催眠ポケモンメガカラマネロとの理想的なカラマれ方 作:あいいろ ののめ
「シャンデラ、メガシンカで行くよ…!」
青白いシャンデリアの焔が燃え盛り、コート上を渦巻く風が幽鬼のような呻き声を奏でる。
数年前ポケモンの新しい可能性と呼ばれたその現象、メガシンカと呼ばれた力によってシャンデラのシャンデリアは更に華やかな二段構えとなり、十以上の灯火がひとつずつ灯ってゆく。
その上、メガシャンデラの特徴的な要素と言えば…紫と橙色オッドアイ。
まさに絢爛豪華、眺めるだけでも隠しきれないパワフルなエネルギーは一目瞭然だ。
「ヘルガー…研ぎ澄ましたあくのはどうで貫いてッ!」
「シャンデラ、かえんほうしゃ」
メガシンカは確かに強大な力だ。然しそれだけが試合を決する訳ではない、現にこちらのヘルガーはわるだくみの技によってその優れた特殊攻撃性能を更に上昇させている。
けれども技同士の衝突が残したのは火を見るよりも明らかな結果だった。
「ヘルガー!?」
かえんほうしゃ、ポケモンの繰り出す技の中では安定性に優れた技だ。けれどヘルガーを襲ったのは、少し前にヘルガー自身が繰り出したかえんほうしゃとは似ても似つかない爆炎のような一撃だった。
その勢いは凄まじく、私の横を掠めてヘルガーは一方的に吹き飛ばされ、コート端のフェンスへと叩き付けられていた。
「戻って…ヘルガー。あと少しだけ待っててね、あなたの頑張りを無駄にはしないから」
(ヘルガーのお陰でジュペッタとバケッチャを倒して、残るはお互いに一体…だけど…)
「ルミヤ、最後の一匹を出して。」
ムクちゃんを護るように浮かぶ、メガシンカしたシャンデラ。私は自分の持つカラマネロの入ったボールを見て考える。
(私とカラマネロはメガシンカをまだ充分に使いこなせていない…あのシャンデラのかえんほうしゃの威力を見てしまうとそう言わざるを得ないだろう)
でも、だからと言って負けるつもりは最初っからある訳ない。
「勝つよカラマネロ、その為に力を貸してッ!」
いつもより高くボールを投げ、その中からカラマネロが飛び出す。その首元にはネックレス型のアクセサリーと…
「っメガストーン…!?」
「私とカラマネロならあのメガシャンデラにだって勝てる、そうだよね…!」
私は懐から取り出した髪飾り型のキーストーンを握り込み、想いを込めた。
それと同時にカラマネロは大きな光に呑み込まれ、その中から伸びて現れた腕黄緑と明るい紫色の腕が発光し始める。そしてシャンデラよりも更に巨大な影がその姿を表すと、ムクちゃんの表情には微かな焦りのようなものが滲んでいたような気がした。
「サイコカッターで隙を作りながら戦うよカラマネロ!」
「シャドーボールで迎撃!」
その柔軟性のある腕部から繰り出す斬撃の刃がシャンデラに襲い掛かるけど、シャドーボールの方が威力は高く、その黒い闇のような弾丸がサイコカッターを打ち消しても尚カラマネロに飛んでくる。
「シャドーボールをつじぎりで切り払って!」
カラマネロはあくとエスパータイプ複合の珍しいポケモン。シャンデラのゴーストタイプとはそれぞれ相性が真逆であり、悪タイプのつじぎりの方が打点としては有効。
けれどそれはあのシャンデラの攻撃を掻い潜って接近した場合に限り、中距離から撃ち合うならサイコカッター以外の選択肢は無い。
(カラマネロ相手に遠距離戦を仕掛けられると苦しいのは解っていた。だからこそわるだくみで火力を上げたヘルガーでシャンデラと対等に技を打ち合おうと思ったけど…完全に計算を間違えた)
ムクちゃんとメガシャンデラを相手にするのは初めてで、その異次元の火力は完全にこちらの想定を超えた物だった。なにせわるだくみで攻撃性の向上しているヘルガーが比較にならない火力だったのだから。
「シャンデラ、かえんほうしゃで決めるよ」
「カラマネロ、サイコカッターで凌いでッ!」
シャンデラから繰り出される殺戮兵器のような火炎放射をど真ん中からカラマネロのサイコカッターが引き裂いていく。その威力の差は大きいが、距離を取ればサイコカッターでも対応できる筈…。
ヘルガーがそうだったように生物である以上限界は存在する、メガシンカだって例外では無い。持久戦にはなるが、こちらの消耗を抑える事でこの戦いを制する…!
「カラマネロ!?」
「……」
私が思わずカラマネロの名前を呼ぶと同時に、ムクちゃんの普段の様子からは想像も出来ない鋭い視線がカラマネロに突き刺さる。
そして彼女はぽつりと吐き捨てるようにこう言ったのだ。
「火傷…」
「ッ!!」
かえんほうしゃの炎はサイコカッターで最小限に抑えた、それでもシャンデラの炎は火傷を残していたのだ。カラマネロの技は物理中心、火傷の状態異常は物理攻撃力を半減させる…!
「サイコカッターで防ぐのはもう無理。シャンデラ、強引に距離を詰めてかえんほうしゃで決めて…!」
ムクがカラマネロに指を差し、シャンデラの半透明な明かりの中から青白い炎が覗く。私は一か八かを賭けて、かえんほうしゃの吹き上がるコート上に叫んだ。
「―――――――――!!!」
「……っ!!?」
バトルコートが白い煙に包まれる。
反対側に立つムクちゃんの黒いワンピースの裾が風で揺れ、少しづつ白煙は晴れていく…。
「……氷塊!?」
それはムクちゃんらしからぬ驚きの声だった。
だって今までの勝負で氷の張るような技はひとつさえ繰り出されず、カラマネロもメガシンカしたとは言えそこまで強力な氷技を使える訳じゃ無い。
だったら何が、それを紐解くように私は大きく声を上げる。
「カラマネロ、薄氷を馬鹿力で砕いてッ!」
コート上に存在する巨大な氷の正体はカラマネロ。その体はシャンデラのかえんほうしゃを受ける寸前、氷によって守られていたのだ。
氷塊には内側からヒビが入り、それが砕けると同時にサイケデリックな触手が飛び出す。
そしてそれを実現したのは…!
「まさか『ひっくり返す』で…!?」
「もう遅いよムクちゃん、だって氷を砕いて威力の上がっているカラマネロはすぐそこに居るんだからっ!!」
「っシャンデ…」
「つじぎり!!!」
メガシャンデラの火力の高い一撃をひっくりかえす技で作り出した同等の氷状態で相殺した上で、カラマネロの馬鹿力は高い火力に物理攻撃と防御上昇を併せ持つ最強の技。
ゴーストタイプには本来効かない格闘技だけど、氷を砕くことで強引に能力を上昇させた!
不意を突いた一撃は狙い撃つように鋭く相手へと命中し、シャンデラは僅かな鳴き声を残して自らモンスターボールの中に戻って行った。
コートの対岸でムクちゃんの小さな身体がゆっくりと落下し、膝から崩れ落ちるようにその場でへたり込む。
「負け……た……」
「〜〜〜ッ勝ったよ、カラマネロっ!!」
私がコートに立つカラマネロに駆け寄ると、その長い腕が私を高く高く持ち上げてクルクル回りながら勝利を祝ってくれた。
…マーイーカの頃は私がこうやってくるくる回る側だったんだけどなあ…?
「カラマネロ、そろそろ降ろしてくれる?…ムクちゃんの事も心配だから」
「…ロっ」
何その短い返事…のような不機嫌な鳴き声は。
とにかくカラマネロが降ろしてくれたので、私はムクちゃんの居る方に駆け寄って声をかけた。
「ムクちゃん?」
「ルミヤのポケモン、相変わらずジャスティスすぎ…」
「…そんな事ないよ。今回はたまたま上手く行っただけ。
メガカラマネロが火傷したこと、氷でかえんほうしゃを防いだこと、氷を砕いて攻撃力をあげたこと、どれもこれも次また同じように狙ってできる戦い方ではないから」
試合運びを見ても、順当に進めばこの戦いでメガシャンデラに勝つことは不可能に近かった。今回は本当に意表を突いて上手く行っただけ。
いまの私ではまだ、ZAロワイヤルの頂点に立つには程遠い実力なのだ。
「それで、ルミヤは何を要求する」
「え…ああ、うーん…」
正直、何も考えていなかったと言うべきか……いや。
「あたしの矜持をかけた一世一代の決闘、ルミヤの要求ならなんでも受け入れる心積り」
(たかが決闘を重く受け止め過ぎだろう…)
私はそんな事を考えながら要求らしきものを思い浮かべようとするが、目の前に居るムクちゃんの真剣そのものな表情は何故か刻一刻と試合前よりも深刻そうなものに変わっていくせいで、中々言い出しづらい。
「よしわかった、ムクちゃんにはホイップカレーを食べて貰…」
「それは受け入れられない」
「なんでっ!?」
「ルミヤは余りに甘過ぎる、ZAロワイヤルからの辞退とホイップカレー完食は要求が全然吊り合わない。」
「え、ええ…?」
そういうのは普通勝った側が言うべきじゃないのかなぁ…?
とはいえお互いが納得できないとテコでも話は一歩も前に進まないだろうと思い、別の要求を模索しようと…。
『…グゥ』
「………ムクちゃん?」
それは私ではないお腹の鳴る音。
コート上には私とカラマネロとムクちゃんしか居らず、それでいて音の聴こえた方からその正体は一目瞭然だったのだ。
私は緊迫した決闘の緊張を解くように、ルミヤとして明るい声で彼女に声を掛けた。
「お腹がすいたなら取り敢えずは家に戻ろっか?…甘くて美味しいパンケーキでも一緒に食べよう?」
するとムクちゃんは真剣な表情を崩して、少し困ったような顔でこう返してくる。
「…まだ食べるの?」
「それは勿論!ZAロワイヤルに参加して動く分、美味しいご飯をいっぱい食べなきゃだからね!」
私はムクちゃんの手を引いて家に向かって歩き出すと、私はパンケーキと紅茶以外に何があれば美味しいかを考え始める。
やっぱりジャムはパンケーキと紅茶のどちらにも外せないとして、スコーンなんかどうだろうか…―――
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