あれからかなりの時間が経って、僕が風紀委員の仕事に慣れてきたころ。
「チナツちゃん、先生ってのはどうだった?」
私がコーヒーを楽しみながら
「そうですね、指揮能力には目を見張るものがありました。従来の戦闘に比べて圧倒的に戦いやすく、数人の指揮だけで災厄の狐を撃退していました」
「...マジ?先生ってそんなやばい人なの?」
「ええ、ですが他勢力との諍いで相手側についてしまえば恐ろしい敵となりえます」
ま、そんなもんか。でもあの人はおそらく指揮どころか軍人ですらない。どちらかというとその本質は人を見抜いて適材適所に運用する力と観察眼。敵に回れば恐るべきものになるだろうね。
「そういえば、先輩はなぜ先生のことをご存じなんですか?」
...ま、そう思うよね。
「古巣の癖だから気にしないで、いろいろと情報は回ってくるんだ」
ま、普通に監視網を使っただけなんだけどね。おかげで全部の情報が僕に入ってくる。
先生が災厄の狐を撃退したことも、タワーの制御権を取り戻したことも。
「でも、経験したことや感じたこと。これは本人に聞かないとわからないからね。とりあえず疲れただろうし紅茶でも飲む?」
「ありがとうございます、いただきます」
チナツちゃんはまだ古巣について知らないほうがいいからね。話の流れを変えたほうがいい。
紅茶は数少ない僕の得意料理。料理じゃないって?うるさいよ。
まずはポットでお湯を沸かして茶葉をチナツちゃん用のカップに入れ、ジャンピングさせてから蒸らせば完成。
紅茶の道は奥が深いんだ。もし百鬼夜行にいたら洋式茶道部でも作ってたくらいには好きだし、風紀委員の幹部クラス全員分のティーセットは買ってある。
「ほい、完成。暑いから気を付けてね」
「ありがとうございます。...ふぅ、癒されますね。」
「よかったよかった。ヒナちゃんはそういえば今どこ出てるのかな?」
「えっと、たしかエデン条約関連で万魔殿と整理に」
...冗談であってほしいが、チナツちゃんはそういうことをあまり言う子ではない。
「...やばい、止めに行ってくる」
「はい?」
「このままだと死人が出る」
書類にサインを済ませ、銃にマガジンを装填し走る。
ヒナちゃんとマコトはめちゃくちゃ相性が悪い。だからこそマコトはこんなに嫌がらせみたいな量の書類をよこしてくる。まあ僕ができるからいいんだけど、毎日ちょっとずつ量を増やしてくるのはやめてほしい。
「...よし、まだ建物は爆発してないね」
まだ壊滅的な事態になってないことを確認して万魔殿に突入。
すると、目の前には。
「ミナトさんですか、委員長とかは奥のほうにいますので」
すごいやる気のなさそうな受付がいた。いや、マジでやる気なさそう。これでも戦車長だよねあなた。
「よくわかりますね?」
「だってあなたがここに来るときはうちのあれに書類と文句出しに来るか、それともヒナ委員長を止めるかのどっちかじゃないですか。もうこっちに戻ってくる気もなさそうですし」
ま、このやる気のなさそうな人も僕の元同僚なんだけど。
棗イロハ、万魔殿の戦車長。「超無敵鉄甲虎丸」とかいうすごい恥ずかしい名前の戦車に乗ってる。マコトが実権握るまではティーガーだったよね、普通に。
「ってことで、お邪魔させてもらうよ」
「...でも、マコト先輩から通すなって言われてるんですよね」
どうやらまた賄賂が必要なようだ。しょうがないし出そう。
「わかったよ、はい。ギガントカツでいい?」
「だめです、隠し持ってるちびコーラ4つで手を打ちます」
なんでわかるのかなこの人。そう、彼女は僕がここを通ろうとするたびに通行料だとか賄賂だとかさぼれない分の慰謝料だとか言ってお菓子を要求してくる。
「わかったわかった、はい。イブキにもちゃんと分けたげるんだよ」
「私を誰だと思ってるんですか、当然ですよ」
「よかった、じゃ。また今度」
戦車長閣下のお許しもいただけたし、本丸に乗り込むか。ヒナちゃんのメンタルが爆発してないといいけど。
ノックを素早く3回してドアを開ける。
「失礼します、風紀委員28.16部隊の川瀬で-」
弾丸の嵐が飛んでくる。どうやらギリギリアウトだったみたい。
「ヒナちゃん!ステイ!ステイ!僕にもあたるから!」
ダッシュで弾丸をよける。
「...あら、先輩。どうしたのかしら」
「おや、ミナトじゃないか。どうしたんだ」
二人とも急に正気に戻るじゃん。いつもそういてくれ。
「...議長閣下、エデン条約関連の話し合いは私を通してしていただくよう以前お願いしましたよね?」
「...所詮はお願い!我らが万魔殿は-」
ま、マコトならそうすると思ってたよ。
「代わりにそちらのお仕事を手伝いますよ?ヒナ委員長にご迷惑をおかけしないようにこうしてるんですから、お願いしますよ」
だからこうするのが手っ取り早い。マコトはこう見えて小悪党だけど道理は通る。
"ヒナ委員長に迷惑がかかる"という建前と"仕事を代わりに回せる"という合理性。
これさえ提示すれば何とかなるだろう。
「...わかった、わかった。降参だ、その代わり仕事はしっかりしてもらうぞ!キキキッ」
「ありがとうございます。では、改めてエデン条約について-」
まあ、その後ある程度話し合いは和やかに進んだ。
「今日はありがとう、先輩。それとごめんなさいね、仕事を増やしちゃって」
ヒナちゃんも落ち着いたみたいで良かった良かった。
「大丈夫、もともと慣れてるの知ってるでしょ?それに僕ができるのはこのくらいだからさ、せめて貢献したいんだよね」
「先輩も十分強いでしょうに...」
「じゃ、僕は今日当番だから。施錠して帰るね」
ゲヘナは治安があまりに悪い。悪すぎる。それ故、風紀委員の実働時間も今までは長かった。
でもそれだと計画を達成するために行動できない。だから、鍵当番制を作って当番じゃない人は休める、という形式にした。
治安は監視網のおかげで的確に対処できる。
「じゃ、またね。ヒナちゃん」
「またね、先輩」
これが僕の一日。
表向きはね。
こんなので一日は終われない。ゲヘナの治安の悪さを舐めてもらっちゃ困る。
表向きは風紀委院の建物の施錠をする。今は収監者もいないから、楽に仕事ができるんだよね。
でも、とりあえず風紀委員は表向きはおしまい。だから着替える。
いつものスーツはいらない。白いトップスに黒いレザージャケット、黒いカーゴパンツ。そして"一箱"持っておく。
「...さて、と。やりますか」
全ての監視カメラをつけ、アクセス。異常があったら知らせるようにする。
消費電力が半端じゃないから夜しかできないんですよね。
「これも18の特権ですよね、ほんと」
箱を開ける。そして、一本取り出し、ライターで火をつけ、咥え、吸う。
「...ふう、落ち着く。」
こんなとこ他の人に見られたらたまったもんじゃないし、即風紀委員クビでしょう。だから夜に施錠された建物の中で吸うんです。火災報知器もこの部屋にはありませんから。
「...温泉開発部の動きはなし。美食研はディナーの時間"ですか"。便利屋は...野宿?また家追い出されたんですか、かわいそうに。同情はしないけど...」
その時、監視カメラの一つに銃口が向けられた。
「見てるのはわかってるぞ、ってことですか。さすが、元情報部長は違いますね」
カメラの接続が切れる。何か行動を起こそうとしているのかは知らないけど、見られたくないってことですか。
「じゃ、遠慮なくいかせてもらいますよ、っと。」
監視カメラの電源を切る。誰かに悪用されたら困りますし、電気代も有限ですからね。
建物を施錠し直し、近くに停めてるバイクのエンジンをかける。サイバーチックで気に入ってるんですよ、このバイク。
「久しぶりにお話に行くとしますか」
そうしてバイクを走らせる。 目指すはアビドスとの校境。
何も企んでないといいんですけど。
カヨコさん、僕を呼んだのはあなたでしょう?やめてませんよ、煙草は。やめられません
あなたたちを排除しますゲヘナの隼の異名、その所以を知る覚悟は?
便利屋68、ここまでとは思いませんでした...わかりました、ただ責任は取りませんよ
やっぱり絵、続けてたんですね兄さん、私はいつあなたに追いつけるんですか?
こんなところで売られてるなんて、でも重要な手掛かりかも
サインが変わってる...?
桃色に塗りつぶされたキャンバスで。
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