明星に誓って   作:テロン

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生き残り

 

 

 

 

「ここが、花精(ティターニア)の足跡の本拠地……」

 

 呟きながら、エステルが周囲をぐるりと見渡した。

 

 廃墟だった。

 さっきまで平らだった大地に、廃墟群が出現している。ふと思い至って数歩下がれば、途端に目の前の光景はだだっ広い空間に切り替わった。もう一度踏み入れば、また廃墟群。

 

 見えない一線を越えると、秘されていたものが露わになるらしい。

 

「だけじゃないな。二重構造か」

 

 それだと、空から見た時に森が続いているように見えた理由が説明できる。

 

 一番外側が周囲と変わらぬ森で、その内側に平野、さらに中に廃墟。だとすれば、外側の境界はあの魔物避けの薬草のラインになるだろう。

 内側の境界は、今ユーリが踏んでいるあたり。元は門でもあったのだろうか。今となっては、その形跡は何処にも見当たらなかった。

 

 一面に崩れた建物が広がっている。形を残したものは殆どなく、ずっと奥、この空間の中央に当たるだろう辺りに唯一形を保っている大きな円形の建物が見えていた。

 

 夢の跡とは、言い得て妙だ。

 誘われるように足を踏み出せば、砂埃に塗れた布を踏んだ。拾い上げて軽く擦れば、うっすらと青色が覗く。

 かつては目に鮮やかな色をしていたのだろうか。

 

「ジーン、ホントにここにいるのかな?おーいジーン!!聞こえるー!?!?」

「うっさい!一応あっちは逃亡中なのよ?気付かれて万が一逃げられたらどうすんのよ!」

「ご、ごめん……」

 

 大声を出したカロルがリタにぴしゃりと怒られている。カロルの呼びかけには当然ながら返事はなかった。

 レイヴンの表情に焦ったものは見受けられないから、多少騒がしくしたところで大きな変化はないのだろう。

 

花精(ティターニア)の足跡って、ジーンが昔所属してたギルド、だったか?」

 

 移動要塞ヘラクレスにて、戻ってきたレイヴンが「花精(ティターニア)に誓って」と発言したことを思い出す。

 ギルドには所属しない、と言っていたジーンが隠していた過去。カロルが生まれるより前に解散したギルド。

 

「解散したってのは正確じゃない。正しくは『消息不明』だ」

 

 チラリと背後の廃墟を見遣ったレイヴンはそう首を振った。

 

「消息不明?穏やかじゃない言葉だわ」

「実際そうなのよ。当時からしてかなり大規模なギルドで、あちこちの街で公演をしていたのは事実。けど、サーカスギルドの例に漏れず構成員の規模もメンバーも、本拠地が何処にあるのかすら機密事項だったのよね。それがとあるタイミングから一切公演をしなくなり、構成員を見かけることもなくなり、いつしか人々の記憶から忘れられていった。以降表舞台には、花精(ティターニア)の足跡の関係者やギルド員は一切登場してない」

「だから、消息不明……」

「噂が途絶え始めたのが、今から大体十五年前くらいかねえ。俺がダングレストに来た時はもうとっくになかった……ってのは言うまでもないか。正確な年数は聞いてみないとなんとも」

 

 曖昧な情報ではあるが、それが調べられた最大限の手がかりであることは察せられる。

 かつて栄華を誇ったサーカスは、なんらかの原因で解散せざるを得なくなり、当時を語る人は何処かへ消えた。

 だが一人、真実を知るだろう人物が残っている。

 

「ジーンに聞けってことね」

 

 とジュディが頷いた。

 

 ジーンは何を思って、廃墟と化したかつての拠点を訪れたのか。

 

 改めて、目の前に広がる跡地を見渡す。この瓦礫の中から情報を集めるのは苦労しそうだ。

 

「酷く崩れていますね。こことか、骨組みだけが残ってます。テント、でしょうか?」

 

 エステルが入り口の近くに突き刺さっている棒に触れた。

 朽ちた鉄の棒だ。それが等間隔に並び、一部梁のように渡された部分がある。エステルの言う通り、テントの骨組みだろう。

 ユーリが踏んだ布の切れ端は、その布地部分だったのかもしれない。

 

「十五年前から放置されてたのは本当みたいね。にしても、雷、じゃなければ火事かしら。もうちょっと建物の形が残ってたっておかしくないんじゃない?それこそカルボクラムみたいに」

「カルボクラムが地震で崩れたのってそんなに前じゃなかったと思うけど」

「いえ。リタの言う通り、火事があったんだと思います。見てください、この骨組み、焦げ付いてる」

 

 ス、とエステルが手袋越しに鉄骨を撫でた。

 

「わ、ホントだ」

「嫌な方向に線が繋がってきたな。家燃やして出てったジーンの古巣が、火事によって滅んでる」

「……そういう」

 

 物憂げに目を伏せたジュディが、「高温に炙られた街という点は、テムザと同じね」と囁いた。

 

「……けど、ここは見た感じテムザとは違って石造りの建築は殆ど無かったんじゃない?あそこより原型を留めてないし」

 

 それより気になるのは、とリタがさっきまで休憩していた辺りを指差す。魔物が嫌うという草が外周を覆っていた場所だ。

 

「もしここで大規模な火災があったとしたら、あの草だって燃えて無くなっててもおかしくないでしょ。もし燃え残った一部からまた広がったんだとしても、あんな風に森との境界にだけ生えてるなんてあり得ない」

「じゃあ、外側はあまり燃えてないってこと?」

「ここも充分外側だけど?」

「森の木が焼け落ちた形跡はないですし、カロルの言った通り火災はこの内側だけで起きたのかもしれません。だとしても、人の手が入らずに放置されていた場所で、ああいう風に下草が綺麗に生えているのは考えにくいですが」

「……植え直した奴がいるんじゃないか」

 

 ユーリが発した言葉に、レイヴンを除いた面々がハッとして振り返った。

 

「……何のために?」

「ここに魔物が踏み入って欲しくなかったから、かの」

「だろうな」

 

 パティの言葉に頷いて、「先に進もうぜ」と促した。解決を後回しにしたわけではない。知る必要はあると思った。

 

「警告した通り、ここからはあんまり見るもんじゃないものが転がってたりする。覚悟はいい?」

「ああ」

 

 まだピースが足りない。この地で何が起きたのか。それを知らなければ、ジーンが本当の意味で心を開くことはないのだろう。

 

 そんなユーリの心境を知ってか知らずか、レイヴンは「前来た時に見つけた場所には案内できる」と先導して歩き始めた。他の面々を先に進ませ、ユーリは周囲をじっくりと観察しながら最後尾につく。

 

「やっぱ外側は損傷が激しいな」

 

 ユーリの呟きに同意するようにラピードが吠える。

 中央の建物が残っていることからも伺えたが、外周部はもともと簡素な作りのテントが多かったのかもしれない。現在地の周辺の建物は、ほぼ原型を留めていなかった。

 

「ひっ!」

「どうした?」

 

 比較的外観を保っている建物の前を通りかかった時、前方から押し殺したような悲鳴が聞こえた。カロルのものだ。

 

「これは……」

 

 駆け寄って、彼が指差している方を覗き見ればその理由が知れる。

 

「白骨か。人のものか?」

 

 建物の陰に倒れるように、白い骨が見えた。風化したせいか、その他の原因か、全身が揃っているようには見えない。腕か足の部分だけが瓦礫の端から覗いていた。

 

「まあ、あるでしょうけど」

 

 そう言いながらリタも気味が悪そうに顔を顰めている。

 

「……待って。この骨、人間じゃないわ。関節の数がおかしいもの」

「え、じゃあ魔物のってこと?」

「別におかしくはないのじゃ。サーカスが魔物を調教して演目に出すことは珍しくない。外の魔物を調教し切るくらい腕のある調教師がいたのじゃろ」

「飼育してた魔物が巻き込まれたってとこか」

 

 恐る恐る骨を覗き込んだエステルが、「埋葬してあげませんか」と全員を見渡した。

 

「例え魔物だとしても、最後の姿がこんな野晒しというのは、心苦しいです」

「いいんじゃないの?ただ、ちょっとこの先にあるものを見てからにしてくれる?」

 

 躊躇なく遺骨の側まで近付いて、レイヴンは膝を折った。検分するように眺めて、「ジュディちゃんの言う通り、魔物の骨だね」と頷く。

 

「この先って?」

 

 す、と振り返ったレイヴンの視線が横にずれた。言葉を探しているようだ。

 

「見た方が早い。多分すぐそこのはずなのよね。外縁部、こっから斜めに突っ切ってあの辺り。ここ、正確には平地じゃなくて北側の一部が隆起してて、天然の壁を背にした形でメインの劇場があるのよ」

 

 劇場はあれ、と中央の円形の建物が指差された。その背後が二メートルほど盛り上がっていて、その段差が弧を描いて東西に広がっているという。

 その東端を目指すのであれば、東から森に入ったユーリたちからは確かにすぐ近くだ。

 

「一応聞いとくが、アンタは前回ここに何しに来たんだ?口振りからしてジーンが案内したってわけじゃないんだろ?」

 

 再びレイヴンの先導で歩き始めながら話を振る。頬を掻いたレイヴンは、「そりゃあおっさん一応、あれの保護者ってことになってたし」と空を仰いだ。

 

「青年ら、ジーンちゃんをどういうふうに認識してんの?昔何やってたかとか、聞いてる?」

「いや。ただ、殺しを生業にしていた、とは」

「え」

 

 驚いた声を上げたのはカロルだけだった。彼はキョロキョロと周囲を見渡して、皆が沈痛な面持ちをしていることに再度目を見開いた。よくよく見れば、ジュディにも多少は動揺が見受けられる。

 

 ドンが死んだ日、カロルと当時離脱していたジュディを除く面々は背徳の館でジーンが赤眼を惨殺した現場を目にしている。あくまで本人の申告で殺したと聞いただけだが、誰かを庇っているようにも、嘘をついているようにも見えなかった。

 あまりにも鮮やかな手並みであろうことが、死体を見ただけの素人目にも分かった。普段軽々しく扱ってみせる短刀が人に向けば、瞬く間にこうなるのだろうと納得できるくらいには。

 

 それ以降ジーンは自分のことについては語らなかったが、己が悪人であることは常々口にしていた。そして。

 

「ジーンは自分に、殺人衝動があると言った。だから『殺さないように』と第一に考えるようにした。それが、不殺の誓いってわけだ」

「誓わないと、人を殺してしまうから、ですね」

 

 硬い表情のエステルがそう続けた。

 ジーンは殺しを厭わないが、殺しを悪と断じる感性を持っている。

 ただ、時に理性より優先するのが衝動だ。

 

「確かにあいつには『人を殺したい』という欲があり、『人を殺してはならない』という倫理観があり、『人を殺さないように』と願って立てた誓いがある」

 

 だが、と続けることを迷っているようだった。ユーリたちからは背中しか見えないレイヴンは、言葉を探したまま暫く押し黙っていた。

 

「うん。やっぱりその説明は全くもって正しいんだが、同時に致命的に間違えてる。多分青年らじゃ正解は出せないでしょ。おっさんも無理」

 

 無理と言いながらも正答に限りなく近いところを知っているのだろう。もしくは既に聞かされて、噛み砕いた後なのかもしれない。どちらであるのかレイヴンは悟らせなかった。

 

「ともかくあいつは一時期暗殺者として活動していた。それが八年前、あろうことかドンの暗殺依頼を受けて、真正面からユニオン本部に乗り込んできたってわけ」

「真正面からって……」

「言葉の通りよ?前の通りにいた連中もロビーにいた連中も、すれ違ったはずの人間誰一人としてあいつのことは認識してなかったけどね。そんでドンと、当時たまたま同じ部屋で話していた俺がだけがいるタイミングで襲ってきて、あっという間に胸にぶすっと」

「胸にぶすっと!?」

「あれ、暗殺成功してない!?」

 

 一瞬自身の知るドンが幽霊だった可能性が頭を過ぎったが、ヒラヒラと手を振ったレイヴンが否定した。

 

「いやいや、胸に刺されたくらいであの人死なないのよ。血ぃドバドバ流しながらジーンちゃんのこと殴り飛ばして、まさか死なないとは思わずぽかーんとしてるとこ言いくるめて足洗わせちゃったって感じの流れね」

「とんでもないわね」

「ドンはすごいや……胸刺されても死なないんだ……」

 

 人間離れしたところは真似しなくていい、と口を挟みかけて、真似できるんなら出来た方が良いかと取りやめた。

 ユーリも多少混乱しているのかもしれない。

 

「そんなわけで、ドンがジーンちゃんの元いた暗殺者ギルドを潰して引き取ったわけだけど、その世話はこっちに降ってきたわけ。全く困っちゃうわ、『死なせるな、どんな手を使っても生かしてみろ』なんて、死人相手にとんでもない仕事押し付けてくれたよ」

 

 死なせるな。生かしてみろ。

 

 そうか、と直感した。きっとジーンも同じことを、レイヴンに対してやったのだろう。

 どんな手を使ってでも生かす。その覚悟で動いていたのなら、確かにユーリや仲間のことも、エステルのことも優先するに値しない。

 もしかすると、不殺の誓いですらその為の。

 

「ならアンタは昔、ジーンを生かすためにここに来たのか?」

「そうなるのかねえ」

 

 曖昧な言い方をして、レイヴンの足がピタリ止まる。正面は、瓦礫と土砂が酷く崩れていた。行き止まりだろうか。

 

「少なくとも、どうしてあいつが死にたいのか、理由を探しに来たつもりではあった」

 

 土砂に向かって語りかけて、肩越しに振り返る。

 

「気分が悪くなったらちゃんと言ってよね」

 

 そう忠告し、レイヴンはここが目的地だと囁いて身体を脇に退けた。

 

 崩れた崖だった。

 来る前に聞いていた通り、ユーリの身長ほどの高さしかない高台が奥までずっと続いていて、その上には建物が一切なかったようだ。一部がこちらに向かって崩れていて、土砂には黄色と白が混じったような色の石片が大量に混ざっている。奥には同じ素材だろう石片が地中にびっしりと埋まっているのが見えて─────

 

「嘘だろ」

 

 だらん、と垂れた腕があった。

 土の上に斜めに横たわるようにして、真っ白な指が揺れている。肩があるはずのあたりには何も無い。だから初めそれが何か分からなかったし、形に注目すればそれが何なのか痛烈に理解してしまえた。

 

 人の腕だ。その、骨格。

 先程見たのとは違って、指の関節一つ一つが己のそれと同じ構造であると告げている。白っぽい石片、ではない。

 

「まさかこれ全部、骨か」

「そのようね。埋められていたのが土砂崩れで露出したみたい」

「お墓があったのでしょうか」

「にしてもこれは……」

 

 見える範囲全て、細かく砕けた骨の欠片が埋められている。崩れて露出した部分以外も同じようになっているとしたら、相当な規模だ。

 

「ねえおっさん、妖精の足跡って、とんでもなく歴史の古いギルドなわけ?」

「さあ?なにぶんだいぶ前のことだし、言った通り秘密主義なギルドだったもんで正確な記録は何処にも残ってない。当時結構な規模の構成員を抱えてたって事くらいしか知らないね」

 

 だとしても、だ。そう思ったのはジュディも同じだったようで、恐れを知らない彼女はレイヴンの隣をすり抜けて高台の上に登った。

 

「もし、ギルドで亡くなった人を弔っていたとしても、これはおかしいわね。普通遺骨をそのまま埋めたりしないし、崩れた規模から言って相当詰め込む様に埋めている。それにほら、魔物の骨も混ざってる。人と魔物を同じ墓にいれたりするかしら?」

「サーカスは魔物を調教して使うんでしょ?そしたら、同じメンバーとして扱ってるって事にならないかな?」

「棺にも入れず?それにしては扱いが雑ね」

「木棺なら朽ちるということもあり得るがの」

 

 そうではないだろう、と発言したパティですら確信しているようだった。

 

 高台に掘られた穴の中に、魔物と人の区別なく、詰め込むように埋葬されている。だから骨が殆ど原型を留めていない。

 

 そこには死者を悼む心を感じられなかった。下町に向かって上からゴミを投棄する人間のような、邪悪さを感じない悪烈があった。

 ころりと転がった穴の空いた骨片が、落ち窪んだ眼窩のように思える。

 後悔と怨みと、それから空虚。

 

「ねえ、さっきからちょっと気になってたんだけど」

 

 考え込むようなポーズをしたリタが、地面を睨みつけながら口を開いた。

 

「ここで昔火事があったとして、いきなり全部の建物が燃え始めたってことはないでしょ。何処かで火の手が上がって、普通それに気付いた人の声とか煙とかで反応するわよね。初期段階だったら消火しようとするだろうけど、燃え広がった場合もう逃げるしかない。けど……」

 

 そう言いながら、高台の奥に広がる森を見た。森の切れ目の手前には、同じように魔物避けの草が植えられているのだろう。

 

「外の森は、魔物だらけだね」

「でもほら、あの草を持ってたら襲われないとか、実はどこかに無事に出入り出来る道があるとか、流石にそういうルールがあったんじゃない?じゃないと普段も出入り出来ないし」

「ならなんでここのギルドの構成員が何処にもいないの?」

 

 かつて事故があったとして、それで一度に全滅するだろうか。いくら本拠地がここだったと言っても、メンバーは世界各地に散らばっていたっておかしくない。

 

「そもそも、一体何で外の森に強力な魔物を他所から連れてきて、入念に調教までして放ってるの?こんな人のいない大陸に早々侵入者なんかいないでしょ。秘密主義だからって流石にやりすぎよ。これじゃあまるで……」

「まるで、中の人間を外に逃がさないためのよう」

 

 かしら?とジュディが首を傾げながら立ち上がった。片手に魔物の牙らしきものを持っている。

 

「こういった猛獣を飼育する時、牙や爪は人を傷付けないように削ってしまうと思うのだけど。その様子はないわね」

「なら、ここは何だったと思う?」

 

 先程から黙ったままだったレイヴンが口を開いた。純朴ぶって首を傾げている。

 

「憶測を語るのは好きじゃないわ。あなただってそうでしょう?」

「答えを出せなきゃこの先には進めないね。少なくとも過去の俺はここを見て、もう十分だと判断して帰った」

 バウルもなく、徒歩と船で未開の大陸を進み、一人で魔物の群れを掻い潜ってここまで来て。そもそも、ジーンの古巣がここにあるという確証だってなかったはずだ。いくらユニオンの重役で情報を集めやすい立場にいたとしても、何箇所も怪しい場所はあったはず。

 

 少しずつ、少しずつ可能性を潰して行って、やっと辿り着いたそこで、レイヴンは答えを得た。

 一人の少女がかつて何を経験し、何を思い、どうやって今生きているのか。

 

「調べた限りじゃ、この地で死んだ人間の骨は全てここに集められてる。もう少し奥に行くと穴でなく、地面の上にちょっと信じられんくらいの数の白骨死体が並べられてんのよ。そっちは風化以外じゃ崩れてなくて、一部はまあ綺麗なもんさ。服も着たまま。魔物はゼロ」

「それが、この火事で死んだ人間……。いや待て、服を着たまま?そいつら、本当に火事で死んだのか?」

 

 火災で崩れた街を振り返る。

 もしかすると、順序が逆なのか。火災で滅んだのではなく────。

 

「全員死んだ後、火をつけた。そりゃそうか、今回の行動と同じだとしたら、去り際に火をつけたんだ。決別のつもりで。唯一生き残った人間、が」

 

『だってこの館の暗殺者を殺したの、私だもの。生き残りがいるはずないわ』

 

 こんな時に、背徳の館で目にした光景がフラッシュバックする。

 

 生き残った人間。

 或いは、こう称した方が正しいかもしれない。

 

 震える喉を押さえつけながら、ユーリはもう一度墓地を振り返った。全員がユーリの言葉を待っている。その正面に、薄青の肯定があった。

 

「或いは、その全員を殺し尽くした人間が」

 

 

 

 

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