明星に誓って   作:テロン

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大した理由じゃない

 

 

 

 

 街を出て適当に歩き回っていれば、魔物は直ぐに見つかった。ガサリと動いた茂みの向こう、プチプリの群れだ。

 数は多いが大した敵ではない。ジーンを試すにはうってつけの相手だろう。

 

「よし、じゃあ行くぞ。俺とラピード、それからカロルが前衛だ。ジーンは魔術でサポートを頼む」

「了解よ」

 

 頷いたジーンを確認して、鞘を投げ捨てた。パーティの面々もそれぞれ己の武器を構えていく。

 小柄ながら重量のあるハンマーを扱うカロル、片手剣のユーリ、短剣のラピードが前衛。治癒術師のエステル、攻撃魔導士のリタが後衛と、偶然集まったにしてはかなりバランスの取れた陣形だ。

 

「エステル、リタ、頼むな」

「はい!」

「任せなさいよ」

「っしゃあ、行くぞ!」

 

 身を潜めていた茂みをいち早く飛び出したラピードが、最も近くにいた敵に小刀を振るう。即座に詠唱を始めたエステルとリタの声を背に、ユーリも刀の柄を握り締めた。後衛のサポートを受けるためにも、前衛は敵に抜かれるような事があってはならない。

 

「カロル!気を抜くなよ」

「う、うん!」

 

 曲がりなりにも騎士として戦った経験を持つユーリは、素人よりかは集団戦の心得があった。数を減らすよりも押し留める事を優先して、手近な敵に狙いを定める。が、踏み出そうとした寸前に、視界の端に魔術の光を捉えた。

 足元。完成した術式の放つ光だ。軸足に緑の光が巻きついて、背中を押されるように加速する。

 

「疾い!これならっ!」

 

 スピードに身を任せ、一体を斬り伏せながら右奥のもう一体に術技を放った。青光りする剣閃に紛れてカロル、ラピードの順に同じ魔術がかけられる。

 魔術の効果だろう、加速した視界とは反対に、敵の動きが酷く鈍く見えた。

 

 さして強くもない敵だ、ノロマな攻撃を食らう事もない。

 ユーリが三体目に剣を振るったタイミングで、リタとエステルの攻撃術が完成し、目の前をまとめて薙ぎ払った。

 こうなればあとは殲滅戦だ。見極めの為に背後を気にしていたユーリには、涼しげな表情で四つめの魔術を完成させたジーンがはっきりと見えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お眼鏡には叶った?」

 

 あっさりと終わった戦闘後の一幕。腰を落ち着けて休憩するような疲労感もないので、一同は森の中で立ったまま向き合っていた。

 

 何処か得意げなジーンに肩を竦めて、仲間の顔を見渡す。不満が表情に出ている者はいなかったが、一人、リタが何か言いたげにジーンを睨みつけていた。

 

「合格らしいが、そこの天才魔導士サマはあんたに言いたい事があるそうだ」

「おや、何かな?」

「別に。ただ、私の論文で覚えたって言うには術式が違いすぎると思って。それだけよ」

「ふーん。俺にはよく分かんねぇが、確かに詠唱は早かったな」

「馬鹿ね、あれは早いんじゃなくて部分的に無いのよ」

「つまり短いって事だろ?」

「そうだけど、そうじゃなくて……ああもう、それでいいわ」

 

 術式構築やらエアルの変換やらをぶつぶつと呟き始めたリタを横目にジーンに視線を向けると、彼女は苦笑いで「モルディオ博士の論文で覚えたのは攻撃術だけど」、と肩を竦めた。

 

「言ったでしょ、補助術は仕事で使うの。観客の前で長々と詠唱なんかしてられないわ」

「すごいです、ジーン。芸もいつか見てみたいです」

「でもこれで、ジーンも着いてきて良いんだよね?」

「ああ、構わねぇよ。ジーン、リブガロの居場所は知ってるか?」

「西の森よ。何度か行ってるから、案内するわ」

「ふーん?んじゃま、案内頼むわ。リタ、行くぞ」

 

 何度か、と言う言葉に疑問が飛び出しかけたが飲み込んで、考えに没頭しているリタを呼ぶ。続きは歩きながらでも出来るだろう。

 どんよりとした暗雲の下は、昼間であっても薄暗い。日が暮れるまでには街に戻りたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジーンはいつからカプワ・ノールにいたの?旅の途中なんだよね?」

 

 リブガロ捜索の道中、カロルが最後尾を歩いていたジーンを振り返った。魔物の襲撃も疎らで、雑談する余裕が出てきたのだろう。特段、窘める理由もない。

 

 変わってるな、というのがユーリのジーンに対する率直な感想だった。警戒心がないというか、平然としてるというか。いつ魔物と出会してもおかしくないのに、ユーリやカロルのように取り出しやすい場所に武器を携帯するでもなく、リタやエステルのように後衛としての行動範囲を弁えるでもなく。

 ジーンは時折周囲を見回しながらも、パーティーの一員と呼ぶには少しばかり距離を置いて同行していた。

 

 魔術畑の人間ならもう少し守りやすい位置を弁えて欲しいと思わないでもないが、足元に護衛のつもりかラピードが着いているため、心配は要らないだろう。

 軍用犬の血を引く彼が殆ど警戒を見せていない以上、邪な考えも抱いていないだろうし。

 

「ジーン?」

 

 返答がないことにカロルが足を止め、それにつられてエステルの足が止まる。そうなると全体の歩みが止まって、そこでジーンはようやくこちらに注意を向けた。

 

「あ、ごめんなさい。何か言った?」

「いつからカプワ・ノールにいたのか、だと」

「ああ、そうね。大体一月くらいはいたかな。デイドン砦で帝都からダングレストに向かうっていう商団に混ぜてもらって来たんだけど、船が出ないなら荷がダメになるからって一週間くらいで引き返しちゃったのよ。今思うと、その時着いて行けばよかったわ」

「ジーンはダングレストに住んでるんです?」

「そう。あんまり帰らないけど、家があるのよ」

「そうだったんだ。でも、ジーンはギルドには所属してないんだよね?」

「君はもしかしてダングレストの子かな?ええ、私はフリーよ」

「ギルドか……」

 

 帝国の市民権を捨てた人間たちが構成する寄合、のような認識をしている。実態はよく知らなかった。帝都にもギルド関係の人間がいないこともないが、ユーリの見識はあまりにも狭い。随分年下なカロルの方が世界を知っていた。

 

「珍しいよね。ダングレストの人たちは、大体どこかしらのギルドに所属してるから」

「何かギルドに所属しない理由があるんです?」

「色々あんだろ、あんま詮索するなって」

「あ!ごめん……」

「すみません……不躾でした」

 

 ユーリが止めずともジーンの方に話すつもりはなさそうだったが、礼のつもりか彼女は一瞬ユーリと視線を合わせた。受け止めて、軽く頷いて返す。

 

「気にしないで、大した理由じゃないもの。ダングレストの家も父親から受け継いだものってだけ」

「大した理由じゃない、ね」

「何かしら?」

「いや?さ、先を急ぐぞ」

 

 追及し足りないお子様たちも、置いていかれたくはないからユーリが歩き出せば慌てて追いかけてくる。

 大した理由じゃない、という言い訳は大概、大した理由があるときに使われるものだ。案の定、ジーンは少し足を早めてユーリの隣に追いついてきた。

 

「ありがとうね。えっと、ユーリくん?」

「ん?ああ、別に。そういや聞きそびれてたが、西の森に何度か行ってるってのはどういう理由なんだ。一人じゃ勝てなかったってとこか?」

「いえ……。多分、私一人でも倒せたとは思うの。でも、そもそも私、護衛なしで街を出るのは抵抗があって」

「護衛?」

 

 自衛手段はある、との売り文句にはそぐわない言い分だった。

 普段は護衛付きの商団に同行していると言っていたし、戦い慣れていそうな術さばきとは裏腹に、攻撃術が殆ど飛んでこないあたり、完全にサポート専門とも考えられる。

 

 だが、リブガロは一人で倒せたと思う、ときた。

 

 仕事道具でもあると言っていたダガーが一度も登場していない辺り、そう簡単に使えない奥の手がある、と言ったところだろうか。

 

「それで俺たちに目を付けたのか。意外だな、旅慣れてそうに見えるぜ」

「魔物はともかく、この辺りは盗賊も多いからね。けれど私は、街の人たちを止められなかった。彼らじゃリブガロには敵いっこないのに」

「なるほど、見捨てられずに同行してたってわけか。未だ死人が出ずに済んでるのはアンタが寸前で引き戻して治療をしているから、アンタがリブガロとまともに戦えなかったのは住民を庇っていたから、と」

「良く言えばそんな感じ。それももう限界だったけどね。君たちが来てくれて、本当に助かったよ」

「財布も限界だったし?」

 

 そういえば返していなかった、とすっからかんな財布を取り出してジーンに投げ渡す。

 

「……君って何度も抉るタイプ?」

「さぁな。そういうアンタは、結構ズケズケ言うタイプか?今の口調は丁寧だが」

「そう見える?」

「さて。なんとなくそんな気がしただけだ」

 

 同類の気配がした、とするには乱暴か。少なくともユーリには、行き倒れ寸前まで見ず知らずの他人に奉仕するような甲斐性はない。

 

「あら、謀ってるつもりはないのよ。小さい子相手だとお姉さんぶりたくなるの」

「カロルやリタはともかくエステル相手までって、アンタ一体いくつだ?」

「女性に年齢を聞いてる?」

「おっと、こりゃ失礼したな」

「ふふ、別にいいよ。今年で23になる。多分、この中じゃ私が一番上よね?君くらいの歳の子を小さい子扱いは出来ないかな」

「そりゃ光栄だ」

 

 小さい子扱い出来ない、と言いながらもジーンの口調は殊更に丁寧だった。もしかするとユーリの何かが琴線に触れたのかもしれない。

 こういった手合いに好かれるのはフレンの方なんだが、と思いながらも前方を指差すジーンを眺める。

 

「さて、リブガロの巣はこの先よ。行きましょう」

 

 

 

 

 

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