為だ、逃げ道なんて最初から必要ない。必要だったのはヘルガー、貴様を確実に仕留められるこのフィールドのみッ!

 

 

…そうだろう、()()()()()()()()()ぅっ!!!」

 

 天に人差し指を掲げ、宣言する。

 私の差した先で、ジバコイルを踏み付けた瞬間に私が空へと投げ飛ばしたロトムは既に行動を終えていた。

 

「テテッ!」

「カテッ!」

「カテテテテッ!!!」

 

「この水路は元々カメテテ達の縄張り、そして奴のタイプは岩・水!

 カメテテは好戦的だが既にロトムのあやしいひかりで混乱している!そしてカメテテはヘルガーの苦手なタイプ…!」

 

 混乱したカメテテの行動は読めない、つまり乱戦は必須。だが鋼タイプを持つジバコイルであればヘルガーよりは被害を抑えられる!!

 

「逃げ道無き窮地に陥ったのはキサマの方だッ!ヘルガー!!」

 

「ジバイルッ!!」

 

「トライアタック!」

 

 ジバコイルのそれぞれのコイルから発せられたエネルギー弾がヘルガーの行き先をその湾曲した複雑な軌道で阻み、全弾命中する。

 だがその表情は闘志を失っておらず、未だ煩わしさが入り交じっている…まだ、やれるのか。

 

「ジバコイル、ロトム!こっちだ!」

 

 警戒状態にあるジバコイルとロトムを呼び声で引き戻し、機を伺う。

 いまは回避に徹してカメテテ達とヘルガーの乱戦をやり過ごしつつ、ヘルガーの攻撃対象がカメテテに移るのを見計らって…!

 

「トライアタック、でんきショック!!」

 

 ジバコイルとロトムの攻撃は見事ヘルガーの横腹に命中し、こちらを向いたヘルガーに野生のカメテテのまとわりつく攻撃が更に命中する。

 あのカメテテの鈍足でヘルガーに直接攻撃が通る、つまり着実にその限界が迫っている…!

 

「っ!?」

 

 意識外からの連続攻撃。

 視界の真横から混乱したカメテテのロックブラストが顔をかすめた。

 

「…ジババっ!?」

 

「っ私の事は気にするなジバコイル!ヘルガーの撃破が最優先だ!」

 

 ヘルガーのかえんほうしゃにジバコイルのほうでん、そしてカメテテからの攻撃はなんとか致命傷を避けたが…これ以上の被弾は私の方が保たないか……?

 

(こんなときにカラマネロが居てくれれば…などと泣き言を言うつもりは無い。トレーナーとして出来るのはこの不安を最大限隠しつつ、ジバコイルに指示を行うこと!)

 

「ジバコイル、もう一度トライアタックだ!…低く構えろ!」

 

 ジバコイルから再び射出されるトライアタックが今度は浅瀬の水面を凍えさせ、凍結させながら地を這ってヘルガーへと向かっていく。

 私はその軌道を追って走り出し、警戒心から吠えるヘルガーを見据えた。

 

「ポケモンがこんなにも期待に応えてくれるのだ!なのに当の私が突っ立ってる道理は無いだろうッ!!!」

 

 私はヘルガーを睨み付け、出来る限りに低く迫力で覆った声をあげた。

 

「食うか喰われるか、お前はこれまでの生において間違いなく食う側の存在だったのだろう。だがこのミアレにおいてはそうでは無い…牙を突き立てるのは私の方だ!!」

 

「ッ!ガルルガァ!!」

 

 私の煽りに敵対心を燃やしたのか、ヘルガーは変幻自在な軌道のトライアタックを潜り抜けてこちらへと飛び込んでくる。

 

(だがその凍った足場では踏ん張りも効くまいッ!!)

 

 私の目には見えていた。

 トライアタックの軌道、凍った水面、それら全てを省いた…ヘルガーの飛び掛かって迫る軌道という未来そのものが。

 

 私は再び『奇跡』を手繰り寄せ、その手に構えたハイパーボールと拳をヘルガーへと突き出す。

 

「捉えたッ!!」

 

 ヘルガーは吸い込まれるようにハイパーボールの中へと入り込み、私は渾身の力を込めてボールを抑え込む。

 

「チィっ!まだ暴れてくれるか!!」

 

 ボールを抑える手の甲が水路の硬い地面に叩き付けられ、皮膚の破れた箇所に水が滲みる。だがここで逃がす訳にはいかない、ジバコイル達にはこの後もカメテテを処理して貰わなければならないのだからな…!

 

 縦横無尽に手の中のハイパーボールが暴れ回り、それにつられて全身が僅かに宙に浮かび上がり、地面へと叩き付けられる。

 

 

 こちらもいい加減、限界など超えていると言うのに…!

 

 

 

 

 

 

 

―――…ポンっ。

 

 その気の抜けた音は、モンスターボールの捕獲を示す音だ。

 

「………。

 

 

 

……なんとか出来た、か。」

 

 水路から上がるハシゴを登った先で小さく息を吐き、空を見上げる。

 苦しさから滲む涙で視界は歪み、肺は何度も呼吸を繰り返してどうにか正常さを取り戻そうとし、心臓が痛いぐらいに跳ねている。

 

「はぁ…っ、はぁ……っ。ZAロワイヤルで勝ち進むどころか、野生のポケモン相手にこのザマとはな…」

 

 動きやすいウェアを選んだとはいえ水と泥に汚れているし、結局鏡で整えた髪もボサボサだ。

 

「…これならば、あのジャスティス会とか言う訳の分からん格闘会に入会してでも鍛錬すべきだったか…?」

 

 一瞬脳裏を過ぎった考えを口にしたが、すぐに有り得ないと考えを翻す。ランニング以上の鍛錬を求めるとしても、あんなワケの分からん集団だけは無いだろう。

 

「……帰るか。」

 

 ジャスティス会などと言う意味不明な集団に入会する、などと言う世迷いごとが脳裏に過ぎる程だ、恐らく私は私が想像する以上に疲れている。

 

「コイコイっ」

 

「…ん?…ビルに登る訳でもないのに乗せてくれるのか?」

 

 私がそう問い掛ける間にもジバコイルはイワンコが頭を押し付けるように私のお腹に頭突きしてきて、思わずジバコイルの上によろめいてしまう。

 

「ジババババ…♪」

 

「フッ…では、楽をさせて貰うとしようかな……―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――…店主さんに安全を報告すると同時に買い物を済ませ、優雅…とはやや言い難い空中散歩を楽しみつつ私は家に帰ってきた。

 

 家で身なりを整えたり様々なことをしつつのんびりとした時間を過ごそうとしていたところ、シャワー中にホロキャストロトムが通話が届いていたことを知らせてくる。

 私はその相手を見てすぐに返信を返すと、その相手はすぐ通話に出てくれた。

 

「…パパ?」

 

「ルミヤ、いま部屋にいるのか?」

 

「え…?うん、そうだけど…」

 

「そうか…。…あのなルミヤ…」

 

 それから、パパの海外赴任の話を聞かされた。

 最近のミアレのワイルドゾーン設置のためパパが別の地方に赴かなければならないことや、その期間が長くなりそうなことについて。

 その最後に、海外赴任は明日からだということを。私の口からは思わずこんな言葉が溢れた。

 

「…え、パパ明日から海外赴任なの?」

 

「ああ、うちの会社が意欲的に取り組むワイルドゾーンの参考としてガラルまで行かなきゃならなくてね…。ミアレのゾーン設置も急務だから…」

 

 突然の宣告だった。パパとはついこの前ケンカしたばかりで、まだ仲直りも出来ていないのに…。

 

 そう思った私の耳に、パパの息を呑んだような音が響く。

 

「っごめんな…駄目なパパで。ルミヤの近くに居られないし、カラマネロのときもルミヤの味方になってあげられなくて…」

 

…………。

 

「…いいよ、もう怒ったりしてないから」

 

 私がそうであるように、パパも葛藤していたのが通話越しの口調からも伝わる。パパも私の言葉の空白も察しているのか、声色は普段より優しかった。

 

「あのなルミヤ…実は、いまパパがルミヤのカラマネロのボールを持ってるんだ」

 

「え?」

 

 予想外の言葉だった、ママの反応からしてもカラマネロを捨てたのは間違いないと思っていたのに。

 

「ママは今もカラマネロを良くないと思ってるみたいだけどね…でも、ボールを捨てに行った後もルミヤのいない場所では反省してるって言ってたよ。

 ママも昔からそういう所を見せたがらないから、ルミヤからはあまり良いように見えないかも知れないが…」

 

「………」

 

「…でも―――、―――……―――」

 

「……?…パパ今なんて?」

 

 ホロキャストロトムの不調を疑うが、ロトムの表情に変化は無い。しかしすぐにパパの声は返ってきたことで、私は安堵する。

 

「とにかくママも少なくとも後悔はしてるみたいだからね。カラマネロについては通話でパパがしっかりと説得するから、明日まで待っていてくれるかな?」

 

「…うん、解った。パパのこと『信じてる』からっ」

 

 仮初のルミヤであれど、信頼の言葉は本心そのものだった。元々ルミヤで在れば両親とも上手くいっていたのだから、今回はそこが少しばかり揺らいだだけに過ぎない。

 

「ありがとうルミヤ、パパはいつもルミヤを愛しテテルル…」

 

「…!?…ごめんパパ、やっぱりホロキャスターの調子があまり良くないみたい…?」

 

 やはりロトムではなく機械側の不調かと思う、不安定な音声通信に動揺しつつも、映し出される映像が乱れたりはしていないことを確認する。ロトムの表情にも悪い変化は起きていない。

 

「それはいけないネネ、早いうちに最新のホロ技術機器に変えないと…」

 

「……本当に音声通信の不調か?」

 

「ルミヤ?」

 

「あっううん!なんでも無いっ!」

 

 慌てて取り繕おうとすると、今度は通信先のパパの視線が私ではない方に向きが変わる。

 

「えっ…本当かい?…ああ、解ったよ」

 

 どうやら、私じゃない誰かと話しているようだ。

 しかしパパはすぐにこちらに向き直ると、何故かまた申し訳なさそうな声で話し始める。

 

「あールミヤ…ママのことなんだが…」

 

「ママがどうしたの?」

 

「明日からママも仕事でしばらくミアレを離れるらしいんだ…」

 

「えっ!?」

 

…ま、まあ…ママの仕事が忙しいのは最近だけの話では無いが…それにしても急だな。

 

「悪いけど明日から自炊…は流石に酷か、なんとか家政婦さんを探してみるよ。ルミヤもそれで…」

 

「もうパパは心配し過ぎだってば!私が得意なのはお菓子作りだけじゃないのは知ってると思うし、ジバコイルがコイルだった頃からパパよりもずっと気が利くのも知ってるでしょ?」

 

「え…あ、ああ、そう…だな。ルミヤがポケモンの世話が好きなように、きっとルミヤのポケモンも世話好きなんだろうね」

 

「もー!パパったらそんな残念そうにしないでよ!…今のはちょっとした仕返しのつもりしか無かったのだから、あんまり傷つかれるとこっちの方が罪悪感感じちゃうな?

 それにパパだって家政婦さんを呼ぼうとしたりして、世話焼きというか心配性なのは私パパに似たからだと思ってるけど?」

 

「ルミヤ……」

 

「明日から赴任先に行かなきゃなら本当はパパ忙しいだろうし、このぐらいで切り上げるね!」

 

 打算が完全にないと言ったらウソになるが、カラマネロが戻ってくる以上引き摺り過ぎるのも良くないだろうと思って私はそう告げた。

 

「ああ、おやすみルミア」

 

「うん、おやすみパパ…あっ」

 

 通話の最後と思われた言葉を口にしたけた時に、忘れていたことを思い出す。パパの不思議そうにする表情を見て、少し悪戯心を刺激されながらもその言葉を声にした。

 

「…ルミヤもパパのこと愛してるよっ!お仕事頑張ってね、今度こそお休みっ!」

 

 通話を切りかけた瞬間にパパが何か言いかけていたような気もするが、私は気恥ずかしさが勝り手の動きは止まらずそのまま通話を終了する。

 

 愛してるというのはパパが先に言った言葉を義務的に返したに過ぎない。そう熱くなる自身の顔を冷ますために心で呪文を唱えつつ、意識を別のことに割こうとする。

 

「明日、か…」

 

 明日、カラマネロが帰ってくる。

 それだけの事実が喜ばしいと感じられるのは何故だろう、今日は早めにベッドに潜り込まなければ眠れないかもしれないな…―――

 

 

 

 

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