催眠ポケモンメガカラマネロとの理想的なカラマれ方 作:あいいろ ののめ
―――…朝日。
いまだ眠い思考が太陽の光を認識することであさの到来を理解する。
「へるるるる…」
「んぁ……ああ、ヘルガーか…」
私の身体にのしかかるような重みと、唸り声と言うには些か覇気のない犬ポケモンの声。昨日捕まえた大きなヘルガーが私を起こしたと解ると体を起こし、その頭を両手で撫でながら声をかける。
「朝ごはんが欲しいのか?…ちょうど昨日お前が狙っていた木の実屋さんのオボンのみがある、今日はヘルガーやジバコイルのためにポフィンでも用意しようか。
オボンのみを使ったポフィンはまろやかさが一線を画す出来になる、お前も気に入ってくれると良いのだがな?」
「ガルルフフ…♪」
しかし量の加減が分からないな、体格が大きい分やはり多く食べるのだろうか。
私は立ち上がると寝巻きのまま廊下を歩いてキッチンに向かい、顔を洗うと髪を後ろめでサイドテールに結んでエプロンを着る。
「ガルル…!」
「ああもう解っている、ポフィンは少し待っていろ…いや遊びたいのか? なんにせよ私のお気に入りのパジャマを噛まないでくれ」
感触からも甘噛みであることは明白なので、声色は穏やかに留めつつもポフィン作りを進めつつ、トーストが焼けるのを待つ。
今日は昨晩圧力鍋で煮詰めて用意したミガルーサの切り身スープがあるので、ワカクサコーンと一緒にポタージュでも作るとしようかな。
…と、そんな朝の献立を組み立てている最中にインターホンの音が響いた。
「…もしかして、パパだろうか?」
昨晩はパパもママも家に帰って来なかった。仕事が忙しい時期には泊まり込みで働いていることもある両親なのでどちらかが居ないことは偶にあるのだが…私一人で朝を迎えるのは本当に珍しいと感じたくらいだ。
「ああ…エプロンを着けたままだったな…まあ良いか」
カラマネロの事もあるので私はそのまま玄関のドアを開くと…。
「マーネ〜♪」
「カラマネロ!?」
そこに居たのはパパではなく、カラマネロ。だがその動きや様子から、私のカラマネロであることは明白。
…しかし何度考えを巡らせ、周囲に視線を向けても。居るのはカラマネロだけで、パパの姿はない。
「カラマネロ、パパは?…と言うかその手にぶら下げた鞄は何なのだ?」
「…マネマネろ」
「手紙?…パパからってコト?」
カラマネロの腕にはバッグがぶら下げられており、その中からは手紙とカラマネロのボールが。
「ふむ…このパパからの手紙の内容を要約すると『忙しくて帰れない。そしてカラマネロは今日から一人で過ごす手助けになるからとママを説得した』…らしい。
確かに事実ではあるものの…カラマネロ一人で来させることは無いだろうに」
「マネロ」
「カラマネロ?…フフ、まさかポフィンの香りを察知したのか?」
私が手紙を読み終えるか否かというタイミングで家の中にふよふよと入っていくカラマネロを追って私もキッチンに戻ろうとしたその瞬間…。
―――ピンポーン。
再びのチャイム音。
…今度こそ、パパ? いやいや、だとすればカラマネロと一緒だろう。私がドアを開けると、そこには…ポケモンのシャンデラ。
「会いに来た」
…ではなく、シャンデラのような帽子。
そこに居たのは毛先に向かって紫のグラデーションが掛かった黒髪のショートボブに、黒いワンピースの上から白の暖かそうなジャケットを羽織っている少女だった。
「なんだ、ムクちゃんでしたか」
「なんだとはなんだ」
「ああごめん、パパかと思ってたから…」
少女の名前はムク、さも私は他人のような素振りで語ったが、その実彼女は友人である。
「そのバケッチャのエプロン…」
「ああ、可愛いでしょ? かぼちゃポケモンのエプロンだーって思って、つい買っちゃったの!」
「そうじゃなくて、お菓子…」
「…? とりあえずお家の中にどうぞ、ムクちゃん?」
「ご好意に感謝する…」
なにかを言い淀んだようにも見えるムクちゃんだったが、ちょこちょことした所作で家に上がり込む様子はまるで小動物。
その小さな背丈を見送りつつ、私は今度こそ誰も来ないかを確認して扉を閉めた―――
―――…それで、ムクちゃんはどうして急に?」
ダイニングキッチンから料理を進めつつ声を掛けると、ムクちゃんは律儀にこちらを見上げてこう言った。
「あたしの知り合いのゴーストポケモンが騒がしくて…」
「…、…? どういう意味?」
「何でもない。他の用事の途中で偶然あなたのカラマネロを見つけたから何かあったのかと思って追い掛けた」
「ああ、心配させたのかな。ごめんね?」
「何も無かったなら、いい。それよりこの籠に入ってるお菓子は食べていいか?」
「あー…それはね…」
ムクちゃんが興味を示したのはダイニングテーブルのカゴに纏められているお菓子。
「お試しで作ったお菓子だから味の保証はできないけど…それでも食べてみる?」
「自分で作ったのか?…綺麗にラッピングされてるが」
「実は今度、お世話になってるきのみ屋さんのご好意でお菓子を売らせて貰う予定でね?…そこにあるのはまだ売るか決めていない試作品ってやつ」
「そうか…あ、この前用意してくれたミアレガレットの件、お陰で助かった」
「なんだっけ…ああ、色んな種類のミアレガレットが欲しいって話だよね。何かの助けになったなら何よりだよ!」
本来のミアレガレットはほんのりとした甘さが上品なお菓子だが、私がムクちゃんに頼まれて用意したミアレガレットは固かったり、甘くなかったり。
「シャンデラも出していい?」
「もちろん、ポフィンももう少しで出来上がるから待っててね。紅茶はいつものポットデスティーでいいよね?」
背後から聴こえるシャンデラの声に私はそう返しつつ、ふと耳に入った唸り声のようなものを聞いて声を上げた。
「ヘルガルルルル…!」
「ヘルガー、お客さんに吠えてないで。こっちおいで?」
元々野生でも群れを従えていた個体なのだ、むしろあの警戒心は道理とも言える。
「大きいヘルガー…ルミヤと同じくらい?」
「この前偶然出会ったんだ、だからまだ懐いて無いけど…」
「にしては結構従順、ヘルガーは自分の気に入らないトレーナーには従わない事で有名」
「それは…私だからねっ! ヘルガーだって私が作る美味しいお菓子が食べたいんだよね〜?」
「グルルル…♪」
鍋の様子を見守りつつ、ヘルガーの顔をわしゃわしゃと撫でてご機嫌を取りながら時間を過ごす。
昨夜のご飯で確かめた限り、このヘルガーは辛いものが好きらしい。ここからは推測だが、ヘルガーの炎に含まれる特有の毒素という物もそういった刺激物から摂取しているのかもしれない…。
一応ヘルガーの食べる物について調べたが、彼をこれから私の戦力として数えるのであれば、その炎の性質と食性の関係には更に詳しくなっておくべきだろう。
「シャンデラも、美味しいポフィン食べたいか?」
「シャラランラ…!」
「……そう」
「シャンデラはなんて言ったの?」
ムクちゃんの静かな表情を見て私が問い掛けると、ジト目のような眠たげな瞳でゆっくりこちらを見あげた後、口を開いてこう言った。
「…黙秘権を行使する。」
「…………なんで?」
考え直しても、なぜとしか思えない。考えても解らないものはどうにもならないので、気を取り直して話題を振り直した。
「…ムクちゃんは朝ご飯食べた? もしまだだったら『ホイップカレー』でも食べる?」
チーン♪
ダイニングに響くトーストの焼けた音、ムクちゃんはそちらを一瞬見てから顔を横に振る。
「ご飯は食べて来た、ホイップカレーは要らない」
「…そう? だったら良いけど…」
ムクちゃんは私の作るお菓子なら大抵は食べてくれるのだが、ホイップカレーだけは食べてくれた試しが無い。
私はポケモン達にポフィンを手渡しつつ、自身の朝ご飯をテーブルの上に並べていく。
「コーンスープにジャムトースト、それに…ホイップカレーまで……」
「何その、何か含んだような言い方」
「ルミヤは常軌を逸して甘党。身体に悪いよ…特にホイップカレー。」
「心配してくれるのは嬉しいけど。ホイップカレーの良さが分からないムクちゃんにそう言われるのは私、納得がいかないかもなあ …?」
ホイップカレー、美味しいのに…。
「…あ、ムクちゃんせっかく遊びに来てくれたんだしお惣菜持ってく?
実は冷蔵庫に作り置きがいっぱいあるんだよね〜、だから…」
私がいつものようにそう言いかけたその時、ムクちゃんはすくりと席から立ち上がる。
「ルミヤ、ここにあるのは
「何って、ただのねむけざましだけど…?」
「こんなに山ほど要る理由は?」
「ああ、それは最近ZAロワイヤルに参加してるからだよ。まだ始めたばかりでVランクだけど、バトルゾーンが発生するのは夜間だけだから眠らなくて済むようにねむけざましコーヒーを飲んでるんだ!」
「飲んでるんだ!?」
らしくないムクちゃんの大声、私はそれを不思議に思いながら眺めていたけれど、彼女はすたすたと目の前まで歩いてくる。わざわざ机を挟まずに立っているムクちゃんの背丈はそれほど高くないため、こちらを見下ろしてもそこまでの威圧感は存在しないけど。
「ルミヤ」
「…ど、どうしたの?」
しかしその呼び声は僅かに緊張を孕んでいるのか、どこか硬さを感じられる。不思議な感覚だ、いや…ムクがこんな風に緊張するような事が珍しいと言うのが違和感の正体だろうか。
「あたしは今日、あんたに『決闘』を挑む」
「…………なんで?」
何度考え直しても、なぜとしか思えない。
そもそも彼女は私の心配をして来てくれたのでは無かったのか…―――
〇ルミヤ
・お菓子作りとランニングが趣味
・甘々甘々党
・スプレー式のねむけざまし常飲者 ←new!!
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