またぼちぼち更新しておくので、何卒お付き合いくださいませ。
万魔殿との接触、済。手帳のチェックリストに印を入れる。
おそらくマコトとも接触しただろう。あいつは道化だが馬鹿じゃない。最低限の情報だけ渡して帰らせたか、あるいはトリニティのパイプとして利用するかのどちらかだろう。内部の監視カメラだけアクセスできないのが残念だが、なんとかなるだろう。彼女に聞けば情報を出してくれる可能性は高いし。
「動き出したね...」なんて独りごつ、そんな深夜2時を過ごしていると。
「やっぱりここにいた」
警戒するような、それでいて探るような声が聞こえてきた。
「...何の用ですか
「...やっぱり変わってない」
「変われないんですよ。前も言ったでしょう、人が悪い」
現便利屋68、風紀委員の監視対象、その他諸々。彼女を形容する言葉は多くあるが、今はこう言うのが正しいだろう。
「それで、なぜわざわざここへ?鬼方情報部長。鍵をかけて誰も入れないようにしたのに。」
「昔馴染みがどうしてるか様子を見にくることは悪いこと?」
僕に情報戦を教えた人が、扉を開けて立っていた。
「この前あんだけ警戒していたのにえらい変わりようですね。」
「まさか。諜報部第二の立場だった君を監視なんてできない、どうせ気づくでしょ。この前の礼を言いにきただけだよ、風紀委員と戦ってくれた礼」
ああ、そう言えば。便利屋はあそこにいたんだった。
「礼は不要です。不法行為を少しでもやめてくれるととても嬉しいんですがね」
鬼方さんはため息を漏らす。まるでこちらを非難するかのように。
「私たちの今のやり方について君に言われることはない、と思うんだけど。私は居たいから便利屋にいるんだし。それに、不法行為をしてるのは君の方でしょ?」
それはそうだ。鬼方さんはもう権力争いに巻き込まれたくはないだろう。そう言う血生臭い仕事はもう僕の担当になってしまった。
「それより、君はまだあんなことをする気?」
あんなこと?
「...念の為聞きますけど、どのことですか」
「妹のこと、嫌いなんでしょ?まだ」
ああ、やはり。そのことだったか。昔話したのが損だった。
「昔はあなたのことを頼れる優しい先輩だと思ってたんですがね。だからこそあのことを話したんだし、クーデターで協力もしたんですよ」
「なら残念、期待外れだったね。私は人に頼られるのは慣れてるけど、憎悪と虐殺の見学者になるのは慣れてないんだ」
まずい。計画の話はしていないはず。当時はただ、自分の感情が整理できなくて、そのことを吐露しただけ。
「なんでわかるのか、ってカオしてるね。君のやろうとしてること、やってること、そして今、君がここで血眼になって何かを探している様子。ここから見れば容易にわかるよ」
...流石、としか言いようがない。ここまで知っていると言うことは何か目的があるはず。
「そこまでわかるのなら仕方ありませんね...何か取引がしたくて、と言うことですか?そこまで言うってことは」
「はあ...さっきも言ったでしょ。私はただの傍観者になることは苦手だって。私の要求は、何かするとしたら...君がこのくだらない復讐を止めて、おとなしく風紀委員としてエデン条約の成立を見守ること。これは私の個人としての、頼れる右腕だった君への忠告だよ」
...くだらない?
僕のあの1年間、それをあなたは知っているのに?
「...やはりあの時消しておくべきでした」
「そう言うと思ったよ。今日は私もこの辺にしておくけど、止める気がないなら私も色々考えがあるから」
「逃すか!」
その時、視界が急に白に染まる。
「止められるとは最初から思ってなかったけど。それじゃ」
しまった。煙幕を張られた。煙が肺に吸い込まれる。一瞬でどこに何があるかわからなくなる。おまけに精密機械がここには多いから銃を乱射しようとしてもできない。
そうやってもがいているうちに、鬼方さんはいなくなった。
そのメールが届いたのは突然でした。おそらく捨てアドと呼ばれるメールアドレスなのだろうけど、そこから「ここに来て」と言う一文とともに位置情報のデータが添付されただけでした。便利屋68のメールにそれとなく情報を仄めかしていたことが功を奏したのだと思います。彼女が鬼方カヨコさんだと予測した私は、少し警戒しながら指示された場所に向かいました。
事前に聞いた見た目、もらった写真と一致する人がそこには立っていました。
「初めまして、かな...あなたが浦和ハナコ?」
「ええ。お初にお目にかかります、鬼方カヨコさん」
「びっくりしたよ。ポリュビオスの暗号表なんて使ってメッセージを送ってくる人がいるとは私も思わなかった」
彼女に関しての情報から推測するに、おそらくこのことは便利屋に対して知られたくはなかったでしょう。だから、元情報部長という話が本当ならわかるかもしれないと踏んで、暗号を使わせてもらいました。
「でも、お見事です。元情報部長というのはやはり本当だったんですね」
「まあ、ね...それより、君のお兄さんに関して知りたい...というわけじゃなさそうだね。」
読心術でも備わっているのでしょうか。こういうところに関しても卓越した技術です。
「ええ。私は...兄のことを止めて、守って欲しいんです」
「詳しく聞かせて」
鬼方さんは身を乗り出すような感じで食いついてきました。羽沼議長から聞いた話は嘘ではなかったようですね。
「兄が私のことを相当憎んでいるのはわかっています。罰は甘んじて受け入れる覚悟です。ですが、兄が自分まで滅ぼそうとしているようで...これ以上苦しんでほしくないんです」
私は羽沼議長からもらった通販の記録を見せました。一瞬鬼方さんの目が驚きに支配されていました。
「...あのバカ。炎を燃やすことは悪いことじゃないのに、そのせいで燃え尽きてどうするのさ」
「ってことは...」
「うん、いいよ。私もあのバカの様子がおかしいことには気づいてたから。手伝ってあげる」
こうして私は、強力な味方を手に入れられました。